戦いに飢えた鬼の提案
「ん~、久しぶりの地上の空気だ~…。さァて、
地上に現れた一本角の鬼は、大きな杯に入った酒を一息に飲み干して、悠々と山登りを始めた。
目的は、天魔…紗那の屋敷である。
尤もこれは、彼女の目的を果たす為の前段階…言わば下準備に過ぎなかった。それも、ごくごく初期段階の。彼女が山を恐怖の底に陥れるのは、実はこの後すぐの事だった…。
◆
「んで、勇儀に呼ばれて地底に来たはいいが…。なぁパルちゃんよぉ?何でここまできて橋の上で待機しなくちゃいけないワケ?」
「…作業が長引いているから、そう言ったわよ。それとも私と一緒に居るのは嫌?まぁそうよね、地底にはお空とさとりが居るものね?本当なら、直ぐに会いに行きたいんだものねェ?しかも最近こいしとも中々に良い関係らしいじゃないのよ、何なのよそのハーレム更新頻度は…妬ましい…。いや、面倒臭そうだしあまり妬ましくないけど…その忙しさが妬ましいっ…」
勇儀の話では、集合場所はパルスィが守る橋の上ということになっているが…中々彼女が現れる気配は無い。それを疑問に思った俺は、暇潰しに地霊殿へ向かおうとしたが、そこでパルスィから勇儀の伝言を聞かせてもらった。
「作業が長引いているから少し遅れる」との事だったが、勿論俺には何の話だか分からない。
というワケで俺はパルスィと喋りながら時間を潰しているのだが、彼女からの嫉妬心が痛い…。
それから暫く俺から一方的にパルスィに絡み、適当に時間を潰していると、酒気を帯びた勇儀が足音も気配も隠さずにやってきた。
「おーい、エスカルゴー!待たせたなぁ!!」
「おー勇儀ぃ。えーっと、今回は何の用で俺を?わざわざ勇儀が呼ぶんだ、只事じゃ無いだろ?」
「おうとも、その通り!只事ではないな!ただ、言い訳という訳では無いが遅れてしまった理由を説明させてもらおう。…実はお前に見せたい物があって呼んだんだがな、それが丁度、地霊殿から比較的近くにあってな。気配の察知がそれなりに上手いお前だと完成する前に気付かれると思ったから、地霊殿から遠くの
「あー……」
紅魔館再建を手伝ってもらった時に、にとりがそんな事を言っていたような気がする。にしても鬼が自分達の近くに居るなら真面目になりそうな気もするが…。
「河童共が居る所にお前が行くと現場が混乱するからな、そういう意味でも完成までは近付いてはほしくなかったんだよ」
ライブ活動の弊害が、まさかこんな所で現れるとは思いもよらなかった。俗に言う有名税というものだろう。
「だがもう安心してくれ、河童は代表のにとりを残して全員帰った」
「おお、そっか。それなら安心だな。……なぁ、勇儀?ちっと聞きたい事があるんだけど。…最近妖怪の山で暴れた?」
「暴れただなんて人聞きの悪い。私はただ天魔の屋敷に遊びに行っただけだぞ」
「そこで門兵相手にトラブったろ。天魔の屋敷が半壊だってな。娘……天狗がガクブルしてたぞ」
「あー………すまない…それはほんと…うん…。だがあの門兵、何故か私の事を知らなくてなぁ…四天王特権で入ろうとしたんだが、そういう訳で通してくれなかったもんだから、力づくで屋敷に入らせてもらったんだよ。娘をビビらせてたのはスマン」
数日前の事だ。文の仕事場に行った際、何故か穹が布団に籠って全く出てこなかったという事があった。文に事情を訊ねると、「勇儀さんが山で暴れて、その圧倒的なパワーを目の当たりにして心を折られた」との事だった。
門兵と勇儀との衝突を察知した穹は、持ち前の取材魂で現場へ急行し、勇儀が暴れる様を見て…という流れであろう事は、容易に推測できた。
「けど、何で天魔の屋敷に行ったんだよ?天魔と酒を飲みたかっただけ…じゃないんだよな?」
「それもあるが、第一の目的は、河童のアジトを知る事だったのさ。私らがあの山に居た時代とは勢力も規模も違う。…当然、住処も違うだろうと思った私は、今の山の事なら粗方知っていそうな天魔の所へ向かったってワケだ。天魔の屋敷って代々受け継がれるものらしいから、立地とか昔と同じだろうと思ってな」
勇儀がアジトに訪れたときの河童達の驚く様が目に浮かぶようだ。度肝を抜かれたに違いない。それこそ、心臓麻痺で死にそうなほどに…。
「成程。そんで屋敷に行ったは良いがトラブルになって……でも『河童共は帰った』ってことは、その目的は達成したワケだ。河童に頼んでまで、勇儀は一体何を作りたかったんだ?」
「説明するよりも実際に見た方が早い。飛ぶぞ。パルスィも行くか?」
「…やめとくわ」
「そっか、分かった。よし行くぞエスカルゴ!」
「はいよ」
大量の爆弾による爆風のような強い風を残し、俺と勇儀は飛び立つ。一体何があるのかあんまり分からないが、ウキウキしている勇儀を見ると、本当に楽しそうな何かなんだろうな、と思った。
暫く飛ぶと、地霊殿よりも少し小さいくらいの円柱状の建物のようなものが見えてきた。一見、古代ローマのコロッセオだ。
「へー…何だこりゃ…。こりゃまた大きな建物を建築したもんだねぇ……」
「だろう?我々河童は本当によく頑張ったよ!」
タイミング良く背後から声がしてきたので振り向くと、そこにはにとりが居た。相も変わらず、彼女は河童の代表という立ち位置らしい。
「やっ!早速来てくれたんだね!」
「うん。勇儀が俺に見せたいものってのは…」
「そう、これの事だね!」
「見た感じ、スタジアムっぽいな。何する所?」
「ここは闘技場!つまり戦う為の場所さ。周囲は観客席で、どこからでも中央のステージを見れるようにしてるんだ。鈴奈庵にある外来本を調べて
『ころっせお』とかいう建物を参考にしたんだ!どうだ、立派だろう!?」
「本物以上に立派だな…流石だよ」
「そうだろそうだろ~!それから、
誰に場所代を払うのかは、言わずもがな。勿論にとり達河童だろう。そうでもなければにとりがこんなにウキウキしているはずがない。しかも、鬼がそばにいるのにビクビクしていない。やはり金が絡んでいると見ていいだろう。
「そこで、だ。エスカルゴには広報を頼めるか?お前自身の顔の広さもあるし、文のツテもある。だから、この闘技場の事を広めてくれ。できれば直ぐ。期日は明後日の昼、この闘技場で抽選会を行う」
「抽選会?」
「そうだ。この河童と話し合ってな、この闘技場の開設を記念して、大きなトーナメント戦を行うことに相成った!」
「おお~……」
「勿論、私も参加するからなっ!にとり、お前も参加するだろう?」
「え゙っ……あ、まぁ……あはっ、あははは…」
「因みに何人のトーナメントをやる予定なんだ?場合によってはめちゃくちゃ広めなくちゃだろ」
「私としては、64人集まって予選をして、32人に絞ってから、トーナメントの本戦がスタートって考えてたんだが…エスカルゴはどう思う?」
「いや多くね?参加者、もっと少ないと思うぞ。予選するまでもなく32人とかになるんじゃ…?」
「私はそうは思わない!幻想郷や地底にはもっと戦いたいと思っている奴らが大勢いるはずだッ!絶対に64人以上集まり、64人に絞るための抽選をする事になる!!」
「え~……そうかなぁ……」
◆
…そして、抽選会当日。異世界の住人にも話を広めたおかげなのか、紅魔館で行うパーティ並に人数が集まった。あまりに人数が多すぎるので、確かにこれは抽選が必要だなと思い知らされた。
「ねぇ、エスカルゴくん。これ面白そうだから、私も参加して良いかしら。勿論あなたへの憑依は解除して。…どう?」
俺から出た幽々子さんは、そう言って柔らかく微笑んだ。もうお別れかと思うと少しだけ寂しく感じられる。
「色々と迷惑を掛けてごめんなさいね…。もっと他の子とエッチなことしたかったでしょう?」
「それは…まぁ…否定できないですが…。でも、幽々子さんが色々教えてくれたり…一緒に異変の解決に行ったりとか、楽しかったです。お世話になりました。……また何かあったら取り憑いても良いですよ?幽々子さんさえ良ければ、いつでも俺が器になりますよ」
「あっ、じゃあこのトーナメント戦が終わったらまた取り憑いちゃおうかしら♡」
「へへへっ、良いですよ」
「…もうっ、冗談よ、冗談♡……またね♪」
チュッと軽くキスをした彼女は、優雅に微笑みゆっくりと手を振りながら、人混みの中へ戻っていった。それから暫くして、従者の妖夢の怒鳴り声が聞こえてきたのはきっと気のせいではない。
やがて抽選会が始まり…俺の参加が決まった。
予選の相手はどうやら、あの人らしい。
元ネタは、東方キャノンボールと、グラップラー刃牙の地下闘技場最大トーナメント編です。
書きたい戦いが多すぎる為に、トーナメント編を書く事に決めました。お楽しみに!
茨歌仙のモブ河童の、パッツンの子いるじゃないですか。あの子めっちゃ可愛くないですかね…?なんか凄く泣かせたい。ホントに。(は?)
近況報告
エスカルゴの性格、言動を逆インストールしたら彼女とイイ感じになってきました。何か、自分で創ったエスカルゴというキャラに救われてる感がありますね。
女性関係では、リアルでも性格や言動を少しだけエスカルゴ化させた方がいいようです。
※独占欲が現れすぎてそこについては引かれた…