─────時は少し遡り、八咫烏が武甕槌命と敵対するより少し前。魔理沙と磨弓は、八咫烏の極熱の弾幕と素早い動きに苦しめられていた。
弾幕は磨弓と彼女の埴輪が受け止め、魔理沙は回避と攻撃に専念するというコンビネーションで戦っていたが、段々と押されてきていた。
八咫烏の力はほぼ無尽蔵、対して二人の力には上限というものがある。
「このッ、ちょこまかと!!神様だってんなら、正々堂々と戦ってみやがれ!!」
「いいぞ?お前が生き残れるかは保証しないが、それでもいいのか?」
「構わないぜ、私が勝つからな!!」
「その意気や良し!!では……いくぞッ!!」
八咫烏は光を纏い、磨弓が生み出した埴輪をも破壊しながら直進してくる。魔理沙はそれを見てニヤリと笑い、ミニ八卦炉を向け魔力を充填し、放出する。
「魔砲『ファイナルスパーク』ッッ!!」
「ッ……!!爆符『ペタフレア』ッッ!!!」
威力が上がっている攻撃を正面から受けるのはまずいと判断したか、空中で急停止して制御棒を向け、こちらもこちらで極太な熱線を放出する。
最初こそ五分と五分だったが少しずつ魔理沙が押され始める。変身により威力も魔力も上がるがそれだけ消費も激しくなる。形態を維持するだけでもそれなりに疲れるのに、ずっと戦っていれば力は先細りするばかりだ。
「頑張って、魔理沙さん……!」
空中で押される魔理沙の背中を磨弓が支える。一瞬そんな彼女に驚くも、自分は一人ではないと再認識した魔理沙は、私はこんなもんじゃないと自分を奮い立たせた。
それでも、八咫烏というこの神を相手にはまだ幾分か想いは届かず────。
「ぬははははははッ!!このまま押し切れるぞ、魔理沙ァァアアッッッ!!」
突如、高笑いと共に太さが倍々に膨れ上がった極太熱線。八咫烏の力はほぼ無尽蔵、威力なども無限大に等しい。
「悪い、磨弓……一時撤退だ!」
「えっ!?」
スパークを中断させた魔理沙は、熱線が二人を貫くその瞬間、瞬間移動にて魔界へと移動する。技術をひたすら鍛えたことにより異世界へも移動可能になった魔理沙だが、それによってとうとう魔力はほとんど無くなってしまった。
磨弓は、魔理沙の背中を押していたこともあり無事共に移動できたようだ。
「おぉー……!瞬間移動、初めてしました!」
「そうだっけ。まぁ、そうか。はぁ……疲れた」
吐き捨てるようにそう言った魔理沙はゴロンと寝転がり、肩で大きく息をする。実は今のは結構ギリギリだった。下手をすれば身体の一部が消し飛ばされていたかもしれない。
「異界へ飛ぶのは相変わらず負担が大きいな……ほぼ完全に尽きちまった……」
種族魔法使いになった魔理沙は、魔力が完全にゼロになれば気絶して、ある程度回復するまでは目覚めなくなる。つまり意識があるということは完全にゼロになったわけではないことがわかる。とはいえゼロに近いのもまた事実。状況はあまり芳しくない。
「だ、大丈夫ですか?起きれますか?」
「ん……ダメだ、身体がまるで言うことを聞いてくれない。もう少し、休ませてくれ……」
起き上がろうと手足に力を込める魔理沙だが、プルプルと小刻みに震えるばかりで、起き上がることは叶わなかった。そんな様子を見た磨弓は、手を引いて起こしても倒れるだろうと判断して、彼女を起こすのをやめた。
魔理沙は魔界の大地に四肢を投げ出し、魔力の回復を待ちつつ息を整える。そして、先程までの戦いに思いを馳せ、対策を思案する。
「……なぁ、磨弓?私、弱いか?」
「え、えぇ……?どうしたんです、急に?決してそんなことは無いと思いますけど……」
「だが今こうして戦略的撤退まで追い込まれた」
「仕方ないですよ。相手は八咫烏と武甕槌命……かなりの強者だと袿姫様も先程仰っていました」
「先程?……あぁ、もしかして、お前もアレか。エスカルゴみたいに神の声が聞こえる?ってやつなのか?」
「はい。ですが袿姫様のお力に限っては、きっとエスカルゴさんよりも多く受け取ってますよ」
「ハッ……そらそーだ、お前は袿姫に生み出されたんだ、他人のエスカルゴよりは多いだろうよ」
磨弓があまりに当たり前のことを言うもので、魔理沙は思わず笑ってしまった。しかしこうして話してみると、彼女は以外に純朴なもので、先程まで「作り物」だとちょっぴり嫌悪していたのが恥ずかしく思えてきた。
創られた感情か本物の感情なのか、もはや今の彼女にとってはどうでもよかった。
「……なんか、すまんな」
「……?何のことです?」
「あー……まぁ、色々だ」
「?」
お前の事がさっきまで苦手だったから、なんて言えるはずもなく、思わずそう誤魔化してしまう魔理沙。一方本人はもう気にしていないようで、ブツブツと何やら呟きながら八咫烏&武甕槌命の対策を練っている。
実に真面目で、しっかりした奴だな、と改めて彼女を見て思う。こんな奴なら思っていたよりも上手くやっていけそうだと、内心喜んでいる。
「どうだ、袿姫から何か良い話は聞けたかい」
「い、いえ……彼らの事はあまり詳しくないとのことで……」
「そうだと思ったぜ。もし詳しく聞けるのなら、戦略的撤退なんてせず対策できたからな」
などと比較的元気に振る舞っているが、実の所魔理沙は絶望感に打ちひしがれていた。もし仮に魔力が回復して戦線復帰したところで、八咫烏と武甕槌命を相手にどう戦えばいいのか……。彼女には、わからなかったのだ。
だから、魔力回復薬の残りを所持しているにも関わらず、それを服用せずにいるのである。
回復を口実にして考える時間を稼ぐ。しかし、幾ら考えても妙案は浮かばない。それはそうだ、あんな戦いをした後でそんなポンと対策が浮かぶはずがない。相手は神、チート級の神なのだ。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ」
ガシャガシャと頭を掻き毟り、修行してもなお神に太刀打ちできない自分を呪う。無力すぎて、思わず涙が出てくる。
魔力回復薬を服用すれば、とりあえず戦線復帰だけはできる。しかしそれまでだ。どうせすぐに魔力が尽きて戦略的撤退するだけ。それより前に霊夢の霊力が尽きるかもしれない。そうなれば、いよいよ敗北の色が濃くなるのはもはや確定だ。チルノなんて、八咫烏が本気にならずに溶かせる存在。考慮するに値しないかもしれないほどだ。もう、どうにもならない。
完全に私の負けだ。そう思った瞬間、ゾクリと嫌な気配を感じ取り、痛み軋む身体も気にせずに起き上がり、ミニ八卦炉を構える。
「─────ッ!」
「わっ!どうしたんですか!?」
「磨弓、構えろ。刺客かもしれん」
「へっ!?」
目の前に現れたのは、三日月に長い棒をつけた妙な杖を持つ足の無い幽霊。
緑のロングヘアー、三角錐の青い帽子には星と太陽が描かれており、白いリボンがついていて、本で見る魔導師のようないかにもな服装だ。少女というより大人に近い外見である。
幽霊というよりは悪霊に思えるが、何故だか、そこまで邪悪な気配はしない。霊として永い時を過ごしすぎて、毒気抜かれたのかもしれない。
「いいね、良い反応だよ魔理沙。疲れていても、魔力が尽きかけていても……戦う気概ってモンをひしひしと感じられる」
「お前、何で私の名前を……!」
「昔からお前を見守っていたからね。相変わらず元気そうで何よりだ」
「昔から?見守っていた?……何者だ、お前」
「私は魅魔。種族は……人間かな(嘘)」
「嘘つけ、どう見ても霊だろ!」
「ふふっ、流石に誤魔化せないよねぇ。それより魔理沙、これからどうするの?負けっぱなしでもいいのかい?博麗の巫女に、先を越されてしまうかもしれないよ?」
「っ……仕方ないだろッ、策がないんだから!!力不足で太刀打ちできない!どうしろってんだ、こんなの!相手と違って、私の力は無尽蔵じゃあないんだよッ!あいつらほど場数も踏んでない、経験も無い!何を取っても、私じゃアイツらには敵わないんだよ!!」
どうして初対面の者に……しかも悪霊に本心を吐露できるのか、彼女自身にも分からなかった。どういうわけか、魅魔と名乗ったこの悪霊には、彼女を惹き付ける何かがあったのだ。
「なのにさ、霊夢の奴はさぁ……こんな私に期待してんだ……へへ、バカみたいだよ、あいつ……私は何もできやしないってのにさ……」
「そんな事はない。魔理沙は誰かにそう言われるくらい、期待に値するほど頑張ってるよ。まぁ、修行はまだまだ足りないと思うけれど」
「足りないのはわかってるぜ……だからこうして勝てないんだから……」
項垂れる魔理沙に、魅魔は優しい声色で彼女に声に似合わぬとんでもない提案をする。思わず、魔理沙がギョッとするほどのものだ。
「……なら、私がお前の体を借りて暴れようか?それなら、私の視界を通してお前も戦い方を学ぶ良い機会になるだろう」
「な……う、え……どういう、ことだ……?」
「畜生界に行った時、吸血鬼の男が人間の亡霊を取り憑かせていたろう。そんな感じだ」
「ッ!?見ていたのか……?」
「それも含めて見ていたよ。ま、飛ばされそうで結構見逃してもいたけどね。それでも、なんとか食い付いてお前を見守っていたさ。『私の子孫に魔法の素質がある者が現れたら、その子を導いてやってくれ』と、それが魔梨沙の……君の祖母の最期の願いだったからね」
「ッ……!?」
「魔理沙の祖母とは随分と仲良くさせてもらったものだよ。所謂、師弟関係ってやつだった。私を倒した魔梨沙は、とても喜んでいたねぇ」
ウットリと昔を懐かしむように目を細める魅魔だったが、それを遮るように魔理沙は座り込んだまま魅魔に話しかける。
「……魅魔。幾つか、質問に答えてくれ」
「なんだい?」
「祖母は若くして死んだと親父から聞いている。魔法に携わったから……魔法に触れたからだと、親父は、自分の母を死に至らしめた魔法を毛嫌いしている。だから私は実家と縁を切って今に至るわけだが……なんで祖母は若くして死んだんだ?悪霊のお前が何故『最期の願い』を知ってる?」
「『お前が祖母を殺したんじゃないか?』とでも言いたげだね。まぁ、疑うのも無理はないかな。これだけ強い力を持つ悪霊さんだものねぇ」
「ッ……!」
「私はね、魔理沙。彼女があの世に旅立つ瞬間、そばにいたんだ。少ない魔力で、召喚されてね。でも、大魔法使いを自負している私でも助けられなかった。彼女は、若い頃の無茶で……具体的に言うと、寿命を削るような魔法を使ったせいで、早くに死んだ。だから、お前の親父さんが魔法を毛嫌いするのも、無理はないことなんだ。こんな死因では、彼女は魔法のせいで死んだと言っても過言ではないどころか、まさにその通りだから」
「…………」
「若いのに寿命で死ぬんだ、魔法に携わってない者だろうと死因は魔法のせいだと察せるよ」
「じゃあ、最期の願いの『その子を導いてくれ』っていうのは……」
「そうだな。寿命を削るような魔法を使わせないよう、正しく導いてくれって意味だろう。強さを求めるあまり、魔梨沙はそういった魔法にも手を染めた。言うなれば、今の魔理沙にちょっと近い状態だったんだ」
「じゃあ、なんで今まで出てこなかったんだよ?よりにもよってこのタイミングで出てくる意味がわからない」
「これまで魔理沙は、挫折という挫折を体験した試しがなかった。あの吸血鬼の男と戦って負けたときでさえ、次はどうしよう、次はどうしようと自分で考え、実践できていた。その結果、ついに勝てるようになった。だが、今回の相手は神だ。一歩間違えば死ぬし、そうなれば『次』は無い。見守り役の私が出る他ないだろう?」
「お前からは強い魔力を感じるが……お前、神に勝てるのかよ。お人好しの私でも、ちょっと信用できん」
「
「なっ…………あの神綺に、たった一人で!?」
先程、霊夢とタッグを組んでやっと勝てたあの神綺をたった一人で倒した。神綺と戦ったばかりだからこそ、その言葉がズンと重く頭に、腹に、胸にのしかかってきた。
「でも……」
「確かに悪霊は信用できない。それは正しい認識だよ。でも、私だけは信用してほしい」
「……」
「今日から私がお前の師匠だよ。この手を取ってくれるかい、魔理沙?」
「………………宜しくお願いするぜ、魅魔様!」
差し伸べられた手を取り、魔理沙は魅魔に身を委ねた。彼女に取り憑かれた魔理沙は、目の色が深緑に染まり、絶大な魔力を溢れさせる。
「磨弓、といったね?」
「は、はい!」
「戻ろう、幻想郷へ。共に戦ってくれるかい?」
「勿論です!!」
「では行こうか」
魔法陣を展開させて、幻想郷に転移する二人。久しぶりに暴れられると魅魔は純粋に喜び、それ以上に漸く魔理沙の前に姿を現す機会を得られたことに、内心で神に感謝をしていた。
悪霊の魔法使いが神に感謝するなんておかしなものだと苦笑しながら。
魅魔様に限っては(嘘)とか使いたいですね。
R18のタグがついている本作ですが、R-18G書いてみていいですか?
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おk
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アカン