※この作品はR-18です。

吸血鬼人間の幻想生活   作:エスカルゴ・スカーレット

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サイキョーを目指す者

 トーナメント戦が終わってからしばらくの間、チルノは誰とも遊ばず、会わず、一人自宅に籠りひたすら思案していた。大妖精にも三妖精にも、クラウンピースにも会わず、寺子屋にも行かず、食事などもあまり摂らず。

 自分が何故負けたのか…何故そうなったのか。そして、何が足りなかったのか。チルノなりに、ひたすら考え続けていた。

 

(あたいは負けた。霊夢に負けてしまった。絶対霊夢に勝ってやるって、そう決めたはずなのに。特訓もあんなに頑張ったのに…どうしてあたいは負けたの…?)

 

 負けたことが余程悔しかったのだろう。鎌倉の入口を、完全に閉じ切るという徹底ぶりである。彼女の家を誰かが見れば、氷雪に覆われた大岩のように見えなくもないほどである。

 

(本気出して負けたんじゃない。本気を出す前にやられた。でも出し惜しみをしたわけじゃない。まだ準備しているところだったから……。だからもしも本気を出せていれば、あの時に勝てたかもしれない。多分だけど。あたいが負けた理由は、多分これ。本気を出すのが遅かったってこと…)

 

 そうやってうーん、うーんと考え続け、早くも数日が経過した。そんなある日、とうとう彼女は妙案を思いついた。

 

「…そうだ!!わかった、あたいわかった…!」

 

 彼女は目を輝かせ、鎌倉を破壊して飛び出し、すぐさま特訓を始める。チルノにとってこれは、考え方を根本から覆すかのような、とても大きな発見だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たのもー!!」

 

 ある夏の満月の夜、博麗神社の境内にチルノの声が響いてきた。のんべんだらりと過ごしていた俺達は、そのままの空気感で四つん這いで縁側に向かった。

 

「おー、よぉチルノ、どーしたんだこんな夜に。団子はもう食べちゃったぞ」

 

「あっ!エスカルゴここに居たんだ!見てもらいたかったから丁度いいや!」

 

「見てもらいたかったって何を?」

 

「ふっふーん…。霊愛!あたいと勝負だ!!」

 

「え…何?急に言われても…。なんで私?そこはお父さんじゃないの?」

 

「あたいは去年、トーナメントで霊夢に負けた!だから霊愛にはリベンジの礎になってもらう!」

 

 リベンジの礎とは…。流石はチルノだ。強さを求めているというだけあって、彼女の向上心には目を見張るものがある。

 

「パス。なんで私が相手しなきゃダメなワケ?」

 

「霊愛。相手してやんなさい」

 

「は!?」

 

 霊愛に戦うようにと促したのは、他でもない、母である霊夢だった。先程までのダラケた様子は微塵も見せていない。まるで異変解決に向かっているときのような、真剣な目だった。

 

「…なんで?リベンジしたいんなら、お母さんが相手すればいいじゃん。私が戦う必要ないよ」

 

「いいから戦いなさい。次期博麗の巫女たるもの売られた喧嘩は買わなきゃダメよ」

 

「っ……」

 

 博麗の巫女という仕事に誇りをもちかけている霊愛にとって、その言葉はとても効いたようだ。御札とお祓い棒など戦闘に必要な道具を用意し、夜の境内にてチルノの前に堂々と立った。するとバサリと翼が生え、牙も伸びてくる。

 俺と霊夢、霊麗は縁側で二人を見守っている。

 

「やっときた!霊愛は満月の夜に本気を出せるんだよなっ!だからあたいは、今夜を狙ったんだ!いざ、尋常に勝負!!」

 

「……」

 

 わざわざ霊愛が本気を出せる時を選んだあたりチルノの本気度が窺えるというものだ。チルノと共に力を高め合った俺としてはそのひたむきさがとても嬉しい。

 

「あたいはすぐにでも本気を出せるぞ!!」

 

「ふーん…いいよ、本気出してみなよ…!!私は完璧にあんたを叩きのめす!」

 

 面白くなりそうね、と隣で霊夢が囁く。俺も、何だかそんな気がしてきた。正直言うと、霊愛とチルノ、どちらが勝ってもおかしくないだろう。こんな事を言えば、霊愛に怒られるだろうが…。

 

「じゃ、私が合図出すわね。……始め!!」

 

 霊夢のその声は、夜の境内に綺麗に響き渡る。それと同時に、二人は動き出した。トーナメントでは大抵の場合、合図後は距離を取って様子見をする人が多かった。しかしこの二人はそんな事をせずに、互いに前進している。

 現在、霊愛は満月の光に照らされ吸血鬼として覚醒中。半妖である彼女だが、ほぼ妖怪である。そんな彼女を恐れもせずに立ち向かうチルノは、とても勇敢に見える。

 

「ハアアァァッ!!」

 

「凍符『パーフェクトフリーズ』!!」

 

 きた、チルノの十八番。このスペルの凄い所は殆どの種類の弾幕を凍らせることができるところだろう。レーザー以外は凍らせる事が可能なのは検証済みである。

 今回は霊愛の御札を凍らせていっている。

 

「まだまだぁぁぁッ!!!」

 

「あたいもまだまだぁっ!!」

 

 傍から見れば消耗戦に見える。だが幾度となくチルノと特訓をしてきた俺から見れば、チルノは現在、力(ねつ)を溜めている途中だ。本気(バーニング)へ向けて。

 

「涼しくなったから、戦いやすくなったよ!!」

 

 霊愛が御札を投げる速度が上がった。今は夏。夜だって暑い昨今、チルノの能力では、皮肉にも霊愛に涼しさを与えているようなものだった。

 

「フン、そんなのは今だけだ!いっぱい溜め込んでから出すんじゃなくって…少し溜めたらすぐに出してやればいい!」

 

(何のこと…?)

 

「これがあたいの本気だっ!!バーニングぅぅ…チルノぉぉぉ!!」

 

「熱ッ……いや、暑い……!」

 

 ドンッ!という軽い爆発と共に火柱が上がり、全方位に炎の弾幕がばら撒かれる。

 アレを知っている俺は内心ワクワクしていた。これこそチルノの本気。久しぶりに彼女の本気を見られるのだ、と。

 一方で、あれを初めて見る博麗三人組は、煙の中から姿を現したチルノを見て、驚愕していた。

 

「……っ!?」

 

 姿を現したるは、衣服や髪色も全てが変色し、氷翼が全て炎に起きかわった特異な姿のチルノ。通称・バーニングチルノだ。

 偶然の産物と言えるこの成果をモノにしているあたり、チルノもある種の天才だと言えそうだ。バーニングチルノの形態自体が偶然の産物だし、それに加えてのこの作戦。いくら偶然とはいえ、環境の急激な変化という霊愛の弱点を突いてくるなんて、そうそうあることでは無い。

 

「チルノが燃えてる!?」

 

「ど〜だ霊愛、霊夢!これがあたいの本気だ!!そして……!!」

 

 チルノが更に炎の弾幕を撒き散らすと、それは霊愛の周囲に着弾し、高く燃え上がる火柱と変化した。炎に包囲されたのでは、霊愛は身体能力を満足に活かせない。

 これは良い狙いだと言わざるを得ない。弱点を突く意図があったのかは分からないが、包囲するつもりではあっただろう。それが、二重の意味で効いている。まさに効果覿面。

 

「あ、あぁあっ…!暑…い……動け…ない…!」

 

 霊愛は吸血鬼の血を引いている。だからこそ、半妖でありながら普通の半妖より高い身体能力を有している。しかし吸血鬼の血を引いているからこその弱点もある。

 吸血鬼は共通して、環境の急激な変化に弱い。

 いざ弱点を突かれるとろくに動けなくなるのはどんな種族も変わらない。現在の霊愛は、まさにそんな状態だった。

 

「効いてる!?よっしゃあ、いくぞあたい!」

 

「このっ…妖精がぁっ!あんまチョーシ乗んないでよねっ!!」

 

 俺が見るにあれはかなり効いている。霊愛は、吸血鬼として覚醒していてもあそこまで獰猛さを発揮することなんてほぼ無いからだ。

 

「驚いた…。チルノの奴あんな能力もあったの?それともあんたのお母さんが与えたワケ?」

 

「ンなワケ。…チルノって確かに冷気を操る能力なんだけど、能力の本質は、実は熱量操作する事だったのさ。割と最近、それに気付いてよ」

 

「熱量操作…って何よ?わかりやすく言って」

 

「簡単に言うと、熱を奪うor放出するみたいな?冷気を操ってたってのは、その実、物質から熱を奪ってたってワケだな。熱が奪われると、物質の温度は当然下がる。例えば、水だったら凍るな。これまでは、奪った熱を知らない内に放出してたようだけど、それを意図的に溜めて……それからこんな風に放出できるように特訓したんだ」

 

 それをこんな簡単に変身できるようになるまで鍛え上げたのは、紛れもなくチルノ自身の努力の結果だ。これは凄い事だ。初めてのときなんて、溶けてしまうほど苦しんでいたというのに。

 

「成程ね、能力をトコトン鍛えた結果って事ね。化けたわね……アレなら下手すれば……」

 

「な。楽しみだな、チルノの成長がよ」

 

「あー?そこは娘に期待しなさいよ。それとも、いつの間にやらあのチルノとも繋がっていたり?意味深な方で」

 

「ンなワケねーだろ、そこまで見境ないわけじゃないからな?」

 

「見境ないアンタだからこそ言ってんのよ?」

 

「うぐ〜…」

 

 戦況はほぼ五分と五分。ほんの僅かにチルノが押しているように見えるが、段々と火力が落ちてきている。短い間しか溜めていないと、それだけ変身状態は短いというわけだ。

 

「ハアァァァッ…!!」

 

 霊愛は己を包囲する火柱が弱まるのと同時に、火柱に触れることも厭わずにチルノに肉薄する。いくら火力が弱まったからとはいえ直線で向かうなんて無謀にも思える。

 しかし、無謀を地で行くのがあの子だ。いつか腕や足が飛ぶなどの大怪我をしそうで、実は心配している。

 

「ッ!!」

 

 すると、チルノの炎がみるみる内に彼女の中に吸い込まれていく。やがて背中の炎の翼が尽きたその時、淡い光を放ちチルノは元の姿に戻った。

 

「その首もらった!」

 

「…!氷剣『アイシクルソード』!!」

 

 首を飛ばさんとする霊愛の横振りお祓い棒を、作ったばかりの剣でなんとか受け止めた。霊愛のお祓い棒は切れないし、チルノの剣も折れない。

 棒と刀剣を交えた二人は、押し切ってやろうと押し合い圧し合いしている。こうなれば力が強い霊愛が有利だ。

 

「んぎぎぎっ…!」

 

「妖精がぁぁ…サイキョーだの何だの…調子に…乗ってんじゃないよ…!!」

 

「ううぅぅっ…」

 

 牙を剥き出しにし、目をギラリと光らせると、チルノは一瞬だけ萎縮したように泣きそうな顔になった。それでもなんとか持ち直し、霊愛とまた押し合うが……。

 

「へっ…?」

 

「!?」

 

 チルノを押していた霊愛が、なぜだかチルノに押し返され、ポスンと座り込んでしまったのだ。霊愛の瞳はもう紅ではなく黒に戻っていて、牙も元に戻り、翼も消えている。

 

「まさかっ…」

 

 嫌な予感がした霊愛は夜空を見上げた。彼女の予感は、残念ながら的中してしまっている。即ち雲が月を覆い隠してしまっていたのだった。

 

「あぁ…そういう事ね…」

 

 霊夢の呟きに、俺は小さく頷いた。これは少し忘れられがちだが、霊愛は特別な半妖だ。吸血鬼として覚醒するのは、実は、今日のような満月の夜ではない。満月の光を浴びている間のみ(・・・・・・・・・・・・・)だ。

 つまり満月の夜でも曇りなら意味が無いのだ。

 どうしてこんな中途半端な特性なのかは誰にも分からない。仮定するとしたら、人間の血が特別強いという可能性がある。霊愛の母は人間の霊夢なのだ、霊夢なら納得だろう。

 混血には、まだまだ謎が多い。

 

「よしっ……よし、もう少しだっ!!」

 

「させないっ!霊符『夢想封印 瞬』!!」

 

 回避の意味も含めているのか、ホーミング性の弾幕を放ちながら高速で移動を始める。どうやら霊愛も、一筋縄ではいかなさそうである。

 

「速い……見えない……っ!」

 

 覚醒時の方が速いのは間違いないが、それでも霊愛が速い事に変わりはない。チルノは、妖精の中では強い力を持つが、身体能力は他の妖精達と大差ない。目で追えないのも、無理はない。

 霊愛は高速で移動しながら、大きくなる結界や弾幕などを放つ。チルノはそれらを回避するのに手一杯で、抵抗しようとはするが剣を空振りしてばかりだ。

 すると、泣きそうな顔になってくるチルノに、霊夢が一声掛けてやる。

 

「コラ、チルノォ!私を倒したいなんて言ってんならねぇ、霊愛如きに負けてんじゃないわよ!!霊愛に勝てず私に勝てるワケないでしょーが!」

 

「っ……!!」

 

「霊愛に勝てないようなら、二度と私に挑まないこと!勝てるわけがないんだから。幾らあんたがバカでも、それくらい分かるわよね?」

 

「……わかった!喰らえ霊愛!氷符『アイシクルマシンガン』!!」

 

「ッッ!!?」

 

 霊愛を目で追うことを辞めたチルノは、彼女に当てるのを諦め、彼女の移動先にツララ状の氷の塊を高速で大連射する。

 移動先に弾幕……つまり霊愛は自ら弾幕の中に身を投げるようになるわけである。しかもこれはツララ状の弾幕だ。痛いのは言うまでもない。

 確かこのスペルは、遠距離だとムラがあり楽に回避できたはずだが、反対に近距離だと……。

 

「ぐ、う、あぁああぁっ……い、痛いっ……!!こ、の……妖精、のくせにィッ……!!」

 

 掠り、たまに被弾したのか、霊愛の血の匂いが漂ってくる。猛スピードで接近し、猛スピードで尖った弾幕に被弾する。こうなるのが自然だ。

 

「うーわー、いったそー。お姉ちゃん、吸血鬼化解除されててよかったね〜」

 

 まるで他人事のように、霊麗が言う。実の姉が血を流して戦っているのに、あまりにも無関心に思えてならない。

 というのも、これは二人の生い立ちの違いからくるものである。純粋な吸血鬼だからか、霊麗は生まれてこの方ろくに怪我をした事がない。元々肉体が丈夫というのもあるが、怪我をしてもすぐ治ってしまうからだ。

 だから、彼女の中では、流血程度の負傷は怪我ではないのである。

 

「何でだ?吸血鬼の形態の方が良くないか?すぐ治るしよ」

 

「だって、翼があったらもっと被弾するじゃん。翼って移動には向いてると思うけど、間が狭〜い弾幕を回避するには……うーん……って感じ〜。痛いのはヤダもん」

 

「そうだな。痛いのは嫌だなぁ」

 

「お父さんは痛いのに慣れてるでしょー」

 

「まぁそうだけどな」

 

「暢気ね、あんた達……」

 

 霊夢が呆れるのも無理はないような気がする。娘が血を流しているのに心配の欠片もない父親が居るなんて、普通に考えたら有り得ないだろう。

 それでも霊愛だって半妖だ、怪我なんてすぐに治る。明日や明後日になれば、傷跡も消えているはずだ。なんなら治癒魔法をかければそれで済む話である。

 それに加え、霊愛は俺の子供達の中の誰よりもメンタルが強い。なにも口が悪いだけではない。

 

「ブッ飛ばしてやる!ハァアアアアッッ…!!」

 

 霊愛の霊力が急に高まる。初対面の時、霊夢が俺を殴って倒したように、霊愛もチルノを殴ってカタをつけるつもりらしい。

 そして、先程の反省を早速活かしているのか、霊力での肉体強化も怠っていない。

 

「フン、もうあたいには近付かせないからねっ!

『アイシクルライズ』!!」

 

「ッッ─────!!」

 

 足元を凍らせると巨大な霜柱が大量発生した。チルノの身長の倍はありそうなほどの大きさだ。

 チルノは霊愛が接近してきたその瞬間を上手く見切り、霊愛は見事、その霜柱に激突した。肌は軽く赤くなっており、霜焼けのようになっているように見える。

 

「今だっ!霜符『フロストコラムス』!!」

 

「しまっ……」

 

 霜柱を発射したかと思えば、今度は地面全体を一瞬にして凍らせて、激突して怯んでいた霊愛の脚を氷で捕らえてしまった。これでもう身動きがとれなくなったということだ。

 

「くっ……!!」

 

 御札を投げるが、チルノはそれを切るなり回避するなりしていなしていく。夢想封印を使えど、チルノは巨大な氷の壁でガードするばかりだ。

 

「どーだ!あたいの勝ちだ!認めるんならトドメだけは勘弁してやる!」

 

「誰が認めるもんですか、チルノに負けたなんてこと…!!」

 

(どうせならバーニングでキメたいけど、確実に倒すには普通に倒した方が良い……よね!)

 

 身動きが取れなくなった霊愛を前に、チルノはなにやら考え込んでいる。この戦いがどのような結末を迎えるか、段々と気になってきた。

 

「霊愛はそう思ってても今日はあたいの勝ちだ!氷塊『グレートクラッシャー』!!」

 

 空に手を掲げ、巨大な氷を作り出す。それは、実にチルノの身長の二倍…いや三倍はありそうなとんでもない大きさだ。

 チルノは、それで霊愛を思い切り殴った。その勢いで脚を封じていた氷も砕け散っているが今の霊愛には逃げたり反撃する気力は塵ほども残っておらず……。

 

「マジ……痛いん、です……けど……」

 

 頭から血を流しながら、苦痛に顔を歪め境内に倒れてしまった。

 なお、直後に彼女に月光が差し込み、吸血鬼に覚醒して怪我も治り、難なく復活した。

 

「あーらら……霊愛、負けちゃったの?チルノ、強くなったのねぇ…。まぁ、そんな事もあるわ。気にしたら負けよ」

 

「ドンマイ、お姉ちゃん」

 

「………………………………………」

 

 霊夢と霊麗の声を聞いて、明らかに霊愛が放つオーラが変わった。背中しか見えないが、そんな気がする。

 

「やったっ!やったエスカルゴ!霊愛に勝った!ねーね、久しぶりに褒めて褒めてっ!!」

 

「あ、あー……そうだな、よくやっ……」

 

 ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶチルノの傍ら、霊愛は変わらず此方に背中を向けて俯いている。彼女なりにすごく悔しがっているなんてことは、顔が見えなくても何となく伝わってきている。

 次期とはいえ、博麗の巫女という仕事に誇りを持っている彼女だから、霊夢と違って修行なども真面目にしてきたし、誰より強くなる事を目標としてきた。

 そんな霊愛を見てしまうと、どうしても素直に

「よくやった」とチルノに言えなくなった。

 

「……何?お父さん、私に遠慮してんの?素直に褒めてやればいいじゃん、いつもみたいにさぁ。そーやってあからさまに遠慮すんの、ウザイからやめてくんない?」

 

 彼女の言葉一つ一つが心に刺さって仕方ない。そう、霊愛に遠慮しているのは言うまでもない。自分を倒した奴を自分の父親が目の前で褒めるのなんて、イライラするどころではないだろう…と思ったからだ。

 しかし、それが彼女の逆鱗に触れたらしい。

 

「あーもういいよ、私が居なければいいんだね。わかったわかった。どっか行ってくるね〜」

 

「待っ……」

 

 顔も見せぬまま、どこへともなく飛んで行く。止めようと思ったが、止められなかった。別に、霊愛が速かったからではない。止めてもどうにもならないことが分かっていたからだった。

 

「あーあー、あの子ってば……。あぁなったら、暫くは面倒かもしれないわね。さ、霊麗、私達はもう寝ましょ」

 

「そーだね。お父さんは?寝ないの?」

 

「……暫く、夜風に当たってるよ」

 

「ふーん。おやすみなさ〜い」

 

「ああ、おやすみ」

 

 ヒラヒラと手を振って、暢気な親子は屋内へと戻っていく。それを見送り、俺は溜息をつきつつチルノの頭を黙って撫で回している。誰かの目が無くなっても、やっぱりいつものようには褒めてやれないのがもどかしい。

 

「霊愛のヤツ、不貞腐れてるね。……でも、次に戦ったら勝てるかなぁ……?」

 

「……。どうだろう。多分、次に戦う時は霊愛もチルノも強くなってるはずだ。強くなるのに限界なんて無い。一緒に頑張ろうな」

 

「うんっ!あたいもっと頑張るよ!」

 

「応援してるよ、チルノ」

 

「ありがとっ!あたいも、エスカルゴのこと応援してるね!」

 

「サンキュ。嬉しいよ」

 

(巫月も霊愛に勝ってたから、霊愛には勝てても巫月に勝てるかわかんないな〜……あーあ……)

 

 結局、霊愛が神社に帰ってきたのは朝になってからだった。目元が酷く腫れてたので、どこかで泣いてきたのはよく分かった。

 だから俺は、先程言えなかった慰め・励ましの言葉を伝えると…当初は不機嫌な様子だった娘が堰を切ったようにワンワン泣き始めた。

 そんな様子に、俺はただひたすら困惑したのと同時に……この子はただの、強いだけの年頃の子供なんだと痛感したのである。




怪我なんて治っちゃえばそれでいいと考えているくせに巫月に対してはめっちゃ心配した父親の屑
初めての子供だからなのか、巫月に対しては特別思い入れがあるようで……

決して霊愛を可愛がってないわけじゃないです。巫月に対しての想いがなんか異常なだけです。
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