「闇、ですか。あの吸血鬼……先日はあのような力は使いませんでしたね。奥の手は……きっと、まだ隠しているのでしょうが」
「では奴は、吉弔様と同じく底を見せない奴なんですね……。あっ、いえ、えっと、吉弔様の方がずっとずっと、深い底なんですけど!!いや、底なんて無いんですけど!!」
「何を慌てているんです?……まぁ、勝てるとは思いますがね。本当ならば、その次に控えている鬼との戦いまで温存しておきたいのですが……。しかし、負けてしまっては元も子もありません。協力してくれますね?」
「勿論です、吉弔様っ!!」
「力は鬼に劣る吸血鬼、しかし一方でスピードは鬼を上回っている。スピードは天狗に劣るが力は天狗を上回っている。どちらの強みもある、実に厄介な種族ですね」
そう考えると、八千慧の中では、鬼二人よりは吸血鬼一人の方が脅威に思えるのだ。だからこそ次の戦いの博麗姉妹との戦いは、堅実にしっかり勝っていこうと考えていた。
その次に控えているであろうあの男との決勝に備えて。
「ただ、埴安神袿姫の存在が厄介ですね。もし、前回の大会で見せたあの装備をまた着られたら、勝ち目は万に一つしかないかもしれない。尤も、あの子供の方は『楽しもう』のタイプですから、上手くそれを利用して一瞬でカタをつければいいでしょうが……。やれますか?」
「『やれますか?』じゃなくて『やりなさい』でいいんですよっ!私ならやれます!!」
「フフ……
「はいっ!!」
「では決勝の作戦会議はこの辺にして……まずは準決勝、子供達から蹴散らしましょうか」
「頑張ってくださいっ!」
「言われなくとも」
やがてアナウンスされ、八千慧&獺霊、霊愛&霊麗が入場する。霊愛はかなり八千慧を警戒している様子で、それは彼女本人にも手に取るようにわかるほどあからさまなものだった。
そして八千慧は嘲笑う。本当に気をつけるべきなのは、自分ではなく、獺霊なのに……と。
霊麗は、気だるげに欠伸なんてしている始末。仮にも吸血鬼なので積極的に狙いはしないつもりだが、もし霊愛が予想より強ければ、霊麗の方にシフトすることも視野に入れている。
「さて、巫女達はヤクザの組長に勝てるのか!?組長は巫女達に勝てるのか!?期待が高まる!」
「どちらも、一癖も二癖もある人達ね!それでは2回戦2試合目、始めっ!」
フヨフヨ、フヨフヨと忙しなく八千慧の周囲を飛んでいた獺霊だったが、これまた合図と同時に姿を消してしまう。すると霊愛の代わりに獺霊を見張っていたらしい霊麗が、姉に耳打ちする。
「あの丸い緑の霊、消えたよ」
「消えたね。気配も全部。何でだろ、私も見てたけど瞬間移動みたいに消えたように見える……」
2対1で弾幕を発射し合いながら、姉妹は作戦会議をする。八千慧も博麗姉妹も、とりあえずは様子見らしい。二人は博麗神社で、八千慧が霊夢や魔理沙達を始末しようとしているのを見ていた。だから、短期決戦型の霊麗も、まずは敵の出方を伺っているのだった。
「ね、お姉ちゃん。思ったんだけどさ、すぐ傍に居たのに気配ごと一瞬で消えるって……。それ、前に見たこと無かったっけ?」
「あるね。確か去年の夏くらいに……お父さんが幽々子と一緒に行動してた、あの時かな……?」
「幽々子がお父さんに取り憑いてた、あの時の話だよね?つまり……」
「「
「……気安く名を呼ばないでほしいですね」
小さく舌打ちをした八千慧は、一瞬だけ溜め、弾幕を掻い潜り一息に距離を詰めてきた。二人は弾幕の発射をやめ回避し、それぞれの攻撃に移行する。霊愛は得意の弾幕、霊麗は肉弾戦で勝負を挑んだ。
「そーだよね、そりゃあそーするワケだ!ただの動物霊なんて、八千慧より圧倒的に弱い!でも、今回の大会では、どちらか片方でもノックダウンされたらペアごと負け!」
「それを危惧したあなたは考えた。カワウソ霊をどう守りながら戦おうかって!その結果、一番の安全策として思いついたのが……」
「自分に取り憑かせて、自分一人で戦うこと!!こうすれば自分が負けるまでは動物霊の方も絶対負けないことになる!」
「しかも、標的が一人しか見当たらないとなれば相手からの攻撃も自分だけに集中する事になる。そうなれば濃くても捌きやすいよね。すごいね、すごいダーティ。私のお父さんもこんな汚い手はあんまり使わないかも?」
「こんなのが搦手?私達姉妹だって、伊達に経験積んでない!甘く見すぎだよ!!」
八千慧の計を見破ったと調子に乗って、二人は攻撃の勢いを増す。霊愛は弾幕を増やし、霊麗は残像が見えるほどの速度で八千慧の周囲を飛び、時たま拳や蹴りで攻撃をする。しかし、八千慧の表情は、全く変わらない。そればかりか、口元を三日月に歪め笑っているくらいだ。
「やれやれ、そんな事で私達の……いいえ、私の手の内を知ったつもりですか?それならやはり、あなた達は甘い。……甘すぎますね」
「……!お姉ちゃん、また援護お願い!」
「はいはい!」
近距離で何やら危ない気配を察知した霊麗は、弾幕に優れる霊愛に援護を求める。遅れてそれを察知した霊愛も、今回は慌てずすぐに合わせた。
「私は早く終わらせたいの!だから負けてね!」
早く終わらせたいと願う霊麗は、徐々に速度を上げる。しかも、ヒットアンドアウェイの戦法をとっているので、八千慧は中々彼女に攻撃が当てられない。
リーチは八千慧の方があるが、並外れた速度のせいで攻撃が当てられない。もどかしい。
《少々作戦変更です。あの妹の方にいきなさい、今すぐに!》
《ええっ!?こ、こんな速く動いてるのに、無理ですよぉ!》
《ならば私が奴を一瞬止めます!奴め思ったより手こずらせてくれますね……!!》
《や……やってみます……!》
《やれ!!》
《はっ、はいぃぃぃっ!!》
そんな彼女が使った作戦は……アレだ。先程、決勝で使おうと話していたあの作戦を、今ここで使おうということだった。
その作戦に切り替えてから、八千慧は観念したように攻撃を受け流すのをやめた。自身は、弾幕のみで抵抗はするが、霊愛の弾幕は受け、霊麗の拳や蹴りは防御さえせずに受ける。
「霊麗、なんか変だよ!」
「分かってる!」
「けどっ……終わらせるよ!!」
「うんっ!……せぃやああああああぁっ!!」
「─────そこだ」
そして、早めに試合を終わらせるべく、霊麗の拳が彼女の顔面を殴りつけようとすると、あろうことか、高速で動く拳を掴んで、霊麗を捕らえてしまった。
「捕まったっ……!?」
「霊麗っ!!」
「お……お姉……ちゃ…………」
八千慧に捕まった霊麗は、何をされるでもなくガクリと頭を垂れてしまう。気絶したとなれば、これで博麗姉妹の敗北になる。しかしこの直後、逆に「気絶であってほしかった」と願いたくなるような事態に陥ってしまう。
「棄権っ!棄権しまーすっ!」
「はぁ!?何言ってんの霊麗!!」
急に目を覚ました霊麗は突然棄権を宣言する。こんな奇っ怪な事態に、にとり達も含め、会場の全体がザワザワと騒ぎ始める。
「あ、あー……えっと、棄権でいい……かな?」
「何言ってんのにとり、ンなワケないでしょ!!霊麗が勝手に言ってるだけ!棄権なんてするワケないでしょ!!」
「……だそうです。棄権はパートナーとの合意で成立するので、頑張ってくださいっ!」
「えー、面倒臭い〜……」
「霊麗!グータラすんのも大概に─────!」
そこまで言いかけて、霊愛はいつか聞いた母の言葉をふと思い出した。去年の異変の時の話だ。霊に関しては、精神面に重きを置く妖怪は、特に気を付けなければならないと。そして────。
「『動物霊に意識を乗っ取られた』……か。あの霊麗は……霊麗じゃない……!!」
「ん〜?違うよお姉ちゃん。私は私。霊麗だよ?動物霊になんて乗っ取られてないよ」
「嘘だ!動物霊の気配が漏れてるよ!!」
「えっ!?おかしいですね、その特訓はしっかり積んだのですが……」
「おい」
「あ」
霊愛のブラフに乗せられたカワウソ霊は、残念ながら自分で答えをバラしてしまった。「気配を漏らさない特訓をした」と。
怒りの八千慧に言葉を遮られてやっと、自分がネタバレをしてしまったと自覚し、霊麗の身体でアワアワとし始める。
「仕方ありません。あなたを戦闘不能にするしかありませんね。バラした罰です、覚悟なさい」
「は、はい……」
霊麗inカワウソ霊は、トコトコと八千慧の方へ向かっていき、ギュッと固く目を瞑り、何故だか両手を広げる。八千慧は先端が鋭いその尾を高く持ち上げ、無慈悲にも振り下ろす。
「ああっ!?霊麗……の腕が……!!」
両腕は尾で根元から斬られ、ボトリと鈍い音を立てて地面に落ちてしまう。そして当の八千慧はわざとらしく言い放つ。
不運にも、丁度観客席でそれを見ていた俺は、見たくなさすぎるあまり目を潰してしまう。
「おやおや、尾では斬れないだろうと思っていたのですが、本当に斬れてしまうとは……。あまり幼子だと吸血鬼でもさして頑丈ではないですね。これは勉強不足でした、申し訳ありません」
「おっ……お前ええええぇぇっ!!」
流石の霊愛も怒気を露わにして、袖からお祓い棒を取り出して八千慧に立ち向かう。こうなれば冷静になんてしていられないのは、誰だって同じだろう。
「返せ!!霊麗を返せッッ!!!」
「安心して下さい、戦いが終わればすぐにでも。あなたが降参すれば今すぐお返ししますよ?」
「誰が、お前みたいなクズに屈するか!そんなの絶対イヤだ!!私はっ……私は博麗の巫女を継ぐ者だからっっ!!」
八千慧の尾の及ばない程の距離を取り、瞬時に霊力を全開にする。そして、霊愛は涙を流しつつ叫ぶように宣言する。
「この一撃で、仕留めて、やるッ……!!お前、だけは……絶対に、絶対に許さない!霊符『夢想封印 夢幻』ッッ!!!」
コロシアムを埋め尽くすほどに、不可能弾幕のように超高密度な弾幕が現れた。しかも、霊力がよく練り上げられておりとてつもない威力なのはまず間違いない。しかし八千慧は────。
「壁になりなさい」
「わかり、まし……た……吉弔、様…………」
「ッ!?退きなさいよ霊麗!!カワウソ霊ッ!!このっ……バカァァァァッ!!」
多くの血を失ってゼェゼェと荒い息の霊麗は、フラフラとなりながらも八千慧の前に立ち、その全身で彼女を守り……霊愛の全力の夢想封印を、受け止めてしまった。
妖怪の身体では、霊力の攻撃はイヤでも効いてしまう。しかも、ホーミング性なので、八千慧が動かない限りは夢想封印の軌道は変わりはしない。霊麗が倒れると、カワウソ霊が彼女から出してきた。
曲がりなりにも、自分が霊麗を倒したというこの事実に、霊愛は涙を流し、怒りに震える。
「お疲れ様でしたっ、吉弔様!」
「ええ」
「く、そ……!なんで、どーして、こんな……」
「…………」
更には霊力も使い果たして膝をついた。当の八千慧はそんな霊愛を見て何を思ったか、口元を隠して、目を背けた。
「笑ってんじゃ……ないよ……ッ!!」
「笑うなんてとんでもない。私は悲しんでいるのですよ。私とのこの一戦のせいで美しい姉妹仲を引き裂くことになったらどうしようかと……」
そう言いながらもなお口元を隠す八千慧だが、どう見ても笑っている。無論、姉妹仲を引き裂くことにはならないが、そう分かっていても霊愛は怒りの感情しか湧いてこなかった。
「白々しい……バレバレだよ……!!」
「あら」
「いつか、殺す……!殺してやる……私が……!何年、掛かっても、絶対に……殺してやる……」
およそ少女の言葉ではないが、憎々しげな目を目の前の敵に向けると、力を失った妖怪のようにその場で気絶してしまった。
「そ、そこまでーーーっ!!決着ー!!」
「す……すごい、戦い……だったわね……。搦手というか……奸計、というか……」
「フフ……物凄い視線が集中していますね。どうですか観客の皆さん。これこそ力……これが私達鬼傑組の戦い方です。挑戦者は、いつでもお待ちしておりますよ……どうぞいらしてくださいな、畜生界の我が組まで。フフ、フフフフ……」
不敵な笑みを零しながら、八千慧とカワウソ霊ペアは、観客席まで飛んで行った。すると両隣の観客は……逃げるように距離をとるのであった。
罫線トーナメント表はズレていたか?
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ズレてた
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ズレてなかった