「…ワープしてしまったか…。あの女は何の実の能力者だ……?」
幻想郷某所へと飛ばされたエネルがまず最初に呟いたのは、そんなセリフだった。ワープ地点の傍には紅い屋敷が建っている。エネルは門の前に飛ばされたようだった。
(“声”がする。大して窓も無く陰気そうな雰囲気だが、この屋敷には大勢の住人がいるらしいな。手駒にしておくには丁度いいかもしれん)
エネルには紅魔館の中の声が聞こえる。無論、音声という意味の“声”ではない。彼の言う声とは生物が無意識の間に出してしまう電波で、彼は、それを聞くことによって盗聴する事ができる。
少し前までこの能力にて圧政を敷いていた彼にとって、雷の能力での盗聴は慣れたものだった。
「え、エラく大きな人間ですね…!?」
「ん?」
門の前に立つ赤髪の少女…美鈴が、それなりに警戒心を込めた目でエネルを見やる。彼の身長は軽く3mを超えているので、少女としては高い方である美鈴よりもかなり背丈があるのだった。
「女。貴様、我が人間に見えるか?」
「え…人間じゃなかったら何ですか…?瞬間移動してきたようですし、普通の人間じゃないなとは思いますけど…能力持ちの人間なんて、そんなに珍しくもないような気も…?妖気も無いですし」
「……………不愉快。屋敷を乗っ取るついでだ、貴様は駒にせず捻り潰してやる」
「乗っ取る!?こりゃあ…まずいかもですね…!いいでしょう、勝負です!!」
「勝負になると思っているのか…?思い上がりも甚だしい」
幸か不幸か、館主のレミリア及び従者の咲夜、妹のフランドールは丁度出掛けていた。エネルが幻想郷にやってきたこの日は地底で大きな大会が開かれている日だった。
既にトーナメントの出番を終えた門番の美鈴、副メイド長の弦月姫は、決勝戦のある日まで通常業務に当たっている。そんな中での襲撃である。美鈴が門番という役職の重みを感じ取ったのは、言うまでもないだろう。
(万が一勝てずとも、最低でも奴の足止めだけはしておかないとですね…もし侵入なんてされたらこの首が飛ぶような気がする……)
「消えろ。2000万ボルト
エネルの右手から青白いレーザーが放たれる。既に構えていた美鈴は回避しようとするも、己の背後には門があると思い出し、彼に壊されるのを避ける為に拳で受け止めた。
瞬間、バリバリと嫌な音が響き渡って、美鈴は激しく感電してしまう。衣服や肌は所々が焦げ、綺麗な赤髪もススが付いている。
「…っ……!」
痺れによって軽く構えを崩してしまうが、肩を上下させる程に大きく呼吸をすることによって、意識と姿勢を保っているようだった。
「フン、人間の割には頑丈なようだな。奴らとは大違いだ」
「私は妖怪です、この程度の電撃ならちょっとは慣れていますよ。…やられたりはしません」
「そうか、ならば…6000万ボルト
手に持った棒で背中の太鼓を二つ叩くと、雷の竜が現れ美鈴を貫かんと飛び出してきた。しかし先程の一撃を喰らった事により、美鈴は、ひとつ確信めいたものを感じ取っていた。
それは、彼の攻撃に大した物理的破壊力が無いというものだ。攻撃の対象を感電させる事に特化しているのか、先程被弾した際に、痛みをあまり感じなかったというのが今の所の感想だ。
ならばと思い、彼女は思い切って放たれた竜を跳んで回避し、空中で一回転して勢いをつけて、エネルに踵落としを見舞おうとする。
「
「むっ…!?」
しかしエネルは、凄まじい勢いで繰り出される美鈴の踵落としを、あろう事か片手で受け止めてしまった。まるで動きを読まれたかのようなこの行動に、美鈴は内心で舌を巻く。
「ぬああぁっ!」
「─────ッ!!」
足を掴んだエネルは、美鈴を鞭のように地面に叩きつける。しかし、美鈴は拳法家なので難なく受け身を取り、彼から一歩退く。
「まだにとりさんからグローブ受け取ってないんですよねぇ…。でも、仕方がありませんね。防備『クラッドアーマー』!!」
(何だ…?女と背景との境界がボヤけている…)
透明な気のバリアを張った美鈴は、そこからは一方的に攻め立てる。エネルは
エネルは美鈴の動きを読んでの回避が可能で、美鈴はエネルの動きが読めない。攻めているのに彼女が次第に押されていくのも納得だった。
仮に二人が同じ身体能力、体力だったとして、片方が動きを読めるだけでも有利・不利は大きく変わる。それほどまでに、このアドバンテージはとてつもなく大きなものなのだ。
(当たりはしないが、この女を今より疲労させることは少々時間がかかるやもしれん。遊びはもう終わりだ)
疲労が溜まり始めた美鈴が連撃を浴びせる中、エネルは雷速で彼女から距離を取った。腕を雷のエネルギーに変化させ、巨大化したそれを前方…美鈴へ向けて撃ち出す。
「
その規模は最早雷ではなく、波動砲かと勘違いしてしまうレベルの威力だ。達人クラスの拳法家である美鈴は、その技を見ただけでヤバい技だと肌で感じ取っていた。
被弾すれば己が戦闘不能になる上、回避すれば背後の屋敷が壊滅する。となれば彼女が取るべき行動はただひとつ。受け止めることだ。
「気功符『かめはめ波』!!」
「…ぐっ……ぐぁああああっ…!!」
美鈴の虹色光線はエネルの攻撃をも飲み込み、彼の巨体を地面に横たえてしまった。エネルは、まだ本気ではなかった。…というのも、手も足も出せなかった様子の美鈴を、どうせ雑魚だからと舐めていたからである。
押されるなら押し返すものだが、彼がまずいと感じたのは、美鈴の光線が目前に迫ってきてからだった。そんな時に気付いても後の祭りだ、到底間に合うはずもない。
かくして、美鈴は侵入者エネルをものの見事に打ち倒してしまったのであった。
…しかし彼を気絶させていたわけではなく…。
「く…っ……なんだ今のは…!我が押し負けた…だと…?いいや、そんな事があってはならん…次で塵芥にしてやる……!2億ボルト────」
「─────雷牢『雷神の牢獄』!!」
「「ッッ!?」」
エネルが己の体を青白い雷へと変貌させようとした瞬間、彼を黄色い雷の壁が覆ってしまった。そう、俺だ。
Dブロックの決勝戦を見届け、遂に決勝戦を次の日に控えた俺は、その夜を紅魔館で過ごすことになっていた。だから今は、スキマで地底から直接帰宅したところだった。
突如現れては、エネルの“声”を聞く能力だって役には立たない。完全なる不意討ちだった。
「ヘェ、なんか巨人みたいなの居んじゃん。気配から察するに一応人間か」
「…何だ貴様」
「俺はエスカルゴ、幻想郷最強の男吸血鬼だ」
まぁ、俺しか男吸血鬼が居ないからなのだが。こう名乗る分には自慢にも何もならないだろう、ただの事実でしか無いのだから。
そして俺は、奴を知っている。何せ俺は、外の世界から幻想郷に来た。あの男は
フィジカルでもかなり強い、雷の使い手。神を自称しているが、その実、ただの人間だ。なまじ強い悪魔の実の能力を手に入れたからと、簡単に言えば調子に乗っているだけの男だ。
確か方舟マクシムに乗り月に行ったはずだが、それが何故この幻想郷に居るのだろうか…?
「ただいま美鈴、何があったの?」
「お嬢様…!あの男、何故か湖の近くに現れたと思ったら屋敷を乗っ取ろうと攻撃してきて…!!雷の能力を持っているようで、今の私ではろくに対処できず…」
「あら?美鈴あなた、河童に絶縁グローブ?だか何かの製作を依頼したんじゃなかった?」
「そうなんですけど、まだ完成の連絡が無くて。なので、いつも通り素手で戦ってたんですけど…あの男の雷はエスカルゴさんの雷よりも強くて…半ば戦闘不能まで追い込まれてしまいました…。情けない話です…」
「あぁ…うん…。咲夜、美鈴を責めないでおいてあげてね…これはあまりにも分が悪すぎるわ…。普段のエスカルゴよりも強いとなると…ねぇ?」
「心得ておりますわ、お嬢様…」
少し雷加減に気をつけたらどうなんだエネル。いいや、エネルなら男女関係無く感電させるか。空島でも、ロビン相手に容赦無く電撃を浴びせたエネルだ。手加減なんてのは知ったこっちゃないだろう。
「隙だらけだな、吸血鬼とやら」
「!」
レミリア達の会話に耳を傾けていた俺は、牢の中に居るエネルの行動に気付くのが数瞬遅れた。彼はのの様棒で牢を破壊して、俺に電撃を溜めた腕を向けている。
「貴様がここの主か?」
「俺は居候。主はこっち」
「喋ってないでさっさとぶっ飛ばしなさいよッ!あなたなら出来るでしょう!」
「…明日は決勝だし、戦闘は避けたいんだけど…仕方ないのか…」
「どいつもこいつも…っ…神を舐め腐りおって…万死に値するぞ虫ケラ共がッ…!!」
「うるさいなぁ」
弾幕を展開しようとすると、背後から凄まじい殺気が込められた言葉が聞こえてきた。声の主はフラン。見知らぬ男の傍若無人な態度に、ついにキレたらしい。
するとその言葉が発せられた直後、のの様棒とエネルの肉体が爆ぜた。しかし血肉は飛び散らず青白い閃光が集まっていき、エネルが復活した。ついでに棒も復活しているようだ。
「
「チッ」
フランが舌打ちをする。何故か分からないが、かなり機嫌が悪いようだ。そこまでフランをイライラさせるような事があったのだろうか。
「…みたいだな。ゴムの肉体に変化する魔法とか作ってねーし、即席で肉体改造系の魔法が作れるわけもない…」
肉体改造は下手をすれば死ぬまで戻れなくなることだってある危険な魔法。思い付いてすぐさま実行するなら、それはかなりリスクが高い事だと思った方がいい。
巨人の肉体を纏うあの魔法だって、かなり研究した結果としてのアレだ。戦える事は戦えるが、まだまだ練度が低い。
「諦めろ、貴様如きゴミでは我には敵わん。我の駒となり働くか、ここで死ぬか…選ばせてやる」
「選ばない。駒にもならねぇし、死にもしない。俺はお前を叩き潰すし、お前の世界に送り返す。今度は、俺が紅魔館を守ってみせる」
「ヤッハハハハハッ!!面白い、やってみろ!!あのような脆弱な檻しか出せぬ者が我に歯向かうなど、思い上がりも甚だしいッ!!己の無力さをその身に叩き込んでやる!」
─────はてさて、同じ雷使いのエネルを、一体どうやって倒してやるか………。
次回のエスカルゴが新しく披露しようとしていた技の内容が鬼滅の刃のカナヲとちょっと似通っていたので、かなり考え直しました。
できるだけキッズの湧き潰しはしておかないと。
いや、だってさ…エスカルゴって、自己強化系の技を多用するじゃないですか?それは結構前から描写してきた通りですけど、あそこまで被るとは少しショックでしたね…。はい。
(最近になって鬼滅の単行本揃えたんですよね。本誌派なので単行本はあまり買わないんですが)
それから今回、本当は小兎姫を海軍代わりに登場させる予定だったんですが…無駄に長くなりそうなので登場見送りになりました。
早く小兎姫も出したい…。
ちなみに、小兎姫の登場を見送った結果として、2000文字も削られてしまいました。