決勝戦特別ルール…スペルカード使用無制限。4枚までだなんて、そんなのは形だけに過ぎない制限だし、実質無制限に等しいルールだ。
このルール、一見すると俺にも有利に思える。しかしやはりそんな事は無いだろうと思う。俺と霊夢、
「どーすんだよ永琳先生、これも想定内って事は流石に無いだろ?」
観客席の永琳に視線を向けると、もうダメね、とでも言うかのように目を瞑ってゆっくりと首を横に振った。だろうな、と心の中で返事をする。
この状況を打開する方法は、ある。例えば俺の素の力を引き出す事だ。幸い俺は、数年前に不老不死となってから、己の生命力を利用して底力を上げる技術を会得した。
そして、吸血鬼としての本質を引き出す技術も過去に開発している。こちらは雷の威力も上がるうえに、ステータスも上がるので、そこそこ便利ではある。
ただ、それを行うのにひとつ問題があるのだ。それは、そこまで多くの補強スペルを使っている隙があるのか?ということ。
知っての通り霊夢は強敵だ。俺の知る限りでは最強だと言ってもいいくらいの。そんな霊夢が…しかも焦っている筈なのに、多種多様なスペルを宣言するだけの隙を与えてくれるとは思えない。
何なら開始と同時に「夢想天生」を使ってくることさえ有り得ると俺は思っている。なので俺はそれを想定し対策しなければならない。
霊夢のあの「時間が無い」が真実なら、きっとそうする。確信がある。霊夢ならそうすると。
「…両者、準備が整ったようですね。そろそろ、開始の合図を」
「うんっ、そうだね!それじゃあ、始めるよ!!地下闘技場最大トーナメント、決勝戦!!」
「英雄エスカルゴ・スカーレットvs妖怪巫女博麗霊夢、夫婦対決!!」
「「始めッッ!!!」」
ついに始まった決勝戦。開始の合図と共に俺がとった行動はただひとつ。
「傷翼『
まずは防御だ。このスペルは砂鉄で大きな翼を生み出し、伸ばして攻撃したり、包み込むように防御もできる、攻防一体のスペル。こうすれば、とりあえずは近接戦を避けられるというわけだ。
そして霊夢の宣言したスペルカードは───。
「『夢想天生』ッッ!!」
「〜〜〜〜〜ッッ」
予想は的中。霊夢の奥義が発動してしまった。今回は御札のタイプなので、もう一方とは違ってこちらの攻撃が当たる分、まだマシな方だろう。
だが奥義なだけあり、決して甘くはない。
「くっ……!」
翼で自分を繭のように包み込んで、大量の御札から身を守る。鎧のように一瞬で砕けないから、やはりこれを選んで正解だったと思う。鎧なら、少しでも受け続けようものなら破壊されていた。
「往生際が悪いわね、さっさとやられなさい…!時間をかけるつもりは毛頭ないんだからね!!」
「始まったばっかだろーがよ…ッ!」
防戦一方だ。少しずつ接近を試みるが、御札の勢いが凄まじく、接近するどころか、ジリジリと押されている。翼を伸ばして攻撃してもいいが、果たして意味はあるのか。
防御を捨てて攻撃したら全身に御札を浴びる。かと言って翼を一枚伸ばして攻撃しても、それに意味があるのかどうか。避けられるのがオチだ。
「霊夢〜!何焦ってるのか知らないが、とにかく頑張ってな〜!!」
「大丈夫よ霊夢、あなたなら勝てるわ!」
「頑張って…!」
魔理沙に加え華扇、華扇と来ていたらしい芳香まで霊夢を応援する。まぁ決勝戦だし、これまで応援していなくても応援したくなるだろう。
「…さて、これからどうするか…」
砂鉄の翼は御札を自動で切り裂き、切り裂き、切り裂き続ける。だが防戦一方なのは変わらず、俺が不利なのは変わらない。
畜生、俺にもっと力があれば。勝ち負けはもうこの際どうでもいい、だがチルノに二度と顔向けできなくなるような無様な戦いはしたくない。
もうアイツを泣かせたくない。誰より純粋で、真っ直ぐで、熱血で、ちょっとバカなチルノを。
「これは少々分が悪いか。行け、お前達!」
「了解ですっ!」
「はーいっ!」
どこからかそんな3人の会話が聞こえてきた。するとどういう訳か、俺の生命力が削られ始め、力が上昇してきた。まさかと思いスキマで背後を見てみると、最前列では里乃と舞が踊っていた。そのそばには隠岐奈も居る。
《やぁやぁ、劣勢みたいだな!見ちゃいられないから、『応援』してやる!
《一体何を企んでんだ?俺達はそんな間柄じゃあないだろ》
スキマを閉じ、翼で御札をガードしつつ手短に返事をする。まさかとは思ったが、力が上がったのは…そうだ。どうやらあの2人の仕業らしい。
《企んでるとか、そういうことじゃない。お前が負けちゃあ、この私が困るんだよ》
《何でだよ》
《方法は何であれ、お前が私を倒したのは事実。認めたくはないがな。だがそんなお前が、たとえ霊夢が相手でも、あっさり負けるのだけは絶対に認められないのだよ》
《………》
おちゃらけていた雰囲気から一転、突然言葉に重みを乗せてくる。言葉のプレッシャーたるや、突然胸が苦しくなってきたほどだ。
自分を倒した相手が敗北すれば、それに負けた自分の評価も下がる。理屈としては理解できる。隠岐奈はそれが気に食わないんだろう。
でもやっぱり、隠岐奈はどこか強引だ。
「守備力はまずまず。でも、削れてきてるわね」
「ちっ…」
この翼は砂鉄、如何に御札を切って防いでいるとは言っても、100%完璧…ではない。少しずつではあるものの、砂鉄は散らされている。
つまり長い時間はこうして守っていられない。
《ほら、どうした。あんまり時間は無いだろう?早く決着をつけたらどうだ》
《うるさい、俺には俺のタイミングがあんだよ。舞ちゃん応援してくれてるから何も言わねぇが、生命力を勝手に引き出すのはヤベェからなマジ。今はまだ力に変えられてるからいいけど》
《なら早くしたらどうだ》
《うるっせぇ…》
里乃の能力…後ろで踊る事で精神力を引き出す程度の能力と、相方の舞の能力…後ろで踊る事で生命力を引き出す程度の能力の併用で、少しずつ俺の力が高まるのが分かる。
が、生命力を削っているという事は、俺の戦闘可能時間は徐々に短くなってくるということだ。妖精の場合は最悪
神の力は借りたくないなら、観客の応援の力を借りればいいじゃないかと隠岐奈は考えている。屁理屈じみてるが、この際受け入れるしかないんだろう。もはや押し付けパワーアップだ。
「おっ………」
そして反撃を決意したその直後、「夢想天生」による御札が止んだ。翼は削られたが、紙一重で防ぎきったらしい。
このステージは既に、霊夢によって散らされた砂鉄によって薄らと黒く染まっている。磁石でも近付けようとものならすぐに集まりそうだ。
「出番だぞ2人共。久しぶりの戦いだ、思い切り暴れろ!愛玩『雷神のお供 ―
両脇に魔法陣を展開し上海と蓬莱を呼び出す。相変わらず可愛いのは言うまでもないことだが、それは置いといて、だ。アリス姉ちゃんの魔法で自立行動が可能となった2人は、俺に合わせて、各場面に合った弾幕をランダムで放ってくれる。もちろんそれは、俺が与えた雷エネルギーによる弾幕だ。
ちなみに、姉ちゃんの人形達はそれぞれ武器を持たされているようだが、この2人は俺のように雷の武器を作り出せる。そこが強みだ。
「魔術『
「!?」
そして俺は、変化するでもなく攻撃を仕掛けるわけでもなく、透明になった。この魔法は名前の通り透明になるわけだが、それだけ負担も大きめなので、普段は長時間使用できない魔法だ。でも今回に限ってはそこら辺の対策をしておいたので少しなら長めに発動させていられる。
「喰らえ……魔符『
透明化して霊夢が動揺した隙に真上に移動した俺は、妖気などで気取られないよう距離を取って極太光線を放つ。しかし流石霊夢と言うべきか、それすらも勘づいてしまい……。
「魔理沙のパチモン如きで…!本っ当にこの私に勝てるとでも思っているわけ!?」
お祓い棒を剣のように構え、光線を断ち切る。残り全ての魔力を出し切っての攻撃なのに、強化したらしいお祓い棒の前ではこんなにあっさりと看破されるなんて。だがこんなものは、全魔力を犠牲にした盛大な囮にしか過ぎない。
「ぐっ……くぅううっ…!!」
その時、突如として霊夢が膝から崩れ落ちた。その両足にはそれぞれ上海と蓬莱が雷槍を刺していて、彼女の足を痺れさせたようだった。そして霊夢の構えは乱れ、囮だったはずの光線が彼女を貫いた。
巫女服は所々が破れていて、絵で例えるのならボロ絵という風情だった。しかしそれでも、まだ諦める様子はない。…分かっていたことだが。
「喰らえッッ!」
霊夢が地面に足をつけている今しかない。そう思った俺は思い切り地面に電気を流した。あの時
「夢想天生」で散らされた砂鉄を回収しなかったのは、地面の導電性を高める為にほかならない。
ただの地面で電気を通してしまう程の高電圧、それに加えて電気を通しやすくさせる金属粉…。その上に足をつけている霊夢は一体どうなるか。
「くぁあああぁっ……ああっ…ああぁあ!!」
苦悶の表情を浮かべる霊夢だが気絶する様子は全くない。流石は霊夢…いや博麗の巫女なのか、耐久力が常人の比じゃない。
魔力は底を尽き、舞の能力でジワジワと体力…生命力が削られてきている。こうなればもう時間との勝負、どちらが先に力尽きるかの消耗戦だ。筋肉が硬直すれば立ち上がる事さえ叶わない。
────と、思っていたのだが。
「いつものアンタなら…ここまで攻撃できないと思ってた…。だけど…そっ、か……本気で勝つ気なのね…私に…」
「…ああ。約束なんだ」
「ヘェ…。アンタも少しは成長した…かもね…。甘ちゃんだったのがウソみたい…」
小さくそう呟くと、電撃の迸る地面へと顔から倒れ伏してしまった。だが次の瞬間、その霊夢は爆ぜ、御札と化して襲いかかってきた。
またアレだ。分身攻撃だ。
「ぐぐっっ…ぎゃああぁぁああぁっ…!!」
翼で防御しようとしたが、アレは攻撃のために散らばせておいたまま。それに気付くまでに一瞬の間があったが、そのおかげで俺は、御札の嵐に巻き込まれてしまった。
一発逆転、霊夢本体でもない分身による攻撃のせいで、俺の方がボロボロにされた。
霊力による結界は敢えて使わなかった。少ない霊力は、諸々の強化の方に回したかったからだ。だがそのせいでこうなった事を考えると、それは間違った判断だったんだろう。反撃壁を使えばと思ったが、霊夢の攻撃力だと破壊されそうだ。
「ちっくしょぉおおお……!!そーだと思った、そーだと思ったよォ…!霊夢がそんなアッサリと地に足付けるワケなかったんだよなぁ!一瞬でも油断しちまった俺が憎いぞチクショウ…俺は何回この手で騙されてんだよ、マジで……!」
地面に転がされた俺は地面を殴りながら呻く。すると本物らしき霊夢が、空間の裂け目から登場した。例によって、お祓い棒でスキマを作って。
しかも地面には足をつけない。そう、そうだ。これが霊夢、これこそが霊夢だ。
俺は確信した。この霊夢は本物だと。
「呆気ないわね。次の夢想天生で終わるかしら」
「くそぉ……っ!」
ギリギリと奥歯を噛み締めるが、確かに霊夢の言う通りだった。昔とは違って霊夢も修行をした結果、一撃一撃の威力が上がったのだ。だから、分身攻撃だけでボロボロになったのだった。
「エスカルゴは負けないっ!!霊夢に勝つって、あの時、あたいと約束したんだからあっ!絶対、絶対勝てるんだからっ!…だから、立ってよ!!あたいの仇、とってよ!!」
金切り声になりながら、チルノが叫んでいる。このままじゃチルノとの約束が果たせない。それどころか失望させて終わりだ。
「ふぅん…。さっき言ってた『約束』ってのは、チルノとしたものだったんだ」
「そうさ、霊夢がチルノを倒したからな…」
それにしても身体がダルい。生命力が尽きたにしてはまだ早い。…となると、対妖怪に特化した
「霊力」による攻撃を全身に喰らったからか。
「なんでチルノ……あぁ、ロリコンだからか」
「…否定はしねーよ?」
「やっぱりアンタはずっと甘ちゃんだったわね。最後まで」
「……ッ…」
膝をついた俺の鼻先に、お祓い棒を突きつける霊夢。霊力で強化されたお祓い棒で殴られれば、吸血鬼の俺でもかなり危うい。それほど「霊力」とは対妖怪特効の力なのだ。
────だがその時、永琳の秘策が発動した。