※この作品はR-18です。

吸血鬼人間の幻想生活   作:エスカルゴ・スカーレット

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Bブロック3回戦 〜優しい悪魔〜

「さーてさてさて!衝撃的な展開の後は、天使の笑顔で口直しだ!天使な悪魔、ここに見参ッ!!夢幻世界の主、幻月&夢月ペアだ〜〜!!」

 

「お相手はっ……ちょっと表情は暗いけど、先程勝利した、エスカルゴ&ルーミアペア〜!!」

 

 あんな風に娘を傷付けられて、笑っていられるはずがない。いくら俺でも、霊麗の腕が落ちて、霊愛が泣いたのを見たあとでは……。

 

「大丈夫。隣には私がいるよ?」

 

「……ああ。わかってるさ、ルーミア」

 

 ステージに降り立つと、見計らったようにあの姉妹も飛び出し、元気に俺達の前に立つ。俺とは違って元気そうにしていて、なんだかちょっぴり羨ましい。

 

「遂にこの時が来たわね、ダーリン!今日の所は私達が勝たせてもらうわ!」

 

「私達は正々堂々戦おうね、お兄さん♪」

 

「正々堂々戦って、倒させてもらう。次はアイツだからな、負けられねんだ」

 

「大丈夫よ。あんな小物に、ダーリンが構う必要無いもの。子供達の仇は私達がとってあげるわ。だから安心して?」

 

「そうそう。お兄さんの代わりに、アイツのこと死にたくなるほどボコボコにするからさ。半殺しくらいがいいでしょ?」

 

「……優しいな、幻月、夢月。ありがとう、俺は嬉しいよ」

 

「ま、まぁね!幻月ちゃんって実は優しいのよ?あなたの為なら頑張れちゃうんだからっ!」

 

「もー、隣に彼女居るのに褒め殺しはダメだよ?嬉しくなっちゃう♪」

 

 そう言ってちょっと頬を赤らめている二人は、本当の本当に天使に見えるし、そうだと思える。彼女達の優しい想いが、傷付いた心に染み渡り、情けないが涙が出てきそうになってしまった。

 傷付いた娘達を見てしまった後の弱い心では、悪魔達にも縋りたくなってしまう。自身が悪魔の端くれなのに、おかしな話だ。

 できる事なら助けたかった。だが俺とは違って誇りを持って戦っている娘の邪魔をするのは……ダメだと思った。

 自分なりの誇りを持っている娘を尊敬しているからこそ、余計に試合を中断させられなかった。かなりもどかしかった。見たくなかった。目潰しなんて甘っちょろい程の精神的苦痛を味わった。だからこそ、奴は俺が潰さなきゃダメだ。

 

「だけど……ダメだ。アイツは俺が潰さなきゃ。一応、腐っても親父だからな。だから、アイツを潰すために……幻月、夢月。二人を倒すよ」

 

「もうっ、ダーリンってば強情なんだから……。そういう所も嫌いじゃないけどね」

 

「口で言ってもダメなら力で抑えるしかないね。ちょっと痛くするけど…………ごめんね?」

 

「こ、これはこれで激しい戦いになりそうね!」

 

「悪魔vs悪魔の構図でもあるこの戦い!そうだ、激しくならないワケがなかった!沈んだ気持ちを吹き飛ばすような、激しくも楽しげな戦いを期待してるよ!!それじゃあ始めっ!!」

 

 まず動いたのは夢月。「痛くする」の宣言通り俺の顔面を殴り飛ばすつもりらしい。俺はそれを回避するつもりはない。隣にルーミアが居るからなどではなく、ただ彼女の拳を受け止める為に。

 

「ふっ────!」

 

 短く息を吐き、拳を繰り出す。以前、幻月より近接戦が得意だと言っていた事があったが、成程確かにそんな感じが伝わってくる。

 どこか拳法にも似た─────無駄が省かれたような構えや動き。「近接戦が得意」なのは、嘘ではないらしい。

 

「だがな……!」

 

「ッ!」

 

 向けられた拳を掴み顔面ヒットを未然に防ぐ。美鈴の拳の方が、まだ少し速い。眼がその速度に慣れていれば拳を受け止めるのも容易だ。しかしそれに対する夢月の行動もまた迅速だった。

 

「ハッ!!」

 

「ンガッ……!?」

 

 掴まれた拳を起点に逆上がりをするかのように腹を蹴り、顎を蹴り上げるサマーソルトキックを仕掛けてくる。口を開けていなかったので、歯が勢いよくぶつかったということはなかったが……一瞬あの世が見えたような気がする。スカートの中を覗く余裕なんてものは無かった。……肉体的にも、そして精神的にも。

 

「ほらほら、手は離しちゃダメだよ?全くもう、お兄さんは甘いんだから…………ッ!?」

 

 もう一発殴ろうとした夢月は一体何を警戒したのか、踏み込むのをやめて、真後ろに飛び退いて幻月の隣に戻った。考えて行動したというより、本能による緊急回避のようなものに見えた。

 

「どうしたの、夢月……?」

 

「姉さん、アイツ……何か、嫌な感じがする……鳥肌が立って治まんない……」

 

「えぇ?あの妖怪がどうしたってのよ?」

 

 どうやらルーミアの事を指しているらしいが、隣の彼女を見てみても特に変わった様子はない。きゅるんとした顔で、紅く綺麗な丸い瞳で、首を傾げて俺を見上げるばかりだ。

 

「得体の知れないナニカがあるよ、きっと……。意識が引き摺り込まれそうになった……ッ!!」

 

「エスカルゴ蹴ったお姉さん、許さないのだ〜」

 

 いかにも演技臭いが、ルーミアはそう言うと、再び地面に闇を広げた。それは段々夢月の方へと伸びていき、まんまと彼女の影を捕まえた。

 

「つ〜かま〜えた♪」

 

「なッ……結界?いや違う、これは……!」

 

「お姉さんはもう、私の出した闇の範囲内でしか動けないよ〜」

 

「ッ……!いいよ、私が相手してあげる。一旦、姉さんはお兄さん相手してて」

 

「夢月に言われなくてもそうするわよ」

 

 闇の範囲はステージのおよそ半分程度の広さ。夢月を相手とするのなら結構広い方だと思うが、ルーミアは一体どうするつもりなのか────。

 

「余所見しないでダーリン!」

 

「───!」

 

 凄まじい砂埃を上げて、幻月が肉薄してくる。彼女の弾幕はどれも広範囲なものだからか、妹に当ててしまわないよう、幻月も夢月のように拳で対抗してくるようだ。

 それならそれで、先程は使い忘れた手がある。恐らく誰にでも通用する、俺流の接近戦だ。

 

「はああああああぁぁっっ!!」

 

 幻月まで顔面を狙ってきた。なので、ギリギリまで引き付け、当たる寸前で身を低くし、彼女の勢いに負けないようにと踏ん張りながら、幻月をこの全身を使って抱き止めた。

 

「ぅえっ!?ちょ、え、待っ、なんで急に!?」

 

「ごめん。『体内電気』」

 

「ぎゃあああっ!?あぐっ……がッ…………んぐぐぐぐぐぐぐぐ……ッ!!」

 

「気張るな、堕ちろ、堕ちてくれ……!!」

 

 徐々に威力を高めていくと、やがては空中放電までするレベルに達した。自然界で言うところの落雷程度の威力だ。そんなものを全身に浴びせているのに、幻月はまだ気張っている。

 通電による筋肉の硬直か幻月の想いによるものなのか、逃げるのとはまた逆に、彼女からしがみ付いてくる。

 

「頼む幻月……頼むから、今日だけはお前んこと傷付けさせないでくれ……早く堕ちてくれ……」

 

「ダー、リン……泣いてるの……?ふ、ふふ……らしくない、わ……?」

 

「幻月が抵抗するからだろっ……!この状況から逆転は不可能だ、絶対に!だから堕ちろ、もしも抵抗するんなら……このまま威力上げ続けるだけだからな……!」

 

 更に威力を上げる。ただの落雷レベルだったが大木を裂く程度まで練り上げ、体の芯から彼女を感電させる。ここまですれば悪魔でもキツいはずだが、幻月は耐える。まだ耐える。ただひたすら耐えてくる。

 

「言っても聞かねぇんだな……。わかったよ……それなら、意地でも言うこと聞いてもらう!絶対逃がさないからな……!!」

 

「あはっ……勘違い、してるわ……?あなたが、私を……捕まえてるん、じゃなくて……私が……あなたを、捕まえてるの……♪」

 

「っ……!!」

 

「今のうちに……夢月が、あの子を倒すわ……。そうなれば、嫌でも、あなたの負け……よ」

 

「くっ……ルーミアぁ!!」

 

 あちらは、夢月がルーミアに猛攻撃を仕掛けているようだったが、ルーミアの闇という限られた範囲の中でしか動けない夢月は、それなりに苦戦しているようだった。

 ただ、夢月も彼女に押されるばかりでもなく、弾幕で必死に抵抗しているようだった。夢月のは幻想郷でも類を見ないほどの高密度弾幕なので、ルーミアもかなり苦しんでいるようだ。

 すぐにでも援護に行きたいが、体が動かない。

 

「逃がさないわ、絶対……!あなたはこうして、あっちの決着がつくまで、私を抱き締める事しかできないのよ……!」

 

「……わかった。幻月が堕ちるまで、抱き締めてやるからな……覚悟しろ!」

 

「負けても勝っても、恨みっこなしだからね……ダーリン……♪」

 

「恨まねーよ、絶対……幻月だもん……」

 

「どちらにせよ……今だけは私で癒されて……。私が、あなたを癒してあげるから……ね?」

 

「…………うん……」

 

 すぐ決着がつくと思っていたこの抱き締め戦法だったが、どうやら裏目に出てしまったらしい。しかし、戦いながら癒されるようなこんな温かな戦いだったら、永久に続けていたいなどと思ってしまう。

 

「もー、姉さんってばこんな時に抱かれてるの?羨ましいな〜。あなたもそう思うでしょ?」

 

「そうねー。だけど、余所見してていいの?今のあなた、さっきより動けないわ」

 

「動けなくてもいいよ、弾幕さえ使えるならね。こんな、風にっ!!」

 

「……エスカルゴ、もう一つだけ技、借りるね。閉鎖『カオスワールド』」

 

 地面に広がっていた闇が、ドプンと一気に膨れ上がり、半球状に夢月を包み込んだ。その中では弾幕が荒れ狂っているのか、時々火花のような、小さな光が見え隠れする。

 

「どっ、どういう事だァ〜〜〜ッ!?ルーミア、またもや彼のスペルカードを模倣したぁぁ!?」

 

「闇の技なら、見様見真似でも使えるのだ〜♪」

 

「恐るべき学習能力!笑顔でとんでもないことを言ってのける幼女、実に恐ろしい!!」

 

 敢えて自分の技は使わない事で、手の内を隠す意図もあるのだろうか。もし決勝まで行くなら、あと3回は戦う事になる。それならば、手の内はできるだけ隠した方がいいというものだ。

 普通の幼女ならそこまで考えたりはしなさそうだが、中身は大人なルーミアなら或いは────そう考えていてもおかしくないだろう。

 

「舞台では依然として膠着状態が続いているッ!ルーミアはうそっこメイドを闇で閉じ込めた上、エスカルゴは彼女を抱き締める!こんな戦いは、見たことがない!果たしてどんな結末を迎えるのだろうか!?」

 

「抱き合う二人、どこか柔らかに微笑んでるのがイイわね……。二人を包むあの雷さえ無ければ、どこからどう見てもラブラブな二人なのに……」

 

「いやいや、雷に包まれていてもなおラブラブに見えるよ、私には……!少しでもその気になれば今にもチュ〜しちゃいそ〜!きゃー!」

 

「落ち着きなさいってにとり……」

 

「……だってよ、幻月?」

 

「フンッ……良い気なものよね、河童達は……。こちとら、チクチクビリビリして、そんな気にゃなれないってのに……」

 

 よく喋るようになった。まさかとは思うが……幻月も俺の雷に対し耐性をつけてきているのか。フランやレミリアより慣れるのが早い気がする。誰しも、土壇場に追い込まれれば急成長しやすいものだが、まさか幻月にも当てはまるとは……。あまりにも急成長し過ぎて困る。

 

「そう?俺は殆どいつでも幻月とキスしたいよ」

 

「えー……ヘンターイ、やだぁ〜……」

 

「流石の俺も、今はそんな気分になれないけど。大会が終わって何日かしたら、遊びに行くよ」

 

「じゃ……カワイイ下着で待ってるわ……♪」

 

 何とか首を伸ばして、耳元でそれだけ囁くと、すぐ元の位置まで戻ってしまう。この時は、頭が働かずすぐには気付かなかったが、しばらく後でやっと意味に気が付いた。

 一方、ルーミアと夢月だが……。

 

「ハァ、ハァ……何なの、あの闇……ッ!」

 

「無事なのかー」

 

 無傷とはいかなかったようだが、夢月は何とか闇の中の弾幕を躱しきったらしい。流石は悪魔、並外れた耐久力らしい。

 あの状態では、ルーミアは闇の力を大して多く使えない上、今の大技でかなり消費したようだ。現に弾幕すらも発射できなくなっている。

 

「トドメ刺すよ、幻月。気張ってな」

 

「んもう、気張るなって言ったり、気張ってって言ったり……どっちつかずなんだから……」

 

「ごめんごめん。せめて楽に眠らせるから……。一閃『Mishap of Thunder』」

 

 眠らせるなら魔法を使うが、俺の魔法力では、悪魔相手には通用しない。だから気絶させるしか方法はない。

 

「ききき、キターーー!!これまたエスカルゴの十八番!威力は静電気並みから大災害レベルまで変幻自在だという、あの技だッ!!霧の湖が拡張されたのはこの技によるものらしい!怖いね!」

 

「魔法陣が広がる……凄い、大きいわ……///」

 

「雛が言うと意味深に聞こえるよ!?」

 

「えぇ?そんな事ないわよ」

 

「私もやばいのかー。……おっ?」

 

 スキマを開き妖魔雷霊剣を彼女……ルーミアの傍に落とす。アレの使い方ならルーミアに教えてある。今は保護の為の結界を解除しているので、ルーミアでも触れることができる。

 そして、彼女が剣を抜き地面に刺した直後に、特大の雷を落とした。保護されているのは結界の中のルーミアのみ。

 極太の雷は俺諸共幻月達を貫いて、地面にぶち当たり、凄まじい地響きが鳴った。

 

「あー、もう…………無理……よ…………」

 

 幻月は弱々しく微笑んだかと思うと、ガクリと力なく崩れ落ちそうになった。夢月の方は、既に地面に倒れ伏していた。

 自分を想って止めてくれたというのに、そんな彼女達をこの手で倒さなくてはならないとは……何とも胸糞悪いものだ。これも全て奴のせいだ。

 

「二人共……本当に、ありがとう。俺の代わりにアイツを潰してくれるって言ってくれて……俺は本気で嬉しかったよ。俺の為に……霊愛達の為に怒ってくれて、ありがとうな。後は任せろ」

 

 

◆

 

 

「はぁ……いい匂いだった。癒されちまったな」

 

「うわー、ヘンターイ」

 

「なんだよ、別にいいだろ?」

 

 二人の傷を治して、観客席に帰した俺は、腕を食わせつつ幻月の匂いを思い出す。ロリとは違う女子の甘い柔らかな匂いに、濃い女子の匂いが、とんでもなく好きだ。

 

「マジで幻月さぁ……もう……好きだわ。俺は、良い彼女をもったもんだよ。幸せモンだ」

 

「嫉妬しちゃうわ〜」

 

「嫉妬すんなよ。ルーミアの事も大好きだよ」

 

「フーンだ。腸(はらわた)食べさせてくれたら許す」

 

「わかったわかった。今日は痛そうだな……」

 

「私の前で他の女の事で鼻の下伸ばしたバツよ」

 

「わかったよ。……連戦だが、いけるか?」

 

「腕食べたから余裕」

 

「そっか、よかった」

 

《次の戦いこそ、心を落ち着かせろよ。わかっているだろうな?》

 

《心のままに暴れるよ。そうしねぇと、俺の気が済まねぇんだ。アイツのことは俺がこの手で……ボロボロにしてやらねぇと》

 

《……不安しかないな。やれやれだ》

 

 この戦いを経て、ただの一目惚れだった幻月と半ば仕方なく受け入れた夢月に対し、俺はもっともっと、彼女達が大好きになってしまった。

 自分でも薄々わかっていることだが、やはり、弱った心には「優しさ」が効くのだなと、改めて痛感したのである。

 そうして、スッキリした気持ちの中……奴との決戦を迎えることになった。

 

「さぁ!遂にやってきたぞ、決勝戦!連戦連勝の2組だが、どちらが勝つのかッ!?予想できない戦いになりそうだぁぁぁ!!!」

 

「……!」

 

 とうとう始まる。娘達の仇討ちのときが……そして幻月と夢月へ立てた誓いを果たすときが。絶対に負けるワケにはいかない戦いである。

罫線トーナメント表はズレていたか?

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