「何だこりゃ…!?」
まず俺の口から飛び出たのはそんな言葉だった。真紅の壁は全く見えず、深緑色の謎の植物に館が覆い尽くされていたのだ。どうにか原型を留めているのは門だけだが、その門さえ謎の植物に飲み込まれている。
「こりゃあスクープに出来そうですねぇ!!今のうちに写真撮っておかないと…!」
文と穹は、空を飛んで全方位から紅魔館の写真を撮っている。相変わらずだ。というか、闇夜故に深緑色はかなり溶け込んでいるが、しっかり撮影出来ているのだろうか。
「ちょっとちょっと…!こんなんで肝試しなんて出来るの?植物関連の実験でも失敗したの?」
「まさかぁ…そりゃ無いでしょ」
だが霊夢がそう言うのも仕方ない。ここまで酷い様相を呈して肝試しが出来ると思う方がまず無理だろう。しかし、中に入って状況確認をしようと思ったそのとき、弦月姫とパチュリー、フラン、咲夜さんがフワリと空から現れた。
「お待たせ。準備はもう整っているから、存分にビビるといいわ…ふふふ…」
「これが準備だったのか…紅魔館がめちゃくちゃじゃないか。よくレミリアが許したな?というかレミリアは参加しないのか?」
「お嬢様はレイチェルを寝かせるとのことです。途中から参加はせず、パチュリー様と見るだけに留めると仰っていました」
「なるほどなぁ」
魔理沙の問いに、即答且つ簡単に答える弦月姫。事務的だが、対応が出来ているのを見ると、成長したなと感じさせられた。いつまでも子供扱いはしない方が良いのかもしれない。
「図書館の警備よりこっちに力入れたわ。でも、だからって盗んでいかないことね」
「おいおい、ここ暫く盗んでないんだぜ?」
「…私が気付いてないだけで盗まれてる可能性はあるけどね。ま、今はそんな事は良いわ。じゃ、簡単に説明するわね。これは、植物の壁で作った迷路よ。入口はこの門で、出口は反対側に特別に設けたわ。つまり裏門ね。迷路の中には、様々なギミックがあるわ。…オバケも出る…かもね?」
「それから、弾幕の発射は禁止でお願いします。ペアが完成したら5分おきに入ってもらいます」
「あぁ、それを言い忘れてた…。それと、ペアの決め方は一応私達で考えたんだけどどうする?」
「どんな決め方?」
「王様ゲーム方式よ。まず参加者全員に番号札を引いてもらって、私が適当に番号を言う」
「へー…私は良いと思うわよ。皆はどーする?」
賛成意見ばかり出た。特に魔理沙が喜んでいた。恐らく王様ゲームの時の事を考えたからだろう。霊夢と霊愛、霊麗に引かせれば、彼女達の思った通りのクジが出る。そんなのはフェアじゃない。だからこそ、第三者のパチュリーが決めるというこのやり方に大賛成だったのだ。
「番号札は作ってあるから、適当に引いてって」
適当な順で中身が見えない箱に手を入れていき、番号札を引いていく。全員に札が行き渡ったのを確認し、パチュリーはペアを作っていく。
「じゃあ…3と15」
「おっ、早速私か。15は誰だ?」
「やった、魔理沙と一緒だ〜♪」
その後も、淡々と番号を読み上げたパチュリー。結果は以下の通りで、実に平等な結果が出た。
魔理沙──フラン
弦月姫──妖舞
霊夢──巫月
咲夜──穹
霊愛──文
霊麗──幽々子
妖夢──エスカルゴ
鈴仙──てゐ
色々と不安になる組み合わせもチラホラあるが、平等か否かで考えたら、平等だと言えるだろう。公平性は欠いていない。
魔理沙とフランが入ってから5分が経過して次のペアが行くまで、楽しくお喋りタイムだ。
「はぁ…まさか妖舞と組むことになるなんて…。ピーピー喚かないでよね?」
「そっちこそな姉上!」
「はぁ?妖舞にだけは言われたくないんだけど。刺すわよ?」
「はは、いつまでもそんなんで脅せると思ったら大間違いだぜ?」
「脅しかどうか…見せてあげる。傷符────」
「はいはい、弦月姫も妖舞くんもそこまで。さ、あなた達の番よ。仲良くいってらっしゃい」
「…ケッ」
「…はい」
パチュリーにそう言われたら、流石の弦月姫とて素直に従うしかない。1m近く距離を取りつつ、2人は迷路の中へと足を踏み入れた。…因みに、パチュリーも妖夢と妖舞を徹底的に驚かせる事に賛成しているので、妖舞の居るペアと妖夢の居るペアにだけ特別なギミックが発動すると俺は予想している。とすると妖夢と組む俺もそれを味わう事になる。特別感があっていい。
「あの2人、トコトン仲悪いわよねー…。霊愛もだけど。どうしてか分かる?」
「分かんない。妖舞が凄く生意気だからって感じだけど多分それだけじゃないと思う」
「確かに妖舞くんは生意気よねぇ。エスカルゴに毛が生えた程度だけど」
「エスカルゴって生意気?」
「私から見ればねぇ。いや、『生意気だった』と言った方が正しいかしら…。出会った時なんて、そりゃあもう生意気で生意気で…」
「霊夢さんとエスカルゴの馴れ初めは私も昔から聞かされてるから知ってるよ」
「あ、そう…」
「ったく、霊夢さんってば隙あらば馴れ初め語りするもんねー」
「うっさいわねー」
意外な事に、霊夢と巫月はそれなりに親交があるらしい。仲良くしてくれるならそれに越した事は無いのだが、余計な事を言わないか心配だ。
「咲夜さん、ポーズお願いしますッ!!」
「ポーズ?こ…こうかしら…?」
「良いッ!良いですよ咲夜さん!!もしよければ写真集でも販売しませんか!?」
「お嬢様と旦那様に怒られるからそれはダメよ」
「あううー」
穹は咲夜さんの撮影を行っている。…つい、俺が文の写真を撮った時の事を思い出してしまった。というかいつから金儲けの事なんて考えるようになったのやら。確かに、モデルとして写真集でも出版したら確実に売れるだろう。これに関しては確信を持って言える。何せ俺の嫁なのだから美人じゃないわけがない。俺は許さないが。
「やれやれ、写真集だなんて…そんなの旦那様が許す訳がないでしょうに。ねぇ、霊愛さん」
「と言いつつ、何で文は私を撮影してるのかな。フラッシュ無いから無視してたけど」
「あ、ご心配なく。新聞に載せたり写真集を作るわけじゃなく、エスカルゴさんに売り付ける用の写真なので」
「ふーん、お父さんに…って、はぁっ!?ちょ、今撮ってた写真今すぐ消してよ!!」
「あやや〜、それは出来ませんねぇ。これは私とエスカルゴさんとのビジネスですから♪」
「あンの変態ィィ…!霊符『夢想封印』ッ!!」
「ふふふふっ、一体どこを狙っているのですか?次代の巫女様?」
「文じゃなくてお父さんを狙ってるんだよ!!」
「ファッ!?俺ぇ!?ぎゃあああぁぁッ!!!」
BGMのように何気なく会話を聞いていた俺は、迫り来る弾幕への反応が遅れてしまって、全身に満遍なく被弾してしまう。それによってもう気が済んだのか、何も言わず軽蔑するような目だけを向けられただけで済んだ。俺は何も頼んでいないのに怒りの矛先は俺に向くようだ。こりゃ酷い。
「霊麗ちゃんはオバケとか怖くない?大丈夫?」
「怖くないよ。オバケが怖くちゃ妖怪退治なんて勤まらないしね。幽々子さんもオバケだし」
「あら、私は亡霊さんよ?」
「亡霊と幽霊と怨霊と…その他とオバケの違いはよく分かんないや。怨霊は悪い奴、みたいな解釈だけど」
「じゃあ亡霊さんはど〜お?」
「んー…普通かなぁ」
「案外悪い奴かもしれないわよ?うふふっ…♪」
「…幽々子さん、何か企んでる?」
「なーんにも?巫女さんに退治されるのはゴメンだからね♪」
「だよね〜」
幽々子さんと霊麗…のんびりペアだ。聞いているだけで癒されるような気がする。さて、次は俺と妖夢だ。背後の鈴仙からの視線が痛いが、あまり気にしすぎも良くない。
「妖夢とエスカルゴペア、次行きなさい」
「はーい。…行こーぜ、妖夢」
「う…うん…」
すっかり怯えた妖夢は、腕にしがみついてくる。おかげで胸が押し付けられているのだが、あまりそちらを意識しない方が良さそうだ。意識すると息子が反応してしまう。
門を開けて中に入ると、そこは月夜すら通さない暗闇が広がっていた。更にこの迷路、ただの迷路ではない。立体迷路だ。
地面には、落とし穴にしてはあからさますぎる程巨大で丸見えの穴があって、壁にもチラホラ同じサイズの穴が空いている。これは、少し難易度が高すぎる。地面にもという事はどうやら地面にも迷路は続いているらしい。範囲が広すぎる。
「どうしよぉ…全然分かんないよぉ…」
「まだ入ったばっかりなんだが…こりゃ迷うな」
普通の迷路なら壁を伝うというやり方でいける。だが立体的な迷路だとそうもいかない。これは、正攻法で進むしか無さそうだ。
そしてゆっくり慎重に歩いていると、先の方から叫び声が聞こえてきた。
「ぎゃああああああ!!アチチチチチッ!」
「きゃああああああああああっ!!」
「魔理沙とフランか…!」
「ひぃぃぃっ!熱いのがあるのぉ!?」
「フラン達がどのルートに行ったのかが分かれば回避出来るんだけど…分かるわけがないな。まぁ早く行こうぜ、いつまでも同じ場所に留まる方が怖いだろ」
「そうだけどさぁ!怖いものは怖いのっ!」
「それは分かるけどね……あれ、行き止まりだ」
「もー、しっかりしてよぉ…」
「「ん…?」」
「ぎゃおー、食べちゃうぞぉー!!」
「「ぎゃあああああああああああああ!!!」」
引き返そうとUターンした所まではよかったが、丁度その目の前にナニカが居て、俺達はまんまとソレに驚かされてしまった。