※この作品はR-18です。

吸血鬼人間の幻想生活   作:エスカルゴ・スカーレット

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Dブロック本戦(一回戦後半①)

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早 妖 幽 紫 妖 弦 八 久

鬼 夢 々   舞 月 千 侘

    子     姫 慧 歌

 

 

 どうも妖舞の様子がおかしい。常に無表情で、弦月姫の発言にも全く動じない。しかも、平静を装っているのではなく、彼の波長を見る限りでは本心から静かである事が見て取れる。らしくないどころではない。変な物でも食べたのか?などと大それたことを考えたくなるほどだ。

 彼が入場した時から感じている謎の不気味さはきっとそこから感じられるものだ。一体、妖舞に何があったのか。この戦いを通して、それをよく見極めたいと思う。

 

「何だか、噂に聞いていたより落ち着いてる…?かなりの激情家だって聞いてたんだけど…。ま、これはこれで面白そうだね!それじゃ、第三試合始め────」

 

「ッ…!!」

 

「……」

 

 アナウンスによる「始め」の言葉が響いたその瞬間、妖舞が弦月姫の真横を通り過ぎた。無言で刀を納め、クルリと向き直る。すると、時間差で弦月姫の右翼が半分途切れて、ボトリと落ちた。アレは居合斬りだ。

 まさに「目にも止まらぬ速さ」で、彼女の翼を斬り落とした。まるで妖夢のようだ。

 

「よ…う……まッ………!?あな、た…!!」

 

「…痛い?」

 

「痛いでしょう…こんな怪我…ッ!!」

 

 苦痛に顔を歪めながら翼を再生させる。滴った血は新鮮なニオイを放っていて、俺自身知らないうちに舌なめずりしていた。

 

「………。純粋な吸血鬼ってすぐ治るし、痛みも感じないかと思ってた。率直な感想ありがとな、姉上。まぁ…こんなの序の口?ってやつだけど」

 

「!?」

 

 おかしい。完全におかしい。妖舞らしくない。強さの面でもそうだが、何よりもおかしいのは、妖舞のセリフだ。語彙力がハネ上がっている。

 あまりにもおかしすぎて、弦月姫の表情だって引き攣ってしまっている。…その一方で、妖舞は相変わらずの真顔である。

 

「────いくぜ」

 

「くっ…!メイド秘技『お仕事は効率的に』!」

 

「もう効かねぇよッ!」

 

 居合斬りの如き速さで抜刀して、自らの周囲に設置されたナイフを振り払っていく。その瞬間、金属と金属が触れ合って鋭い金属音が発せられ、火花を散らす。

 彼女のこのスペルは人体の弱点にナイフを配置するものだ。何年も受け続けていれば多少配置が違っても読めるだろうし、これには納得が行く。今回彼女が狙ったのは妖舞の膕(膝の裏)、肘、うなじ、そして肩だ。関節さえ傷付ければ対象の運動性能は落ちる。だが何度も繰り返せば流石の妖舞にだって読めてくるというものだ。

 ましてやこのスペルは、対象から見たらかなり近くにナイフが配置されるのだ。近くだからこそ最初は驚き、焦り、通用するが、近くだからこそ慣れてくれば楽に対処が可能になる。

 

「連種『棘蔓発芽砲』ッッ!!」

 

「…!」

 

 これは確か、弦月姫のコンボ技だ。これまでは種を発射するか、地面に撃った種から発芽した蔦などで締め付けるという、単体での攻撃だった。しかしこれは、発射する種でも攻撃するし、その種から発芽した棘つきの蔓でも攻撃する。しかも締め付けるだけではなく鞭のように振るうなど、種類も豊富になっている。

 が、それすらも今の妖舞には通用しなかった。

 

「効かねぇつってんだろーがッ!!」

 

 襲いかかる種を、いつものように回避せずに、今回は切り捌いていく。こうすれば、次の攻撃…つまり棘つきの蔓が発芽することが無い。コンボ技だからこその欠点。それは、前の段階で攻撃を挫いてしまえば次の攻撃には繋げられない。その欠点を突いた良い判断だと思う。

 そういえば、先日畜生界へ異変解決で向かった時にも、コンボ技を挫くという戦法を使用した。石積みの少女の時にはカワウソ霊が弾幕を消してスペルを完封したし、埴輪少女や袿姫の時は埴輪そのものを壊して弾幕の発射を防いだ。つまり、コンボ技を挫くというのはあれらとやってる事は変わりないわけだ。あの妖舞が自分一人でそれを思いつくとは思えないが…。

 

「こうなったら…!」

 

「……ッ!!」

 

 弦月姫の本領発揮だ。ナイフを両手に装備し、吸血鬼の身体能力を活かして弟に近接戦を挑む。リーチは妖舞の方が上、しかし懐に入られれば、そのリーチを活かす余裕すら無くなってしまう。

 弦月姫は時を止めて距離を詰め、解除の瞬間に妖舞の腕を掴み、一本背負いのように投げようとするが、彼は咄嗟に刀を投げ弦月姫の気を逸らし掴みから解放される。

 そのまま空中で刀をキャッチしたかと思うと、まるで空気を蹴ったような加速をして急降下し、彼女の腹部を突き刺さんとばかりに刃を向ける。

 

「うおぉぉおおおおおっ!!」

 

「ハァッ!」

 

「ッ…!」

 

 刀に全体重を乗せていた妖舞は、弦月姫に刀を払われることによってバランスを崩し、背中から落下する形になった。空中で不用意にバランスを崩してしまうと体勢を整えるのも難しい。ましてこのように接戦だと、互いの実力が拮抗しているために尚更困難になる。

 そして、あえなく地面に落下した隙を突いて、弦月姫がナイフを繰り出す。

 

「────甘いぜッ!」

 

「ぐッ…!?」

 

 刃は妖舞の首スレスレを狙っている。当然だ、殺してしまえば自分自身が失格になるのだから。そこで、自分の急所が狙われていないことをいいことに、妖舞は自分から動き、頭突きをした。

 弦月姫はフラつき、妖舞は起き上がった。再び彼女はナイフで襲いかかるも、彼はそれらを尽く回避してしまう。

 

「なんでっ……どうして、当たらないの…っ!?なんでこんな…急に、強く…!!」

 

 ────疾い。穹のように分身ができる程ではないものの、瞬間移動にも見紛うような速度で、弦月姫の振るう刃を回避している。…とはいえ、どこかの余裕綽々な誰かとは違って、顔を背けるだけではなく、後退りするなりして体全体で回避しているようだ。そんな様子を見るに、今の妖舞でも余裕で弦月姫に勝てるわけではないらしい。

 

「少しはいつも通り感情が表に出てきたな。何かよくわからん変化だったな」

 

「…表面上はそうね。でも波長は変わってない。相変わらず、小さくギザギザしてる。…確かに、よくわからない変化だけど…あれは本当に、彼の本心…なのかしら…」

 

「オイオイ、怖ぇこと言うなよ鈴仙…やっと喋るようになったと思ったら本心からの言葉じゃないなんてそんな……なぁ?」

 

「だって波長は全く変わらないんだもん…。逆に弦月姫ちゃんの方が感情が表に出てきてるわよ。普段は言葉で焦ってても波長は変わらないのに、今は言葉でも波長でも焦ってるのがよくわかる。立場逆転ってやつよ。まるで、さっきの私と巫月みたい。ねぇ、巫月?」

 

「…次は勝つもーん…」

 

 俺の膝の上で観戦している巫月は、そう言って小さく頬を膨らませる。そんな巫月の頬を優しく指で押し潰し、プシュッ…と空気を押し出して、試合に視線を戻す。

 妖舞は刀も構えずに防戦一方、しかし弦月姫は果敢に攻め立てている。当たりはしないものの、戦況は弦月姫が有利に見える。

 

「くっ……うぅっ…!当たら、ない…ッ!!」

 

「悔しそう…でも当たってやんねー…♪」

 

 ニヤリと口角を上げ挑発気味に呟く妖舞。あの煽り口調は、少し俺に似ているような気がする。そんな弟にイラついた弦月姫は更に攻撃の鋭さを増し、凄まじい連撃を繰り出していく。やがて、業を煮やしたらしい弦月姫は、首を掻き斬らんとばかりに大きくナイフを振り、それだけ、妖舞も大きく回避した。

 一瞬間合いが取れた隙に弦月姫は時間を止め、妖舞の背後に回り込んで首に攻撃を当てる瞬間に解除する。

 

「ハァァァァッ…!!」

 

「やっべ…」

 

 振り返りざまに刀でガード。しかし二人の力が一瞬だけ拮抗し、やがて大爆発を起こした。

 まるで栓が壊れた間欠泉のような勢いで二人の妖気が溢れ出したような気がする。妖気なんて、目に見えるわけもないのに、爆発の瞬間はそんな感じがした。

 爆発に巻き込まれた二人は同時に地面に落ち、それっきりピクリとも動かない。観客も実況も、二人を注視している。

 更に、あの二人の手元を見てみればそれぞれの武器は粉砕されていることに気付いた。あれだけ妖力が集中していれば、ただのナイフや無銘の刀などでは耐えられないのも仕方ないと思う。

 まだ幼いとはいえ、二人はれっきとした人外。弦月姫は純粋な吸血鬼だし、妖舞は吸血鬼の力や身体能力を有していることに加え、吸血鬼という種族特有の膨大で強力な妖力も兼ね備えている。寧ろ今までの衝突で武器が壊れなかった事の方が不思議な程だった。

 それはつまり、今回の二人は本気であることを暗に示していた。

 

「…イテテテ…」

 

 先に起き上がったのは妖舞だった。起き上がるのと同時に手元、そして周囲を見て、己の武器が壊れてしまったのを確認した。

 

「ぁ……あぁあ……ッ!!俺の…刀、が……!!こ、ここここわ、こわ…壊れ…てる……っ!??何で…壊れたんだよ…っ………こンの……ッ……クソ姉貴ィィイイイイッッ!!!」

 

「っ……うっ……よ、妖舞…!?」

 

 妖舞の叫びに弦月姫も目覚めた。咄嗟に新たなナイフを取り出して、ある程度距離を取ってから構える。相変わらずの二刀流で、武器の有無だけ見れば弦月姫が圧倒的に有利だ。しかしこの彼の気迫、溢れ出す妖気は中々接近を許してくれないほどに濃密、そして強力だった。

 

「クソッ………このっ、クソッタレがあああぁぁああああっっ!!!」

 

「…ッ!?」

 

 胸の前で両手をクロスにさせた妖舞。すると、彼の両手のひらから一振りずつ刃が飛び出した。片刃で刃の反対側が反っているのを見るとあれは剣ではなく刀だ。

 妖舞は手から出したその刀を直接素手で握り、今度は二刀流で、弦月姫に斬りかかっていく。

 

「どうしてよ!?あなただって、無銘の刀だって言って、大した愛着も無さそうだったでしょう!それがどうして、急に…!」

 

 左右から繰り出される超連撃を、両手に持ったナイフでどうにか捌いていく弦月姫。しかし彼はそこに隙を見出し、次の手に移る。

 

「んなこた昔の事だろーが!いつまでも昔の事を言ってんじゃねぇ!!」

 

「あぐっ…」

 

 弦月姫の左側に回り込み、自分の右腕…二の腕あたりに追加で三本の刃を出現させて、体を回転させるようにして、弦月姫の左腕を斬り裂いた。腕を痛めた彼女はナイフを取り落としてしまい、傷を押さえながら飛び退く。しかし妖舞は追撃の手を緩めたりしない。…寧ろ、彼の攻撃は鋭さを増していくばかりだ。

 

「あの刀はなァッ!俺が初めて使った武器で!!幽々子様がッ!!綺麗だって!褒めてくれたッ!特別な、刀なんだよォッ!!」

 

「クッ!!」

 

 真上から振り下ろされる二振りの刀。弦月姫はそれをどうにかナイフ一本で受け止めるものの、ジリジリと押されてしまう。

 

「それを…それをッ……!!よくも…よくも……よくもよくもよくもッ………!!!よくも壊してくれたなァ!!」

 

「……!ッッ……」

 

 …その瞬間、更に力を込めたのか、妖舞の刀はパキンッと脆くも折れてしまった。そこに勝機を見出した弦月姫はナイフを妖舞の首に当てようとするも、彼はまたもや手から刃を出し、ナイフを受け止めてしまう。

 

「今わかった(・・・・・)…これは偶然なんかじゃなく…俺の能力…!名前付けんなら《刃を出す程度の能力》かな…これはかなり使い易いし強ぇ…。どーやら半霊からも出せるみたいだしなァッ!」

 

 半霊からは刃が発射され、弦月姫をジワジワと追い込んでいった。弦月姫は敗北を感じ取りつつあるのだろうか。その両目には、うっすらと涙を滲ませている。しかし零さない。ここで泣いては負けを認めることになる。…あの弦月姫の事だ、大方そんな事を考えているに違いない。

 

「トドメだ!…刃符『ブレードクライシス』!」

 

 片手につき三本ずつ刃を出し、彼女をクロスに斬るように振り下ろした。勿論、殺さないように傷は浅くなるようにしているらしいが、それでも幼い弦月姫には耐え難い痛みだった。

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

「王手だ、姉上。素直に負けを認めろ」

 

 余分な刃は納め、一振りだけ出して、座り込む弦月姫の鼻先に突きつける。それを見て、彼女は小さく頷き…降参の意を示した。

 

「…負けたわ」

 

「きっ…決まったぁぁぁ!紅魔館の副メイド長、自ら降参した〜〜!!らしくない、しかしあれは仕方ない!!」

 

「まさか、試合中に能力が開花するなんてね…。しかも身体から刃が飛び出してくるって…いや、なんじゃそりゃっ!!…ってね〜!」

 

「ホントホント。是非とも解剖…なんでもない。とにかく、おめでとうございま〜す!!」

 

「…初めてあなたに負けたわ…」

 

「………フン。まだこれまでの分をお返ししちゃいねぇよ。負けるのは今回だけだと思うなよな」

 

「次までに対策を考えておくわ…」

 

「できるといいな」

 

 クルリと背を向け、妖舞は観客席へと戻った。砕け散った刀はそのままで。まるで過去への未練などを捨て去ったかのように、俺の目に写った。

 

「驚いたわ…まさか能力が今覚醒するなんて…」

 

「あぁ…覚醒もしなけりゃ不明でもあったしな…母さんすら潜在的な能力を読み取れてなかった。

…何なんだろうな、アレ…。巫月、勝てるか?」

 

「余裕」

 

「えぇ…マジで?アレを見ても尚勝てると思う?流石だな…でもどうやって勝つんだ?」

 

「あの刃が普通の刀同様の性質なら、たとえ妖刀でも金属なわけだし、電気は通じるし。ましてや肉体と直結してるなら余計に感電するはずだし…身体能力だって弦月姫より私の方が上だしね」

 

「けどよ、巫月があんなアクロバティックな動きしてんの見た事無いんだけど」

 

「まぁね〜…。だって、こんな可愛いエスカルゴ好みのロリっ子が跳ね回ってたら、エスカルゴが興奮しすぎで勝負にならないでしょ?だからまだエスカルゴの前で見せてないだけだよ」

 

「何故だろう、何も言い返せねぇ」

 

「竹林ってホント最高の環境だよ。てゐのせいで足場は無いも同然だし、壁キックみたいに竹とか蹴っていけば空中での身のこなしも分かるし…」

 

「うへぇ…」

 

 …そんな話をしていると、弦月姫がトボトボと紅魔館勢の元へ戻るのが見て取れた。心做しか、娘の足は震えているように見える。

 

「申し訳ありません……負けてしまいました」

 

「………」

 

「そんな事より早く怪我を診せなさい。あなたの左腕、妖舞くんにスライスハムにされてたように見えたけど大丈夫なの?」

 

「ええ、何とか…。回避は出来ませんでしたが、深手だけは避けられました」

 

 レミリアは、血に濡れたメイド服の裾を強引に引きちぎり、今はもう塞がった傷の辺りを診る。それを間近でまじまじと見つめ、やがて顔を離し笑顔を見せる。

 

「そう…。ご苦労様、後はゆっくり休みなさい。次に期待しているわ」

 

「はいっ…!」

 

 咲夜さんは真顔のままで何も言わないが、流石当主様だ。器は大きいらしい。…ただ、紅魔館に帰ったら咲夜さんからキツイ説教がありそうだ。




覚醒した妖舞のスペック
居合斬りでは一瞬だけ文をも超える速度(ただし妖夢よりかは遅いし、当然ながら妖忌より遅い)

《刃を出す程度の能力》について
全身から好きなだけ片刃の刃を出せる
刃の強度は本人の思いの強さと=になる

どうして今回の妖舞が序盤は冷静だったのかは、トーナメント戦の後に書きます。

妖舞の能力についてですが、マンガ「結界師」に出てくる火黒(かぐろ)というキャラのものを参考に………というかそのまま利用しました。まぁ構想自体は前々からありましたが、いつ能力を開花させようなんてかなり悩みましたね。
妖舞の覚醒を書く為にトーナメント書き始めた…みたいなもんですし()

YouTubeで「アニメ 結界師 48話 HD」というのを見ていただければ、妖舞の動きなども簡単に想像しやすいかもです。音質はめっちゃアレだけど。
というか、結界師自体面白いからレンタルとかで見てください。俺は原作漫画もアニメDVDも全部コンプしています。
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