「『取り憑いちゃった♡』って、あんたねぇ…」
「これからよろしくね、エスカルゴくん♪」
「えぇ〜…」
俺に取り憑いた亡霊少女…西行寺幽々子さんはそう言って可愛らしく微笑んだ。とても可愛く、何でも許してしまいそうになる。…霊夢のキツイ視線がそれを許してくれないが。
「取り憑いたって、一体どういう…」
「どういう?んーとねぇ…ちょっとだけ遊びたい気分になったから♪」
「意味分かんないからさっさと帰りなさい」
「あなたの方こそ、早く帰れば良いんじゃない?子供達が待っているわよ?」
「あ゙ぁ゙ん!?どの口が言ってるのかしらァ!?今日コイツは私と過ごすって決まってんの!ほら分かったら早く帰りなさい!退治される前に!」
「やぁ〜ん、怖ーい。お願い、私を守って♡」
背後から抱きついて、あからさまに霊夢を煽る幽々子さん。一体、彼女が何を考えているのか…俺は勿論のこと、霊夢にも全く分からない。だが少し面倒な事になったというのは何とか分かる。
「どうやら退治されたいようね…!」
「雷極『夢想封印・迅雷』!!」
「ッッ!!?」
霊夢がお祓い棒を構えるのと同時に、自動的に発動されてしまった俺の夢想封印。突然の事でも全く被弾しない辺り、霊夢の強さを思い知った。俺なら絶対に被弾している。最悪の場合気絶すらしているかもしれない。
「あっぶな……。ちょっと何すんのよバカルゴ、まさかアンタまで逆らうって言うの?」
「ちがっ…今のは俺じゃなくて…」
「私よ」
俺の背中からひょっこりと顔を出して、そんなことを言ってのける幽々子さん。現在彼女に取り憑かれている本人としては、間違いなくそうだと確信を持って言える。しかし霊夢は、その言葉をハナから疑ってかかる。
「幽々子…?でも今のはしっかりこのバカが宣言したし、このバカのスペルよ」
「私がエスカルゴくんの身体を操作したのよ♪」
「肉体の支配とかあんたの能力の範囲外じゃ…」
「博麗の巫女とあろう者が、何を言っているの?
不死身は生者の死者の境界が曖昧だが、亡霊の能力によると生者側に分類されるから、と言葉を続けた幽々子さん。これは初耳だった。
「チッ…面倒臭いわねぇ…」
「私を退治しようにもエスカルゴくんという器が邪魔になって退治出来ないものね。さ、私の事は気にせず帰って帰って♪」
「………」
少しばかり重くなった空気の中で、俺と霊夢は手を繋いで、明るくなり始めた空を飛び始める。そのすぐ傍には幽々子さんが居る。何というか、この状況に違和感しかない。俺と霊夢というなら分かるがそこに幽々子さんが加わっているとは。
「…ねぇ。何で幽々子はそんなに近くに居んの?もっと離れてくれない?コレ、私のなんだけど」
「コレって言うな」
「取り憑いたら、3尺以上離れられないからね♡背後霊みたいなものよ」
3尺…確か約1mだっただろうか。なるほど、確かに背後霊みたいだ。まぁ幽々子さんみたいな可愛い亡霊に取り憑かれるならある意味本望とも言えそうだが、なにも霊夢と2人の時に取り憑かなくてもいいと思うのだが。…普段からフワフワしているようで頭のキレる幽々子さんのことだ、きっとこれは意図的だろう。
「ふざけてるわね」
「うふふふっ♪」
彼女が何を考えているのか、俺には全く見当もつかない。問題を起こすつもりは無いだろうが、警戒するに越したことはない。
「「ただいま…」」
「お邪魔します♪」
神社に到着し、先に到着していた娘達の様子を見るが、ぐっすりと眠っているようでホッと胸を撫で下ろした。本当なら軽くアレをする所だが、幽々子さんの登場というイレギュラーが起こった以上、そんな事は言えなくなってしまった。少し寂しく感じるが、今日ばかりは仕方ない。
「アンタ達は客室で寝なさい」
「はぁ!?何で俺も!?」
「幽々子はアンタから離れられないんでしょう?なら、アンタがそっち行った方が早いでしょ」
「3人で寝るって感じじゃダメなのか?」
「どーして夫婦の寝室に部外者の幽々子を入れんのよ。離れてから一緒に寝ましょ。おやすみ」
「……おやすみ……」
言うなり、寝室に入ってしまった霊夢。彼女に閉め出しを喰らった俺は、踵を返して客室の方へ向かう。元凶である幽々子さんは、終始ニコニコしていた。
布団を2つ並べて準備し、寝る準備を整える。とりあえず、明日…というかもう今日だが、朝は早起きしなければ。幽々子さんが居る以上、多く調理しなければならない。
「今日は楽しかったわね。おやすみなさい♪」
「おやすみなさい…」
今気付いたが、幽々子さんは寝巻きではない。いつもの格好のまま眠ってしまった。因みに俺の寝巻きは寝室にあるので、俺もいつもの格好だ。部屋着ならともかく、流石に外着のままで布団に入りたくない。服ならすぐに取り寄せられるが、幽々子さんのそばで服を脱ぐなど変態の所業だ、流石の俺でもそれは躊躇われる。
そもそも近頃は、夜でもかなり暑いので下着で眠っていたのだが…すぐ隣に幽々子さんが居てはそうもいかないような気がする。
「幽々子さん…もう寝ましたか…?」
返事は無い。なら、もう寝たという事だろう。彼女に遠慮せず寝巻きに着替えさせてもらおう。幽々子さんは普段着のままだが、俺が眠っている幽々子さんを着替えさせる訳にはいかないので、このまま寝ていてもらおうと思う。
「よし…やっぱこの格好じゃねーとアチィな…」
上半身は下着、下半身は短パンも履いている。真夏はこれくらいが丁度いい。着替えを終えて、ゴロンと布団の上に寝転がる。その隣では、嫁と息子の主である幽々子さんが、あどけない寝顔で眠っている。寝顔観察が好きな俺は、こんな時も隣で眠る人の寝顔を眺める。
ほんのりと桜色に染まっている頬、月明かりに照らされ艶やかな光沢を魅せる唇、ゆるふわ系の軽いウェーブがかったピンクの髪。どれも彼女の魅力を引き立てていて、ちょっぴり大人な色気を醸し出している。
「っ……寝てるよね…?」
寝顔鑑賞の次はアレだ。そう、頬を触るのだ。何せ俺はほっぺフェチだ、目の前で無防備な頬を見てスルーなんて出来ない。出来るわけがない。いや、ほっぺフェチの俺の前に無防備な頬を晒すなんて、触ってくれと言っているようなものだ。本人にそのつもりがなくても俺はそう解釈する。
「ゆっ…幽々子さんの…ほっぺ……うへへっ…」
震える手で彼女の頬に手を添えてみると、丁度手にフィットしてしまった。亡霊なのにしっかり体温があって温かい。啄いてみる前に手のひらで撫で回すと、頬の動きに合わせて唇も形を変え、とても艶めかしい。
彼女の唇を奪ってしまいたい。だがそれは彼や夫だけが許される行為だ。…俺が言えたことではないが、一応はそうだろう。幽々子さんの事も、この俺が手に入れてしまいたい。そんな悪魔的で衝動的な欲が湧いてきた。そうだ、強欲に全てを手に入れてこそ
俺は、人間じゃない。いつまでも人間のような思考で居てはダメだろう。もし起きられて幽々子さんに嫌がられたら…俺は、社会的な死を迎えることになるだろう。しかしそんなのは怖くない。強欲でこそこの俺、エスカルゴなのだから。
やって後悔とやらずに後悔、どちらかを選べと問われたなら、迷わず「やって後悔」を選ぶ。
「よしっ…ヤるぞっ……!ゆ……幽々子さんに…ちゅ…ちゅーしてやるっ…!」
小声で自分をそう鼓舞するが、中々あと一歩が踏み出せない。他の誰かにするなら、挨拶の如く躊躇いもなく唇を重ねられるのに。幽々子さんが相手だと、眠っていると分かっていてもかなりの緊張が走る。シーツを握る手が少し汗ばむ。
「…やっぱ今日はほっぺにしとこ…」
高鳴る胸を押えながら隣に眠る彼女の柔らかな頬に唇を押し当てようとした、その瞬間。彼女の顔が急にこちらを向き、頬に推し当てようとした唇は、あろう事か彼女の艶やかな唇と重なった。
「んむっ…!?」
少し眠くなっていた俺の頭は、おかげで完全に覚醒した。頬と同じか、それ以上に柔らかい唇に触れてしまった。そしてさらに俺を驚かせる事が起きてしまった。幽々子さんが目を開けたのだ。
「あーあ、キスしちゃった…♡」
「なっ…お、起きてた…!?」
「寝たフリ作戦大成功♪ まんまと引っかかって、エスカルゴくんったら可愛いわね♡」
「作戦って……」
「ねェ……2人でアツい夜を過ごさない……?」
◆
「ただいまー。お爺ちゃん、靴が無いようだけど幽々子様は?」
「はて?
「えー…どこに行ったんだろ幽々子様…」
「遠回りして帰ってくるおつもりなんじゃろう。ほれ、早く風呂に入って、妖夢ももう寝なさい。妖舞はもう寝たぞ」
「はーい。…もう朝…あんまり眠れないなぁ…」
夏休み最終日…。俺はゲーセンで、CHUNITHMを13クレ遊んできた。そして家に帰ってきてからは夕飯を自炊しもれなく執筆活動。非常に充実した夏休み最終日だったと言えるだろう。
俺…これを0時前に投稿出来たら、萃夢想やって徹夜するんだッ!!(死亡フラグ)
明日は始業式&学力テスト。
テスト…?美しく残酷にこの大地から往ね!!!
(゚∀゚)アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒゴッ!!!ゴホッ!ゴホッオエェェェー!!!
夏休みの宿題(自主勉)、結局終わらなかった…。
フェムトスピーチの暗唱…出来るわけないやん。
その日……学生は思い出した。
学校に支配されていた恐怖を。