音とは、当然ながら聞く者と音源の距離により大きさが変わってくるものだ。もしも近所に雷が落ちると、それは凡そ120dbだと言われている。これはジェット機と同程度の爆音だ。
さらに目の前に落ちた場合。このパターンなら凡そ140dbと言われていて、これは聴覚に障害を来たすレベルの値だ。会話も成り立たなくなる。音に対してうるさいと感じるのではなく、もはや苦痛という領域になるらしい。
そしてこれらは、
今落とした雷は当然ながら自然界のものよりも強くしてあるし、威力も上げてある。俺は能力の補正かなにかで異常無しだが、まともに喰らった霊夢はそうではない。
いや、霊夢でなくともだ。このステージ全域に響いたこの雷鳴は、140はおろか150…160dbすら超えていただろう。となると、耳へのダメージはとんでもないはずだ。
「〜〜〜〜〜〜っっ…!!」
霊夢は両耳を押さえて、強く歯を食いしばっている。こうでもしないと苦痛の声が漏れてしまうとでも言っているようだ。
「耳、大丈夫か?」
自分でやって自分で心配するのかよ、と自分に溜め息が出る。巫女服もボロボロで、フラフラと浮かんでいるのを見るに吸血鬼とて耐え難い威力だったのは間違いないようだが、耳まではあまり考慮していなかった。
しかも、指の隙間から血液が垂れてきている。とても美味しそうな血だった。最近はセックスと共に吸血もご無沙汰だったのもあって、今すぐに舐め取りたくなってくる。
痛々しくも見えるが、同時に欲も湧いてくる。
頑丈な吸血鬼がこの様子なのでは、試合を観戦している者の殆どは鼓膜が破れていると見てまず間違いない。結界等で身を守れた者は大丈夫かもしれないが…。
「お・れ・の・か・ち・で・い・い・か・?」
今の彼女には何にも聞こえてはいないだろう。だから、早急に終わらせるべく、降参を勧める。口で読み取れるようにと、できるだけ大きく口を動かして。
「ッ……」
物凄く睨んでくる。俺は、吸血鬼の超再生力と不老不死の相乗効果で即座に再生するが、吸血鬼としては普通のスペックの霊夢だと、即再生とはいかないようだ。
けれども別にいいだろう。霊夢自身が既にこの幻想郷でトップクラスの強さなのだから、
「早く終わらせたいんだろう?だったら降参してそれで終わり……今はそれでもいいじゃないか。急いでるんだろ。それに、俺もこんな事で霊夢に勝ったなんて喜ばねぇってのに」
そもそも今の攻撃で気絶させるつもりだった。なのにまだ意識を保っている事自体が俺にとって不測の事態だった。もう奥の手なんてない。あと俺に残されている手は、超範囲攻撃のみだ。魔力だって多いとは言えないこの状況。ぶっちゃけ、窮地に立たされているのは俺だったりしている。何故なら霊夢がタフすぎるからだ。
これがもしも、相手が顔見知りでもないような妖怪だったら、鼓膜破れて動けなくなっていたら遠慮なく消し去るのだが、霊夢が相手だとそうもいかない。追撃の手を緩めるしかない。
「…まさか、今のが本気の攻撃だなんて言わないでしょうね?」
「!……もう治ってたか」
「お生憎様、今の独り言は聞かせてもらったわ。でも降参するつもりは無いわ。外野を黙らせてる今のうちに、とっととケリをつけましょ?」
「…わかった。これで負けんなら悔いはねぇってくらい本気のヤツを使ってやる…!」
「良いわ、正面から受け止めてあげる。手加減はしないでよ?」
「今更そんなコトするもんかよ、ンなことしたら俺が負けちまうんだから」
「そりゃそうよね」
「だけど、耳から血ィ出してる霊夢を見てたら、これまでの分、一矢報いる事ができるような気がしてきたよ」
「だといいわね。…それじゃ…これが最後の……霊符『夢想封印』ッッ!!」
「コイツが俺史上最大最強の絨毯爆撃…喰らえ!爆撃『失われた
これは、雷の範囲攻撃系のスペルの、最上位のスペルカードだ。雷神『
「頑張ってえええ!!負けないでぇぇ!!霊夢を倒しちゃええええええっっ!!!」
「押し負けるな霊夢ー!!最後の最後だ、強気で行けぇぇえ!!!」
チルノと魔理沙の声が飛んでくる。二人とも、耳は大丈夫なのか。それだけが気掛かりだが、今それを気にしても仕方ない。今は戦いに集中だ。
「ハアアァァァァッッ…!!」
「チルノの仇だァァァッ!!!」
イケる。夢想封印の弾幕を、俺の雷がある程度相殺できている。もうすぐ来るであろう生命力の限界が来る前に、今一度、力を出し尽くす。
霊夢と俺、弾幕の密度が濃い方が勝つ。だから俺は、限界など無いはずの雷の力に限界を与えるように、後先考えず力を絞り出す。
やがてそれは視界が弾幕で覆われる密度にまで膨れ上がり、弾幕ごと、霊夢を包み込んだ……。
◆
試合後。母さんが会場を修復し、永琳が全員に治療を施すという出来事を挟んで、にとりと雛、さとりが閉会式を行った。
閉会式の際のお知らせで、「この闘技場は我々河童の所有物なので、毎日交代で誰か当番が来るから、金を払ってから使用するように!」というものがあった。そうやって手早く金儲けをしようという魂胆らしい。上手くやるものだ。
そして肝心の決着は、どうにか俺の判定勝ち。とは言っても、かなりの辛勝だった。
霊夢が倒れたのと同時に俺の生命力も枯渇したようで、隠岐奈は慌てて二人に踊りを中断させ、ぶっ倒れた俺と霊夢の意識の有無を永琳が確認。そこで何とか意識が確認できた俺が勝者となったらしい。
霊夢はすぐに復活したのに対し、生命力を枯渇させてしまった俺なんて…永琳が滋養強壮の薬を飲ませてくれなければ今も倒れていただろう。
「…さっきのアレ…ごめんね?」
閉会式も終わり、余韻に浸りながら永遠亭陣営に戻ろうとするが、霊夢が話しかけてくる。なぜ謝るのか分からないが彼女らしくない。
「これまでなら兎も角、さっき何かあったか?」
「目に刺した針。かなり痛がってたし、アンタにしてはすぐ治ってなかったし」
「霊夢ってそんなの気にするタチだっけ…?まぁ俺も鼓膜破っちまったみたいだし、おあいこな」
「うんそうね、おあいこね。私は意図して目ん玉突き刺したんだけど」
「うん、そうだろうな。分かってた分かってた。だって霊夢だしな」
「どういう意味よ、その目玉抉りとるわよ?」
「怖いわー、巫女さん怖いわー」
(…ったく、せっかく勝たせてやったんだから、少しくらい喜んだってバチは当たらないのに)
俺はちょっとスペカルールを無視していた所もあったのに対し、霊夢は最初からずっとルールを守っていた。それを思うと、やっぱり俺は本気の霊夢と戦えないんだなと嫌でも実感させられる。
もしも霊夢がルールを無視していれば、半透明バージョンの夢想天生で制限時間をナシにすればいいだけなので、やはり対等には戦えない。
そう思うと、名目上では勝っていても実質上は負けているんだろうな、と素直に喜べず、むしろションボリしてしまうのであった…。
どうして霊夢は、最後に半透明の方の夢想天生を使わなかったのか?
つまり、そういうことですね。
エスカルゴはロリの応援を力に変えられるタイプなので、凄く頑張れたんですね。チルノ万歳。
まぁ、霊夢が夢想天生使わなかったのが主な理由なんですけども…。
ぶっちゃけあそこで夢想天生使ってたら、応援もクソもないというか、そういうの無視して普通に霊夢勝ってますからね。
今回は「勝たせてもらった」んですね。