「……んで、里のどこに行くんだよ」
「んー?…お父さんはどこに行きたい?」
「ねーよ、そんなの」
自分でも分かるほどにぶっきらぼうな口調で、半ギレのような口調で返事をする。そんな事ではダメだと頭では理解していても、この落ち込んだ気分は中々そうさせてくれない。
「じゃ、
「……定食屋」
尤も、もしもさっきOKされていたら甘味処に行くつもりだった。娘達は普段からグータラで、大して甘味に興味を示さない事が多いので、俺が誘うのは専ら霊夢ばかりだった。
「ふーん。じゃあ定食屋行こっか。お金はあるし割り勘にしよ?」
「いいよ、俺払うから…」
「はいはい、割り勘ね」
「………」
目的が読み取れない。娘は、一体何をしようとしているのだろう。別になんでもいいが、もしも目的が無いのなら、畜生界に行って早鬼と二人で好き勝手に暴れたいのだが。
…とはいえ、数少ない次女との触れ合いだし、そういう時間も時には必要だろう。
「定食屋って、赤蛮奇が居る…あの?」
「あぁ。分かるだろ?」
「うん。じゃーそこにしよっか」
「おう」
外食するなら霊麗も連れてくればよかった、と店が見えてきてから後悔する。人気の無い店裏に着地し、少し遠回りして店の中に入る。遠回りをするのは、一応周囲の目を気にしての事だ。俺は兎も角、霊愛は「次代の巫女」だ。
店に入ると、お冷やを運んでいた赤蛮奇と丁度目が合った。少々驚いていたようだったがすぐに営業スマイルを浮かべ、定型文で対応する。
「いらっしゃいませー、2名様ですね、空いてるお席にどうぞー」
赤蛮奇が背を向けると、見計らったように袖をクイクイ引っ張る霊愛。そちらを見ると背伸びでひそひそ話をしようとしてくるので、腰を折って彼女と頭の高さを揃える。
「…赤蛮奇ってあんなに笑顔上手かったっけ?」
「成長ってやつだよ。対応していくうちに上手な笑顔を見せられるようになったんだろーな。今の俺にはあんな風に笑える気がしねぇ…ふふ…」
「……」
お昼時にしても少し早いからか、客はそれほど多くはない。赤蛮奇に案内された通りに、適当な場所に腰を下ろす。
「…今日は、娘と来たんだ?」
「ああ。霊愛が俺を連れてきた」
「へー…霊愛ってお父さん嫌いで有名だけど…。ねぇ、ホントの所はどうなの?」
「はぁ…?誰よそんな噂流してんの。そんなのは根も葉もない噂よ、ウ!ワ!サ!」
「じゃあ巫月みたいにお父さん大好き?」
「…別に嫌いじゃないけど…そういう事は全然ないから!お父さんはお父さんだし!」
「ふーん、そっか。…注文決まったら呼んでね」
営業スタイルとは違う態度で接客した赤蛮奇は仕事に戻っていった。いつぞやの様にニンニクの匂いが漂ってこないのを見ると、注文前に勝手に調理し始めるのはもうやめたらしい。
「霊愛はどうする?」
「それよりお父さんは?」
「俺は……ぶっかけうどんと焼肉単品のニンニクマシマシかな」
「まーたニンニクかぁ。好きだねぇ」
「まぁね。で、決まってんのか?」
「うん、決まってるよ」
「おっけ。ばんきちゃーん、こっち頼むわー」
「だから、ばんきちゃんって呼ぶなっつーの!!何度言ったら分かんだこのバカァ!!」
頭を飛ばしてダイレクト頭突きをかましてくる赤蛮奇。あまりにいつも通りの流れなので思わず笑いが漏れてくる。
「ふふっ…」
霊愛はというと、そんな俺を見て微笑んだ……ように見えた。俺の希望的観測だろうか?いや、確かに微笑んだ。
「はい、バカは何を食べたいワケ?」
「ぶっかけうどん単品、そんで焼肉単品ニンニクマシマシで頼むわ」
「なんか凄い組み合わせだね…。霊愛は?」
「お父さんと同じで。…ニンニクは増やさなくて良いけど」
「注文は済んだ?それじゃ、少々お待ちを~」
頭を乗せて厨房へ向かった赤蛮奇を見送って、正面の娘に目を移した。すると、普段は仏頂面な霊愛が、ほんの少しだけ笑みを覗かせていた事に気が付いた。
「どうした?」
「ううん、何でも?ただ、お父さんの調子が少し戻ってきたみたいで…その……安心、した…かな…///」
「…?俺はいつもこうだが…」
「いつも通りなら手首切らないでしょうよ、今更何言ってんの?そんな嘘がバレないとでも?」
「………」
「…お母さんなら大丈夫。あの時はちょっとだけ機嫌が悪かっただけだから。不機嫌なお母さんが誰かに八つ当たりするなんてさ、今に始まった事じゃないでしょ。それこそ普通に昔からでしょ?だから……その、さ。そんな気にしないで…?」
「……あぁ。分かったよ。何だか悪ィな。娘から元気付けられるなんて…不甲斐ない父親だぜ…」
「別にこんなの全く気にしてないよ?お父さんのメンタル、変に図太いようで案外脆いの、これも昔からでしょ?」
「………」
そうだったかもしれない。いや、そうだった。俺が一旦人間に戻ったあの時はかなり脆かった。そういえばあの時も霊愛に助けられたんだっけ。
「ありがとな。助かった」
「そう?なら良かった」
…それから程なくして、ウエイトレス赤蛮奇が料理を運んできた。久しぶりに娘の笑顔を見れた上に、落ち込んでいた気分も晴らしてもらった。なんだか、改めて親子とは素晴らしいなと感じた出来事だった。
霊愛のスピンオフも書きたいとか思い始めた…。けれども、霊愛の周囲を掘り下げようとすると、どうしても姉や妹達ばかりが登場するから、原作キャラがほぼほぼ出てこないんだよね。それだと不満に思う人の方が多くなりそうなんだよなぁ。
出てきても霊夢や魔理沙、小鈴、阿求、赤蛮奇、咲夜、美鈴あたりになるんだよな……。