※この作品はR-18です。

吸血鬼人間の幻想生活   作:エスカルゴ・スカーレット

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突撃!美少女動物霊!?

《袿姫……聞こえてる?》

 

《はいはーい、何か用かしら?》

 

 久侘歌と横並びで地獄の中を飛びながら、昨日戦ったばかりの袿姫に話しかけてみる。すると、意外にも直ぐに返事が返ってきた。

 本当なら、昨日の異変解決を無駄にするような言葉は言うべきではないのかもしれない。しかし俺は、どうしても彼女に言いたくなってしまった言葉がある。

 

《昨日はごめん。袿姫は『戦う必要は無い』って言ってたのに、それを無視して戦って…。袿姫を倒した結果、新たな問題が発生してさ…。余計なことをしなければ、こんな事にはならなかった。袿姫の忠告を受け入れておけばよかったな…って今更だけど思ったんだ》

 

《ううん、気にする事なんて無いわよ。それに、

『忠告を受け入れておけば』っていうのは、所詮結果論なんだから。こうなるなんて、私にだって読めていなかったわ。それに、昨日のあの状況で

『もしも私を倒したら、最強の動物霊が暴れ出すことになるわ』なんて言っても、誰にも信じてはもらえなかったと思うの》

 

《……うん。多分、そうだと思う》

 

《だけど…あなたって凄いわね。昨日は敵としてあんな激しい戦いを繰り広げたというのに、今はこんなに素直に謝れてる。それって凄い事よ?》

 

《別に…。思った事を言ってるだけだし。でも…良かった。怒られたりしなくて》

 

《怒る?あっははは、そんな事を気にしてたの?案外ビビリさんなのねぇ》

 

《……。じゃ、用件は伝えたから》

 

《ええ。あなたの気持ち、しかと受け取ったわ。もし造形神(イドラデウス)の力を使いたければ直ぐ言いなさい。喜んで力を貸すから。ね?》

 

《ありがとう。その時はそうさせてもらうね》

 

 言いたい事を言えて、気持ちがスッキリした。やはり、戦いの前はスッキリとさせておきたい。昨日彼女が言っていた通り、造形神(イドラデウス)の力を貸してもらえそうなので、こんな問題はすんなりと解決させたいものだ。

 それに…その「最強の動物霊」が俺好みという久侘歌の話も気になる。場合によっては、本当に手に入れたいと思う。もうこの際、無意識魅了(チャーム)を制御できるようになって溜まった魔力を、本気の魅了(チャーム)として全て放出してしまおうか。

 そこまで考えた俺は、首を小さく横に振った。やはり、力づくというよりかは、合意でそういう関係になりたいと思う。そんなのは悪魔らしくはないが、自然な流れだろうとは思う。

 相手も悪魔ならそれでもいいかもしれないが。

 

「…ッ!この気配…まずい!」

 

「どうしたんです?」

 

「ヤツら、もう地獄に入ってきています…まずいことになりました…!このままじゃ、すぐにでも地上に進出する…急がないとっ!」

 

 敵の気配を感じ取り、目に見えて焦る久侘歌。俺も、さっきから誰かの気配は感じていた。言うなれば「バカみたいなオーラ」のようなものだ。近付くにつれて段々と大きくなってくる。

 ここから感じられる気配はこれひとつなので、久侘歌の言っているのもこれだと思われる。

 

「この先、暴風区域です!風に流されないよう、気を付けて飛行して下さい!」

 

「頭のヒヨコにも気を付けてくださいね?」

 

「大丈夫です、服の中に避難させましたので…。それより、勁牙組の連中まではもうすぐですよ。戦闘の準備は大丈夫ですか?」

 

「ええ、勿論。…あぁ、『セントウ』と言えば。この戦いが終わったら、旧地獄…地底にある銭湯にでも行きますか?混浴で…♪」

 

 ニヒヒ、と最大限に悪戯っぽい笑顔を見せる。イヤらしい顔というのは案外自分では分からないものなので、人懐っこそうな、または悪戯っぽい笑顔を見せれば、ドン引きされる事は無い。尚、これは俺自身の経験則に基づく持論だ。

 案の定、久侘歌は頬を薄紅に染めて、初々しい反応を見せてくれた。

 

「ふぇっ!?きゅっ、急に何を………!?」

 

「どうです?お食事ついでに、これからの戦闘で浴びるホコリを流して、身体綺麗にしません?」

 

「流石にそれはちょっと早いんじゃないですか…まだ付き合ってもいないんですよ…?///」

 

「ふむ…そうですか。久侘歌さんがそう言うなら今回は仕方ありませんね…」

 

「そうですよ…。それは、普通にお付き合いしてからにしましょ…?」

 

「ですね、そうしますか」

 

 まだ付き合ってもいない(・・・・・・・・・・・)。まだ(・・)ときたものだ。これはもう、少し押せば堕ちると見て間違いないだろう。心境というのは言葉の節々に現れてくるものなので、アレらの発言は久侘歌の考えや心を少なからず反映しているはずだ。

 

「…血の匂いだ」

 

「えっ…?ぁ…皆が………そんな…ッ!」

 

 真面目な顔でそんな煩悩まみれなコトを考えているうちに、とうとう戦場が見えてきた。両軍は地獄と畜生界の境界辺りにて交戦中で、地獄側がかなり押されている。そして、地獄側の陣営は、ただ押されているばかりではなく、その過半数が打ち倒されている。

 

「ッ……早く、しないと……」

 

「地獄側の者は、死にたくなければすぐにここを斥けッ!!只今から本作戦は、俺と久侘歌さんが引き受ける!3秒以内に全員退却だ、それ以降は命の保証は無い!!もしも逆らえば、地獄の女神から天罰が下されるぞッッ!!」

 

 地獄側の陣営の後方から、そう叫んだ。するとすぐに地獄側の者は動き出した。中には「誰だ、指示するんじゃねぇよ」とでも言いたげなキツイ視線を向けてくる者も居た。しかし流石に地獄の女神の存在をチラつかせれば、特に俺や久侘歌に突っかかる事も無く大人しく退却してくれた。

 

《全くもう、勝手に私の存在チラつかせてぇ…。神の威を借る悪魔とはこの事ね》

 

《ごめん。でもそうでもしないとポッと出の俺の指示なんて聞いてくれないでしょう?久侘歌って仕事は丁寧にこなしていくタイプっぽいからさ、今だって言葉選びに少し手間取ってたっぽいし》

 

《そーね、その通り。流石、わかってるわねぇ》

 

 特に声も上げず、水際作戦に参加していた者は速やかに退却して行った。

 俺は、勁牙組は地獄の者の退却に乗じて襲ってくるものと予想していたが、逆に驚きのあまりにポカンとしているのが意外に思えた。

 すると、動物霊達が一斉に道を空けて、美しい黒翼を持ち、カウガールのような格好の褐色肌の少女が進み出てきた。どうやら、このバカでかいオーラの主は彼女らしい。

 

「驪駒…早鬼…ッ!」

 

 ギリッと下唇を噛み締める久侘歌。どうやら、彼女が首謀者で、勁牙組の長だと見える。かなり強そうだ。このオーラの強さが彼女自身の強さを物語っている。

 

「…あぁ、誰かと思えばアンタか。さっきは皆を見捨てて尻尾を巻いて逃げたと思ったんだが…。それがまさか、戻ってくるなんてな。しかも男を連れてくるし、お仲間さんを退却させるときた。よく分からん奴だ。まぁ何はともあれ、やっと、この地獄を明け渡す気になってくれたのかな?」

 

「地獄を支配するだなんて、そんな事はこの私が許さない!勁牙組組長驪駒早鬼、あなたの野望もここまでです!」

 

「そうかいそうかい、じゃーアンタには大人しく倒されてもらおうか。2人だけじゃ、最強最速の我々勁牙組には到底敵わないぞッ!!」

 

「!来ますよ、エスカルゴさん…!」

 

 拳を握り、妖力から霊力に切り替えて勁牙組を迎え撃つ準備を整える。しかし奴らは、後方にはまだまだ兵を控えていたらしく、俺の予想よりも遥かに規模は大きそうだった。が、天狗よりかは少ないように見えなくもない。天狗達のおかげで対多数の戦い方も磨かれているので、彼女の手を煩わせる事無く決着をつけられるかもしれない。

 

「…で、どうです?彼女、結構好みでしょう?」

 

「え?あ、まぁ…そうですけど…。今そんな話をしてる場合じゃ……」

 

「何をゴチャゴチャ話してる!?オオカミ霊共(おまえたち)、やっちまいな!!」

 

「「「ハッ!!」」」

 

 一斉に飛び出してくるオオカミ霊、それから、アニメに出てきそうなオオカミ顔の獣人、その他多くの動物霊が襲いかかってきた。自爆し周囲を薙ぎ払うのもアリだとは思うが、久侘歌がそばに居る以上、そう易々と自爆する訳にもいかない。

 

「久侘歌さん、手を」

 

「えっ?」

 

「良いから早く。少しでも隙を見せれば、奴らに退路を断たれて、俺らがピンチになるでしょう。なので囲まれる前に奴らを一撃で壊滅させます」

 

「わかりました。…うわわっ…きゃああっ!?」

 

 勁牙組を撹乱する為に、足元にスキマを開いてその中に落ち、その場の上空へ避難する。嗅覚が鋭そうな外見だが、流石に上空の匂いまでは辿ることが難しいのか、勇猛果敢な動きから一変し、フラフラと周囲を動き回るようになった。

 

「でも一撃って…そんな簡単にいくんですか?」

 

「当然、この地獄も無事では済みませんけどね 。でも多少の無茶は大丈夫でしょう。幸い、ここら一帯には何もありませんからね」

 

《…ある程度なら構わないけれど、やり過ぎたらお仕置きよん?そこ、分かってるわよね?》

 

《分かってる。見守っててよ。絶対奴らを地上に行かせはしないし、地獄も奴らに支配させたりはしないからさ》

 

《…頼んだわよ。あなたが負けたら、地獄はほぼ確実に支配されるんだからね。地上に出る前に、霊夢が来るのなら話は別だけど……地上に被害が出なければ彼女は動かないでしょうからね》

 

《それも分かってる。というより、数々の神様の力を借りてる俺が、負ける訳にはいかないから。へカーティアは泥船に乗ったつもりで居てよ》

 

《泥船って》

 

 泥船じゃなくて大船だったね、と訂正しようと思ったが、勁牙組の連中が空中に移動した俺達に気付いて地面を蹴って飛翔してきたので、手早く掃討しようと思考を素早く切り替えた。

 

「有象無象は消えろ。俺は組長に用があるんだ。旧約『インドラの矢』」

 

 蛍のような小さな光を、眼下に広がる大地へと放つ。まさに光のような突き進むそれが着弾し…鼓膜を震わせるほどの大爆音で爆発した。まるで核爆発を彷彿とさせるそれは、多くの組員が居る勁牙組をほぼ壊滅させるには十分すぎる破壊力を有していた。

 爆心地周辺及び爆破に巻き込まれた者は、声を上げることすら出来ずに吹き飛ばされて、または消えていった。霊体が消滅したのかどうしたのか俺にはわからないが、掃討はできたと見える。

 このスペルは、太古のインドで、ローマ神話に登場する雷神インドラがアスラ族…またはラークシャサの王ラーヴァナの大軍を一撃で死滅させた雷を模したものだ。

 俺は現物を見た訳でも無いし、聖地を巡礼した訳でも無いが、名前を借りるくらいならあんまり罰当たりでも無いだろう。仮にインドラの怒りを買ったとしても、こちらにはかなり多くの神様がついている。怖気付く事は何も無い。

 …などと考えていると、土埃が晴れて、攻撃を喰らった早鬼が姿を現した。

 

「ハーッ……ハーッ……何だ、今の…!お前が…お前がやった…のか……?」

 

 服は所々に穴が空いて、肌には煤汚れのような汚れも付着している。一見やられかけている風の早鬼だったが、彼女の気配から感じるに、寧ろ、闘争心に火がついたような気配を帯び始めた。

 好戦的な笑みを浮かべたと思えば、少しずつ、狂気に目覚めたフランに似た表情になっていく。

 

「ハハハハハッ!!イイぞお前ェ!!こりゃあ、久しぶりに楽しめそうだッ!!」

 

「やっべ…倒すどころかヤル気アップさせてる…何でだよこれ…」

 

 爆発の影響で地面には大きなクレーターが成形されているにもかかわらず、早鬼にはダメージが殆ど入っていないように見える。

 異常なタフネスだ。さて、どうしたものやら。

 

「ああああぁ…ああなったら私じゃ手が出せないじゃないですかぁ…!エスカルゴさんなら相性の関係で勝てると思いますが…ホントに、頑張って下さい…」

 

「相性って。…それじゃ、久侘歌さんも避難を。彼女が…いいや、彼女と俺が戦えば、この周辺も多少は荒れるでしょうから」

 

「いえ。私もここに残ります。絶対に、あなたの足でまといにはなりませんから」

 

「足でまといとかそういう問題じゃない、久侘歌さんを危険に晒すから言ってるんです。一体奴がどんな攻撃をしてくるのかわからない。だから、あなたを守りきれなくなるから────…」

 

「大丈夫。自分の身は自分で守れます。ですが…あなたの戦いを、最後まで見届けさせて下さい。せめて、今だけ…。今だけでいいから、あなたのそばに居させて…」

 

「っ…久侘歌さん…」

 

「いつまでもイチャついてるなよッ!先手必勝!勁疾技『スリリングショット』!!」

 

「「─────ッッ!!!」」

 

 全く、ドラマティックに見つめ合っていた時にこれである。ムードも何もあったものではない。まぁ確かに、戦いに来ているのにこれでは相手も焦れったくなっても仕方ないとは思うが。

 

「久侘歌さん、あなたは自分で避けて下さい!」

 

「ええ、分かっています!あなたは自分の戦いに集中して下さい!」

 

 言ってくれるではないか。ほくそ笑んだ俺は、早鬼の放つ赤い弾幕を避け……接近を試みるが。

 

「近付いて良いのかァ!?そら、いくぞッ!!」

 

 赤い弾幕が動きを止めると早鬼はそう叫んだ。

 直後、とんでもない速さの青弾幕が頬を掠め、通り過ぎていく。そして、赤弾幕が動き出した。青弾幕で動きを制限して的を絞り、赤弾幕で更に攻撃を仕掛けてくる。仕留める気満々の三段構えである。

 そもそもの話、避けている途中に動きが止まるなんて、目測を誤って即被弾してもおかしくないというのに。思ったよりも脳筋ではないらしい。

 

「ほーら、次いくぞッ!!!」

 

「させるか!巨人『守備特化兵器・鎧』!!」

 

《成程、ここで私の出番って訳ね!》

 

《お願いね、袿姫!》

 

《任せなさいエスカルゴ君!磨弓のように、命を吹き込んであげるわ!》

 

 創造魔法で生み出した鎧を纏った巨人に、袿姫から力を借りて、埴輪兵のように自我を授ける。すると、今の俺の創造魔法では不可能な、自我を持つ巨人が出現した。

 魔法と神の力を合わせれば、こんなことすらも可能になる。これこそ、俺が昨日袿姫の申し出を受け入れた本当の理由だった。

 尤も、母さんの力だけでも生み出せるのだが、母さんにはあまり負担を掛けたくないので敢えて魔法と袿姫の力を合わせる事にしたのだった。

 そして、それらの力で生み出した鎧の巨人は、早鬼の弾幕をその堅固な身体で受け止めつつも、弾幕を放って反撃している。俺と久侘歌は巨人の背後に避難しているが、頼りに出来る頑丈さだ。

 

《…巨人…か。ふぅん…》

 

《どしたの、へカーティア?》

 

《いやね、少し昔を思い出したのよ。巨人族とはよく戦ったものでねぇ》

 

《………》

 

 へカーティア(ヘカテー)がその圧倒的な力を奮ったアレだ。もしもへカーティアと戦うことがあれば、巨人系のスペルは使わないでおこう。

 これは所謂奴隷系のスペルだが、その主軸たる奴隷を倒されたらこちらのスペルそのものが破綻するのだから。

 そして鎧の巨人は、俺達を弾幕から守り相手へ弾幕による攻撃を加えつつ、更には格闘で攻撃を仕掛ける。そこまでは指示していないが、やはり自我を与えた事による弊害か。実験的に使用したものの、案外早くに弱点を見つけた。悪くは無いので、放置でいいとは思うが…。

 

「ちっ、デカいクセに動きが速い奴だ…!だが、私には及ばないぞ!!」

 

 隕石の如く降り掛かる鎧の巨人の拳を、まるで舞い落ちる花びらのようにヒラヒラと動いて回避していく早鬼。素早い。素早すぎるあまり、少し目を離したら容易く見失ってしまいそうだ。

 そして、ついに早鬼が反撃に出た。

 

「吹き飛べ、このデカブツ野郎がッ!!」

 

 地面の土を後方に飛ばし、早鬼が鎧の巨人へと肉薄。何をするかと思えば、早鬼は躊躇いもなく股間を蹴り上げて、鎧の巨人を遥か上空へと消し去ってしまった。

 

「なっ…け、蹴り飛ばしただと!?軽いとはいえ相手は皮膚が硬質化した肉の塊だぞ……!?」

 

「何を驚く事があるんだ?私の能力を以てすればこの程度は造作もない」

 

「おま…いや、早鬼の能力って……?」

 

「《比類なき脚力を持つ程度の能力》だが?」

 

 間違いなくコイツはヤバい。勇儀のパンチ力が両脚に集約されたかの様なとんでもなさがある。そうでなければ、巨人が吹き飛ぶはずが無い。

 

「そらっ、弾幕も喰らえ!!」

 

 青い弾幕が、相変わらず両脇を包囲するように通り過ぎていき、そんな中で更に赤い弾幕までも放たれる。何という鬼畜さだ、こんなのは霊夢が居なければ俺には避けられない。少なくとももう三度は被弾している。

 

「それともお前は、こっちがお好みか!?勁疾技『ライトニングネイ』!!」

 

 嗚呼、ある意味お好みの弾幕だ。…いや嘘だ、寧ろ大嫌いな類の弾幕だ。最悪だ。最悪すぎる。どうしてこんな、俺が苦手とするスペルばかりを持ち合わせているのだか。

 彼女の顔立ちは文に似ているが、性格も弾幕の質も、全く以て異なっている。彼女(あや)と戦うようにしていたらまず間違いなく負けてしまうだろう。余計な思考は頭の隅に追いやり、今はこの戦いに集中しなければ。

 角度を変えたレーザーを、十重二十重に放つ。瞬時に隙を見つけなければならないので、これも反射神経が試されるスペルだ。

 

「こうなったら次はこうだ!全力を注いで…驪駒早鬼!お前を倒して、地獄や地上への侵攻を食い止めてやる!」

 

「面白い、やってみろ!だが今更、劣勢のお前に何が出来るんだ!?女の前だからと、そう無闇にカッコつけない方が良いと思うぞ!恥を掻く事になるのはお前なんだからな!あっはっはっは!」

 

「カッコつけてなんぼだ、調子に乗ってこそだ。女の前だろうと一人だろうと、有言実行でお前を食い止めてみせるさ!」

 

「ハハハハッ!吉弔みたいないけ好かない奴とは違って好戦的で気持ちいいぞ!!私は、強い奴が大好きなんだッ!!」

 

 早鬼は強い。それなら、簡単には消滅しない。普通に使えば相手を殺してしまうような弾幕も、今回に限っては使い放題というわけだ。そもそもこれは、異変解決ではない。地獄の者に代わって暴動を食い止めるような役回りである。つまり、元よりスペルカードルールに則らなくとも良い、という見方もできる。

 

「─────禁弾『音速弾幕結界』」

 

 大量に小さなスキマを開き、そこから金属片を超電磁砲として飛ばしまくる。いつもならばただ包囲するだけだが、今回は直接狙っている。

 

「ハンッ、こんなものには当たらないぞ!もっとよく狙うんだな(・・・・・・・)!!」

 

「チッ……」

 

 したり顔でそうアドバイスのようなものをする早鬼。それにムキになった俺は更にスキマの数を増やすが一向に当たる気配は無い。寧ろ金属片の在庫が無くなってきたほどだ。

 そんな中、戦いを遠巻きに見ていた久侘歌が、ハッとしたように声を飛ばしてくる。

 

「狙ってはダメ!相手はそれを狙っています!」

 

「ちぇっ、あの女、余計な事を……」

 

「…ッ!そうか…!」

 

 俺の狙いは一箇所……早鬼に定められている。そして弾幕の動きは直線。つまり狙えば狙う程に当たらなくなるという事だ。狙われている早鬼は少し動くだけで回避が可能性なのだから。

 

「成程。動きの素早い奴に攻撃するには、まずは動きを封じるのが得策って訳か」

 

「フン、今更気付いたってもう遅い!」

 

「遅いなんて事は無い。方法さえ分かればあとはどうにでもなる」

 

「言ったな、コイツ!ならばやってみろッ!!」

 

 思えば、嘗て文と追い掛けっこをした時などはそうやって彼女を捕まえていた。どうしてそれを忘れていたのだろう。少し考えればすぐ分かったはずだろうに。

 

「星符『オールトの雲』!!」

 

「遅いんだよッッ!!!」

 

 思い切り地を踏み締める早鬼。一息にこちらに踏み込んでくる。そう読んだ俺は動き始める前に何とか星弾幕を配置して、早鬼を包囲した……と思ったのだが、星弾幕の球体の中に、早鬼の姿はどこにも見当たらなかった。

 

「どこ見てやがるウスノロ!!」

 

 ─────頭上にいる。

 そう気付いた時にはもう、俺の体は頭から踏み潰されていた。

 熟れた果実が地面に落ちて潰れた時のような、少し気味が悪い音が響き渡って、早鬼は真っ赤な返り血を全身に浴びた。

 俺の読みでは、脚に力を溜めた早鬼は真っ直ぐ俺に突撃してくるはずだった。しかし実際の所、彼女は空中に飛び上がり、ライダーキックバリの強烈な脚攻撃を浴びせてきたと見える。

 

「あ……ぁ…そんな…」

 

「ふぅっ、男は片付いたな。それなりに骨のある男だったよ。畜生界に居れば、それなりに頭角を表したかもしれんな。まぁ、次はお前だ。覚悟は済んでるよな?」

 

 カチカチと奥歯が鳴る久侘歌。だが次の瞬間、早鬼は久侘歌への歩みをはたと止めた上、静かに冷や汗を流した。

 

「久侘歌には手出しさせねー…。あの子は、俺が手に入れるまでは誰にも指一本触れさせねぇって決めたんだ」

 

 新しい肉体を構築した俺は、妖魔雷霊剣を抜き気配を殺して早鬼の背後に回り込み、背中を軽く刺したのだ。チクリという程度なので、そんなに痛くはないはずだ。

 

「ッ…お前…どうして……」

 

「生憎、俺は不老不死なんだ。何をされようと完全には死なない。俺に対する知識が無かった(・・・・・・・・・・・・)。それが敗因だ、驪駒早鬼。大人しく負けを認め、地獄から撤退しろ」

 

「おかしな事を言う。私はまだ負けていないぞ」

 

 早鬼の背中越しに久侘歌へ向けて目配せする。俺の意図を汲んだのか、小さく頷いて答えた。

 

「…それなら、その身に刻み込むしかないかな。恨んでくれるなよ」

 

「こっちのセリフだ……!!」

 

 脚に力を溜めようとする早鬼。だがその動きは粗方予想出来ていたものなので、とうにそれへの対策はできている。乃ち、動く前に叩く事だ。

 

「一閃『Mishap of Thunder』」

 

 魔法陣はゼロコンマ数秒で拡張されて、早鬼の頭上を見事覆い尽くす。彼女が動き出す前に雷を落とし、有無を言わさずに無力化させられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…と、こんな感じでいいですか?久侘歌さん」

 

「はい…ありがとうございます…」

 

「…?敵の親玉は倒したのに浮かない顔ですね」

 

「あなたがっ…………いえ、何でもありません。とにかくありがとうございました…。これから、報告に一旦地獄に戻りますので、後程…半刻ほど後に、玄武の沢の滝の上に集合でいいですか?」

 

「ええ…良いですけど…」

 

《ちょっとエスカルゴ君!?そこ、そこよ!今がチャンスでしょ!彼女はそれを待ってるのよん!もうっ、これだから鈍感な男はダメなのよっ!》

 

《あっ、そうか》

 

 へカーティアに言われてやっと気付いた俺は、背中を向けた久侘歌の腕を掴んで、引き止める。一瞬ピクリと肩を震わせた久侘歌だったが、少しぎこちない動きでこちらを振り向いた。

 

「どう…しましたか?」

 

「その…っ…昨日初めて会ったのに言うなんて…色々とおかしいとは…思うんですけど……っ」

 

「……!」

 

「昨日……あなたに一目惚れしてしまいました。よし良ければ…俺とお付き合い願えませんか?」

 

 告白の時に言葉に困るなんて俺らしくもない。やはり、場数を踏んでも慣れないものは慣れないらしい。尤も、慣れていい事ではないと思うが。

 一方で、突然に俺から告白を受けた久侘歌は、頬を紅く染めながら柔らかく微笑んだ。

 

「不束者ですが、宜しくお願いしますっ♪」

 

「─────っしゃあッ!やった…へへへっ♪」

 

 ニヤニヤが止まらない。表情筋が制御不能だ。だがそれ程に嬉しい。押せば堕ちるとはわかっていたものの、実際にそうなると嬉しいものだ。

 

「…なんだ、鶏娘にもう取られたか…。チェッ、惜しい事をしたな」

 

「驪駒早鬼…起きていたんですね」

 

「告白から聞いていたぞ。…お前ほどの強者なら良いかなと思ったんだが…取られては仕方ない。諦めるしかないか」

 

「何を諦めるんです?」

 

「何って…その男を、だよ。私はずっと強き者を求めていた。私と釣り合うような強き男を、だ。だから私が負けたら…って密かに思っていてな」

 

 やれやれと言った風に、わざとらしく溜め息をついた早鬼。一方で久侘歌は、丁度いいと言わんばかりにすかさず早鬼に畳み掛ける。

 

「早鬼、安心して下さい。このエスカルゴさんは家庭持ちですよ。他にも多くの女性を侍らせて、自由に過ごしています。あなたも入ってみては?私はそうしましたが」

 

「ほう…!なぁお前…えっとエスカルゴ、お前はそれでいいのか?何なら私のことも………その、側室に迎えてくれても良いんだが?」

 

 チラリと久侘歌を見やると、コクコクと何度も頷いて答えを促してくる。彼女は賛成派…というより、早鬼を俺の目や手の届く範囲に置き、より動きを感知しやすくしようという考えもありそうに感じられる。

 まぁそこは、可愛い彼女の策だ。見破った上でその策に乗るのも、また一興だろう。

 

「…ぶっちゃけ、可愛いとは思ってたからな…。ある意味俺としても嬉しい申し出だよ。驪駒早鬼だよな?俺はエスカルゴ・スカーレット、普通の吸血鬼だ。宜しくな」

 

「ああ、宜しく!」

 

 斯くして、ただ流れに身を任せた結果、地獄の騒乱を食い止めた上に、二人の可愛らしい女性を手に入れた俺であった………。




内心ウッキウキのエスカルゴ…w

早鬼がスペルを発動してから暫くの間、ボムの弾幕が早鬼に向かわないんですよね。それが余計早鬼戦の難易度を上げてたり…。鬼形獣以降は、こういう仕様もちょいちょい取り入れてみようと思いますが、今回は普通に書き忘れてましたね。まぁ、どうせ当たってないですしね…。
(プレイ動画上げてる人って大抵ノーボムだし、実力だとEXボス戦に行くなんて稀なので、歴代EX全員この仕様だったらどうしようかと思ったので、「鬼形獣から」ということにしました)

ところで、鬼形獣編の何人かは、全てのスペルを出していませんよね。その理由を察せる人は……さて、どれくらい居るのやら。



酔蝶華、めっちゃ良いですね。絵柄が好きすぎて悶絶です。あの子の元ネタを考察中です。
鯢は雌の鯨という意味もあり、サンショウウオの意味もあります。また、あの子(未読の人の為に名前は伏せておく)の服装(主にスカート)が、萃香の持ってる伊吹瓢に酷似していることから、何らかの経路で鬼と関わりがあると睨んでます。
三月精にて酒虫が出てきた時に、永琳が「山椒魚みたい」みたいなことを言っていたと思うので、そっち繋がりかもとか……。
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