※この作品はR-18です。

吸血鬼人間の幻想生活   作:エスカルゴ・スカーレット

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慰めら霊愛

「魔理沙ぁ、いるー?」

 

「居るぜー、入ってきな」

 

 霊愛が声を張り上げると、中から魔理沙の声が飛んできた。夜なのを気にしてなのか、その声はあまり大きくない。

 

「おじゃましまーす」

 

 魔法使いとなった彼女は、睡眠を必要としない肉体になったのをいいことに、昼夜問わず研究に励んでいる。だから博麗神社を出た霊愛はここに立ち寄ったのだ。

 

「どうしたどうした、こんな夜遅くに。しかも、所々濡れてないか?」

 

「くっついてた氷が解けたんだよ」

 

「氷?……まぁアレだ。紅茶でも飲むか。そんでよかったら話聞かせてくれよ。どうして、こんな夜遅くにこんな辛気臭い森に来たのかをな」

 

 明かりを点けて、茶請けにクッキーなども用意してくれる。霊愛はそれらに手を伸ばしながら、魔理沙に話し始めた。

 

「……実は、さっきさ。私、チルノに負けてさ」

 

「へぇ、チルノに?それでそれで?」

 

「それでも何も……それだけだよ」

 

「ははっ、そいつはウソだな!それだけで(・・・・・)夜中にここまで来るタマかよ、お前が。赤ん坊の頃からお前を見てきたこの私が言うんだ、間違いない!そうだろう?」

 

 流石魔理沙だなぁ、と霊愛は密かに舌を巻く。博麗の巫女のような勘は無くとも、こういう勘はしっかり備えているのだ。

 そこまで分かっていても、やはり敗北を認めるのは彼女にとってかなりの苦痛であった。口内が渇き、妙な汗が流れ……変に緊張してくる。

 紅茶を喉に流し込んで軽く口を潤して、彼女は重々しく口を開いた。

 

「……負けた、のにさ。お父さんはチルノを褒めようとするし、霊麗は『ドンマイ』で済ますし、お母さんは『そんな事もある、気にしたら負け』なんて言うし……なんかもう、ヤになって……。何なのもう……私……頑張ったのに……」

 

「うーん……エスカルゴはチルノを育ててる……というより一緒に頑張ってるようだし、チルノを褒めようとするのは当然だな。まぁ『ドンマイ』なんて軽い言い方は、最初はイラつくだろうが、それこそ『気にしたら負け』だと思うぞ?誰しも負けることはあるんだぜ?たかが敗北でクヨクヨしてられん」

 

「……やっぱ魔理沙には分からないよね……私の気持ちなんてさ」

 

「いやいや、少なくとも霊夢よりは分かってると自負してるさ。まぁ、アレだ。負けてしまうのは仕方ないことなんだよ。受け入れて、特訓して、強くなっていく。それだけでいいんだ。私達には時間があるんだから」

 

「……そんな簡単に言わないで……」

 

「今の霊愛はさ……はっきり言わせてもらうが、チルノに負けたのを認めたくないだけなんだろ?地底のトーナメントで巫月に負けたけど、相手の姉がほぼ互角だったから受け入れられた。けど、今回の相手は下等種族で力の無い妖精だから凄く悔しい。受け入れられない。……そんな所か?」

 

「………………」

 

「だとしたら幼稚だなぁ。アッハッハッハッ!」

 

「なっ……!?」

 

「ん、図星だな?」

 

「っ……」

 

 ニッと笑う魔理沙を見て、やられたと苦い顔をする霊愛。自分は心のどこかで、いや誰が見ても明らかなほど、チルノを見下していた。なのに、その相手に負けたから拗ねているだけだ、と。

 自分でも薄々気付いていたその事実を、改めて突き付けられ、霊愛は黙り込むしかなかった。

 

「……自分がチルノにどう思っていたか気付いたようだし、私からはもう言わないでおこう。他に何か言うとすれば……そうだな、負けるのなんて誰にでもあるってことだな。私もよく負けるし」

 

「言うほど、魔理沙が負ける事ってあんの……?お母さんと私と、あとお父さん以外には負けた事なさそうなのに」

 

「おっ、何だ何だぁ?私の事をそんなに強いって思ってくれてたのか?」

 

「だって、私が魔理沙と戦ったら絶対に何回かは私も被弾するしさ……。異変だって、何回も解決してるらしいじゃん」

 

「まぁ、首を突っ込んでるだけだけどな。けど、これからはお前だってそうなるんだ。霊夢の跡を継いでな。何年後になるかは、わからんけどな」

 

「無理だよ、私には……。異変なんて私には解決できっこない……」

 

「なーに言ってんだよ。霊夢だって、こないだはエスカルゴに負けたじゃないか。まぁそれは偶然だろうがな、誰しも負けることは有り得るんだ。私もチルノに負けたことはあるんだぜ?」

 

「えっ……え?魔理沙が?チルノに?ウソ……」

 

 思いがけないセリフに霊愛は驚きが隠せない。何故なら、霊愛の思う魔理沙とは「異変解決までこなせる凄腕」だからだ。

 

「本当なんだなー、これが。覚えてる中で二回は負けてるかな」

 

「!?」

 

「やたら弾幕を凍らされた時と、色んなスペルを使って翻弄してきた時だったかな。悔しいがな、それが現実ってやつなんだな。だからそのとき、奴は探し物をしていたようだったから嘘の方向を教えてやったよ」

 

「えー……」

 

「いい気味だと思ったよ。んで、それでこの話はおしまい。もう恨みっこ無しだ。悔しいのは確かだけど、自分が負けたのが悪いからなぁ。責めるべきは他でもない、自分自身なのさ」

 

「……」

 

「勝負は時の運、とも言う。気にしちゃダメだ。霊愛がチルノより強いのは……まぁほぼ確定事項だとは思うが、たまたま運が悪いってのはある。そんな事でクヨクヨしてられないだろう」

 

「そりゃ、負けたのも悔しいけどさ……。やっぱ誰にも慰めてもらったり……しなかったのが……なんかヤだったの」

 

 子供っぽいことを言うようで気恥しい気がした霊愛は、クッキーを齧って窓の外に視線を移す。夜の森はどこか不気味で、よくまぁ深夜にこんな場所に来たもんだと思う。

 

「でもまぁ、娘大好きなエスカルゴの事だ。実はお前の事も褒めたり慰めようとはしてたんじゃあないか?」

 

「そう……かな。チルノの方ばっかり見てたし、頭に手ぇ伸ばしてたし……」

 

「思い立ったらすぐに動くお前のことだ。どうせろくに話も聞かずに神社を飛び出したんだろう」

 

「う……」

 

 確かにあの時は私を止めようとしていたな、と彼女は思い返す。そう思うと如何に自分が勝手な考えをしていたのか……と自己嫌悪する。

 

「今晩は泊めてやる。帰りづらいだろうからな。だが朝イチで帰るんだ。きっとアイツは、私達がこんな話をしてる間もお前を待っているはずだ。外で……しかも徹夜してな」

 

「……お父さんがそんな事するかな。お父さん、お姉ちゃんの事ばっか可愛がってる気がするし、私の事なんて待ってないよ、どうせ」

 

「私はそうは思わないがなぁ。確かに巫月の事は特別可愛がってるように見えるが……霊愛や他の子供達のことも等しく大好きだとは思うぜ」

 

「でも、いつもキツく当たっちゃうしさ……絶対嫌われてるよね、私……」

 

「キツく当たってるってわかってんなら、それをやめればいいのになぁ。これだから子供の思考はわからん」

 

「……子供じゃないもん」

 

「そんなウジウジするようじゃ子供だよ。そこは霊夢を見習え。負けようが何だろうが、そこら辺気にしてる素振りを見せないだろ?」

 

 霊愛は黙って頷いた。自分が見てきた母親が、まさにその通りだったからである。流石、霊夢と付き合いが長いだけあってよく分かっている。

 

「おっ、もう月があんなに昇ったか。ほれ、私のベッド使っていいからもう寝な。半妖とはいえ、体は大事にしないとすぐ死ぬぞ」

 

「うん。……ありがと、魔理沙。おやすみ」

 

「おう、おやすみ。朝メシは期待して待ってな。

(自己肯定感の塊の霊愛でも、心が折れればこうも後ろ向きになるんだな……。あぁいった妙な所はエスカルゴに似てんのかねぇ。全く、変な奴だ。ま、ロリコンで娘大好きなお前なら……ちゃんと霊愛のことも褒めてやるんだろ?きっちり、心のケアしてやれよな)」

 

 魔理沙が密かに彼女の父親に期待を寄せる中、ベッドに潜り込んで声を殺して泣き明かす霊愛。尚この数時間後、帰宅時に父親に慰めてもらい、もう一度泣くことになるのである。




霊夢もエスカルゴくらい……いやもしかしたら彼以上に娘を想ってますが、霊夢は絶対態度や口に出しません。父が飴、母が鞭を担当してるので。
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