┏━┻━┓
┏┻┓ ┏┻┓
霊 ヘ カ 早
夢 カ ル 鬼
ゴ
今日は待ちに待った決勝トーナメントの日だ。勝ち上がったのは霊夢、へカーティア、俺、早鬼というちょっぴり意外なメンツ。そもそもの話、へカーティアがこういった催し物に参加すること自体が俺にとっては意外に思えた。ましてや早鬼などは最近知り合ったばかりのヤクザ。だから、意外なメンツに思えるのかもしれない。
俺は準決勝で早鬼に勝ち、決勝戦では霊夢にも勝つ。昨晩ついチルノにそう言ってしまったが、果たして本当に勝てるんだろうか。
霊夢相手なら、手の内も分かるから少しは対処できる。一方で、俺にはへカーティアの手の内は分からない。知り合って何年も経つのに、一度も戦った事がないからだ。
早苗や鈴仙、霊夢、魔理沙から話は聞いたが、所詮はその程度。実際に体験していない以上は、お世辞にも対策できているとは言い難い状況だ。
昨日のエネルとの戦いの疲れも癒され、体調も万全だ。あとは技術でカバー出来れば優勝だって夢ではない………はずだ。
問題は、誰と戦うことになるのかだが…。もう腹を括って、運を天に任せるしかないんだろう。だがせめて、へカーティアと戦うのだけは絶対に避けたい。こんな所で戦ってられるか。
「さぁさ、とうとう始まるよ決勝トーナメント!これまでより盛り上がってこー!!」
会場中が大いに湧く。試合中はまるで実況していないような気がするが、言わないでおこう。
「振り返ってみると、初日から昨日まで凄い戦いだったわね!ヤクザ同士の衝突に戦闘中の覚醒、燃える弾幕に凍るステージ、あらゆる攻撃で破壊されるステージ!!」
「我々河童が総力を上げて頑丈に設計・建築したはずなんだけどねぇ〜。研究の余地ありって事を思い知らされた数日間だったよ。…そして今日、最終日は!ボランティアの神綺さんの口添えで、解説役が来ているよ!」
「自己評価11点のお姉ちゃん!心を読める能力に自信があるらしい!しかも最近は昔よりも範囲が広くなって、更には精度が高くなったそうだぞ!地霊殿の主、古明地さとりさんでーーーす!!」
「どうも皆さん、おはようございます。解説役を務めさせて頂く事になった、古明地さとりです。できるだけマトモな解説が出来ればいいな…、と思っています。よろしくお願いします」
パチ…パチ…と少ししか歓迎の拍手が聞こえてこない。手を叩いているのは俺や母さん、夢子…他数人程度だった。恐らく、さとりに自分の心を読まれたくないからだろうが、こういう時くらいポーズだとしても歓迎するよう見せたりしようと思わないのか?それとも、どうせ心を読まれたら演技だとバレるから?
心を読まれるのがどうって事ない俺にとって、どうして心を読まれるのをそこまで嫌悪するのか全く理解が出来ない。
「…誰しも、他の人には言えない秘密があったりするものなのよ。あなたはちょっと自分の思いをあからさまにしすぎ。少しは慎みを覚えなさい」
まさに俺の心を読んだかのようなタイミングで永琳はそう言った。そこまで隠したい秘密なんて俺には無いので、それはそれで気になる。
人間の頃は俺も秘密だらけだった気がするが、妖怪になってからはスッカリそんな感覚だった。昔の俺だったら、皆が何を思っているのか理解が及んだのだろうか─────。
「秘密…ねぇ。永琳も秘密、あったりするの?」
「それを言ってしまっては秘密にならないわよ。そう言う輝夜はどうなのかしら?」
「さぁね、秘密〜」
「秘密があるかどうかが秘密…ね」
なんだ、そのマトリョーシカみたいな理屈は。輝夜らしいと言えば輝夜らしいが、だからこそ、妙にモヤモヤしてならない。
「サグメはどうなの?何かあるの?」
「ご想像にお任せします」
「あぁ…あるわね、この反応は。アリアリだわ。帰ったら聞き出してやるわ、覚悟なさい♪」
「…程々にしてください…」
にとりや雛が色々と話している間、それぞれの陣営はこのように好きに喋っている。まさかとは思ったが、さとりの登場だけで空気があそこまで白けるなんて思ってもみなかった。
もっと寛容になれよと思ったが、俺と観客達、一体どっちが「普通」と言える存在なんだか…。永琳の話から察するに俺の方が異端だと思うが、彼女がああいった目で見られているんだと思うとそれはそれで胸糞悪かった。
「と、いうわけで!決勝トーナメント一試合目、いってみよ〜〜!!」
「まずはこの人!安定の実力で決勝トーナメントまで勝ち上がってきた、無慈悲な紅白巫女っ!!その紅の布地は妖怪の返り血か?血の象徴か!?楽園の巫女、博麗霊夢〜〜〜!!!」
「フツーに巫女服の色よっ!それとも、そんなにこの服をあんたの血で染めたいのかしら!?」
「ひえぇぇ、怖いぃ〜!」
「…などと言いながら心の中では楽しんでいるんですから、霊夢さんは本当にツンデレですねぇ。ただしデレの様子は外には出さずあくまで心の中だけでのデレ。ただのツンデレよりもちょっぴり高度なタイプですね」
「────っ!?」
「ほぇ〜、霊夢ってば内心楽しんでたんだねぇ!どっちが本音だか分からないなぁ〜、もうっ!」
「ちょっと、さとり!?あんたそんな事言って…あとで覚えてなさいよ!!」
「さぁ、それは保証しかねます。……さてにとりさん、そんなツンデレ霊夢さんのお相手は一体、どこのどなたなんでしょう?」
「あ、うん!そんなツンデレ巫女さんのお相手はこの方!無尽蔵と言われる地獄の力を湯水の如く操れるらしい地獄の女神様!自分が認めた者にはその力の一部を分け与える事もできるとかいう、かなりの規格外モンスター!…あ、いや、神様!ヘカーティア・ラピスラズリ様〜〜〜!!」
「来たわねぇ、霊夢。あの時みたいに私を倒せるかしら?」
「純狐と2対1で私が勝ったんだもの、今の私が負けるわけないわ」
「油断大敵という言葉を知らないの?そうやって慢心しているといつか足下を掬われるわよん?」
「やれるものならやってみなさい!」
頼むから霊夢に勝ってもらいたい。俺はまだ、へカーティアとは戦いたくない。幾らなんでも、相性が悪すぎるだろう。地獄の力を使えるということは、地獄の獄炎なども使えるんだろう。なら俺のような妖怪には効果覿面ではないか。急激な環境変化は苦手だ。…霊夢?霊夢なら大丈夫だ。霊夢だから。
《酷い言われようねぇ。流石に、手加減くらいはしてあげなくもないのよ?私って優しいからね》
《優しい奴は自分から優しいって言わないような気がするんだけど…まぁいいか…。そういう事にしておく》
《あら、素っ気なくてへカちゃんは泣きそうよ。腹いせに、霊夢のことボコしちゃおうかしら?》
《いいよ?》
《…いいのね?》
《どうせ霊夢をボコボコになんてできないだろうからね。幾ら地獄の女神へカーティア様でもね》
《へぇ……。じゃあ、私の力、3割くらい見せてあげる。私攻略の参考にしなさい》
《攻略されたいの?》
《…私はね、エスカルゴ君。自分と対等に戦えるヤツが欲しいの。あなたが氷の妖精……チルノに望んでいるのと、同じようにね》
言われてハッとした。チルノと吸血鬼が対等に戦えるようにと、チルノを強くするという名目で彼女を育てているのと、へカーティアが俺に対し抱いていた想いは同じだったのだ。
自分がそれをやっているからなのか、いざそう言われると妙に納得できてしまった。
《俺は戦うの好きだからいいけどへカーティアはそこまでじゃないような…?》
《だぁって…適度に戦う方が、毎日が面白くなるでしょ?ましてや地獄なんて、いつも問題続きでやんなっちゃう。私が憂さ晴らしの相手を欲するのも、自明の理。純狐は友人だから、好敵手って立ち位置では無いの。おわかりかしら?》
《まぁね。おかげでスッキリした》
《そう、それは何よりだわ。じゃあ、よーく私の戦いを見てなさい。今から霊夢と遊ぶからね》
霊夢と
「よーし、それじゃあ決勝トーナメント第一試合始めるよぉぉ!レディ〜………ゴー!!」
合図が出されるなり、ふわりと浮かび上がった二人。そこからしてこれまでの戦いとはレベルが違うのが分かるが、両者が帯びている気配からも二人の強さがよくわかる。
霊夢は霊力を研ぎ澄ませて弾幕と成し、一方でへカーティアはその様子を注意深く観察しつつも力を溜めている。アレが一息に放たれれば、一体どうなるか。このステージが粉砕されるのはまず確実だろう。
「…どーやら、一気に勝負をつけたいようねぇ。だけど残念、そうはさせないわよ?」
「あんまり時間を無駄にできないの。あんたには悪いけど、さっさと勝たせてもらうわ。問答無用でね!霊符『夢想封印』!!」
早速、十八番である夢想封印を放つ霊夢。何故時間を無駄にできないのか分からないが、きっと霊夢には何か考えがあるんだろう。でなければ、こんなにも早く決着をつけようとすると思えないからだ。
「
ホーミング性の弾幕をスイスイ避けながらも、へカーティアは余裕の表情だった。俺からすればホーミングだから厄介なのだが、あれを見るに、へカーティアにとっては「ホーミングだから楽に避けられる」らしい。
大玉は大きく動かなければならないので、俺はああいうホーミングは嫌いだ。小回りするものは尚更だろう。夢想封印を放たれても余裕の表情…へカーティアの強さが改めてよく分かる。
「壁は力で突破するものじゃないわ。飛び越えていくものよ」
「面白いわね。じゃあ私を飛び越えてみなさい。もしお遊びの私に勝てないのなら、本気の私には到底及ばないんだから」
「負けた時の保険かしら。そんな様子じゃ、私の勝ちは揺るがないわね。次で仕留めるわ」
「!」
へカーティアはピクリと眉を動かす。恐らく、何かを察したのだ。少なくとも「次に仕留める」という発言に苛立った訳ではなさそうだ。
《来るわよ。あの子の奥義がね。あれを喰らえば流石の私も負けちゃうかもねぇ…》
《奥義って…まさか》
《そう、そのまさか。なら私は─────》
ニヤリと笑うと、へカーティアは頭上の球体を取り替える。異界を表す赤い球から、地球を表す青い球…地球儀
「『
「なっ……!?」
どこからか冷気が溢れてくる。凄い勢いで場の空気が冷えていき、10秒と経たないうちに舞台が凍ってしまった。突然の気温変化に、半袖状態の俺は震えや鳥肌が止まらない。
地底は冬も暖かいのだが、まさかここで地上のような寒さを体感する事になろうとは。文字通り夢にも思わなかった事だ。
「さ…さっむい……」
「寒かったら私をギューってしていいからね?」
「そうさせてもらうわ…いや寒いってマジで…」
少し強めに膝の上の巫月を抱きしめながらも、二人の戦いからは目を離さない。へカーティアの技のこの寒さ、きっとチルノを超えている。幾らなんでも、数秒で舞台が凍るのはヤバい。
こんな事なら、俺も季節相応の服装にするべきだった。
「ジワジワと追い詰めるわよ。あなた達のような吸血鬼は急な温度変化に弱いと聞いたけれど…。どうやら本当らしいわね」
「この程度の寒さ、どうってことは…っ!」
「そう、ならこれも避けられる?」
小粒の氷塊による波状攻撃が霊夢を襲う。何故小粒で密度も薄めなのか分からなかった俺だが、すぐにその理由を思い知った。
密度は薄め、ワンパターンな波状攻撃。しかし弾速が少しずつ速くなってくる。ここがミソだ。弾速が少しずつ速くなるタイプだと次から次へと放たれる弾幕と合わさって密度が激増する。
最初の密度が薄いのは油断させるのが目的か。
《ノンノン、深読みしすぎよ。最初手抜きなのはジワジワ追い詰めたいだけ。まぁ面白い考えだと思うけれど》
《あ…そうなんだ。答え合わせできたのはいいが何か小っ恥ずかしいな》
《そうやって考えるのは楽しいからね、あなたはそのままでいいのよ。尤もらしい理由付けに丁度いいかもだし》
《そういうモンなのかな。…ていうか、ジワジワ追い詰めたいって…怖いなそれ。俺なら…》
《自爆覚悟で特攻するんでしょ?その手、私には通用しないわ。次の攻撃でそれを見せてあげる》
戦ってる最中だというのにやけに饒舌だ。流石へカーティアと言わざるを得ない。俺は無理だ。戦闘中に相手と喋るのは簡単だ。しかしこれは、思念通信のようなもの。しかも対戦相手ではない相手とだ。
戦闘しながら戦闘以外の会話をこなすなんて、どれだけマルチタスクなんだ。
「────中々被弾してくれないわねぇ。別に、この戦いは被弾=負けではないのよ?」
「この程度の弾幕に被弾なんて出来ないわ。密度だけは濃いようだけど、こんなに遅いんだから」
「ふーん、流石は博麗の巫女さん。この程度では強さは揺るがない、か。イイわねイイわね、正直見くびってたわよん。あの時のあなたってば手を抜いた私と純狐で手一杯だったしねぇ…」
「あんたのその余裕がいつまで続くのか
とうとう夢想天生を発動させた。これは彼女の奥義だ、これならへカーティアも少しはダメージ受けるに違いない。
夢想天生には2種類ある。霊夢が半透明になりホーミング弾を放ち続ける方と、超大量の御札を目にも留まらぬ速さで全方位に投げ続ける、文字通り力押しの方だ。
今回はその後者。大量の御札で力押しらしい。
《いや〜、これは速いわねぇ。もう何回かは被弾してるわ。グレイズが難しい…。しかもパワーも夢想封印より数段上。うーん、こうなってくるとエスカルゴくんより霊夢を育てた方が面白いかもしれないわ》
《ちぇっ……》
《ふふふ、冗談よ。霊夢は私を八雲紫以上に警戒してるようだからね、そう簡単にはいかないわ。やっぱり、手駒にするには頭空っぽじゃないと》
《ふーん。…………俺の頭が空っぽだって!?》
《あ、気付かれちゃった。まぁ、単純な方がいいってことよ。あなたがこうも数多の神々の寵愛を受けるのも、器にしやすいその単純な性格ゆえ。でもそれって良い事なのよ?ね、諏訪子さん?》
《うんうん、そーゆーことっ!!》
(尤も、諏訪子さんと建御雷さんは何かを企んでそうだけどねぇ…。まぁその時は、私がこの子を守ってあげればいいかしら。
大量の御札をしっかりとグレイズしながらも、へカーティアはどこか上の空の様子。遊んでいるようにも、真面目そうにも見える。そんなどこか不思議な雰囲気だ。
高位の神だと纏う気配からして違うが、やはりへカーティアは俺の知っている神の中でも頭一つ抜けて別格か。
「お、おおーーっと、これは凄いぞーっ!まさかまさかの展開だー!博麗の巫女の奥義を、大して喰らっていないーーー!!」
「こ、怖い…あの神様が怖いわ、にとりぃ…」
(へカーティア様の心が読めない…?心の隠蔽、それもあの方の権能なのかしら……?それとも、格が違いすぎて能力が通用しないのか…)
「よーっし、そろそろ私も反撃しようかしらね。『
へカーティアが宣言した直後。俺は思わず目を疑った。霊夢の放つ御札が、全て凍りついていたのだ。全方位に散らばる御札が全て。そしてまだ手に持っている御札さえも凍りついている。
コンマ数秒どころではない。文字通りの「次の瞬間」だった。あんなの、どうやって回避しろと言うんだ。対策しようがない。
「はっ……?え………なに、これ………?」
初めて奥義を破られたからか、霊夢すらも困惑しているようだ。だがへカーティアは甘くない。困惑する隙をも与えず巨大な氷塊を大量に放つ。先程の非スペルの上位互換らしい。いや、あれはどう見てもスペルカードレベルの威力だろう。
《時間を
《…………は?》
《大紅蓮地獄の寒さは全てを凍結させる。時間?そんなもの、有って無いようなものよ。そして、その時間停止はあなたも知覚できない。当然あのメイド母娘もね》
《…時間停止の由来が全くの別物だからか》
《ご名答、その通り。あなたが時間停止の影響を受けないのは、十六夜咲夜の力をほんの一部だけ取り込んだから。だけどこの時間停止はそんなの微塵も関係ない。私以外の全てが、動きを止めてしまうのよ》
《凶悪すぎる》
《あらそぉ?でも安心して、そこまで無駄遣いをするつもりは無いから。…あぁそれと、仮に私の細胞を取り込んだとしても、あなたは時間停止の効果を受けるわ。何故ならこれは、私の能力ではないからね。地獄の力を使役してるだけだから》
本気で怖い。だがそんな神様と対等に戦えてる霊夢も怖すぎる。何なんだ、この2人は。早鬼と戦って勝てたらこんな強者と戦う事になるのは、嬉しいような嬉しくないような、微妙な心境だ。
「ッ…仕方ないわ…3枚目使うわよ……!『夢想天生』ッッ!!!」
次は霊夢が半透明になるタイプの夢想天生だ。3枚目のスペルカード、つまり霊夢はこれが最後である。へカーティアは
そうしている間にも氷塊は霊夢の体を通り抜けホーミング弾はへカーティアへと当たり続ける。
「キツい、キツいわ〜。威力上げすぎ、最初からこっちにしておけば良かったのに。降参するわ、降参降参。そうされたら勝ちの目が見えないわ」
すぅっと半透明から元に戻り、訝しげに彼女を睨む霊夢。確かに霊夢からすれば怪しさ満点ではあるが…。
「ほらほら実況さん?私は降参するわよ〜。もう凄く楽しめたからね♪」
「「えっ…えええええええっ!?」」
─────やっぱり神様って、自由気ままだ。
霊夢からしたらモヤモヤしそうですけどね。
霊夢が「時間を無駄にできない」理由とは…?
『
へカーティアの非スペル。地獄の下層に位置する紅蓮地獄(
冷気による様々な大きさの弾幕が現れて、激しく荒れ狂う。どう見てもスペルカード並の威力ではあるものの、本人曰く非スペルらしい。
『
へカーティアの非スペル。地獄の最下層、大紅蓮地獄(
本場では、皮膚が割れ血が溢れ出し、紅色の蓮のようになる。紅蓮地獄(
スペルカード並みの規模・威力なのにこれすらも非スペルだとか。その言葉を信じるとするなら、幻想郷の誰よりも強力な非スペルとなるだろう。