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早 妖 幽 紫 妖 弦 八 久
鬼 夢 々 舞 月 千 侘
子 姫 慧 歌
「さぁて、ステージも綺麗になった事だし、次のブロックに参りましょ〜!」
「とうとう最後のブロックになったね!こっちもこっちで猛者揃い!ステージが壊れそうだね!」
「そうだねぇ…破片の片付けは
『英雄の最新の彼女』とのタレコミもあるね!!カウガール風のあの格好が、どことなく強そうな雰囲気を醸し出してるね!」
「予選の戦い方を見るにかなりヤバそうだよね!そのお相手は英雄の嫁!男の取り合い…には発展しなさそうだけど、彼女もかなりの実力者だっ!一体、どんな戦いになってしまうのか!?」
「両者、死なない程度に頑張って下さい!では、よーい…始めィッ!!」
合図と同時に、早鬼は動き出した。その行動は極めて俊敏だった。自身の持つ比類なき脚力にて一瞬で距離を詰め、まるで地面と平行で放たれるライダーキックのように、正面から妖夢の顔面を蹴り飛ばそうと脚を伸ばす。
しかし、彼女の攻撃に対する妖夢の対応もまた迅速だった。楼観剣を静かに抜き払って、早鬼に刃を向ける。自身は動こうとすらしない。
軈て早鬼の脚が刃に触れる。そのままの勢いで斬れると思っていたが、そうではなかった。
「っ…!?」
「……なにをそんなに驚いているんです?自分の脚が斬れなかったのが不思議ですか?」
「…!いいや…私が驚いたのはお前さんがまるでフラつかないからだ。第一、私の脚がそう簡単に斬れてたまるかってんだッ!」
「ッ…」
一旦距離を取り、軽く踏み込んでからもう一度蹴りを見舞う。妖夢はこの追撃を、顔を逸らしただけで回避するが、蹴りの威力で真空刃のようなものが発生して、妖夢の後方のステージの壁を、バキッと粉微塵に砕いてしまった。
「…!素晴らしい蹴りです、脳筋な旦那の力より強いかもしれません…」
「ハハッ、アイツは脳筋じゃなくて頭脳派だぞ?私よりよっぽど…なァッ!!」
「がッ…!」
先程は上手く回避したが、今度のサマーソルトキックは躱しきれず、ほんの僅かだが喰らった。舌かどこかを噛んだのか、口の端からは真っ赤な血が垂れてくる。
「…成程、力を逃がしたか。アレでノックダウンさせたつもりだったんだけどなぁ」
「凄まじい、パワーですね…危う、く…意識を、失いそう……でし…た……ッ」
途切れ途切れにそう言葉を返したその直後に、勢いよく血を噴き出した。蹴られたダメージが、相当大きいらしい。幾ら蹴られる瞬間に回避してダメージを緩和させたとはいえ、完全に回避したわけではないのだから仕方なくはある。しかし、あんなに血を吐くのはおかしいし、そんな彼女を見ていられない。
「何で蹴られただけで血を吐くんだ妖夢……一体何が…」
「あなたは、さっきの攻撃を見ていなかったの?アイツの蹴り、足が当たっていないにも関わらずステージの壁を粉砕したでしょ?きっと衝撃波か何かが壁を壊したのね。それと同じで、妖夢も、その衝撃波をモロに喰らったのよ。だとしたら、見た目以上に内臓がズタズタかもしれないわね」
「─────ッ!?」
内臓がメチャメチャになる痛みはよくわかる。俺自身、勇儀にボコボコにされるから。だから、妖夢には逃げてほしい。降参してほしい。だが、彼女にそんな事を言っても、きっと聞く耳を持つわけがない。妖夢のそういう性格なら、俺がよく分かっている。
「ハーッ…ハーッ…血を吐いたら…少しは…楽になった、わ……ゲホ、ゴホ…ガフッ…」
「フラフラじゃないか、大人しく気絶でもしたらどうだ?見ろ、旦那が心配しているぞ?しかも、今にも泣きそうなツラで」
「…見ないし、降参もしない。敵から目を背けた己を待つのは…敗北のみ…」
「そうか。なら仕方ない。
「望む、ところ…!」
結局、臓器損傷(らしい)という痛手を負った妖夢が五体満足な早鬼に敵うはずもなく、手酷く遊ばれてしまった。やがてその激痛に耐えかねた妖夢は、早鬼の強烈な踵落としが脳天に炸裂したことで意識が刈り取られたようだ。魔力回復薬を服用した俺は、妖夢を連れてきた後に傷を癒し、涙を潤ませる彼女を鈴仙共々なんとか慰め、席に戻らせた。
二試合目は幽々子さんvs紫さん。実力者同士の壮絶な戦いだった。どちらの弾幕も残酷なほどに美しく、とても芸術的だった。その結果としては紫さんが敗北した訳だが、勝負して負けたというよりはジャンケンで負けたかのような軽い雰囲気だった。戦いが激しかっただけに、紫さんの軽い様子が奇妙に思えてならない。
「あーん、もう…負けちゃったわぁ…。幽々子が長巻を持った姿なんて、予選を除けば実に数百年ぶりに見たわ。どうやら腕は鈍ってないようね、一体どうなっているの?」
「実は最近ね、頻繁に使っているのよ。あの子を負かすのに、
「あの子?……あー……悪い女ねぇ」
「そう?ウフフフッ♪」
幽々子さんに負けたのに。このトーナメントの中で早鬼に復讐できないのに、紫さんの表情は、どこか晴れやかに見えた。
「おいおい、狐の飼い主は負けちまったのかぁ?何だ、残念だなぁ…少しはお前で楽しめそうだと思ったのに…」
「………」
観客席から早鬼が声を飛ばすが、見事に無視を決め込んだ。…尤も、この方が彼女らしいなとは思う。あのような戯言には無視が効果的だろう。そして、藍の件についてもスルーらしい。怨恨に囚われたりしない方が紫さんらしい。
少しだけ薄情のような気もするが、そういえば紫さんが早鬼にキレるような要素はあまり無いのだった。何故なら、藍が早鬼に負けたのは、単に藍が早鬼より弱かったというだけなのだから。早鬼が何か卑怯な手を使った訳でもないなら、紫さんが早鬼にキレる必要は無い。正々堂々と戦い、その結果として藍は敗れた。ただそれだけのこと。
紫さんもその事に気が付いたようだ。だから、早鬼への復讐心など、もう頭には無いのだろう。紫さんは、式を道具扱いしている節がある。先程藍が負かされた事により愛情のようなものを垣間見た気がしたが、きっとそれは、俺が思うような愛情ではないのだろう。
そもそも紫さんは、自分の式が負かされたからソイツに復讐する、などという安直な理由で動くような女性ではなかった。
「Dブロックも壮絶だねぇ!次の試合じゃ、一体どうなる事やら…。怖いけどその分面白いね!」
「おっとおっとぉ!?お次は、予選以来のお子様対決らしいぞー!普段から激しい弾幕格闘を繰り広げている、英雄の一人息子!幼いながらも既に己の性癖を開拓しているとのリーク情報がある!父親とはほぼ反対の好みらしい!魂魄妖舞〜!」
「対するは、同じ刃物使いの姉!すでに紅魔館の副メイド長という役職!ショートの母親と違って実はこっそり髪を伸ばしているという噂もある、長女レベルのファザコン娘!十六夜弦月姫〜!」
「髪とか何とか、そういう余計な事は言わなくていいです…!」
「こちらは純粋な吸血鬼で、身体能力など諸々のステータスも上だとか!まぁ年上だもん、年季は違うよね!」
「今までのこの二人の戦いは、いつも姉の勝利で終わっていたらしい!しかし今回は、少し妖舞の様子が違うようだぞ!?これはひょっとして!?ひょっとするかも!?」
「………」
「…万に一つも有り得ないでしょうね。私が弟に負けるなど、あってはならないのですから」
「………」
「…妖舞…?」
どこか様子がおかしい。感情の起伏に富む妖舞なのに、この場に出てから現在まで、まるで戦闘態勢に入った妖忌のような、極めて静かな構えを見せている。そこで、気になった俺は隣の鈴仙にあることを尋ねてみる。
「鈴仙。妖舞の波長…今どうなってる?」
「…妙に静かだね。波というより…アレは…棘?ギザギザしていて…細かく上下してる。あんなの月でも地上でも見た事ないわ…」
「そうなのか…よく分からないけど奇妙だな…。妖忌との修行で何か変化したって事なのか…?」
彼女はすぐ答えてくれたが、言っている意味がまるで分からない。それに、もし妖忌との修行の成果としての変化なら、観客席で見ている妖夢も困惑しているのが更に妙に思える。
「良い変化…だと思うけど、よく分からないね。経過観察ってとこ?」
「ああ。まぁまだ害があると確定した訳でもないからな、観察するに超したことは無いな」
どこか不気味なものを感じ取りつつ、まずは妖舞と弦月姫の試合観戦に集中することにした。勿論、妖舞の動向には注視したままで……。
☆妖舞に覚醒の兆し────!?