12月24日、クリスマスイブの夜。夜に紅魔館で行われるパーティを終え、子供達や一部彼女達にプレゼントを配った俺は、フランとレミリアと、それからレイチェルが眠るベッドへと潜り込む。
今回のクリスマスパーティは前回よりも人数が多く、かなり盛り上がった。衣玖さんや魅玖も、まるでずっと前から混ざっていたように、周囲に溶け込んでいた。
魅玖は、一時期隠し子だっただけに、姉妹間に溶け込めている様子を見て酷く安心したものだ。
「っはぁ~……疲れたぁ~…今年のクリスマスももう終わりかぁ。なーんか、一瞬だったな~…」
無事にイブの夜を終われそうで安心した俺は、隣で眠るレミリアの頬をつつきながらそう呟く。するとレミリアは待ち構えていたかのように目を覚ました。してやったりと言わんばかりに、ニマニマと笑っている。
「今年もお疲れ様、サンタエスカルゴさん?さ、後はゆっくり休みましょ?レイチェルもフランももう眠っているわ」
「そーだな…ってかレミリアまだ起きてたのか?寝てて良かったのに…」
「バカね、寒くて眠れないだけよ。あなたという抱き枕が無いんだから、寒くてかなわないわ」
「いつもはどうやって眠ってるんだ…」
「…あなたのようなカンのいい男は嫌いよ?」
これは予想だが、普段はフランかレイチェルと抱き合って眠っているのだろう。何となくそんな感じがする。いつか見てみたいものである。
「あーあ、嫌われちゃったぁ」
「嘘よ、真に受けないで?」
「分かってる。おやすみ」
「え、ちょっと……えー……ホントに寝るの…?
…折角パジャマの下でサンタコスしてたのに…」
◆
「……ん?」
気が付くと、俺は知らない世界にいた。紫色の空で黒い壁の建物が並んでいる。輪郭を見るに、建物は紅魔館だと思うのだが、外壁が紅くない。一体どうしたのだろう。
「─────ようこそ、夢の世界へ」
「!」
背後から声がしたので振り返ると、そこには、サンタ帽…いや、ナイトキャップのような帽子を被った謎の少女が居た。ショートに見える青髪と青い瞳。髪は帽子の中にしまってるようで正確な長さは不明だ。服は謎のボンボンが付いた白黒のワンピースで、牛に似た尻尾がチラリと見える。
「はじめまして、吸血鬼エスカルゴさん。私は、夢の支配者…獏のドレミー・スイートです。以後お見知り置き下さい」
「ドレミー…サグメと鈴仙から聞いた事あるな。えっと…夢の世界?何で俺が夢の世界に来てる?でも今の俺の意識は現じゃないのか?今の俺は、俺であって俺ではない…夢の俺じゃないな?」
「おぉう…思ったより独り言が激しいお方だ…。えーとですね、獏特有の専門的な話になるので、簡単に言うと現の精神を夢の世界に持ってきた…という認識で構いません。完全憑依みたいなものですね。付け加えると、夢の世界のあなたは現在幽閉中です」
「そっか、そりゃ良かっ………は?幽閉って?」
「あなたと夢のあなたは、この世界で出会ってはいけない存在なのです。二つの世界の均衡が脆く崩れ去るかもしれませんからね。…というより、本来は現の住人と夢の住人が出会ってしまう事がいけないのですが…そこはまぁ、置いといて」
「は、はぁ…。じゃあ、夢の俺を幽閉してまで、どうして現の俺……の精神をこの世界に?」
「そうですねぇ……その理由は大きく分けて二つあります。まず一つ目ですが…あなたに夢を見て欲しかったからです」
「夢を?」
「そうです。あなた、あの一件でレミリアさんの能力を受け継ぎ、夢を見れなくなったでしょう?見れたとしても予知夢だけ。あんまりでは?」
「………」
(そのせいで夢のあなたの暴走が始まったので、夢を見られないというのは
微妙な笑みを浮かべながら、ドレミーが言う。何か裏がありそうな気もするが、読心の出来ない俺がゴチャゴチャ考えても意味は無い。
「『別に良い』と仰るなら、このまま現の世界に精神を戻しますが…どうしますか?」
「………良くない」
「そうですか、分かりました。…二つ目ですが、私からあなたへのクリスマスプレゼントです」
「ドレミーから…俺への?どうして…?」
「色々事件はありましたが、あなたは今年、皆の為に頑張っていたでしょう?なので、せめてもの労いとでも言いましょうかね…。(という建前で、久しぶりに夢を見てもらいたかっただけですが)」
「クリスマスプレゼントか…俺なんていい歳したオジサンだけどな…」
「いやあなたまだアラサーでしょう…。幻想郷の大多数の妖怪や神があなたより圧倒的年上なのでご安心を」
「まぁ、そうなんだけどさ。…で、夢の世界へのご招待がクリスマスプレゼントって訳ね。こりゃいい体験が出来たよ」
「今のあなたは、明晰夢という状態にあります。何でもやりたい放題、好き放題です。どうです?朝まで私と遊びませんか?」
「遊ぶのもいいけど…少しはまったりしたいな。ドレミーさ、ちょっと俺の話聞いてくれない…?惚気みたいな感じになりそうなんだけどさ」
「お、そういうのも面白そうですね。それでは、お茶でも用意しましょう」
するとポンッと音を立てて紅茶とお菓子数種、手頃なサイズのテーブルに、イス二脚が現れた。まるで魔法だ。ここは夢の世界だ、その支配者のドレミーなら好き放題できる、という事だろう。彼女は早速イスに腰掛け、俺にも座るよう促す。
「ささ、お菓子もありますからね~。……それでそれで、どこの誰との惚気話を聞かせてくれるんですか?」
ニヤニヤしながら、頬杖をついてこちらを見るドレミー。見透かされているような気もするが…気の所為だと思うことにしよう。…それにしてもあの顔…可愛いが口角の上がり方が少し独特だ。ドレミーなので、ドレ顔とでも呼称しよう。
「これ割と最近の話なんだけどさ、月の賢者様とお付き合いする事になったんだ」
「ふむふむ、サグメさんですね」
「やっぱ知ってんだな。…まぁそのさ、サグメと付き合い始めた訳なんだけど。彼女がウブで…」
「『エッチしたくても出来ない』?」
「ちがっ…そんなんじゃ…って訳でもないか…。まー俺としてはサグメともシタい訳なんだけど、向こうにはその気が無いようで、襲われる気配がまるで無いんだよね」
「あなたから襲わないのは何故です?いつもなら自分から襲うのでは?」
「そーなんだけど…なんつーかさ…」
「『気分が乗らない』と?」
「いや、そんなんじゃねーよ?なんつーかさ……襲ってこようとしてるっぽいのは分かるんだよ、たまに挙動不審になるから」
「ほうほう…!」
「でも、その挙動不審になってる姿が…これまた可愛くて可愛くてさ…」
「!?」
「信じられるか?いつも冷静沈着、物事を客観視して的確な判断を下してるサグメが、挙動不審になるんだぜ?にわかには信じられない事だろう?その姿がさ、ホンットもう可愛くて、女たらしと呼ばれる俺も内心でドキドキしまくりなんだぜ?そんな姿見たらさ…おいそれと襲えるかっての。なぁ?ドレミーもそう思うだろ?」
「?」
「照れると顔赤くさせてさ、顔逸らしながら翼をバッサバッサ動かすんだぜ?もしくは、俺の腕に抱きついてさ。だけどそれ、サグメ本人は全くの無意識らしいんだよね。考えてることが翼や顔に出すぎだっての。可愛すぎだと思わねぇ!?」
「ま、まぁ…そうですねぇ」
「でも、近い内にCまでイキたいんだよねぇ…。今はまだ可愛い彼女を眺めるだけでもご飯10杯はイケるかもしれないけどさ」
「C……とは?」
「知らない?恋のABC」
「恋の……って、アナタ古いですねぇ…。それ、かなり昔の語録じゃないですか」
「あぁ、やっぱ知ってるんだ?俺とサグメはさ、まだAまでなんだ。ま、今回ばかりはサグメから来てくれるのを待ってんだけどさ。サグメってば照れ屋なもんだから、いつも、挙動不審になったあとは甘えてくるだけで終わるんだ。まぁそこが可愛いんだけど」
「成程、
「そう言っちまえば身も蓋もないが…間違ってはいないかな。でも、さっき言った通り、彼女から来るのを待つよ。あの姿が可愛いからね」
「意外ですね。それだけの理由で待つんですか。どういう風の吹き回しです?」
「決意したはいいが、もう少しって所で諦めて、甘えるだけにする…。本人は焦れったく感じてるだろうが、そこが可愛いんだ。サグメ本人すらも決意出来てない状況で襲っても、心からの了承を得られるとは思えねーし。…ついでに言うとさ、何れはサグメともFまでいきたいと思ってんだ。なら、最初である今が肝心だろ?」
「…ミスティアさんや響子さんを襲った人と同一人物とは思えない発言ですね…。ところでFって何ですか?恋のABCはABCまでだったような気がしますが…」
「確かFは家族になることだったかな。結婚して子供も作る、みたいな意味だった気がする」
「えーっと…今でも10人以上居ましたよね……?今以上に増やすおつもりで?」
「?そりゃあまぁ…そうじゃん?100年後の俺はもっと子沢山になってるだろうね」
「ひえー、恐ろしいですねぇ。…確かあなたからサグメさんに惚れたんですよね?具体的にどこに惚れたのか教えてくれません?」
「えー……どこだろうね?可愛い以外にも、何かあったと思うんだけど…。何かもう、彼女自体が愛おしく思えてくるレベルだから、好きになった理由とかどうでもいいかな」
「…なら、夢のあなたに聞きますかね。それなら本音が聞けるでしょうし」
「今の俺も本音で喋ってるから、同じような答えしか得られないよ」
(ああ、そうか……。夢のあなたが狂ったのは、あなたのその性格故、というワケですね。人には誰しも裏表がある…。それは、本音と建前という境界を無意識に作っているから。本音を隠すのは必ずしも悪い事では無い…。その線引きが境界を生み、現と夢の世界を分けているに等しい。でもあなたは、敢えてそれを意図的に無くしている。いや、あまりにも無くしすぎている。0に近い。異常な程だ。そうするに至った経緯には、やはりあの娘が絡んでいるのか──────)
「どしたのドレミー、なんか考え込んでるけど」
「…えっ?そうですかね?」
「うん。仕事でもあるのか?」
「いえいえ、ここであなたの相手をするのが仕事ですから」
「そう?それならいいんだけど。じゃあさ、次はドレミーの話を聞かせてよ?」
「えぇ?何を聞きたいんですか?誰かさんの夢を覗くとかはナシですよ?」
「わかってる。話題はドレミーに任せるよ。何か俺の知らないネタを話してくれない?折角ここに来たんだ、少しは見聞を広めたくてさ」
(ふむ、好奇心旺盛ですねぇ。では少し探りでも入れてみましょうかね…)
紅茶を一口飲んだ彼女は、目付きが変わった。怪談話をする噺家さんのような…。または本気でビビらせようとしてくる魔理沙のような。
「実はですね。…夢のあなたなんてどこにも存在していないんです」
「……………え?」
「夢の世界と現の世界、この二つの世界は反対に位置する物ですが、住人の性質も反対なんです。ほら、覚えがあるでしょう?」
「…本音ぶちまけ?」
「そうです。夢の住人は現の本人すらも言えないこと、出来ないことをやってのけます。それは、本音の塊みたいな存在だからですね。……では、あなたみたいに現でも本音の塊のような者だと、夢のあなたはどうなってしまうのでしょう?本音という要素が、そっくりそのまま、現のあなたに持っていかれてるのです。どうなると思います?①:消える。②:別な存在になる」
「『夢の俺』を構成する要素がそっくりそのまま無くなってる…?じゃあ、夢の俺は空っぽな存在なのか?」
「まぁ…そうなりますかね」
「空っぽ…しかも精神的な世界…。じゃ、消えるのかもしれないな」
「ほうほう…」
「いや待ってくれ。消えるかと思ったけどそれは無いな。だって俺、前に夢の俺に会ってるんだ。だから答えは②の……別な…存在に……?」
「ふふ、かなり混乱してますねぇ。…半分正解、半分不正解…ですね」
「そう…なのか…?」
「答えは『①であり②でもある』ですね。両方と答えて始めて正解です」
「え…」
「…まず、本音という要素を現に持っていかれた夢の住人は、中身が空っぽになります。ですが、住んでいる場所としてはこの世界です。つまり、肩書きだけは夢の世界の住人なワケです」
「空っぽでも消えずに存在はするのか…」
「そうですね。ですが不安定な存在である事には変わりありません。すると、空っぽになった夢の住人はあるものに変わります。分かりますか?」
「………全くわかんないな」
「別な人格になるのですよ。ドッペルゲンガー、という呼び方もありますね」
「でもドッペルゲンガーって、会ったら死ぬって聞いた事あるんだけど…」
「ええ、死にますよ。現のあなたの人格が、ね」
「それは無いんじゃないか?だって会ったもん」
「それはきっと、現の世界で会ったからですね。二人のあなたの内、現の世界の主導権を持ってるのは現のあなたなのですから」
「あぁ…そうなる、のか…。じゃあつまり、現在夢の俺が幽閉されてるのって……!!」
「ご明察。ここであなたと夢のあなた…ドッペルゲンガーが出会ってしまえば、彼は現のあなた…人格と融合し、現の精神を殺す事になります」
「…おっかね…」
「もっと言うと、過去にもあなたのように夢現の境界が不安定になった者が居ましてね。その者は夢を見ている間だけ幻想郷に来れるという特異な体質になりました。あなたと原理は違いますが、夢現の境界が不安定になったことは同じですね。そんな彼女のオカルトは………ドッペルゲンガーだったのです」
「……下手な怪談話より怖ぇ……」
「あらあら。…その彼女も夢現の境界が不安定になったと言いましたが、あなたと全く違います。夢自体は見れるのですからね」
「そうなるね」
「するとどうなるか分かりますか…?現の本人、夢の本人、そしてドッペルゲンガーの三人が存在してしまうのです。あなたの場合と彼女の場合のドッペルゲンガーの発生の仕方は違うので」
「こっわ…!ゴチャゴチャになるだろ、それ…」
「なりますねぇ。…どうです?面白いでしょう?それとも怖いですか?」
「怖いけど面白いよ。……じゃあさ、もしも俺がこれから、常に本音で話すってのをやめたら……夢の俺…いや、ドッペルゲンガーはどうなる?」
「そのままです。ドッペルゲンガーは発生したらそのままですので。この世界に住んでる以上は、夢の住人と同様に扱えますし。ただその場合は、新たに夢のあなたが生まれるだけです。その結果どうなるのかは…もうわかりますね?」
「俺が三人になる…か」
「そういう事になりますね。ドッペルゲンガーが欲しているのは現の人格、肉体ですからね、夢のあなたと争うことはきっと無いでしょう。ですが私としては、このまま二人の方が管理しやすくて良いのですが…。あなたが本音で話そうと建前を使おうと、そんなことはあなたの勝手ですから、お好きになさってくださいな」
夢の俺が発生したらどうなるのか。ドレミーは
「争うことはきっと無い」と言うが、多分それは違う。きっと、ガッツリ争いまくる。それこそ、殺し合いというレベルで。彼女や嫁、娘達の取り合いになるはずだからだ。しかも、どちらも不老不死なので永遠に決着はつかないのだ。夢の世界からすれば迷惑極まりない事だ。
「…面倒はゴメンだから、このままで過ごすよ」
「そうですか。配慮ありがとうございます」
◆
「おはようエスカルゴ。良い朝ね。どうしたの?ボーッとしちゃって」
「なんか怖い夢を見てた気がする…」
「折角のイブの夜に?今日がクリスマス本番よ?じゃ、二度寝でもする?」
「そーすっかな…咲夜さんまだ来ないもんね」
「ふふっ、なんだか子供みたいね。何なら私の事ギュ~ッとしても良いけど………って、えぇ~…もう寝てるし…」
…その後、サンタコスレミリアとめちゃくちゃセックスした。
今回の話は、憑依華菫子ルートをプレイした人は分かりやすいと思います。下に軽く解説をば。
原→原作設定
オ→オリ解釈
菫子
夢幻病により眠ってる間だけ幻想郷に来れる(原
夢自体は見れるので夢の菫子も居る(原
とはいえ夢現の境があやふやである事には変わりなく、オカルトはドッペルゲンガーに…(オ&原
よって、三人の菫子が存在してしまう(原
エスカルゴ
とある少女との出会いにより常に本音で話そうと決心してしまう(夢現の不安定化)
↓
レミリアの細胞の覚醒によって夢が見れなくなる
(予知夢とは未来を知る事なので厳密には夢とは言えない。眠ってる中で知るから予知夢と言う)
↓
夢を見れなくなる事により、不安定化が以前より決定的なものになり夢現の要素が融合状態になる
↓
空になった夢のエスカルゴは、ドッペルゲンガーエスカルゴとなる(夢の世界で二人が出会うと、ドッペルゲンガーが現の人格を乗っ取るので実質死亡する)
ドッペルゲンガーとは本人と別の人格だ、と解釈してるので、夢の世界やその周辺の設定は自然とこうなりました。(原作中でも自分が本物(現)と言い張ってヤッバイ言い争いしてましたしね)
怪談話のドッペルゲンガーは、ドッペルと本人が出会うと死ぬみたいな話になってますが、それはドッペルが本人の人格を奪うからで、それは本人からすると死亡に等しいからだ、と考えてます。
つまり、今回の話は、東方のドッペルゲンガーと東方の夢の世界と怪談話のドッペルゲンガーとの組み合わせみたいな感じですね。
恋のABCとは
A:キスをすること
B:ペッティング(性行為の前段階までの行為)
C:性行為
ここまでが特に有名ですが続きもあります。
D:妊娠すること
E:結婚すること
F:家族になること
地域によってDEFの別バージョンがあります。
H:エッチすること
I:愛が生まれること
J:ジュニア(つまり子どもができる)
K:結婚すること