もうちっとだけ続くんじゃ(亀仙人並感)
妖舞の曾祖父、魂魄妖忌が妖怪の山に討ち入りした経験があると幽々子から伝え聞いた妖舞は、その数日後、刀を携えて、山の麓まで来ていた。そう、曽祖父や父親同様、自分も山を攻めようと考えたのだ。
しかし彼は迷っていた。当時の妖忌と比べて、今の自分では力量が足りないのではないか、と。呆気なく倒されたり、最悪の場合天狗に殺されて死ぬのではと。バカだバカだと言われる彼でも、その程度の事は容易に想像ができる。そうして、彼が出した結論は………。
「…いーや、樹里愛に会いに来ただけだからな…うんそうだ、妹に会いに来ただけだ。うんうん。討ち入りじゃあないよな」
討ち入りを諦め、普通に入山することにした。幸いにも、父親と今代の天魔の機転のおかげで、この山には顔パス同然で楽に入ることができる。
故に、普段ならば、哨戒中の天狗に見られてもスルーされていた。だというのに、今回ばかりは違っていた。
「おいそこのガキィ。チビッ子は山に入っちゃあダメだぜ〜?」
どこにでも居そうな白狼天狗が、太刀を担いで気だるげに妖舞に話しかける。誰が見ても妖舞を追い出そうとしているのは明白だったが、妖舞はそれに対し、当然の如く反発した。
「父上が天魔ってヤツを倒したから、俺ら一族も入れるはずだぞ。前に姉上が言ってたし!」
「へっへっへっ…。そんな勝手、天魔が許してもこの俺が許さねぇよ?オラオラ、死にたくなきゃさっさと出ていきな!輪切りにしてやんぜ?」
「俺は妹に会いに来ただけだ!守矢神社の風祝、東風谷樹里愛は俺の妹だ!」
「ほぉー、英雄サマに息子が居るってぇのは本当らしいなァ。娘達と違って噂でしか知らねぇし、大した戦果も聞かねぇから、俺ァてっきりお前の存在は歴史の闇に葬られたものだと思ってたぜ。英雄サマの子供との戦い?とか参加してねぇし」
「なっ…!?なんだお前クソザコ天狗のくせに!難しい言葉言えばカッコイイとか思ってんだろ!名前も知らねーモブの分際で、イキんなバーカ!バーカバーカ、ヴァ〜〜〜カ!!」
「あ゙ぁ!?ンだとこのガキ、言わせておけば…!痛い目見ねぇと分かんねぇようだな……ぁ…?」
太刀を構える前に、天狗は膝から崩れ落ちる。妖舞が峰打ちで鎮圧したのだ。妖舞だって妖夢の息子だ、並の強さではない。ただ、周囲の者達が揃いも揃って強いから霞んで見えるというだけ。一般的な妖怪達から見れば彼も強者に入りそうなものだろう。
「お…おぉ…!?一発だ…おお…!」
思わず、自分で自分の力に驚いてしまう妖舞。普段から格上とばかり戦ったりしていると、案外自分の本当の力量を測れなかったりするが、今の彼がまさにそうだった。
白狼天狗を一撃で撃破したことによりすっかり気を良くした妖舞は、ある事を考えた。
案外天狗に勝てるんじゃないか…と。そんな時不運にも近くにいた天狗は、地面に倒れた天狗を嬉々とした目で見下ろす彼を見つけてしまった。
「オイ、お前!そこで何をやっている!?…あっ……襲撃だ!!」
「うわっ、なんか見つかったっ!…いいぜ、お前からはこの刀の錆にしてやらぁ!」
そう勢い込んで山に攻め入ったまではいいが、やはり楽に倒せるのは下級の天狗ばかりだった。やがて鴉天狗達が現れるも、その速度に翻弄されながらどうにか撃破していった。
そうなってくると、当然ながら力のある者達が動き出す。天魔にこの事態が知らされればきっと攻撃は止むだろうが、今の妖舞は天狗達にとってただの侵入者でしかない。天魔が居たとしても、いちいち報告されず、処理されて終わりだ。
「ぬぅぅ…!何処へ行った小僧ォ!!」
「ひぇえええ、とんでもねーヤツが出てきたぁ!やっべえ、木が吹っ飛んじまってる…」
天狗の団扇の効果だ。団扇持ちの天狗は高等な力を持つ者なので、妖舞は慌ててその場から退散した。しかし下山はせず、むしろ登山を継続している。
彼が目指しているのは、山の中腹あたりにある守矢神社。空を飛ぼうとも考えたが、既に上空は検問所ばりに警備が厳しくなっていて、今の妖舞では単騎突破は不可能…自殺行為に等しかった。
だから彼は、木陰で休み休み徒歩で山を登る。
するとその時、ある女性が木陰で休む彼を発見してしまった。
「あ」
「あなたは…!まさか、あなたが今噂になってる侵入者ですか?」
「…多分そうだけど。あんた誰だっけ。どっかで見たことある…ような?」
「私は犬走椛。あなたの父上の弟の、妻ですよ。あなたから見れば
「えーっと…父上の弟?……弟?」
「ええ。それで、今日はどうしたんですか?山で暴れるなんて。それとも天狗が
以前にも似たようなことを経験した椛は、その場合を想定して問うてみる。というより、確認のために訊ねた。無論その通りだ。大体の天狗には彼ら「山の英雄の子」のことは知らされてある。だが、先程妖舞に突っかかったような不真面目な天狗だと、中々そう上手くはいかないのだ。
現場の天狗が妖舞と敵対すると、近くの天狗も加勢する。中には上司に報告する者もいる。そうなるとその上司は「排除しろ」とマニュアル通りの指示を出すしかなくなり、その部下は嫌々でも従わざるを得なくなる。妖怪の山は縦社会なのは言うまでもない。
つまり最初に敵対したのが間違いだったのだ。
「余計?かどうかは分かんないけど、なんか山に入らせてくれなかったんだ、白狼天狗の野郎が。姉上は、俺達みたいな父上の一族は入れるよって言ってたのに。いや、余計だコレ!」
「そうだったんですね。すみませんでした……。その者にはあとで説教をしておきます。その者のおかげで、無用な争いが発生してしまった、と。厳重注意ですね。して、そいつは今どこに?」
「多分麓で伸びてると思う。サクッと倒せたし」
「分かりました。後程、部下を向かわせますね。ご迷惑をおかけしました」
「ホントにそーだよなー。相手にもならないザコだったし、迷惑だしー」
「相手にならない…ですか?近頃は厳しめに稽古しているはずなんですがね…やはりダメですか。ですがね、中にはそれなりに腕の立つ者もいるんですよ?」
「でも団扇持ってる奴以外は弱かったけどなー、鴉も白狼も鼻高も」
「こう見えても私は、天魔様の直属なんですよ。強さにはそれなりの自信があります」
「ちょくぞく…?直賊?」
「……?あぁ、えっと…そう、つまり、トップの少し下の立場!…みたいなものですねっ!それと私の夫も白狼天狗ですが、私と同じくらい強いんですから」
「へー!白狼ってザコばっかじゃないんだ…!」
「…今それを聞いたのが私だから良いですけど、私以外には言わないで下さいね?山中の白狼天狗から目の敵にされてしまいますよ」
「へへっ、そんなの構いやしないさ。どーせまた俺が勝つんだい」
「成程、だからこの辺りまで血の匂いが…。その年齢で白狼天狗を倒せる程の強さを持っている…相当鍛えているんですね。若いのに凄いですよ」
「鴉天狗みたいなのも倒しまくったぞ。穹っぽい服着てたから、多分鴉天狗だと思う」
「…凄まじいです。でも誰彼構わず敵に回すのは非常に危うい事。それが許されるのは、卓越した強さを持つ選ばれし者のみ。私にも勝てない今のあなたでは、それは自殺行為ですよ」
「『私にも勝てない』?ヘッ、それじゃあ試してみるか?俺がアンタに勝てねーかどうかッ!!」
有無を言わさずに椛の懐へ飛び込む妖舞。彼の踏み込みは並大抵の強さではない。鍛え抜かれた基礎体力、吸血鬼の血を持つ彼だからこそ成せる脅威の初速。加えて、足腰などの関節に合わせて羽ばたければ、背中の翼は第二のエンジンにすらなり得る。
「フッ……!」
真上から振り下ろされる妖舞の刃、しかし椛はそれに合わせ浅い角度で自身の太刀で受け止め、軽く受け流す。
「ッ…!!」
受け流されるのは慣れている。相手はいつも、妖夢や妖忌といったバケモノじみた強さの持ち主なのだ、受け止められるよりも受け流される方が多いと言っても過言ではない。
だから妖舞も受け流しに対応できるくらいには成長している。
普通なら受け流されないように新たな太刀筋を開発するものだが、受け流された後の事を考えるあたりが最高に妖舞らしい。
刀を上段から振り下ろした妖舞は、刀が地面につく直前に力を込め手を捻り、刃を反転させる。勢い付いた刀は重力加速度も相まってとても重くなっている。それでも妖舞は、そこから刀を持ち上げ、椛に一撃を与えんと迫る。
「うる゙ァアアァァアッ!!!」
突然の方向転換に一瞬たじろぐ椛。しかし剣の世界での一瞬とは、命取りにもなり得るものだ。妖舞の剣戟が顎を掠めた瞬間、椛は、改めてそう思い知った。
(燕返し…!?まさかこんな所でこの技を見れるとは思わなかったわ…。にしても、こんな幼子がこの技を使うなんて……指導者はこの子にどんな修行を…?)
椛に回避行動をとらせた所までは良かったが、真下から真上へ刀を持ち上げたばかりの妖舞は隙だらけ。椛は上手くそこに付け入り、妖舞の刀を打ち払った。
「あぁっ…!」
しかし妖舞の目は諦めていない。たとえ体勢が崩れようと相手に食らいつくだけの胆力がある。それを目から読み取った椛は、彼を気絶させて、彼の目的地である守矢神社まで運ぼうと瞬間的に思いついた。
たとえ口で降参を勧めても無理だろうなと彼を見ただけで分かる気がした。だから首を飛ばさんばかりの勢いで刃ではなく峰から太刀を振るう。
「くっ…」
(もらった…!)
体勢を崩された彼は咄嗟に、刀が通るであろう道筋を防ごうと、左手を太刀に伸ばす。それでも椛は、彼の手諸共太刀を振り抜く。
すると鈍い音を発し、呻き声も上げずに妖舞は刀を手放して倒れてしまう。
「…中々手強かったわね…。燕返しなんて、私もまだ会得できていないのに…」
無論、彼は燕返しという技と認識していない。
「急に切り返したら相手がビックリするかも!」という考えの元で訓練し、自然に身に付けていた技だ。
ちなみに燕返しは、かの有名な佐々木小次郎が得意としていた技だと言われている。
「う…っ……」
「おや…もう目が覚めたんですね。一瞬しか気絶させられなかったとは…」
「…………」
フラリと立ち上がる妖舞の足に力は込められていない。目覚めたばかりだからか、目は虚ろで、いつもうるさい彼が静かだ。
「俺、が……」
「?」
「…勝つ……!」
前に倒れると思われるほどの前傾姿勢で動く。相変わらず凄まじい初速だった。その手には何も握られていない。しかし何故か椛は悪寒がした。それこそ、命が脅かされているかのような。
「ハァッ……!!」
妖舞は何も持たない右の掌を椛に向ける。でも次の瞬間、その掌から鈍く光る刀が伸びてきた。
「ッッ!?」
椛は尻尾を膨らませるほど仰天し、飛び退く。そもそも妖舞が驚いていることも、椛にとっては不自然に思えた。
「う、うわあぁっ!?何だこれぇぇえ!!」
椛は、あれは彼の能力だろうと予想する。そうでもなければ肉体から刀のようなものが飛び出るなんてありえないからだ。彼がそれに驚いているのは…今のコレは偶然の発動だからだろう。
「いや、でもコレ…!!イケる!」
ニヤリと笑った妖舞は、今度は意図して(?)両手から刀を出し、椛に遅いかかる。椛は何度もパキンパキンと折り続けるが、妖舞は絶えず刀を出し続ける。
「────刀は無尽蔵かしら」
妖舞から距離をとり、太刀を地面に突き刺す。何事かと妖舞は警戒をするが、彼女はそれを見て柔らかく微笑む。
「ここまでです」
「は?」
「この勝負は一旦お預けにしましょう。このまま戦っても私が勝って終わりですが、あなたがその能力を使いこなせるようになれば…面白い戦いになると思いますよ?」
「…うーん…」
「今日あなたがここで暴れた件についてですが、他の天狗には、上の者達を通じて伝えましょう。あなたの事は、もう少し周知させる必要がある。その、秘めたる力も含めてね」
「じゃあ…俺はどうなるんだよ?」
「周知させるとは言っても、『警戒するように』という内容ではないです。当然、神社にも行って頂いて構いませんよ。『手を出すな』という内容ですから」
「おお!なんかそれカッケー!」
(カッコイイ…?どうして『手を出すな』が…?よく分からないわ…)
その後しばらくは、妖舞は一人で
能力の発動は限定的で、意図して発動するのはとても難しかったが、それでも彼は、少し自分の強さに本当の意味での自信が持てるようになったのであった。
噛ませ役にはその辺の天狗がピッタリなのでつい同じ流れを書いてしまう雑魚脳。妖怪の山の天狗なので生まれたての野良妖怪ほど雑魚でもない、かといって大妖怪とも言えないという、ある意味丁度いい立ち位置なんですよ、一般の天狗さん。原作の名有りモブでもないですし。
でも流石に、次の噛ませシーンでは別なやり方で書きます。
妖怪の山の天狗って、何故か組織と呼べるほどのコミュニティを築いてるので、他の妖怪には無いある種の人間臭さも持ってると思うんですよね。
だから、上からの命令に逆らったり勝手な行動をとる輩も少なからず出てくる。
影狼や姫の草の根ネットワークとは目的も実態も組織形態も違うし、そこら辺上手く描写できたら良いんですけどね。まぁ現段階では無理ですね((
というわけで前日談(妖舞ver.)でした。白狼の中にだって、強い奴はいる。…多分。
前日談はすごく厳選して書いた結果、妖舞という人選になりました。珍しいですね。
後日談は2人くらいですかね。
いや2人じゃないかもしれへんわ、予告しとくのやめておくわ。確信がないわ。(syamu並感)