長かったこのトーナメントも、そろそろ終わりが見えてきました。
─────来た。直感的にそう感じた。やっとこの時が来た、やっと。枯渇したはずの魔力が、この身に満ち満ちてくる。
やがてそれは俺の許容量を超え、自然回復量の倍ほどに達する。数字で表すなら20000/10000、実に平時の倍である。
「トドメよ。………『夢想天生』!!」
本当に完全にトドメを刺すためなのか、今回の
「夢想天生」も御札の方だった。こちらの方が、弾幕の方よりも攻撃力は高そうだし、勝つつもりなのがバレバレだった。
だからこそ、俺は満ちたこの魔力で、あの技をお見舞いしてやった。
「魔術『
真上から放たれる大量の弾幕に対し、真下から威力そのままで跳ね返す。理論的には反撃壁より強固で、跳ね返せる技の範囲も広かったりする。
「どうしてっ……アンタ、もう魔力は無くなったはずじゃ…?いや、まさか……」
「永琳先生は計算してたんだよな…。俺の魔力がすぐに無くなり、戦闘不能まで追い込まれる事…そんでオブラートが溶けるまでの時間を…!」
俺や魔理沙の魔力回復薬は、普通に飲めば超が付くほどの即効性だ。だから今回はそうならないようにとオブラートに包んだのだ。八意印の特殊オブラートに。
「ッッ…流石私ね、この弾幕はキツイわ…!」
実は、反撃壁が比較的弱めなのは、その性質にあったりする。
俺は技の開発時、「反撃壁の分の雷も纏わせればダメージ上がるんじゃね?」と考え、そのように技を設定した。この理屈は正しかったが、同時に間違いでもあった。この仕組みにしたからこそ、反撃壁は脆くなってしまったのだ。
反撃壁を構成する分の雷をも反撃に使ったら、反撃壁を構成する雷はやがて少なくなる。つまり脆くなるという寸法だ。
だから強い攻撃に対しては一瞬で破壊されて、密度の濃い弾幕戦では早く壊されてしまうのだ。
その点、このアタックカンタは強い。喰らった弾幕をそのままの威力、そのままの速さで返す。余計に付け加えたりしなければ、こちらの守りの厚さも変わらない。
結果的に守りの強さはアタックカンタ>反撃壁という形になってしまっている。
「使えるスペルが増えんのは計算外だったけど、魔力が尽きるとこまでは織り込み済みだったさ。流石だよ、永琳先生は。ますます逆らえねぇよ、こんな成果を見せつけられちゃあ…」
某海賊漫画で言う、見聞色の覇気を極めているのでは?…などと勘繰ってしまうくらい、未来が視えていると思う。天才もここまでくるともはや恐怖の対象にすらなりかねない。周瑜が諸葛亮を恐れた理由がよくわかる。天才とは恐ろしい。
「自分の敵は自分って感じね…。だけどね、もうアンタの思い通りにはさせないから!」
弾幕の発射をやめ、その直後に被弾も厭わずに急降下してきた。その手に持つのは毎度おなじみお祓い棒で、とんでもない霊力を纏っている。
弾幕がダメなら物理で攻撃すればいい、とでも考えたんだろう。もしそうなら大当たりだ。俺のアタックカンタは本家ドラクエのとは違い、弾幕という攻撃しか跳ね返せないからだ。つまり物理攻撃が弱点で、霊夢はそれも得意。…参った。
今の俺は寝転がっている状態だ、そう簡単には起き上がれるはずがない。だがそうこうしているうちにお祓い棒は眼前に迫ってくる。
アタックカンタを力ずくで突破して、辺りには破片を散らしながら立ち向かってくる。
「─────大魔法『
「つっ………!!」
間近で巨人化すると、その勢いのままで霊夢は弾き飛ばされていった。確か、萃香もこれと似たような攻撃をしていた事があったが…やはりこの
「勢いを利用する攻撃」は反撃にピッタリだ。
「な、な、な、なんとぉぉおおおおおっっ!??なんと英雄が巨大化したぁああああっっ!!?」
流石の霊夢でもの衝撃はキツイだろうと踏んで巨人化したわけだが、俺の読みも的中した。弾幕などと違って回避する隙間がないのだ。なにせ、肉体という壁が迫ってくるのだから。これには、流石の霊夢といえども面食らっただろう。
巨人の体で霊夢に勝てるはずがないので、反撃した後はすぐに脱出する。俺が今したかったのはあくまでもガード、そして反撃だ。だから、その目的さえ達成できれば巨人体に用はない。
「くっそ、思ったより削られた!」
魔力は結構削られたが、もしもあのお祓い棒で攻撃されたら今頃KOされていただろう。それは間違いないな、と確信している。
だから、魔力を犠牲にして反撃したのは、多分間違っていなかったんだろうと思う。
「…!」
霊夢の霊力を探れば、彼女の現在地はすぐ特定できた。だから巨人体が消える際の蒸気に紛れて攻撃しようと思ったのだが…やっぱり霊夢もそのつもりらしい。
「そこねっ!『封魔針』!」
「ぎゃあッ……!?」
予想が外れた。夢想封印などのスペルカードで攻撃してくると思っていたが…まさか、針とは。霊夢の針は特別製、しかも霊力により対魔の効果までもが追加されているに等しい。
そんな物騒なモノが、俺の左眼を貫いた。すぐ針は抜いたが、対魔の効果がある武器での攻撃でつけられた傷がすぐに治癒することはない。
普通の吸血鬼が銀が苦手なのもこれと同じだ。
「チクショウ、目が…ッ!!」
「一気に畳み掛けてダメなら、ジワジワと…ね。妖怪退治の基本だわ」
「クッ…」
上海も蓬莱も、スペルの時間が終われば自動で帰宅するようになっている。今の俺は孤立無援、1対1に戻ってしまった。
針が刺さり強大な霊力を受けたからか、妖力が落ちているような気がする。生命力は削られてはいるものの、まだそこまで影響は無い。となるとやはり、これは霊夢の影響と考えるのが妥当だ。
「もう俺も本気を出すッ!眷属『擬似神化』!」
雷の能力のストッパーを無くす。凄まじく強いエネルギーが溢れ出し、蒸気を晴らす。頭上には相変わらず帯電する光の輪があり、悪魔か天使かよく分からない格好になっている。
いつもなら一瞬で治る眼の怪我も今頃になって治癒が完了。視界は、広い方がいい。
「うおおおおおっ!?山の英雄、今度はまさかの光輪か〜!?一体どれだけ変身を持っている!?一体どれだけ見せてくれるのかぁぁっ!?」
「っ……とうとうお出ましね…。ステージを破壊する気満々じゃないのよ…」
通常攻撃すらも全て強化されるという、いわばブースト状態だ。ステータスを上げなければ絶対勝てるはずがない。改めてそう思い知らされた。
「殺す気でやる。そうしねぇと勝てねえ」
「そうね、殺す気でかかってきなさい。それほど実力差があるからね」
「ああ…!雷爆符『ヨタサンダー』ッッ!!!」
「ちょっと待ってそれは────!!」
キロ単位で周囲を吹き飛ばせる、爆弾のようなスペルを発動させる。今回は爆発ではなく弾幕のタイプにしたが、全方位へのとてつもない密度の攻撃であることに変わりない。御札の夢想天生とそう変わらない密度ではないだろうか。
「これは…ちょっと難しい、かも…!夢境『二重大結界』!」
爆発的な威力の弾幕に貫かれ、穴が空いたり、粉砕されるステージの外壁。そうだ、俺はこんな威力を求めていた。まるでフランのような物理的破壊力、そして密度を。
一撃一撃の威力を見たからか、被弾のリスクを考慮した霊夢は結界を発動させ身を守る。当然の対処だと思うが威力を上げた攻撃が二重大結界で防げると考えるとは…流石に俺を舐めすぎだ。
「なっ…!」
ビキビキとガラスのような音を立てて割れゆく結界。それを見て目を見開く霊夢だが、やはり、俺が弾幕で霊夢の結界を傷つけるのなんて予想外だったんだろう。
でも俺だって成長している。ましてやvs霊夢の結界なんて、結界斬りの特訓の際に慣れている。むしろ、破れないわけがなかったのだ。
「─────っ!!」
バキンと弾けた結界を見て霊夢は回避に移る。そしてすぐに速度に順応し回避するのは、流石と言わざるを得ない。
「フン、やるじゃない。少しは成長したようね。でもやっぱりアンタは単純ね、これじゃあ密度が濃くて速いだけの弾幕…」
「それでいいんだよ。足止めさえできりゃあな」
「え……」
そうだろうと思っていた。だって霊夢は弾幕のプロフェッショナル。俺如きの弾幕で彼女に被弾させられるわけはない。かと言って、楽々と突破されるわけもない。
だから俺は、俺自身の弾幕に多くは求めない。最低限の役割を果たしてくれれば、どんなスペルだって攻撃ではなく、攻撃のための囮だ。
今の霊夢は回避だけに専念している。そして、分身とは入れ替わっていない。それなら、完全に慣れる前に畳み掛ける。そのための足止めだ。
「喰らえ、一撃必殺技ッ!!次こそ仕留める!!一閃『Mishap of Thunder』ッッ!!!」
「ちっ…アンタのくせに…!!」
ドンドン、ドンドン魔法陣を広げていく。これなら、落ちてくる雷の太さは電柱の太さを超え、電車のような太さにもなる。雑魚妖怪ならば即死させられる程度の電力なのは、まず間違いない。槍を構成する電気も、黄色でも白でもなくもはや青白くなっている。
「どこにも逃げ場はねェ!逃げ場ごとぶっ壊してぶっ壊して、ぶっ壊し尽くしてやる…!!」
そうでもしなければ、俺は、霊夢に勝てない。いや、そうしても勝てる保証はない。だがまぁ、観客の事は母さんが守ってくれるだろうし、多少力のある者なら自分で自分の身を守れるはずだ。
「ここまでのは見た事ないわね…!」
霊夢の頬を冷や汗が流れるのが見える。今回のコレは、霧の湖にクレーターを作ったものより、妖怪の山の裏側にクレーターを作ったものより、遥かに強力な落雷だ。文字通り一撃必殺の威力になっている。…霊夢なら死なないだろうという、信頼にも似た投げやりじみた考えもあるからこそこんな暴挙に出られた。
ヨタサンダーにて既に破壊されていたステージだが、これ以上何を破壊されるのだろう。そう、このコロシアム全域だ。
「ちょっとちょっとこの魔法陣の広さ……本当に全てを壊すつもりなの!?アンタ正気!?」
「正気かどうかなんて、俺にもわかりゃしない。けど、この戦いに勝つためなら、どんな手段でも使う。どんな手段でもなぁ………!」
にとり達のような運営からすれば、ステージが破壊されるのも織り込み済みな気がする。だから
「ステージを無闇に破壊したら即失格」のようなルールが無いのだ。破壊されるのすら想定済みでなければここは絶対抜かせないルール。なにせ、ここで力を振るうのは猛者ばかりなのだから。
ステージを破壊するなという方が難しい。
「……ッ!!これは…まずい!!みんな、自分の身を守って!!!」
「死ぬなよ」
「─────っっ」
これくらいで大丈夫か、という所まで魔法陣を広げ終えた俺は、衣玖さんがたまにやるように、ポーズをキメて……雷を落とした。