とうとう決勝トーナメント本番がやってきた。あと二回だ。二回だけ勝てばそれで俺達の優勝が決まる。へカーティアと戦う為にも、1試合目でなんて負けていられない。絶対に勝たなくては。
1試合目の相手は萃香と勇儀……毎度毎度俺を死の淵……どころか死亡まで追い込む強敵達だ。油断したら死ぬ。尤も、今大会においては相手を死亡させたら死亡した方の勝ちとなるのだが……当然、そんな勝ち方はしたくない。なので俺は、全力で死を回避するつもりだ。
ここで、最近開発に成功した魔法が役に立つ。彼女達の驚く顔が目に浮かぶようだ。
「いよいよ始まるぞっ、大会のクライマックス!決勝トーナメント本番だああああぁっっ!!」
「昨日は避難とか色々あったけど、もしかしたら今日もそうなるかもしれないから、各々、本当にできるだけ自分の身は自分で守ってね!死んでも責任は負いかねるわ!」
「ま、まぁ多分蘇生はできるから大丈夫だよっ!さて、まず戦うのはこの二組だよ!!」
「Aブロックのトップ!鬼コンビ!山の四天王の二人、伊吹萃香&星熊勇儀ペア〜〜〜っ!!その圧倒的パワーで、相手を倒せるのかッ!?期待が高まるわねっ!」
「フンッ、死なないように手加減しないとなァ?いつもの調子じゃあすぐに殺しちまうねぇ」
「そーだねぇ、手加減してあげないと♪」
「ま、正々堂々戦おうな!」
「そんな超怪力コンビの相手は、この二人だ!!Bブロックのトップ、闇病みコンビッ!山の英雄エスカルゴ・スカーレット&ルーミアペア〜!!怪力コンビに比べると非力に見えるが、果たして死なずに倒せるのか!?」
「運営も勇儀も言ってくれるね。大丈夫、今日の俺は一回も死なないよ。安心して、いつも以上の力出しなよ」
「そう言って本当に死んじゃったらどうするの?残った肉は私が食べるとしてさ〜」
「大丈夫だよ、対策くらいしてあるんだからな。ま、見てなって」
「ふーん?」
「彼はやる気満々だぞ!!これは凄いことになるかもしれないねっ!でもグロすぎるのはちょっと勘弁かな……!それじゃ始めっ!」
萃香は消え、勇儀は真っ直ぐに向かってくる。こうなると萃香が最高にネックだ。見えないのでこちらから攻撃ができないのは困る。
となると狙うべきは勇儀なのだが……。
「そらッ、死なない程度に痛め付けてやるよ!」
「俺は死なねぇ!」
「私はもう一人の方の相手するねー」
ルーミアはフラフラとステージの空いてる方へ歩いていく。俺はそんな彼女を横目で見送って、勇儀の拳が俺に届く前に、俺史上ある意味最強のあのスペルを使用する。
「オラァッ!!内臓ぶちまけろォ!!」
「治癒『
治癒魔法を掛けた直後、勇儀の拳が土手っ腹を貫いた。しかし普段と違い臓器など噴き出さず、彼女の腕が腹を貫いただけだった。それなりには流血するものの、臓物がはみ出さない分、回復は早い。
「なっ……あ、腕がっ……!?」
腕が刺さっているにも関わらず穴は塞がって、彼女の腕を腹で受け止めた。しかも、勇儀が腕を取ろうとすればするほど、穴は腕を締め付ける。
これは、持続的に作用する即時回復の魔法だ。魔力を断続的に消費する為、その分キチンと術を組まなければすぐに効力を失ってしまう。だからこの魔法に関してはへカーティアに気付かされるよりも前から本気で開発していた。
およそ5〜10分程度しか効力は無い。それも、回復の回数、怪我の度合いなどによって変わる。四肢切断程度ではなんて事は無いが、臓器系だと時間も多少は削られる。今のは痛かった。
「離せ、このっ!!」
「ぐっ……」
思い切り腕を引き抜いて、上半身を蹴飛ばす。その瞬間は流石にポロリと何かが出そうになったものの、瞬時に腹の中に収納され、傷も治った。
「チッ、厄介な術を使いやがって……!」
「クッソ痛いが、出血多量でぶっ倒れる事だけは無くなったぜ、ヘッヘヘヘ……」
「フン、それならそれでやりようはあるさ!まァ掛かってきなよ、防戦一方で終わらせるつもりは無いんだろう?」
「もちろん。いくぜ、勇儀ィィッ!!」
煙を上げるほどに強く地面を蹴り、勇儀に肉薄する。スピードに乗せた拳を向けると勇儀は俺の血に塗れた拳で受け止め、ゴツンと拳同士が衝突する。
一瞬拮抗したと思ったがやはり力は勇儀の方が上なので、ジリジリと押されてきている。何とか耐えようとはしているものの、ズズズ、ズズズと地面を削りながら後退させられてしまう。
「……くっ、そぉおおおっ……!!」
「その腕、もらったァ!!」
「────!!」
カチ合わせた拳に更に力を込める勇儀。すると指や手首、肘や肩といった右腕のあらゆる所から骨が飛び出し、鮮血を噴き出す。そのまま勇儀が腕を振り抜くと、ボロ切れのようになった右腕が吹っ飛ばされた。
一瞬、右腕の感覚が完全に無くなるほどの酷い痛みを感じた。いつも思うことだが、開放骨折は肉と骨の二重に痛い。
しかし、片腕を欠損しても、不死性や吸血鬼の体質よりも速く回復する。ちぎれたそばから復活しているかのような速さだ。
「何なんだその速さ……これまでの比じゃない!如何に再生力が高くても、そこまでの速さなんて見たことも聞いたことも……っ」
「再生が速けりゃ速いほど、その分だけ失う血も少なくなる。気絶するリスクは少しでも減らしておかないとな」
本音は、痛みを感じたくないからさっさと回復させたいだけだ。しかしそんな思いで考えついたこの魔法も、この大会においてはそういった運用方法もできる。我ながらナイスアイデアだった。勇儀と戦うと多く血を失いやすい。だからこそ、この場面ではこの魔法が活きるのだ。
「じゃあ……大怪我をさせないで沈めるしかないようだな……!萃香!!」
「あいよっ!」
「!!」
俺の頭上に現れた萃香は、鎖付きの重りをブンブンと振り回し、容赦なく頭に叩き付けてくる。咄嗟に身をかがめて回避したと思ったが、やはり鎖のおかげでそれなりに射程距離があるようで、ガツンと重い一発を頭に受けてしまい、顔面から地面にぶつかる。
「ンガッ……」
「身を低くしたのが運の尽きだったな!吹き飛べオラァッ!」
「ギャッ……!?」
正面から迫ってきた勇儀に蹴り飛ばされ、俺の身体は縦に回転しつつステージの壁に激突した。立ち上がろうとするも、目眩や吐き気やらで中々立ち上がれない。こんなのは初めてだ。
「話聞いてて立てた仮説だけど、バッチリ効いたみたいだねぇ。脳震盪は、怪我の部類じゃあないようだね」
「へぇ、だから重りで殴ったわけかい。てっきり萃香の短い腕じゃ当たらない故の苦し紛れの攻撃だと思ったよ」
「フン、ちびっ子で悪かったね。……拳だと脳髄ぶちまけそうだったからねぇ♡」
「萃香に吸血鬼の肉体を破壊できる程の力は無いだろ、せいぜい山を吹き飛ばす程度のクセに」
「うっさいなー。あとはトドメを刺すだけだし、力の強さなんて大した問題でもないさ」
「ハハッ、それもそうだ!」
動け、動けと念じるが、視界は歪んでいるし、目もちょろくじゃない。まともな脳震盪なんて、記憶にある限りでは生まれて初めての事だろう。これまでの脳震盪がどれだけ軽度なものだったか痛感させられた。
「私が相手なのだ〜」
「……る……み゙、ぁ……」
ゴキゴキと関節を鳴らす二人と、壁にもたれて休む俺との間に、ルーミアが割り込んで立った。両手を広げて、俺を庇ってくれているようだ。
「退きなルーミア、死にたくないならね」
「そーそー。小妖怪ごときが私らに敵うわけないじゃん?」
「でもエスカルゴはもう復活するし〜……火力は無いけど、時間稼ぎならできるのだー♪」
「そうかい、5秒もったら褒めてやるよッ!」
萃香が殴りかかる。勇儀は腕を組んで仁王立ちしたまま動かない。萃香だけで十分だ、と言わんばかりに、頭を押さえる俺を見下ろしているのが何となく見える。
「攻撃は当たらないよ」
「!?」
萃香の足が、はたと止まる。それもそのはず。ルーミアの闇が萃香と勇儀の影を繋げて、しかも闇を出した本人はその外にいる。夢月にも使った動きを封じる闇を、今度は自分にも繋げないで、遠隔で出したらしい。
「なんだ、これぇぇぇ……ッ!!」
「どれだけ高く飛ぼうとも、影から逃れることは絶対に不可能。だから、時間稼ぎならできるって言ったんだよー」
すると、足元から闇の弾幕が飛び出してきた。黒、そしてルーミア特有の綺麗な弾幕など様々な色が混ざって、とても鮮やかだ。
「さて、と。さっさと復活させないとねー……。食べちゃうよぉ?」
「あ゙……ぅ゙……」
「んーと……脳震盪なんだっけ?でも回復魔法は怪我だけだから脳震盪は治らない、だったっけ。じゃ、治すならこれしかないね。……ごめんね、少し痛いかな」
ルーミアは俺の頭を優しく抱き締め、どこぞの寄生漫画のキャラのような大口を開け、俺の頭にガブリと噛み付いた。
「ふギッ……あ゙……ぐぎ、あ゙あぁあッ……!?あ゙がガッ……イ゙ッ、ギぎゃあッ……」
頭皮が牙で抉られ、頭蓋にも牙が到達するのを感じた。痛みで目覚めさせようとしているのかと思ったがそうではないらしく、ルーミアの進撃はまだ止まらない。なんと、そのまま頭骨を割り、脳髄を啜ったのである。
脳髄に痛覚は無い。だから脳髄に対する痛みは無かったが、文字通り頭を割られる痛みは、言葉では言い表せないほどに酷いものだった。
そこからは何も考えられなくなり、何も見えず聞こえず、意識が途切れた。
(う〜ん……そこまで美味しくもないねぇ)
「あーーーっとぉ!?な、仲間割れかぁ!?何をしてるんだルーミア〜〜〜〜〜!?の、ののの、脳ミソを食べてるううううッッ!?鬼達の動きを封じてまですることが自らの食事かァ!?」
「違うわにとり……。あれは多分、彼を早く復活させようとしてるのよ。いや、かなりの強硬手段なんだけど……ウプッ……きっと、そうよ……」
「ぎえええっ!?そんなやり方あるぅ!?」
「……というよりさ……。今、彼は気絶してる?それなら、彼らの負けに────」
「気絶してないよ。ゾンビみたいに呻いてるし。口もパクパク動いてるじゃん。よく見てよー」
「そ、そうなの……?グロテスクで見たくないんだけど……じゃあそういう事で……」
「雛でもダメなものはあるんだね……。かくいう私も、あんなになったのは見たくないけど……。というかあんな状態なのに意識はあるんだね……いっそ意識失ってた方が良かったよ……」
「……もうイイでしょ。起きろぉ〜ぅ」
二人がそんな話をしている頃、脳髄を掻き回し適当に啜ったルーミアは、口元を拭い、デコピンしながら起こそうとしてくる。頭が修復し、傷が治っていくにつれて手足にも再び力が入るようになってきた。彼女の思惑通りにいったらしい。
「う……るー、みぁ……」
「おっ、起きた起きた。大丈夫?」
「俺、何してんだ……座ってんの……?」
「そーそー。萃香に殴られ勇儀に蹴られ、壁まで吹っ飛ばされたんだよ?覚えてる?」
「全く……。どーりで血の匂いがするわけだよ。どうしてルーミアの口に俺の血ィついてんのかは聞かないでおくけど。嫌な予感がする」
「うん、聞かない方がいいよ。荒療治だったし。にしても、怪我ともなると本当に復活早いわね。喋れるし、焦点も合ってる。……よかった……」
「……?」
理由は分からないが、何故かホッとしたように血塗れの胸を撫で下ろしたルーミア。そうして、影に囚われ弾幕に襲われている二人をキッと睨み影を解除する。
「────50秒。10倍は時間稼ぎできたよ。彼も復活したし、言うこと無しだね〜」
「侮っていた……!まさか、ここまで厄介な能力だったとは。予想だにしなかったってのはまさにこの事だね」
「はぁっ……はぁ……狭すぎるよあんなの……!まともに避けられるワケないじゃないか!何故か霧にもなれなかったし……!!」
「それにしても凄い技だったッ!私でも包囲から抜け出せなかったのは、随分と久しぶりだ!」
「あらそ〜ですか。……エスカルゴ、もうトドメ刺しちゃおうよ」
「…………影、同化」
「「ッ……!?」」
影分身を送り込んで、二人の体勢を固定する。影は肉体の挙動に従う。そして肉体は影の挙動に従う。表裏一体な存在だ。
そんな「裏」を掌握したので、つまり「表」も掌握したに等しい。よって、二人は身動きが全く取れなくなった。少しの範囲でなら動けてしまう
『影縫い』は、鬼相手に使うのは禁物だろう。拳の圧力で吹き飛ばされかねないからだ。
「さてと。今度は俺が生殺与奪の権を握ったな。ブッ飛ばされた借りを返すぜ」
「くっ……卑怯だぞ!正々堂々戦うと、試合前に言ったはずだ!」
「今回、俺はそれに同意してないよ。それにさ、勇儀。考えてもみなよ。殺したら負けになる勝負より、殺してOKっていうプライベートルールで勝負した方が勇儀も楽しいんじゃあないのか?」
「ッ────!!」
「ぶっちゃけ、思い切り力を奮えなくて結構我慢してんだろ?また今度さ、プライベートでガチな勝負しようよ。そんなら正々堂々戦うぜ」
「ッ……まるで悪魔の囁きだな……!今の私にはよく効く甘言だッ……」
「どーすんのさ勇儀ィ。これじゃあ……」
「身動きが取れないんだから、もう打つ手無しと言わざるを得ないよ。……降参しよう」
「はァ!?本気で言ってんの!?私は降参なんて嫌だからね!エスカルゴ!せめて、一思いに弾幕ぶつけてきなよ!それが、勝負に対する礼儀ってモンだろ!!」
「わかったよ、萃香。ルーミア、一緒にやろう」
「終わったら補充させてね」
彼女の頭の上に手を置き、無言でイエスと返答する。トドメともなれば、使うべき複合スペルは自ずと決まってくる。手を繋ぎ、呼吸を揃えて、声高らかに宣言する。
「「『ダークネスエンカウント』ッ!!」」
高密度で、真っ直ぐに突き進む大玉を、未だに動けない二人へ向けて放つ。以前霊愛に使った時なんかは薄めに調整していたが、今回は本気だ。そうでなければ鬼なんて気絶させられるわけないからである。
「きっ……決まったあああああッ!!ラストは、今大会初の共同スペカだったッ!!まさかこんな終盤になってから見れるとは思わなかったよ!」
「途中、気絶してないかどうか怪しい時があったけど、相手さんからは何の抗議も無かったし……大丈夫よね!」
「何はともあれ、おめでとうございまーすっ!!決勝戦進出決定だーーーーっ!!」
今の俺はこの試合にまるで集中していなかった気がする。次が楽しみで、しかし緊張して……。そちらばかりが気になってしまっていて目の前の戦いを疎かにしていた。これは要反省だ。
《お疲れ様、エスカルゴくん。なんとか決勝戦に出場できそうね。けど……今の戦いを見てると、回復力が強すぎて死ににくいっていうのも難儀に思えてきたわよ。神代ですら見られなかった光景だったからねぇ……》
《何があったのマジで》
《いやいや、そんな大層なことじゃあないのよ。ただ珍しいなってね。でもあなたは知らない方が身のためかな〜ってね……そう思うのよね》
《フーン……?あと、次はへカーティアだよね。頑張って》
《応援されるまでもないわよん。そんなことよりルーミアちゃんに補充させてあげなさいな、隣であの子待ってるわよ》
《あぁ、うん。それじゃまた後で》
《バァイ♪》
その後、俺はルーミアに感謝の気持ちを最大限伝え、彼女の闇が満ちるまで、ひたすら腕や足を喰わせ続けた。ルーミア曰く「今すぐにモモ肉で口直しをしたい」とのことだった。知らない間に俺の何を食べたんだか……。
脳ってどんな味するんだろう