「幽々子様!幽々子様っ!」
「なぁに?」
「次の戦いで幽々子様が勝ったら、決勝戦は俺達4人のバトルですよ!絶対、勝ってください!!絶対、俺達が幽々子様……と母上、倒します!」
「これ、妖舞。お前はまた余計な事を……」
「いいのよ、妖忌。せっかく妖舞くんのやる気が出てきたんだから。それに、主人を倒せるだけの強さを目指すのは素晴らしいことだわ」
「はっ」
「……じゃあね、決勝戦で私達に勝てたら、暫くおやつ増量してあげる。どう?」
「おやつ……!」
それ以上に、喉が手が出るほどに欲しいものはあるが、この場で言うのは憚られる。故に一先ずそれで喜ぶ素振りを見せた。
それに、主が自分を子供扱いしていることは、この場の誰よりも本人がよく分かっていたから、今この場においては、我慢することにした。
「その為にはまず、私と妖夢が神様に勝たなきゃいけないんだけどね……」
「大丈夫です!幽々子様ですから!」
「……ありがとう。頑張ってくるわね」
◆
「いよいよ始まるぞ、Cブロック決勝戦!!今回戦うのはこの二組だっ!白玉楼最強の剣士・魂魄妖忌&魂魄妖舞ペア!!この妖舞少年、今大会で冥王の曾孫、英雄の子という、とんでもない血筋ということが判明!その血に負けない戦いぶりを見せてくれるのかっ!?」
「そしてお相手は、圧倒的力で勝ち上がってきた神様コンビ!!ゴーレムや埴輪を自在に生み出す
「じーちゃん。アイツは……アイツは、俺が絶対倒すから、手ェ出さないで……ッ!!」
「やめておけ。お前の手に負える相手ではない。どちらもな」
「イヤだ!アイツ、幽々子様を倒しやがった!!許せねー……絶対ブッ倒す!!」
「やめろと言うのが聞けぬのか、この愚か者め。幽々子様が仇討ちなぞ望むのか?あの方の従者を気取るのなら主の想いくらい汲むのだ」
「それでもッ!幽々子様が何とも思ってなくても俺が嫌だ!!アイツは許せねえ!絶対峰打ちじゃ済ませてやんねえ!」
戦いはまだ始まっていないにも関わらず、既に両手から刀を出し、しっかり構えている。鍛えた力に生来の筋力を上乗せし、更なる超速の世界へ足を踏み込まんとしている。
そんな妖舞を見てさっさと合図を送ろうとするにとりだったが、怒り心頭の彼に更に畳み掛けるように、ヘラヘラした様子で声を掛ける建御雷。
「全く、親子揃って復讐だの仇討ちだのと。妙に暑苦しい奴らだ」
「なにィ!?」
「我は妖夢を狙った。そこに幽々子が割り込み、我の攻撃に対応した。その結果がアレだ。なのに我を恨むのはお門違いではないか?恨むべきは、憎むべきは、自分で自分への攻撃を裁けなかった妖夢なのではないか?自分の母親ではないのか?よく考えろ」
「ッ…………」
長文の後に来る「よく考えろ」という言葉は、対象の思考を停止させてしまう魔法のセリフだ。ああ言われて、しっかり考えることができる者が果たしてどれ程存在するのだろうか。今の妖舞の頭の中は、建御雷の言葉がグルグルとしていて、考えることが難しくなっていることだろう。
「ククッ……クカカカッ……!随分流されやすいのだな、お前は。そこで考えるな、妖舞とやら。真に復讐を、仇討ちを誓うなら、仇からの言葉で考えてはならん。そこは、お前の父親を見習え。復讐においては考えたモン負けだ……ッ!泣け、叫べ、抗え!どんな手を使おうと復讐を果たす!たとえ己の手足が千切れ飛ぼうとも!……そんな気概すら無い者に、復讐が果たせるものか!!」
「……!」
「お前はまだ餓鬼だ。経験も浅い、技術も拙い、ましてや殺しの経験すらロクに無い。そんな温室育ちのお前如きが、唐突に復讐という修羅の道を歩めるとでも思っているのか?そうだとしたら、とんだお笑い草だな。身の程を知れ!!」
「うるせえ!!勝つったら勝つんだ!俺が勝つ!お前をッ……ぶっ倒す!!」
「そうだ、それでいい!今だけは全てを忘れ我に立ち向かってくるがいい!」
(ダメだ、妖舞はまだ幼い……!やはり流されてしまうか。仕方あるまい、ここは儂がどちらかを手早く無力化させる他ない……。いや、しかし、ここは負けた方が妖舞の成長になるのだろうか?一体、どちらが妖舞の為になるのだ……?)
「決勝戦は、どうしてこうも仇討ちが多くなってしまうのか……!これも運命だと受け入れるしかないのかもしれないね!それじゃあ……始め!」
妖忌は動かない。しかし隣に妖舞の姿はない。ふと建御雷の方を見てみると、彼は目の前に放電するバリアを張っていて、妖舞の刀がそれを貫通しているのが目に入る。切っ先はギリギリの所で建御雷には届いていない。
「チッ……!」
「速いことは速いが、防げないほどではないな。復讐心に身を任せてもその程度なのか?先程のと何ら変わってない。情けないことこの上ないな」
「うるっせえッ!!」
抜いて、そのまま斬り掛かる。しかし建御雷はバリアを解除して妖舞を空振りさせ、前のめりに倒れかけたところを、バコンと顎を蹴り上げる。嫌な音がした。歯の数本は折れてそうな、イヤに耳に残る音だ。
「ンガッ……」
「そら、もう一丁」
続いて、浮き上がった体に回し蹴りを見舞う。まさかの肉弾戦だ。ショタ建御雷にあんなことができるとは思ってもみなかった。
「俺、だって……!」
受け身を取り、すぐさま起き上がった妖舞は、右足から靴を貫通させたらしい刀を生やし、首を斬り飛ばすかのように横から蹴りを浴びせる。
「そんなヒョロい蹴りで刃が当たると思ったか」
下から刀を蹴った建御雷。すると刀はパキンと折れて宙を舞って、やがて地面に突き刺さった。刃物は、刀身から見て横からの力に弱い。だからこんな簡単に折られたのだ。
「あっ……」
「雑魚めが。絶技『天翔雷霆零槍』」
当たり前のように俺の技を使うのは相変わらずらしい。少しは自分で考えてほしい。そうすれば俺がそれをパクれる。
「斬れるものならッ!斬ってみよ!!今の貴様にそれができるのならなッ!!!」
カッと目を見開きそう叫んだ建御雷は、全身を使って槍を投擲した。俺には真横に稲妻が走ったかのように見えた。今の妖舞には難しいだろうと思ったが…………残念ながら俺のこの予想は的中してしまった。
槍に貫かれ、しかも威力が高かったために体のあちこちに火傷をした妖舞は、呻きながら地面に蹲っている。気絶しなかっただけ強くなったなと思ったが、やがてピクリとも動かなくなった。
「えぇー?建御雷、もう終わらせたの?まだ妖忌さんに弾幕当てられてないんだけど??」
「あー、すまんな袿姫。特に見せ場も出番も無く終わってしまったようだ」
「ま、勝ったんならいいわ。次があるからね」
「それは良かった。……ククッ……妖舞よ、恨むならば力無き己を恨むのだな。復讐すらも満足に果たせぬでは、この先、どんな壁にぶち当たるか分からんぞ。……ああ、壁ならばもうぶつかっていたか。せいぜい、死なぬ程度に精進せよ。まぁ聞こえていないだろうがな」
「……妖舞」
納刀した妖忌に静かに揺すられ、妖舞はすぐに目覚めた。飛び起きて構えるも、おかれた状況に気付き、呆然としながらも刀を収めた。
「俺…………負けた……のか……?」
「……ああ。建御雷様の槍に貫かれて、な」
下唇を噛む妖舞。血が流れてるが、俺のようにそんなことは気にしていないようだ。こういった悪いところは似なくていいのになと改めて思う。
そして、地面を殴り付けながら慟哭する。
「くっ……うぅ……くっそおおおおおっ……!!なんでっ……もっと力をッ……力を付けなくちゃダメなのかよっ……もっと、もっと……ッ!!」
「妖舞。敗者は黙って引き下がるのみ。戻るぞ」
「……はい……っ」
負けた以上、建御雷には何も言えないと悟ったらしい妖舞は、俯いたままで回れ右をして戻っていく。にとり達は、あまりに悔しがる妖舞を前にアナウンスがしにくい様子だ。
妖忌も戻ろうとしたものの、そんな彼を袿姫が小声で呼び止めた。
「妖忌さん、妖忌さん」
「?」
「あなたわざと妖舞くんを守らなかったでしょ。わざと私の弾幕だけを斬ってた。見捨てたの?」
「……見捨てた……とは少し違いますな。復讐の愚かしさを、敗北を通して気が付かせたかった。または、口だけではどうにもならない事を、身を以て思い知らせたかったのですじゃ。あやつは、口ばかりは達者ですから」
「ふふ、やっぱりね。仇に打ち負かされた彼は、これからどうなるかしら」
「さぁ……そこは何とも言えませんな。それではさようなら、袿姫様。頑張って下され」
「ありがとう、妖忌さん。身体に気をつけてね」
「お気遣い感謝致します」
これにて、少々観客達の心にモヤを残しながらCブロックが終わりを告げた。お次はとうとう、魔理沙のいる最後のブロック……Dブロックだ。
妖忌が戦う気なら勝てたのに。