色々と壮絶だったトーナメント戦から、早くも数ヶ月が経とうとしている。年を跨ぎ春を迎え、やがて夏も終わりを告げそうな頃…異変はついに激化した。
幻想郷を覆う博麗大結界が、揺らぎ始めているらしい。俺には博麗大結界が認知できないので、霊夢や霊愛、霊麗から伝え聞いただけだ。
なんでも去年の冬頃…トーナメント戦の少し前あたりから、この異変は起きていたらしい。ただその頃は、いつも通りの小さな綻びだったので、異変とは断定できなかったのだそう。
すぐに修正できるとはいえ、綻びの数がやけに多かった為、霊夢は結界に気を配ってたらしい。だからトーナメント戦の前辺りからはずっと俺に対して素っ気なくて、セックスレスだったとか。
幻想郷を守護する巫女としてはそれが正しい。なので当時、俺はその理由に深く納得して、原因究明までは誘うのを辞めた。
…と、ここまではまだ良かった。問題は今だ。ついにこの異変が本番を迎えたらしく、大結界が大きく歪み始めたらしい。
「…いよいよまずくなってきたわ…。こんな時に限って紫はどこに行ってんのよ…!」
神社の境内を、忙しなく歩き回る霊夢。結界の管理も仕事のうちではあるが、あくまでもそれは修繕程度のもの。ここまでの事態だともう一人の管理者、紫さんに頼らざるを得ない。なのに当の紫さんはもちろんの事、式である藍すら全く姿を見せない。
霊夢は焦燥を募らせる。普段なら大結界を少し弄れば飛び出してくる紫さんだが、こんな状態で下手に結界を弄れば、それこそ崩れ去ってしまうだろう。
「アンタも少しは捜してよね!アイツのこと!」
「もう捜してるよ、あちこちにスキマ開いて…。でも全く見つからねぇし気配すらねぇ。天魔様の屋敷、自宅にも行ってないようだし、白玉楼にも行ってなさそうだ。霊長園、守矢神社、紅魔館、永遠亭……月周辺にも痕跡は無い。めぼしい所は探し尽くしたと思うが、あと何処か候補は?」
「月の都の奥深くに囚われてるか、もしくは気配隠して人里にでも…?もしくは外の世界か…でもアイツが今外に行って何をするっての…?」
ブツブツと呟き、自問自答を繰り返しては頭を抱える。俺には全く実感が湧かないが、こんなに酷く焦りまくる霊夢を見ては、事実なのだと切に受け止める必要があるだろう。
そんな中、捜していた本人…八雲紫その人が、暗い表情で境内に現れた。いつものようなかなり胡散臭い空気は纏っておらずに、絶望感混じりのような、俺にまで霊夢の焦燥を伝播させるようなただならぬ気配を感じる。
紫さんが大真面目な顔をしているのだ、俺まで焦りを感じたっておかしくはない。
「ちょっと紫!!こんな時にどこ行ってんのよ!分かってると思うけど、今は大変な─────」
「こんな時だからこそよ。…不安定な結界をよく支えてくれたわね、霊夢。ありがとう。あとは、この騒動を沈静化させれば終わりよ」
「それは分かってるのよ。で?この異変の黒幕はどこにいるの?」
「今回あなたはお留守番。ここで、結界を支えて待っていて頂戴」
「待つって何を待つのよ?ちゃんと説明して」
「エスカルゴが敵の親玉を始末するのを…ね…。勿論、やってくれるわよね?」
「えっ…ええ…?まぁ、俺にできる事なら」
どうして俺なんだ。もしも俺の失態で幻想郷が滅んだらどうする。単なる異変じゃないにしろ、これは霊夢の仕事だろう。俺一人に任せるのは、ちょっと違うはずだ。
魔理沙はどうした。…いや、魔理沙はあくまで一般人だ。いつも異変解決に参加していたのは、言い方は悪いが彼女が勝手に首を突っ込んでくるだけだった。助けは求めるが元々は霊夢の仕事。あまり大っぴらには頼れない。
「ちょっと待ってよ、なんでエスカルゴなのよ?それなら私が行くべきでしょ」
「ダメよ。私には準備が、霊夢には結界の維持がある。もう動ける人員がいないの。時間も無いのだから、あまり無駄に突っぱねないで欲しいわ?あなただって分かっているんでしょ?もう本当に時間が無くなってきたってことくらい。しかも、これは厳密には異変ではないからね」
「っ……分かったわよ。でも長くはもたないわ、さっさとブチのめして来なさい!」
「じゃあ……」
「待ちなさいっ!!」
目の前に薄暗いスキマを開いて、俺を
ソレは着地するなり俺達三人の中に割って入り肩で息をしながら紫さんの服を掴む。
「私も連れて行きなさい…!!」
「レミリア…?どうしたのよこんな時に」
飛翔体の正体はレミリア・スカーレット。髪が乱れるのも厭わず、全速力で飛んできたらしい。この騒動は公になっていないはずだが…彼女なら察していてもおかしくはない。
「運命を視た。エスカルゴ一人じゃ失敗するわ。だから私も行く」
「失敗…?おかしな話ね。破壊するだけなのに、彼が失敗するはず無いでしょう」
破壊とは…?黒幕を倒すのではなかったのか?まだ説明を受けてないからなのかは分からないが話が微妙に理解できない。
「でも未来を見る限りでは失敗していたわ。この幻想郷が、荒れ果てていたからね。それを失敗と言わずしてなんと言うの?」
「…分かった、彼だけを行かせるのはやめるわ。でも何故あなたなの?」
「最近、我が紅魔館は随分賑やかになってねぇ。ちょいと食料が不足しかけてるのさ。
背筋がゾワリとした。毛が逆立つような奇妙な感覚を覚える。レミリアの言葉に含められている圧力が、尋常じゃない。有無を言わさぬ圧力だ。いいから黙って私を行かせろ、と言いそうだ。
というより食料が不足という点が気になるが…そんなに不足しているのだろうか?ちょくちょく弦月姫と買い物に行くのだが…。
「そっちが本音ね。…わかったわ、行ってきて」
「OK。何をすればいいの?」
「権威の象徴を破壊し、我々妖怪の力を人間共に見せつけなさい。夜の闇をも畏れぬ外の人間は、もう何も畏れていない。そんな人間共には、再び畏れを抱かせるのみよ」
「面白そうね。ノッた。…行きましょっ♪」
「お、おう……!?」
急な態度の変わり様に一瞬ビビってしまうが、時間が無いらしいので俺がスキマを開いて、その権威の象徴とやらの目前に移動した。
すなわち、国会議事堂前に。
「ん〜…、空気が悪いわねぇ。さっさと幻想郷に戻りたいかも」
「同感。きったねー空気してやがるな全く…首都東京…」
するとそこに例によって人間が集まってきた。服を見るに警備員だろうが、その人数がちょっと多いような気がする。
「お前達か、『八雲紫の代理の者』というのは。だが
警備員達は、テーザー銃のような実銃とは少し違う形状の銃を構える。いつから日本は、あんなゴツイ銃の所持を許可したのやら。
「はァ?代理?なんの話よ。私達はただ、ココを破壊しにきただけ。あなた達の方こそ、今ここで死にたくなければ消え失せなさい。殺すわよ」
「う、撃てェ!!」
「レミリアッ!!」
彼女を庇うと全身にグサグサと電極が刺さる。ピリピリと電気が流れてくるが、弱すぎてお話にならない。これならレミリアに当たっても大したダメージにならないだろう。…なんなら、電極が刺さる方が痛いかもしれない。
「何よ、もう…あんなのが私に当たるわけがないでしょ?」
「それもそっか。それにしてもやっぱ弱いなぁ、テーザー銃の電気は。充電にすらならないや」
「あら。にとりの充電器の方が強いのかしら?」
「そうっぽいね。…これが本当のテーザー銃だ、畏れ戦け人間ッ!雷武器『雷銃』!!」
両手に銃を作り周囲の人間…警備員も通行人も見境なく撃ち抜いていく。当たり所が良ければ、きっと死なない威力だ。
「呆気ないわね。気分はガンマンってところ?」
「かもな」
「愉しそうでいいじゃない。じゃあ私は…。紅符『不夜城レッド』!!」
紅色で巨大な十字のレーザーを放つと、一端に触れた議事堂は、脆くもガラガラと崩れていく。俺が壊してやりたかったので、美味しいとこ取りされた感がハンパない。
「美味しいとこ取りかよォ」
「フフン、たまには私にも暴れさせて?」
「はぁ…俺に任された事なのに」
「じゃあトドメ刺せばいいじゃない、このダサい建物に。私は外装を崩しただけだし、中枢はまだ機能してるでしょ」
「そう…なのかなぁ。そんじゃ〜俺もやるかっ!一閃『Mishap of Thunder』!!」
スペルの宣言をして、上空に現れたるは綿密な魔法陣。そこから飛び出すのは毎回恒例、極太の雷撃。耳を劈く轟音が鳴り響いたと思えば、嘗て議事堂があった場所にクレーターができていた。
…しかしその中に、少々奇っ怪なモノを発見。地下にあったらしい重厚な部屋のようなモノが、部屋の上部に穴を開けた状態で露出していた。
しかも周囲には妙な道具があり、所々で資料のような紙がメラメラと燃えている。
「…魔法具?なんで外の世界にこんなモノが…」
「なんだそりゃ?あの変な道具がソレか?」
「そうね。前に本で見た事があるわ。でも随分と古い物を扱ってるのね。…これは推測だけれど…ここはオカルトを研究する施設ってとこかしら?私はこの建物の事をよく知らないけれど、あまり一般人が立ち寄るような施設ではないことだけは確かでしょうし」
「あぁ。ここは政治家が雁首揃えて話し合う施設だよ」
「政治家?話し合う?…あぁ、そういう事ね…」
「…?」
レミリアは何か分かったようだ。しかし俺にはなんの事やら検討もつかない。…でもまぁ、別にそれもいいかもしれない。外の世界に関しては、もうあまり興味が無い。
「もしかしたら、オカルトを手当り次第に探って我々幻想郷の妖怪に対抗しようとしてるのかも。出来損ないの魔法具も、あちらこちらにあるわ」
「えぇー…なんでそんな無駄なことを…。どうせ勝てやしないのに」
「とりあえず施設は完全に破壊しておきましょ。道具も破壊しておかないとね。…ストックはあるかしら?私なら有事の際を考慮して色んな場所に隠すけれど」
「でもここにあるのは出来損ないだろ?しかも、研究途中っぽいし。それなら、隠す必要もないんじゃないか?」
「やっぱりあなたは単純ねぇ。相手は姑息な人間なのよ?」
「うーん…」
(…とはいえ、たまにはこうして問題を起こしてくれた方が霊夢も危機感ってモンが出てくるかもしれないし…いざとなれば、紅魔館勢力だけでも制圧できるし…ここまで木っ端微塵にしとけば、逆らう気は起きないかしらね)
俺は大して考えていないが、レミリアはかなり考えているようだ。俺に分かることも、そして、俺には分からないようなことも、考えていることだろう。
「ところで、どうして外に俺一人で来てたら失敗してたんだ?」
「へっ?…あー、そういえばそんなことも言ったかしら。あれはウソよ、ただ私が外に来たかっただけ。ダシに使って悪かったわね」
「なんだ、やっぱそうかぁ。俺がこの程度の仕事抜かるわけねーもんなぁ」
(…ホントは、あなた一人で来ていたら一般人を無駄に殺しすぎたからなんだけど…)
「よし、じゃあ生き残ってる人間は皆殺しにしてやろーぜ!」
「あの落雷で生き残った人間が居るのかしら。まぁ少しは居るでしょうが、そいつには『妖怪の恐ろしさ』を伝えるためのスピーカー役になってもらわなきゃ。私達が外界に来た意味が無くなるじゃないの」
「あー…まぁ、そっか」
近くで血の臭いがする。不味そうな臭いなので恐らく男だ。議事堂の残骸の中から臭ってくる。新鮮な臭いではあるので、生きてる人間だろう。
となればアイツはスルーすべきか。
「そうだ。さっき言ってた紅魔館の食料問題さ、アレはどうするんだ?」
「そんなの、この騒動解決の見返りとして八雲紫から食料を受け取るってだけよ。アレは、ただの報酬請求の会話よ」
「外で人間を攫うのかと思ったよ」
「それも良いかもしれないわね。でも空気が悪いから、今日のところは早く帰りましょ」
「そうだな。そうすっか」
「…それにしても、北朝鮮?に行った時と違って張り合いが無いわね。予想以上に不完全燃焼よ。帰ったら弾幕ごっこに付き合いなさい」
「OK、ノッた」
残り火がチラつく議事堂を他所目に、俺達はさっさと幻想郷へと引き返した。生き残りが博麗大結界を攻撃していた者達にこの一大事を伝えたようで、俺達が幻想郷に帰る頃には結界の歪みは一切無くなっていたそうだ。
しかも、そいつらには紫さんが改めて雑魚を送り込むという徹底ぶり。これなら安全だろう。つまりこれで霊夢とも数ヶ月ぶりにヤレるというわけである。めでたしめでたしだ。
その後のことは、紫さんから一部聞き出した。それによると、外の人間はこれに懲りたらしく、博麗大結界に手を出すことは無くなったようだ。
ちなみに幻想郷に侵攻しようとしていた理由は土地開発のためだそうな。その為に大自然を破壊するとは、流石としか言いようがない。
だからそれを止めるべく紫さんは交渉していたらしいが、政府は、妖怪という非科学的な存在を認めながらもその力を見誤っていたようだ。
そして、政府は新たに「結界省」という省庁を設立。どうやら俺が思っていた以上にオカルトは世間に浸透しているようだった。
科学世紀とも呼べそうなこのご時世に、まさかオカルトが注目されて、安倍晴明が活躍していたような結界を扱う時代に戻るとは思わなかった。
果たして、この騒動が吉と出るか凶と出るか。外の世界の未来のことは、俺にもレミリアにも、計り知れないのであった。
外の世界、オカルトと言えば菫子ですが、菫子は関係なかったり。菫子みたいな、オカルト好きな人間が関わってるというだけです。
名無しモブ的な。
日本は未来でも武装は軽そう。(偏見)
蓮子がこの騒動を知らなかったのは、政府が隠蔽したからです。おのれ政府