「はぁ……どうすりゃいいってんだ……」
せめてへカーティア攻略のヒントでもと思い、未来を
「どうすればって言われてもねぇ……。ちょっと耳貸しなさい」
「ん」
きっと能力で未来予知をしたのだろう。彼女を一旦下ろし、レミリアの口の高さまで体勢を低くして合わせ、ヒソヒソと話を聞かせてもらう。
「このままじゃあなたは負けるわ。圧倒的な力の前に屈する。水に気を付けることね」
「……水?」
「何枚目かまでは分からないけど、青髪になったアイツが大量の水を出すわ。洪水どころじゃない超大量の水よ。あなたは咄嗟の事に対応しきれずまんまと溺れるの」
「溺死か?てことは俺の判定勝ちじゃん」
「気絶よ。溺死前にルーミアが助けたわ」
「あらま。ルーミアってば、優しいなぁ……♡」
「今話したのは、こうして私に聞きに来なかった場合の話よ。だけど今、あなたはこうして未来を知った。だから、少しは未来が変わったはずよ」
「う、うぅむ……」
「もう一回、念の為に視ておく?」
「……一回で十分だよ。ありがとう。少しは気が紛れたよ」
「そう、それならいいわ。とはいえ、咄嗟に行動できないと結局負ける事になる。気を付けてね」
「ああ……」
◆
ステージが広いだけあって、広範囲に渡る氷の撤去にそれなりに時間が掛かってしまうらしく、決勝が始まるまでにもう少し時間があるようだ。
勝負服に着替えつつ永遠亭陣営に戻った俺は、その待ち時間を使って戦略を練りながら、鈴仙の団子を頬張っていた。甘い物を食べていないと、頭が疲れきってしまう。
《どうしよ建御雷ィ、勝てる策が思い付かねぇ》
《イヤミか貴様ッッ!へカーティアに負けた我に聞くな、馬鹿者!……まァ、我から言える事は、その、あれだな。近接戦闘はダメだろう。弾幕は凍らされて終わりだと思ったのだが……だからと言って格闘戦に持ち込んでも、お前では勝ち目は薄いだろうな。時を止められれば、どれだけ速く動けても敵わん。スキマで移動しようものなら、姿を消した直後に時を止めてしまえば次にスキマから出てくる所を狙い撃ちされてしまうぞ。我のようにな》
流石、実際に戦った者が言うとリアルさが全く違う。しかし、弾幕も格闘もダメだとしたなら、本当に勝ち目が無くなってしまう。そんなのは、絶対に認められない。嫌すぎる。
《まさか、私の弾幕が触れる前に凍るなんてね。恐ろしい神も存在したものねぇ》
《アレは、一撃一撃の威力が低めだからだろう。密度を優先しているからそうなるんだろうな》
《んー、それはあるかも……?神綺さんは、次のエスカルゴくんの戦い、どう見る?》
《正直、正攻法で勝つ方法は思い付かないわね。殺し合いの方が余程楽だわ……》
《えぇ……?じゃあ聞くけれど、へカーティアを殺す方法なんてあるの??》
《簡単よ。別世界に送り込んで、世界そのものを消してしまえばいいだけだから。そうすれば能力なんて関係なしに問答無用で消せるし》
《うわぁ、エゲツナイやり方ね……》
《母さん。多分だけど、へカーティアはそれでも殺せないと思うよ。コアが各地獄にあるって前に聞いた事ある。地球、月、異界の地獄にある……らしいけど、異界っつーのはどの異界を指すのか分かんないな》
《コア……えーと、存在の根幹を成す核みたいなものかしら。……あの肉体は仮のモノってこと?じゃあ、全世界の地獄を丸ごと消さないと完全に殺せないのね。それなら私にも無理ね……》
《てか、殺す方法はどうでもいいよ。どうすりゃ勝てるか、だし……》
《そうねぇ……。神奈子さん、諏訪子さん。何か策はあるかしら?隠岐奈さんも》
《無理だ。私には、へカーティアに勝てるような策は思い付かないな。勿論、力くらいは貸そうと思ってるが……。諏訪子は?》
《私も力は貸すよ。でも策は思い付かないなぁ。へカーティア、強すぎるでしょ。隠岐奈は?》
《どのような策も、へカーティアの前では無策に等しいだろう。策なぞ圧倒的な力の前には無力。力の差というものはそれほどまでに重要だしな。だがまぁ、私も力を貸そう。二童子もお前の為にまた踊りたがっているよ?》
《……ありがとうって伝えておいて。けど今回は長期戦になる……いや違う、長期戦に持ち込むと思うから、舞ちゃんには踊らないでおいてほしいかな……》
《ふぅむ……生命力の回復には時間もかかるし、自ら戦闘にタイムリミットを設けることになる。そうだな、理にかなっている。わかった、舞にはやんわりと伝えておくから、安心するといい》
《……悪い……》
応援してくれているという事実だけで嬉しい。勝っても負けても、絶対にお礼は言わなければ。ただ、まずはそれより目の前の事に集中だ。
《あぁ、どうしよう、どうすれば俺達は勝てる?ルーミアの力を解放した所で……建御雷と袿姫が勝てなかったのに俺達が勝てるとは到底……》
《大丈夫だよエスカルゴ、何とかなるって♪》
《軽すぎるぜ諏訪子〜……。今回ばかりはガチでヤバい気がするんだ……ルーミアと組んでんのに負けたくねぇぇぇ……!!》
《コラコラ。まだ始まってもいないのにもう後ろ向きになっているようだぞ。もう、里乃に踊ってもらおうか?》
《始まってからでお願いします……。里乃ちゃんには負担かけて申し訳ないな》
《良いんだよ、アイツが踊りたがってるだけだ。お前はただ、好意に甘えておけばいい》
有難いことだ。本当に有難い。となると、もしここで負けると俺に目をかけてくれている人々に失望させてしまうかもしれない。
勝ち目の無い戦い。が、もし負けるとしたら、やれる事を全てやった上で、誰にも失望されないような形で負けたいものだ。
◆
「お待たせしましたーっ!!ステージの修復と、氷とかの撤去がやっと終わったよ!!これより、決勝戦を始めたいと思いまーすっ!!」
「どれくらい激しい戦いになるのかしらね……。怖いわね……でも楽しみだわ!今回も、決勝戦はスペルカード無制限よ!ただし同じのは4枚までだから、気を付けてね!!」
スペルカード無制限と聞いて、まず俺は考えるより先にへカーティアの顔色を伺った。彼女は、俺を見てニマニマ笑っている。沢山攻撃できると考えているのか、もしくは「沢山使えるんだからちゃんと防御してよね〜?」とでも考えているのかもしれない。
「決勝戦で戦うのはコチラ!!山の英雄ことエスカルゴ・スカーレット!宵闇の妖怪、ルーミア!まさかのカップルで出場なんだよね!ヒューッ!ラブラブで羨ましぞっ!」
「とうとう始まったか……。ルーミア、闇は?」
「大丈夫だよ。始まったらアレ、お願いね」
「任せろ」
「そんなカップルの対戦相手は、地獄の女神ことへカーティア・ラピスラズリと!これまた英雄に手を出されたロリっ子妖精、クラウンピース!」
「いよいよやってきたぜ、決勝戦!ルーミア!!お前の相手はあたいだ!」
「楽しみにしてるわよぉ、エスカルゴくん♡」
「……」
「あの二組のこれまでの試合を見るに、今回は、これまでよりも凄い戦いになるんだろうね……!どんな戦いになるんだろ!?」
「もちろん、見てみないことにはわからないね!と、いうことで!決勝戦!始め〜っっ!!」
とうとう始まった。へカーティアもピースも、もう動き始めている。特にピースなんて、弾幕も展開させかけている。妖精特有の気配が強まっているのを見るに、純狐が純化したようだ。かなりパワーが上がっている。
「頼んだぜ、ルーミア……!」
開始直後、打ち合わせ通り隣に立つルーミアのリボンを解く。すると彼女を中心にドプンと闇が溢れ出し、中から大人ルーミアが姿を現す。この決勝戦の為だけに、ずっと温存していたのだ。
「へぇ、それが真の姿ってヤツか!あたいの為に本気になってくれたんだな、ルーミア!!」
「決勝戦だからね。強気でやらせてもらうわよ」
「あっ!しまったッ……!」
ルーミアの闇が猛スピードでピースへ伸びる。捕まらないようにと飛んで逃げるが、ルーミアが捕らえるのは彼女の影。肉体側が逃げても、何の意味も無い。
今回も、ルーミアの闇は相手の影を飲み込み、そして彼女の猛攻が始まった。しかしピースは、弾幕を消せる弾幕を出せる。簡単に行かないのはルーミアもよく分かっていた。
「ふふ、ピースちゃんったら楽しそう……!私も楽しませてもらうわよ!!」
「いくぜ、へカーティア!!」
「「獄雷『
宣言した瞬間、しまったと思った。あろう事か同じ技を選択してしまった。へカーティアの方も驚いているようなので、全くの偶然なのだろう。それに、思考を覗かないとも言っていた。
同じスペルを使ったとなるとこのぶつけ合いで負けるのは俺だ。神々が結託して起こした異変の後に、霊夢から聞いた。へカーティアが俺と同じスペルを使ったが、時間も威力も段違いだった、強かった、と。
「だからって、負けてられっかよぉぉぉ……!」
地からエネルギーを引き出すイメージで、雷をドンドン召喚し、本来バラマキ弾である弾道をも無理矢理捻じ曲げてへカーティアを狙う。しかし殆ど空中で相殺しされてしまい、へカーティアは回避行動をとりすらしない。
というより、向こうの方が密度が濃い分、俺が回避しなければならなくなっている。厄介なことこの上ない。
《気持ちを強く持て。テンションを上げなさい。お前の真骨頂は、気分がノッた時だよ。里乃も、踊りながら心配しているよ。舞もだ》
《けどよ隠岐奈!密度がレベチだし、同じ技とは到底思えねぇ!》
《同じ技だと思うからダメなんだよ。司っているアイツの方が上であることは当たり前だ。だからわざと同じ技名にしているんだよ。そうやって、無力感を煽るためにね》
《────ッ!!》
《いちいち反応したら負けだよ。分かったか?》
《分かった……!》
隠岐奈のアドバイスおかげで、少しはグラつくことも無くなったと思う。同じ技でないと認識を変えるだけでも、かなり気が楽になった。
そして、地獄の力を使わずこれまで通り魔法を介して力を借りていたからか、やはり、俺の方が先にスペルが終了してしまい、夥しい量の弾幕が一斉に俺を襲う。
「これが俺の専用武器!トール神の神器だ!神鎚『ハンマー・ザ・ミョルニル』ッッ!!」
レミリアはオーディンのグングニル、フランはロキのレーヴァテイン。それなら俺は、トールのミョルニルだと思って、少し前に開発していた。投げ技にも使える、ハンマー部分は5メートルはあるほどの超巨大ハンマーだ。
そんなハンマーをへカーティアに思い切り叩きつけようと、目が回るほどに高速で縦回転して、彼女に迫る。遠心力と重力加速度が組み合わさりグングン速度を上がってきている。
「まるで巨大な円盤。凄い速さね、私でも回転を目で追えないわ」
「喰らええぇぇえええッッ!!!」
「……!」
当たる瞬間、より一層力を込めて、ハンマーで叩き潰そうとする。しかし、掠った感触はあったのに、潰した感触は無い。
地面に当たるも、その部分が凹み亀裂が走っただけだった。
「フー……危ない危ない。異界の球が壊れるかと思った……わッ!!」
「ぐァッ……」
横から蹴り飛ばされ、壁まで吹っ飛ばされる。ハンマーは手から離れてしまったので、使われるのを防ぐ為に消しておく。
すると異界の球を月の球と入れ替えた。あれは非常にまずい。今より好戦的になってしまった。
《まずいな、壁はまずいぞ。パターンに入るな、どうにかして逃れろ!諏訪子、お前の出番だ!》
《そんなの私が一番よくわかってるよ、建御雷!構えて、エスカルゴ!》
月のへカーティアが迫る。けれども、すんでの所で身体が地面に沈んで、何とか窮地を逃れた。正直、危ないところだった。諏訪子のこの能力は本当に緊急回避に向いている。かなり便利だ。
それに、地面の中からは上が見える。だから今へカーティアがどこに居るのか、どこを見ているのか、何をしているのかなどが丸わかりだ。
できるだけ彼女と離れた地点で地面の上に出て再度弾幕を発射する。
「計略『五路の大軍』!!」
「あらあらあら……!囲まれちゃったわねぇ」
五方向から多種多様な弾幕を放つ。それぞれ、電力弾、魔力弾、妖力弾、霊力弾、闇の弾幕だ。俺にしてはカラフルな弾幕だろう。
これは、魏が蜀を攻めようとした際、司馬懿が主の曹丕に提案した作戦から取っている。多様で並行に行われるこの攻めは諸葛亮をも動かしたと言われている。
しかも一つだけ、とてもしつこい弾幕がある。三国志で言うところの南蛮王・孟獲。この弾幕で言うと、俺が操作するのが得意な電力弾がそれに当たる。しつこく対象をホーミングするのだ。
「……避けられなくもないけれど、スッキリした戦闘の邪魔ね」
フワッと白いモヤが出てきた。しかし、先程のスペルではない。弾幕を凍らせる為だけの冷気を纏ったようで、五種の弾幕は先程の袿姫の弾幕のように全て凍らされてしまった。
《冷気を纏ったわ!気を付けて、さっきの強烈なスペルが来るかもしれない!!》
《対処法は本当に
《大丈夫だよ袿姫、建御雷。ヒントならさっきの戦いで得てる。『アブソリュート・ゼロ』の対策だったら出来てるよ。問題はそれ以外……》
ぶっちゃけ、あの『アブソリュート・ゼロ』はより多く見せている『
そして、これまでの試合を見て、更にこうして体験して気付いた。ああやって冷気を纏う時は、接近する弾幕を凍らせる。しかし『
どの程度のモノを凍らせるのか、検証してみる必要がありそうだ。
「今度は
「面白いわね、受けて立つわ!」
地面を蹴り、羽ばたき、できるだけ最速で動き接近する。へカーティアは構えていない。まるで動かずとも大丈夫だと言わんばかりに、仁王立ちしている。
そんな彼女に拳を向けて、射程距離内に入ると同時に拳を振り抜くが────。
「い゙ぎゃっ……!?」
一瞬、とんでもない痛みが腕を襲った。しかし次の瞬間には痛みが消えた。右腕の肘から先が、完全に氷漬けになっている。一瞬で感覚が完全に死んだらしいが、気にせず拳を振り抜くと流石のへカーティアも、
「なっ……吹っ飛ばないのか……!?」
「大木をも片手で投げられる怪力な種族を相手にしているのよ?肉体強化してあるに決まっているでしょう」
そう言って、そのまま氷漬けになった俺の手を握り潰した。肉やら血が混じった氷が宙を舞い、キラキラとダイヤモンドダストのように輝く。
「ちっ……!!」
傷口も凍っているので、血は出てこない。更に再生も遅くなっている。厄介で面倒すぎる力だ。俺は二の腕を切り落として再生を促したあとに、二振りの剣を取り出す。
「いくぜ、前に月で見せた大技……ッ!!神双剣『
様々な力を引き出し、神々から力を借りた上で剣を媒体に一気に力を解放する。弾幕バージョンなんて生温いことはしない。本気も本気の大爆発である。母さんの結界があってこその技だ。
今思うと、かなり厨二病くさいネーミングだ。それに加えてガキっぽい。まぁ鈴仙に似ていると思えば羞恥心も少しくらい薄れるのだが……。
「なんてデタラメな威力……マトモに喰らったらタダじゃ済みそうにないわね!」
「!!」
爆風で、彼女の周囲の白いモヤが無くなった。つまり、厄介な冷気が消えたワケだ。畳み掛けるとしたら今をおいて他にない。かと言って彼女に近付けばまた大変な目に遭うだろう。
「眷属『擬似神化』ッッ!!」
力を解放すると少しぶりに左眼が黄色く輝き、帯電する輪が頭上に現れる。そして威力を上げた電力弾をこれでもかと放つ。当然へカーティアは易々と回避していく。勿論こんなのは想定内だ。
「本当に、持てる力全てを使ってやるッ……!!重符『ウィス・アトラヘンディ』ッッ!!!」
闇の弾幕に寄せた黒い弾幕を放つ。触れずとも結界のように効力を発揮するこの力は、引力だ。近くの弾幕に引き寄せられるのである。
「ッ……引き寄せられる……?」
「そうなりゃあ、へカーティアはもう動けまい!重符『グラビティ0』!!」
「────ッ!!」
へカーティアをこちらに寄せていた中で、急に彼女にかかる重力を0にする。すると重力が消え足で踏ん張れなくなった彼女は、難なく俺の方へ吹っ飛んでくる。
「っしゃあ、キタキタキタキタ……!喰らえェ、へカーティアぁあぁぁぁぁっっ!!!」
「あらあら……元気になっちゃって……♡」
射程距離内に入った。威力を高めた電撃を拳に纏わせ、腹の辺りを狙って殴り飛ばそうと本気で拳を振るう。
なのに、拳が当たるその瞬間、へカーティアは姿を消したようで、標的を見失った俺は呆気なく空振り、よろめいてしまう。
「おバカさん♪」
「────!!」
そんな声と共に、後頭部に強烈な痛みが走る。そうなってからではもう遅い。瞬間移動なんかも間に合わず、俺は頭から地面に叩き付けられた。察するに、瞬間移動or時間停止からの踵落としをされたようだ。
俺がダメージを喰らった事で能力も解除され、へカーティアのデバフは消えてしまった。せめて重力は消したままが良かったが、あのダメージが全くの想定外すぎた。
「成程ねぇ、重力系の能力を併用したのね。中々想定外だったわ、今のコンボは。惜しむらくは、詰めが甘かったことかしら。これなら5割なんて出さなくて良いかもねぇ」
「……!」
「物足りないけど、そろそろ終わらせましょう。宇宙『アブソリュート・ゼロ』!!」
「ッッッ!!」
彼女を中心に真っ白なモヤが溢れ出してきた。アレでステージを覆って、光線を出すらしい。それなら俺にだって考えがある。建御雷、袿姫、ピースが体を張って俺にヒントをくれた。
「ルーミア!!今そっちに行くッッ!!」
「ッ!?」
津波のようなモヤより速く飛んで、少し離れたところで戦っているルーミアへ、手を伸ばした。ピースの弾幕がビシビシと当たるが、そんな事は気にしていられない。
「あの白いのって……!」
ルーミアは俺の手を掴んだ。その直後に、俺は一枚のスペルを宣言、発動させる。ギリギリではあったが、ルーミアも守れそうでよかった。
「雷鎧『サンダーアーマー』!!」
こうして手を繋いだり、または触れていれば、二人共アーマーを纏える。何を隠そう、これが、
『アブソリュート・ゼロ』攻略の鍵なのだ。
「さ、寒い……」
「ちょっと我慢してくれっ……」
そう感じたのを最後に、俺もルーミアも、何も見えなくなる。鎧を纏った所まではいいが、鎧の表面に建御雷達を封じた氷が張っているようだ。
「あーーーっと!?これはまずい!英雄、彼女を守ろうと飛び出したはいいがあっさりと氷漬けにされてしまったーーっ!?」
氷の向こうからくぐもったにとりのそんな声が聞こえてくる。急いで脱出しなくてはならない。
ではどうするかと言うと、別に難しくはない。
「ちょっと、これじゃ負け扱いになっちゃう!」
「大丈夫。この技は、俺には通じない」
まず、纏っていた鎧を解除する。すると、鎧の厚さの分だけ肉体と氷の間に隙間が生じるのだ。
その隙間を利用すれば、あとは簡単。デコピンでも頭突きでも、何でもいい。好きな方法で氷を破壊してしまえばいい。
適当に腕を振ると、そこを起点にバリバリ氷が割れ、俺とルーミアは脱出できた。
「……ッ!?これは……想定外ね……!!」
「地獄から戻ってきたぞ、へカーティアッ!」
あの技は恐らく、対象の
例えるなら、そう、ゴキブリホイホイだ。
素手でホイホイに触ると、ベトリとくっ付いて簡単には剥がれてはくれないだろう。しかしだ。手袋をつけてからホイホイに触るとどうだろう?
答えは簡単。
「どうやって脱出したのかしら……?喰らってたはずよね?アレは幻?いいや……あなたの結界の強度だと防御は不可能なはずよ……。となると、喰らっていたのは現実のはず……」
「……やっぱり、結界じゃ防げなかったんだな。薄々気付いてたよ。俺の結界の強度じゃ、アレは防御できないってことくらい」
だから、「防ぐ」のではなく「喰らった後」の行動を考えていたのだ。予想が当たって何より。問題はこの後。レミリアの予言では────。
「…………やっぱり凄いわ。流石、私が見込んだ器くん。アレを破ったのは、あなたが初めてよ」
「!」
そう言ってニッコリと微笑むと、月の球から、地球の球に交換した。彼女の金髪は根元から青く染まり、感じられる力も少々変質する。
「掃除するしかないわね。あなたの存在を。神罰『ノアの方舟』」
「……!」
掃除、ノアの箱舟……間違いない。レミリアの予言は、間違いなくこれを指している。しかも、へカーティアの強烈な魔力が壊れた間欠泉の如く急激に高まってきている。
魔力を感じるという事はこれは魔法だ。彼女の神徳には水を操作するものなんて無いし、きっと魔法に違いない。
それなら、対魔理沙用に考えていたあの魔法がここで使える。
「今しかねぇ……!サンキュー、レミリア!魔術『
「これで終わりよッッ!!!」
「あっ……!?」
魔法を纏った瞬間、そう叫んだへカーティアが地面を水に変えた。飛び立つのが遅れ、呆気なく水に落ちていく。このままでは溺れる。
しかし俺は、レミリアから聞いて溺れることを知っている。だからこそこの魔法を使ったのだ。
魔法によって生み出された水は、俺に触れると消える。これは俺の魔法による効果だ。だから、溺れる心配は無い。落ちる所まで落ちればいい。
「なんてこと……初見で完封ですって……?」
「水が消えたから、深い穴になっちゃったなぁ。これ、水だったら水深5mくらいにはなってたんじゃないの?」
穴の底に立ち、声をかけると、へカーティアが地球から再び月に球を入れ替えたのが見えた。
外に出てへカーティアと睨み合うが、弾幕は、まだ発射してこない。黙って俺を観察している。しかしそれでは何も分からなかったのか、彼女は静かな落ち着いた声で口を開いた。
「凄いわね、初見で完封突破だなんて。あなたにしては冷静に対応できたんじゃない?てっきり、あなたは今ので気絶すると予想してたんだけど」
「上手く対応できてよかった。流石はレミリアの未来予知。ありがたいこった」
「やっぱり、レミリアが一枚噛んでたのね……!それにしても、どうしてそこまでして、魔理沙を目の敵にするのかしら?負け続けるのがそんなに嫌なの?」
「あぁ嫌だね、死ぬより嫌だ!!」
強化したままの電力弾をバラバラと放ち、その一部は適当にカーブさせたりホーミングさせたりランダムに動かす。バラマキ弾よりランダム性に富むこれは、へカーティアが何度か被弾するほど厄介らしい。
「攻撃力に欠けてるのかな。まだまだ、なにかが足りてない気がするんだよな……クソッ……!」
「攻撃力は十分。あなたは命中力に欠けてるの。それにしても、魔法対策のその執念……本ッ当に敬意を表するわ。一体、何を考えてそこまで魔法対策に執念を燃やしているの?」
「負けるのが嫌だから」
「えぇ……もう少しこう、具体的に……ね?」
「敗北嫌いの俺はどうしようかと考えた。そして性欲にヤラれた脳でついに閃いた。俺は最ッ高に魔力が少ない吸血鬼だ。魔力が少ないなら、それ相応の戦い方をすればいいワケだから……相手の魔力を奪って自分の力にすれば、相手が力尽きるまで俺も満足に魔法で戦えるっつーワケだ」
「……じゃあまさか、水が消えたのって……」
「そう、その『まさか』さ!あの魔法に使われた魔力は、全部吸収させてもらったッ!!」
ただし、相手の魔法が強ければ強いほど効果の持続時間が短くなってしまう欠点もあるらしい。だからもうその効果は切れている。
しかし、以前開発した魔空『
全てはこの日の為。優勝する為。絶対に勝つ。負けられない戦いというやつだ。これは、家族を守るときくらいに負けられない戦いだ。
嫁も嫁じゃない子も、彼女も彼女じゃない子も見ている。こんな状況下で俺が負けるだなんて、絶対にあってはならない。
「吸い取った魔力で吹っ飛ばしてやるッ……!!魔砲『
飛び出した光線は、俺の技とは思えないほどの魔力の多さ、太さ、威力だった。へカーティアが使ってもおかしくないほどだと思われる。それが100本、へカーティアに向けて放たれる。絶対に効いてるはずだ。効いてなければ勝てない。
思えば、あの魔力還元魔法にはかなりの労力を費やした。
パチュリーにマスパモドキを撃ってもらって、俺はこの技を発動させた状態で耐える。そうして無効にさせた上で、マスパモドキの魔力を強奪しこの身に収める技術を会得した。何回かは胴体が消し飛んだ記憶があるが、今ではそんな威力でも無効化し、還元できるようになった。
捨て身と言うべき無理矢理な鍛え方だったが、それが実を結んだようで嬉しい。パチュリーにも今度報告しなければ。
「……さぁ、どうだ……?」
やがて煙が晴れて、その中からへカーティアが姿を……現さなかった。ただ、気配も何もしないのに、背筋がゾワリとした。
振り返るとそこには、笑顔のへカーティアが。その笑顔を見た瞬間、全身にとんでもない悪寒が走り、鳥肌が立った。
「Hey stupid boy!Welcome Hell♪……お前は、私の魔法を初見で突破し私の自尊心を傷付けた。もう、遊びは終わりよ」
「へカ────」
彼女が手に持っているのは、煌々と耀いているあの松明。それを思い切り振り抜き、俺の胴体をダルマ落としの如くブチ抜いた。
持ち前の再生力で、すぐに死にはしなかった。けれども、一瞬でも胴体が無くなれば、出血量はお察しの通り。手や足とは比べ物にならないほど血が持っていかれた。
再生は済んだのに、徐々に目が霞んで、やがて手足に力が入らなくなる。
景色が白んできた中で気を失う前に見た最後の光景は、俺を救助しようと飛んできたルーミアがへカーティアに救助を妨害、肉弾戦を挑まれ……上手いことその隙を狙ったピースが、俺に満月を落とすところだった。
いくら盛った所でエスカルゴじゃへカーティアに勝てるワケが無いんだよなぁ。そしてレミリアの予言通り「咄嗟のこと」に対応できず……。