その男は玉兎の仲間へのテレパシーを切った。しかし、そのテレパシーはレイセンへしっかりと届いていた。非常に断片的だったが、それだけに非常事態であることが伝わってしまった。
その時レイセンは、哨戒任務も無くゆっくりと休暇を過していた。勿論、彼女はペットなので、綿月邸の中でだ。
桃を食べていたレイセンだったが、仲間からのテレパシーが途切れた事に危機感を覚え、桃をも放り出して主である依姫の元へと駆ける。
「依姫様ぁ!」
「何です、騒々しい。私は仕事中ですよ?」
「えっ……しご…と?」
依姫の部屋には姉の豊姫も居た。しかし彼女の手には桃があって、どう見てもお喋り中だった。依姫は常に真面目という事もあり辛うじて仕事に見えなくもないものの、豊姫が居るだけでそうは見えなくなるから不思議である。
「あら、でもレイセンも連れて行くのでしょう?なら丁度良かったじゃない、呼ぶ手間が省けて」
「…静かの海に侵入者が現れました、私は現場に急行します。あなたも来なさい。話は後です」
「あっ、私もその件で…!今、あっちの見回りに行った皆から通信が入って、それで…」
「ならば話が早いですね、行きますよ。お姉様、お願いします」
「分かっているわ」
豊姫はその場で能力を使った。彼女の能力は、端的に言えば距離を詰めるもの。厳密には違うが概要としてはそんな内容だ。ある地点とまた別なある地点とを繋いで、瞬間移動する。また、自分以外の誰かを転送させる事も可能である。以前、この方法で紫の式神憑きの鴉を殺した事がある。
そうして、豊姫、依姫、レイセンは静かの海へ瞬間移動を果たす。そこには、森へ足を踏み入れかけた上裸の男と、衣服や体などを黒く焦がした玉兎達が居た。
「あぁっ…みんながっ…!!」
「レイセン、息の確認を」
「はい!」
依姫はレイセンに指示を飛ばし、祗園様の剣を構える。豊姫は最大限警戒し、穢れを浄化させる風を出す扇子を開き、静かに問いかける。
「あなた、何者?」
「んん…?何だ、貴様ら」
「聞いているのは此方よ。あなた…よくも可愛い部下達を傷付けてくれたわね」
「部下?どのゴミのことかな」
「ゴミ…ですって…?」
依姫は黙って腰を落とし、構えを完全なものにする。いつでも奴に斬りかかれるように、完全な戦闘態勢に入った。
「…余計な話はナシにしましょ。単刀直入に言うけれど、今すぐに出ていきなさい。そうすれば、私達はあなたに何もしないわ」
「ヤッハハ!神である我に『出ていけ』だと…?不遜者めが。貴様ら先住民は、黙って我に従え」
「何ですって?」
「我が望みはただ一つ。この
「…成程。今度ばかりは、あの八雲紫の根回し…というわけではなさそうね」
「?…もういい。そこまで逆らうと言うのなら、貴様らも失せろ。
豊姫達に手を向けたその刹那、依姫はエネルの手を斬り飛ばしていた。それなのに、彼には何のダメージも与えられずに、逆に依姫が手酷く感電させられてしまった。
刃はエネルの肉体を通り抜けていたのだ。
「ぐぁっ…!?」
「どうして…確実に斬れていたはず…」
「我は神なり。そして雷だ。雷に物理攻撃が効くはずが無いだろうが」
「っ…!!」
豊姫は何も言わずに扇子を振るう。浄化の風は確かにエネルに触れたはずだった。しかし、彼はとっくに豊姫の目の前にはおらず、彼女の後ろに移動していた。
「
突然、猛烈な熱が発生し、彼の持つ黄金の棒がみるみるうちに形を変えていく。一瞬のうちに、ただの棒が三股の鉾になってしまい、エネルは、それを豊姫の背中に刺そうと構える。
「お姉様ぁっ!!ぅあああぁああぁっ!!」
「
依姫が祗園様の剣を地面に突き刺した。すると沢山の刃が飛び出してエネルを串刺しにしようとするが、彼は目を瞑って飛び上がり、それを回避してしまう。
「……ッ!?」
「…どうあがけば、 “人間”が “雷”に勝てるというのだ…。思い上がりも甚だしい」
「こうなったら…仕方ないわね。もうあなたは、幻想郷に送ることにしたわ」
「お前は何を言っている?」
「もうお前は、その場から動けない。その地点と幻想郷とを繋げた。もし動けば転移する。お前のその両足は、二度と月の大地を踏みしめることは無い」
「ヤッハ!面白い、やってみ─────」
足を踏み出したエネルは、豊姫の宣言通り姿を消した。海上に巨大な方舟マクシムだけを残し、彼は幻想郷へと移動させられてしまったのだ。
「お姉様…これでは…」
「…言わんとすることはわかるわ……。きっと、八雲紫に借りを作る事になってしまう。けれど、ここで都が滅んでしまっては元も子もないのよ。まだ、月夜見様がお帰りになっていない…。今の私達では到底、太刀打ちのできない相手だった。そう思って、恥を偲ぶしかないのよ……」
「それも、ありますが……」
「何?」
「あの男は電撃使いでした。八雲紫が動く前に、吸血鬼…エスカルゴが率先して動くでしょう…。正直、私はあの男があまり好きではありません。なので、奴に借りを作りたくはありません」
「じゃあ、あなたはさっきの男を倒せるの?…と言われたら?倒せないでしょう?」
「……」
「借りを作ってしまうのは仕方がない事なのよ。何事にも相性というのはあるものなの。私達は、たまたまあの男との相性が悪かったってだけよ」
「…………」
「借りを作るのが嫌なら、ほとぼりが冷めた頃を見計らって借りを返しに行けばいいのよ。何でも方法はあるでしょう。桃を持っていくとか、何か技術を提供してやるとか…」
「………………」
「あーあ、八雲紫が乗り込んできたら面倒だわ。今の内に、対策を練っておきましょうか。…さ、玉兎達を連れて帰るわよ」
「…はい…」
玉兎達の生存確認中のレイセンがかなりの空気になってしまった。要反省。
なお、エネルの方舟マクシムは、徹底解析された後に処分されてしまった模様。
エネル
通称「
身長は2m超えの長身(エスカルゴの2倍以上)
耳たぶが異常に長い
のの様棒という黄金の棒を武器としている
ゴロゴロの実の能力者(雷人間)
最強の能力と謳われる能力の一つであり、本人の戦闘能力や技術とも合わさってかなりのチートになっている