※この作品はR-18です。

吸血鬼人間の幻想生活   作:エスカルゴ・スカーレット

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決勝戦直前

「おかえり、何食べてたの?」

 

「うん……まぁ、色々と」

 

「…?」

 

 早鬼を倒した俺は永遠亭陣営に戻る前に紅魔館陣営に行っていた。そこで少し咲夜さんの料理を食べた訳だが、輝夜の問いに正直に答えたら何を言われるかわからないので、煙に巻いておいた。本人もそこまで気にしていないのか、深くは追求されずに済んだ。

 

「あっ、そうそう。霊夢にはちゃんと勝ってね。新しい難題よ♪」

 

「どうすりゃ勝てるのか分からないってのに…」

 

「じゃあ私が策を授けましょうか?…耐久弾幕で相手の自滅を待つ、ただそれだけよ」

 

「いやその…あのですね永琳先生?被弾したって負けにはならないし、そもそも耐久スペルなんて2つか3つしか無いんですけど…」

 

「…しかもゴリ押しで突破可能な程度、と。まだ耐久弾幕のレベルは低いのよね。でもあなたなら追い込まれれば何か突破口見出すんじゃないの?思いつきのヘンテコな大技こそ、あなたの真骨頂でしょう」

 

「簡単に言ってくれますねぇ」

 

「簡単にこなしてきた実績があるもの、当然よ」

 

 期待してくれているのか、それとも投げやりな回答なのかよく分からない。永琳のことだから、投げやりというわけではなさそうだが…。天才の考えることはよく分からない。ともかく、あまり深く考えてはダメだろう。

 

「なー鈴仙、戦う前にちょっと血ぃ飲ませてよ」

 

「ダメよ。今のウドンゲは妊娠中で、それなりに血液を必要としているんだから。どうせあなた、少しとか言って多めに飲むでしょ?」

 

「大丈夫ですよお師匠様、幾らなんでもそこまで酷くないですから。…でも少しだけにしてね?」

 

「わかってるよ。一口分にしとくから」

 

「ん」

 

 髪をかきあげて、首筋を差し出す鈴仙。そんな動作すらもどこか色っぽい。人妻の色気というか何というか。今度の6月こそ、鈴仙には俺の妻になってもらいたいところだ。ジューンブライドは俺のささやかな夢でもある。

 

「エスカルゴ〜、私のは?」

 

「巫月のはまた今度な。巫月のは特に美味いし、それこそ歯止めが効かなくなっちまいそうだ」

 

「えへへ、そっかそっか〜♪」

 

 美味しい血だと言われて嬉しいのか、吸われていないのにも関わらず嬉しそうな顔をしている。可愛い娘をもったものだ。

 

「…霊夢とエスカルゴとの実力差は絶望的。どう勝つつもりウサ?」

 

「それはまぁ根性で?どうにかする…的な?」

 

「そんなんじゃ敗北確定ね〜。霊夢が『根性』で乗り越えられるような生半可な弾幕を使ってくるとでも思うウサ?霊夢がそんな奴じゃないのは、お前がよく分かってるはず」

 

「………まぁな。3枚のうち2枚は『夢想天生』だったとしても不思議じゃねぇ。もしそうなら、俺は確実に負ける。夢想封印でもな」

 

 何より、次の戦いでは神の力を借りないと心に決めている。つまり諏訪子や武甕槌命、母さんや袿姫といった面々だ。俺1人の力で戦う。

 

「そう、お前は負けるウサ。じゃあ、どうやって霊夢に勝つのか?…仲間の想いを背負って戦う?そんなのは少年漫画の主人公のする事で、悪魔のあんたに似合うわけないウサ」

 

「じゃどうすんだって。ゴリ押すしかないだろ。純粋な力なら俺の方が上なんだ、脳筋戦法で戦う他に策無くないか?」

 

「そこで私(・)ウサ」

 

「んぁ?何が」

 

 ちょいちょい、とヒソヒソ話をするように手で招かれたので、てゐの口元に耳を寄せる。するとどうした事か、てゐは頬にキスをしてきた。

 ぷにゅっと押し付けられた幼く柔らかな唇が、とても心地よく感じる。

 それを見て「まぁ♡」とニヤける輝夜、かなり衝撃を受けたのか口をあんぐりと開けるサグメと永琳、眉間にシワを寄せる鈴仙と巫月…。皆して面白い表情になった。

 

「『幸運』ウサ。今のお前は運気上昇中、暫くはラッキーが連続するはず。…あの時みたいに」

 

「…あぁ…」

 

 そうだ、確か何年か前に紫さんに頼まれて外に暴れに行った時も、死なないようこうして幸運を付与してもらったのだ。そしてそのお陰で何とか命拾いしたんだった。

 

「さぁ!いよいよ皆さんお待ちかねの、今大会の決勝戦が始まりまーすっ!折角の決勝戦という事でね、特別にもう少し詳しいプロフィールを紹介したいと思います!まずはこの人!」

 

「元人間の吸血鬼、数多の女性を侍らす変態!!そう、彼の本性は誰よりも変態だぁ!!けれども強い!かの天魔様をも打ち倒した以降は、妖怪の山に住まう者から『山の英雄』と称され、近年はクーデターを阻止し、天魔様にさえもそのように呼ばれた、実質的英雄!次は一体、どこの英雄になるのか!果たしてこの大会で難敵を倒すことが出来るのか!?この大会で新たな称号を得られるのか!エスカルゴ・スカーレット〜〜!」

 

 緊張してきた。足が震える。心臓が普段の倍の早さで血液を循環させている。霊夢に勝つための策なんて無いが、チルノに誓った以上は、全力を尽くして戦い、そして勝ってやる。先程しっかり咲夜さんお手製の人間サンドイッチも食べたし、鈴仙の血も飲んだ。腹拵えはもう十分だ。いや、十二分に済ませた。

 

「行ってきます」

 

「行ってらっしゃい!頑張ってねエスカルゴ!」

 

「復活するにしても死なない程度に抑えてね…?やっぱり死ぬのは見たくないから…」

 

「行ってらっしゃい、期待してるわ♪」

 

「気を付けて行きなさい。私の言う通りにすれば間違いないと思うけれど」

 

「…大丈夫。あなたは負けない」

 

「まっ、出来るだけの手助けはしたから、あとはお前次第ウサ。その幸運を無駄にしない事ね〜」

 

 娘は愛くるしい。鈴仙の上目遣いは卑怯だし、輝夜の期待を込めた眼差しがとても眩しい。永琳なんて自信満々だし、喋るサグメはやっぱり凄く可愛い。てゐはきっと、てゐなりに俺を応援してくれているのだろう。幸運の付与(キス)が少しドキドキしてしまい、勘違いしそうになる。

 何年か前もそうだが、てゐが割と本気で幸運を与えようとする時は、何故かキスだったような。鈴仙への当てつけの意味も込められているのか、他意は無いのやら…。

 

「頑張って下さい♪」

 

「応援してるからねっ!」

 

「うん…頑張るよ」

 

 何故か地底に来ているミスティアと響子からも声援を受け、少し緊張が解れたような気がする。チルノへの誓いと、昨日のうちに取り決めた俺と永琳の秘策…てゐの幸運。それから輝夜の難題と神の器としてのプライド。これらを備える現在の俺なら少なくともボロ負けにはならないだろう。それに、俺はもうあとには引けないのだ。戦って勝つしかない。

 

「つーか…満員御礼かっての」

 

 観客席にはドンドン観客が入ってくる。見た事ある奴も居れば、見た事のない奴も居る。決勝戦だからか、外に居た連中も中で観戦するつもりのようだ。

 幻想郷の賢者さんまで来ているのは少し謎だ。華扇、そして隠岐奈……華扇はともかく隠岐奈は謎だ、謎でしかない。お前はどこから来たんだと聞きたい。もっとも、後戸でスキマ紛いな移動も可能なのかもしれないが…。

 

「英雄の相手はこの人!泣く子も黙る紅白巫女!不良易者の頭をカチ割り、里を守り、妖怪を倒す妖怪巫女!!元人間の妖怪だが、人間側の存在!しかしその過去は依然として不明!過去にも未来にも、そして何者にも縛られない自由な巫女!!その名は!?博麗霊夢〜〜〜!!」

 

 俺は壁を乗り越えてステージに降り立ったのに対し、霊夢はフワリと舞い降りた。大きな両翼を優雅にはためかせ、袖からお祓い棒を取り出す。それをパチンと手に打ち付けたかと思うと、俺の鼻先に勢いよく突き出してきた。

 

「私には時間が無いの。悪いけど早めに倒させてもらうわ」

 

「また出た。最近はずっとそうだ。最近の霊夢はおかしいよな、マジで。何だか、俺に対してだけ素っ気なくねぇ?霊愛にも霊麗にも、ごく普通に接してんのによ。夜は大して寝ねぇみたいだし、かといって昼に寝る訳でもねぇ。……霊夢、最近ずっと何してんだ?何を隠してる?」

 

「私に勝てたら教えてあげる。とにかく、時間が無いの。いや、とうとう(・・・・)時間が無くなってきた。こんな話もするだけ無駄、時間の無駄よ」

 

「……マジでヒデェな、俺の扱い。いいよもう、倒しゃいいんだろ。俺が勝った暁には素っ気ない理由を話してもらう。それでいいな?会場に居る全員が証人だからな、忘れたとは言わせねぇ」

 

「はいはい分かってるわよ、執拗いわね」

 

「ッ……!!」

 

 ダメだ。何かもうダメだ。初めて霊夢に対してイラついてしまった。これはもう、素っ気ないのレベルを超越してるだろう。あんなのは空返事と変わらない。何なんだ、俺が何をしたってんだ。

 理由を言わないでのこの態度は、理不尽以外の何ものでもない。理不尽は俺が一番嫌いなもの。霊夢が好きだからこそ、その霊夢にそれをされるのはとても悲しいし、同時に怒りすら覚える。

 100年の恋も冷めるとまではいかないにせよ、かなり傷を負った事には変わりない。あとで俺が満足いくような説明をしてもらわねば。そして、もしも俺が霊夢を怒らせていたのなら、その時は誠心誠意謝罪せねばならないだろう。

 尤も、「勝てたら教えてあげる」という言い方だと、直接の原因は俺ではなさそうだが……。

 

「なっ……何だか気まずい雰囲気…だね…?」

 

「厄が溢れるどころじゃないわ…」

 

「ですね。しかしそのおかげで、これから始まる戦闘も盛り上がりそうですね。…というわけで、お二人共頑張って下さい」

 

 さとりは霊夢の心を読んだだろう。それなのに特に何かを暴露する様子が無い。さとりの意思で言いたくないのか頑なに暴露禁止されているのか分からないが、まずい理由であることは十中八九間違いないはずだ。

 セックスレスなのは置いといても、態度までも素っ気ないのは辛い。本当に辛すぎる。俺は辛い耐えられない。

 

「それじゃあ、決勝戦を始める前にっ!!決勝戦のみの特別ルールの説明を始めるよっ!!」

 

「「えっ?」」

 

 久しぶりに霊夢とハモった。悪い気はしない。だが何だろう、嫌な予感しかしない。

 

「と言っても変更点は1つだけ!スペルカードの数は…無制限!!みんな、決勝戦はアツイ戦いが見たいもんね!制限かけちゃいけないよね!!」

 

「ただし、スペルや非スペル、ラストワード等に限らず、同じ技は4回までね!」

 

 より一層沸き立つ会場、それに反比例して沈む俺の気持ち。4回まで…そりゃあいよいよ本気でまずい。「夢想天生」は二種類あるし、それすら別カウントされるのであれば合計8回。夢想封印なんてもっと種類があるので、それ×4まで可能である。勝ち目ゼロではなかろうか。

 もし仮に別カウントされなくても「夢想天生」4回まで可能という時点でもう頭が痛い。

 

「何だよ、もう…。神様の力、借りるしかないんじゃないのか…?」

 

「元からそのつもりでしょ?」

 

「いいや…」

 

 ────霊夢とは自分の力で戦いたいんだよ。




4枚までってのは非想天則からきてます。
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