「ありがとうございました~」
定食屋で少し早いお昼ご飯を食べた俺と霊愛は一先ず大通りに出て、ブラブラと見てまわる事になった。勿論、先程の会計は割り勘だった。
「何かしたい事とかはあんのか?」
「んー……最近前髪がウザったいから切りたいんだけど、お母さんがうるさくって中々切れないんだよね。『髪には霊力が宿っているから、迂闊に切らないこと』って言われてさ」
確かに霊愛の前髪は、目のすぐ上あたりにまで伸びてしまっている。これまで通り霊夢が切ってあげればいいものを……何故そんな事を言ったのだろうか。霊愛の霊力は膨大だし、霊力を落とす事になったとしても微々たるものだろう。なので少しくらいならばいいと思う。
「理髪店、行くか?」
「うん。一人じゃ怖…じゃなくて、理髪店とかに行った事ないから、連れてって」
「はいよ」
咄嗟に言い繕ったようだが、俺は娘が言おうとしていた言葉を聞き逃さなかった。強がりたいのかもしれないので、何も言わないでおこう。
いつも俺が彼女をイジるから余計な言い合いに発展するのだ、ここは俺が黙るのが吉だろう。
確か鈴奈庵の近くに理髪店があった気がする。食べ物屋以外の商業施設はそこそこあの辺に集中していたような覚えがある。
店の前に行くと、やはり空いている。里人達は男女共に髪が長い。あまり関心が無いのだろう。そう言う俺自身も、大して拘りは無い。きっと、心まで妖怪化したのだろう。こうなるともう外の世界の人間ほど頻繁には理髪店に行かないのだ。
「いらっ………!?いらっしゃいませ!!今日はどのようになさいますか!?」
見るからに店員の接客態度が変わった。今日が初めての来店だというのに、まるで常連のような接し方だ。別段不快感は無いが、驚きはする。
「娘の髪を頼む。俺は付き添いだから」
「分かりました。では、お父様は空いてるお席でお待ち下さい。娘さんは………用意が整うまで、お父様とお待ち下さい」
「はーい」
成程、髪を切る為の椅子は空いていても、床に落ちている髪の毛の処理が必要らしい。確かに、それは大事な事だ。清潔感を保ち、清潔だと客にアピールする意味もあるだろう。
そして、連れ添いの人を待たせる為らしい席に二人して腰を下ろし、ボソボソと小声で話す。
「…お父さんさ、せめて人間に化けるとか翼隠すとか、何かあったんじゃないの?」
「うん、それは思った。けどそうすると、霊愛は知らない男と店に来たと思われるし、何れ母親の霊夢の耳にも届くだろ。そんな事になるんなら、父親同伴だって皆に分かるようにした方がいい。そうだろ?」
「うぐ……。お父さんにしてはしっかり考えてんじゃん…。言われてみればそーだわ…」
「だろ」
「うん。…ね、お父さんはどんな髪型が似合うと思う?」
「そう…だな…。うーん……?」
今の霊愛は霊夢と同じ髪型だ。俺は霊夢の事も霊愛の事も、そして霊麗の事も、同じ髪型でしか見てこなかった。なので、彼女の顔で他の髪型が想像できない。
「…ちょっと切ってもらうだけだけどさ、どうせ切るんなら…少しくらい髪で遊びたいじゃん?」
彼女も年頃の少女だ、オシャレをしたがるのも何ら不思議ではない。寧ろ他の子達にその兆候が現れないのが少し異常かもしれない。霊愛は他のどの子供達よりこの人里と触れ合ってきたので、多少なりとも影響されているのかもしれない。
「お待たせ致しましたー、お席が空きましたのでこちらにどうぞ」
「あ、呼ばれた。行ってくるね」
「おう、行ってら」
店員に誘導され、霊愛は髪を切る為の椅子へと腰を下ろした。俺から見える場所なので、霊愛も俺も安心できる。
そして俺は、手元に暇を潰す道具も無いので、トランシーバーで衣玖さんと通話していた。
席では、霊愛が店員から渡された見本を見て、あれやこれやと悩んでいるようだった。
………そして、約一時間後。
「お父様、娘さんの散髪、終わりましたよー」
店員が呼んでる事に気付いたので簡単に挨拶を済ませ衣玖さんとの通話を切る。そこには前髪を短くさせた霊愛がいた。
そるから、料金を支払って店を出て、飛び立つ為に店の裏に回ると、霊愛が唐突に訊ねてきた。
「どう?これ…似合ってる?」
彼女の前髪は、俗に言うパッツンだった。だがそれ以外はこれまで通りである。ただ前髪が短くなっただけなのに、何故か顔付きまでも変わったような気がしてならない。年相応の顔付きに。
「ああ。似合ってるし…前より可愛くなったな」
「ありがと。……あ、目んとこにゴミついてる」
「んぁ?マジ?」
「いいよ、私やるから」
「んじゃ頼む」
しゃがんで彼女の目線の高さに合わせ、ゴミを取らせる為に目を閉じる。だがいつまで経っても彼女の指が俺の顔に触れることはなく、代わりに俺に触れたのは……彼女の柔らかな唇だった。
しかしその感触も長く続くことは無く、霊愛はすぐに顔を離した。
「…くっさ。キスするんじゃなかったわ」
「うっせ」
「……今日はありがと。その…楽しかった…よ」
「こっちこそありがとうな。俺も楽しかったぜ。機会があれば、次は霊麗も連れて遊びに来よう」
「っ…!うん、そーしよ!」
久しぶりに見た昔のような彼女の笑顔に思わず頬が緩んでしまう。案外、子供にも意外な一面もあるものだ。
そして俺は、女性と食事をするのにニンニクの料理を食べて、さらには特製のブレス○アを食べ忘れるとは…。俺もまだまだ、若造である。
何で?俺…前髪パッツンは好きじゃないのに……霊愛だと…何故か可愛く見えちゃうんだ………。
君のせいで……俺は…俺は普通だったのに…君のせいで大変なんだから……ハァッハァッ…なんとかしてくれよ(まーた進撃語録使う…)
飢饉について掘り下げようと思ったけども、よく考えたら前回結構書いてた…。諏訪子とのお喋りだけになりそうだけど…まぁ、書いてみるかー。
そこそこ短くなるかもですが。