地獄に入った俺達はある動物霊を追っている。
シカのような角を生やし、鱗のような硬そうな甲羅を背負い、ドラゴンのような尾を持つ、謎の美少女動物霊を。幻想郷風に言えば、龍のような尾だった。
俺はその子を口説こうとしたものの、霊夢から物凄い圧を感じ、渋々引き下がった。久侘歌にも負けず劣らずの、物凄く整った容姿で、キレイな女子だった。
その子は先程、「地獄は絶望的に広いですよ。案内しましょう」と言いつつ弾幕を発射してきた上に、今こうして俺達から逃げている。
とてもでは無いが俺達を案内しているようには見えないのだ。しかし初めてこの異変についての手掛かりを得られそうだったので、仕方なくその女子を追いかける事になったのだった…。
「うーん、風が強い…地獄ってこんなに風が強い場所だったっけ…」
「霊夢がそう思うんなら、本当はそんなに風強くないんだろうな…。帽子が飛ばされそうだぜ…」
久侘歌に地獄の門を開けてもらい地獄入りした俺達。これで、俺がスキマで移動出来る世界に、この地獄が追加された。
俺のスキマは某RPGの「キメラのつばさ」という移動手段として頻繁に使われる道具に似ている。即ち、一度行った場所にならば、その後は自由に行けるようになるのだ。
今回の異変で母さんからの能力を使わなかったことには理由がある。道中で動物霊を潰す為だ。あの能力で地獄に行くことは出来たが、その間に彼岸などに居た動物霊達を地上に行かせることになってしまう。だから今回は敢えて正規ルートで地獄にやってきたのだ。
「…さて。次はどうする?私は何でもいいけど」
「次は私がオオカミ霊にしようと思ったんだが、どうだ?高火力で一掃してやるぜ。さっきの奴、正面から行けばゴリ押せそうだろ?」
「確かにそうね…。今日のパターンからいくと、一度戦った奴ともう一度戦うのが多いからね」
「なっ!じゃあ私がオオカミ霊な!妖夢と霊夢はどうするんだ?」
「私はもうオオワシで良いかなぁ…霊夢みたいに拡散に特化してる訳じゃないから、オオワシ霊の補助で丁度いいっていうか…」
「私は何でもいいわ。カワウソ霊でもオオワシ霊でもね」
「じゃあ決まりだな!」
霊夢:オオカミ霊→カワウソ霊
魔理沙:カワウソ霊→オオカミ霊
妖夢:オオワシ霊→オオワシ霊
「それにしてもアレだな。横風だから、スカート捲れねぇな……つまんね」
「変態」
「いつも霊夢のスカートの中は見てるが、不意に見えるのも良いんだよな…風情があって…。な、魔理沙もそう思うだろ?」
「そんな話、私に振るな」
「馬鹿なの?ねぇ馬鹿なの?少しくらいは緊張感ってモノが無いわけ?」
「緊張ばっかしてたら死んじまうぜ。少しくらい気ィ抜かせてくれよ。…手、繋がせて?」
「信ッじらんないわ、この馬鹿さ…。手くらいは繋がせてあげるけどさ…///」
「サンキュ♪」
顔を赤くさせ、俺とは反対方向に顔を向けつつ手を差し出してくる。俺はその手を包み込む様に握り、霊夢にほほ笑みかける。すると、ますます顔が赤くなるのが可愛らしい。
「手を繋ぐ代わり、死ぬほど活躍してもらうわ。でも死なせないから」
「ここは地獄だ、たまには自爆攻撃も必要になるかもしれない。だからその時は俺がやる。麗葉の時と同じくな」
「ダメ。私の目の前で自爆なんて許さない。幾ら不死身でも命は大切にしなさい」
「…やれやれだ。優しい嫁を持つと苦労するな」
「やれやれね。馬鹿な夫を持つと苦労するわ…」
妖夢はこの会話を黙って聞いている。そして、ツッコミ役は、いつものようにツッコんでくる。こうしていると、緊張感なんて微塵も感じない。
「異変終わってからイチャつけ、この
「なぁに?霖之助さんに振り向いて貰えないからって私に八つ当たりかしら?」
「はぁ!?香霖は関係無いだろ!?」
「霖之助なら朱鷺子と同棲してるけど…」
「あ゙ぁ゙っ!?誰だその朱鷺子ってのはァ!?」
「朱鷺みたいな鳥妖怪の可愛い子だよ」
「…!アイツか!野郎、次会ったらぶっ飛ばす!いや、ぶっ飛ばしに会いに行ってやるッ!!早くこんな異変終わらせようぜ霊夢!」
「そうね。私もこの後はコスプ…お楽しみがあることだし…。でも…何か嫌な予感がするのよね、この異変…。何か…大きな事が起こりそうな…」
「大きな事…?霊夢が言うと本当の事になりそうだからあんまり言わないでくれよ…折角やる気に燃えてたってのに…」
「…!待って!」
霊夢が声を張り上げると、全員が急停止した。何だと思って霊夢を見ると、彼女は正面を見据えている。つられて正面を見ると、そこには先程のあの怪しげな動物霊が空中で静止して、こちらを見ていた。
「よく付いて来られたね。てっきりもうどこかに吹き飛ばされていたかと」
「…風が強すぎる…けど、やっと見つけた動物霊なんだから逃すワケには行かないでしょ。私は、地上を支配しようとする動物霊を探して
「貴方は動物霊を征伐に来たのですね。ですが、あなたが倒すべき動物霊がいる場所は………
「え?そ、そうなんです?」
「そうなんですよ。敵のところまで私が案内してやりましょうか?」
(何故だろう……こんなの絶対嘘だと思うのに、信じなきゃいけない気になってきた)
嘘だ。もしそうなら何故先程は俺達から逃げたのか…。そして何故、今更話す気になったのか。色々おかしいし、辻褄が合わない気がする。
そう言いたいのに…。何故だか反発できない。反骨心が失われたというより、無意識下に彼女を信じてしまうようになった。
嘘だと分かっているのに、嘘ではないと反対の考えを持ってしまう。自己矛盾にも程がある。
「そんな話、信じられるもんですか。倒してから細かい話を聞きだしてやる!」
妖夢は強い。俺が自己矛盾による葛藤に陥っている間も、彼女に反発し続けている。どうしたらそんなに強い心を手に入れられるのか。
俺とは違い真の剣士だからか、心の持ち方まで圧倒的に強くなっているとみえる。
「決まりですね。もし私に勝てたら、本当の敵の居場所を教えましょう」
意味深に微笑むと遂に彼女は弾幕による攻撃を仕掛けてきた。隙間は狭く、所々に複数の弾幕を忍ばせているため、よく見極めてから弾の隙間に入らなければならない。
「…確か幻想郷には《スペルカードルール》なるものがあるそうですね。それなら私も、そちらで御相手致しましょう。…尤も、地獄やその他異界でもこのルールは広まりつつありますがね。その名前だけですが」
「ヘェ、話が早くて助かるわ!風も強いし、早く決着をつけさせてもらうわよ!」
「あんまり私を甘く見ない方がいいですよ。私はそんなに甘くはない。……亀符『亀甲地獄』」
隙間無く並んだ緑の弾幕が一筋伸びて、複数の方向に枝分かれし亀の甲羅のような模様を作る。どうやら彼女は亀甲縛りが好きなようだ。…いやそれは関係無いか。
「これだけなら余裕…なのに…っ!中々ヤラシイ弾幕使うじゃないの、あんた!」
甲羅模様でこちらの動きを制限したところに、炎の弾幕を複数発射する。それだけならまだいいのだが、この弾はとてもしつこいホーミングだ。避けても避けても追ってくる。アレに触れれば、炎上不可避だ。母さんのたくあん弾幕よりも酷いホーミングなんて初めて見た。
枝分かれするので、例え目の前の弾を消してもまたすぐに伸びてくるのが最高にイヤラシイ。
「面倒ったらありゃしない。カワウソ霊、今すぐ回って消しなさい!」
「無理言うな、さっきそれを使ったばかりでまだ力を満足に使えない…!弾幕の強化はしているのだから、キメるなら早くしろ!」
「チッ…!妖夢の拡散弾でも効果は望み薄だし…エスカルゴのバカはホーミングの対処で手一杯…魔理沙は……」
「一気にぶっとばしてやるぜ!魔砲『ファイナルスパーク』!!」
「────ッ!!…成程、この気配…。あなたは勁牙の戦士に選ばれたようですね…」
「あぁん?勁牙の…何だって?いや何でもいい、こんな異変早く終わらせて、向こうに帰らなきゃいけないんだ!だから早く案内しろおおおっ!」
ファイナルスパークが劇的に強化されている。光線が放たれている時間は普段と同じだ、しかし攻撃力というか、その余波がとんでもない。
カワウソ霊だと長時間発動のような効果だが、オオカミ霊だとまさに「力押し」だ。もしも俺があんな光線を喰らっていたらすぐ消し飛んでいたことだろう。
「…ッ!思ったより動物霊に侵食されているようですね。精神に重きを置く存在である妖怪だからでしょうか…。人間ならこうはならなかった…?いやしかし、これくらいでなければヤツらは…」
「何をゴチャゴチャ言ってやがる!」
「嗚呼、失礼。いえ、あなたの力を少々見誤っていまして、少々分析し直していただけです。深い意味はありませんよ」
「そうかい、そんならもっと力見せてやるぜ!!いくぞ…!変身ッッ!!!」
出た。魔理沙の変身だ。フランのような翼で、結晶は全て氷のような美しい白色。とてつもない量の魔力が、魔理沙の中で渦巻いている。
「な、なんと……ここまでとは……ッ!!相手を甘く見ていたのはどうやら私の方のようですね。鬼符『搦手の犬畜生』!」
ボボボッと連続で先程のと似た火の玉を出す。しかもそれらは全てがホーミングで、少し動いた程度では到底避けられないほどに、しつこく追尾してくる。勿論、ホーミングが苦手な俺は、弾を斬り裂いたり『冥道斬月波』にて別な場所に弾を送ったりしているが、何分密度がえげつない。
目の前全てが赤い弾幕で覆われそれが自分達を追尾してくる。俺にとってそれは悪夢以外の何物でもない。だが魔理沙は、そんな弾幕を目の前にしながらも余裕の表情を浮かべている。
「ヘヘッ、そんなん無駄だぜ!十分に引き付けてからの……魔砲『ファイナルスパーク』!!」
「うッ……!?先程と同じとは思えない…なんて威力……!!っ…ぐぅぅっ……うわあぁぁっ!」
短い断末魔を上げた彼女は後方に吹き飛ばされやがて弾幕も止んだ。どうやら魔理沙の圧倒的な一撃によって気絶したらしい。
全員で彼女の方に行くと、息も絶え絶えという様子で、地面に座り込んでいた。接近する俺達に気付くと震える足を手で押さえつつ立ち上がり、驚いたような表情を作って話しかけてきた。
「素晴らしい腕前です。貴方のような妖怪なら、勝てるかも知れません。では、倒すべき敵の下へ貴方を案内します」
「お前は一体何者だ?」
「私は
「鬼傑組、組長…!?何でだろう、初めて聞いた筈なのに、何故か知っているような……」
「あれ…?本当に貴方は敵ではないの?言われてみれば、そんなにヤバそうなヤツじゃ無いような気もしてきたわ」
妖夢は彼女を疑っていたらしく、驚いたような声を漏らす。俺はまだ疑っている。どこか彼女はきな臭い。紫さん程とまではいかなくても、妙な胡散臭さを感じている。
「やっと判って頂けましたか。私が敵のいる場所を教えます。貴方……いいえ、貴方達の役目は、その敵を倒す事だけですからね……」
「も、申し訳ございません、吉弔様!」
(ん?あれ?何で私が謝ってるんだろ)
何故か唐突に謝った霊夢……ではなく、霊夢に取り憑いたカワウソ霊。しかし吉弔様と呼ばれた動物霊は、澄ました顔をしている。
彼女は名乗っていないのに、カワウソ霊は名を知っていた。…そこから察するに、カワウソ霊と彼女はグルだと見て間違いないだろう。
「謝る必要なんてないですよ。貴方は、動物霊の侵略を止めに来ただけの妖怪なんですから」
「何故だろう。確かにそうだった気がする……」
待て霊夢、何故「そうだった気がする」んだ。そう問い詰めたいのに、何故かその疑問を彼女に投げ掛けられない。彼女…吉弔のやる事なす事に逆らえない。いや、逆らう気が無くなる。目での威圧や妖力などでの威圧も無いというのに、だ。
もしやそういう能力を持っているのだろうか。さとりの読心能力のように常時発動している系統なら、俺にはどうすることも出来ない。
「動物霊は、地獄のお隣にある畜生界にいます。 その畜生界の中心に一際目立つ建造物があって、そこが敵の本拠地なのです」
「畜生界の中心ね!教えてくれて感謝するわっ!よーし、極悪な畜生どもを壊滅させてやる!」
「何だかワクワクしてきたぜ!」
「地獄の隣の畜生界の中心…か。よーしっ、敵の居場所が判ったわ!」
「口先だけではないと信じているぞ、オオワシに選ばれし
「もっちろん!!」
「心強いぞ、オオカミに選ばれし
「やってやるぜ!!」
「カワウソに選ばれし伏兵!!鬼傑組の鉄の掟を思い出せ!!
「勿論、そのつもりよ!」
「さあ行け!呪い極めた
「「「おーーーっ!!!」」」
士気が高まっている。彼女が発破をかけたからなのか、霊達に刺激されているのか…。何にせよ異変解決に対してやる気が高まるのは良い事だ。だがどこか釈然としない。
「今すぐに乗り込むわよ、畜生界の中心に!!」
「そうね!!早く行きましょ!!」
「マスパで一掃してやるぜっ!!」
3人とも、何故か急いでいるような気がする。これまでの異変解決でここまで急いでいたことが果たしてあっただろうか。いや、俺の知る限り、こんなことは無かった気がする。
「お前……エリスと同じ匂いがしやがるぜ……」
「エリス…?」
「お前の真意は汲み取れねぇ…けど…お前が何か企んでやがる事だけは間違いねェな…。そんで、それを俺らにやらせようとしてる…!そうだろ、鬼傑組の吉弔!」
「…あなた方と私の思惑は一致しています。私は真の敵の居場所を教えた。その敵は、あなた方の敵でもある。そこに不服があるとでも?」
「ッ……!」
「そうよエスカルゴ、早く行きましょ?」
「そうだぜ」
「そうだよ、早くしよ?」
皆は、既に思考放棄している。言われた事しか出来なくなっているかのような…。この女の操り人形になっているような、妙な胸糞感がある。
早く異変を解決し、早く霊を引き剥がした方が良いのかもしれない。…そもそも、何故あの霊に対してはこれまでの動物霊と違って消滅させたりしなかったのか。きっとあの女が自分を消させぬように霊を通して霊夢達を操った……もしくは、そういう能力を持っているのか、だ。
「ほら、他の皆さんもそう言ってますよ。地上が手遅れになる前に、早く行かれては如何です?」
…何にせよあっちは後回しだ。異変を解決したあとに、ゆっくり考えて対策を練らなければ…。俺に取り憑いているのはずっと幽々子さんだからなのか、俺にはそこまで悪影響は出ていない。
「…チッ…!なんか生け簀かねぇ奴だ…。性格が悪い美少女とか最悪な組み合わせだな……マジでエリスとそっくりで笑えねー…」
そう小さく呟き畜生界とやらへ向かい始める。が、向こうに行く前に、一つ言ってやりたい事があった俺は、振り替えってこう叫んだ。
「1つ言っておいてやるっ!俺ァいつか…お前を堕としてやる!その首、洗って待っていやがれ!また今度、お前んトコ行くから……じゃあな!」
言いたいことを言い終え、急いで霊夢達と飛び去る。勿論、霊夢にお祓い棒で頭を叩かれた事は言うまでもない…。
「ふふっ……面白い男ですね。何を考えているかまるで分からない…。まさかこの私に、正面から宣戦布告をするとは。驪駒並の脳筋ですね」
☆言葉一つですれ違う2人─────!!!
エスカルゴの(対少女的な意味で)食欲が増えている?いやいや、気のせいですよ…?気のせい。