「げッ、激闘を制したのは地獄組ッ……!結果は地獄組の勝利〜〜〜〜〜ッッ!!」
「おめでとうございます……!ステージに大穴が空いちゃってるわね……恐ろしい魔法だったわ」
「彼の気絶により彼とルーミアの闇病みコンビ、惜しくも準優勝、だね……!」
「いや、でも、かなり食い付いたと思うわっ!!私なら1発でノックダウン間違いないし……!」
「だ、だよねっ!にしても、結界越し……なのになんだか寒気がするねっ……何だろ……」
キャッキャと楽しげに話している地獄組を見て私は小さく溜め息をついた。にとり達の話なんて全く頭に入ってこない。
決勝戦で負けてしまった。最後の最後に、私はとんでもないミスを犯した。彼が吹っ飛ばされたとき、助けに行こうとした。その行動自体は多分間違っていなかった……と思う。
けれどその時に、あろうことかピースの行動を制限していた闇を解除してしまった。というのも私は並行作業が苦手だからだ。だから、少しでもちゃんとへカーティアの相手をするなら闇は解除するしかなかった。
それが最大のミスだった。それが原因で、彼にトドメを刺されてしまった。
だから、たとえ並行作業が苦手でも、ピースは封じたままでへカーティアに挑み、もしくは彼を助けに行くべきだった。
そう思うと、どうもやるせない。
「……あれ?そういえば彼……目が覚めないね?どうかしたのかな……?」
そういえばエスカルゴ、全く目覚めない。血はもう回復しているはず。いくら貧血だからって、そんなのはすぐ治るはずだ。
「ご主人様、ご主人様!エスカルゴのこと治してあげてください!」
「うーん……治してあげたいんだけど……これは怪我とかじゃないみたい。私じゃ治せないわね、原因不明だもの」
ピースは主人にエスカルゴの治癒を願ったが、それも叶わないという謎の現象。何となくイヤな予感がした私は、彼を背負い永遠亭のメンバーが居るところへ向かった。
「永琳。エスカルゴを診て」
「とりあえずその辺に寝かせて」
「通路や地面に寝かせろって言うの?やめてよ、そういうの」
「はいはい。でも、目立つ外傷は特に無いわね。毒や瘴気の類でも無いし……別な要因のようね。よく分からないわ」
「もっとちゃんと診てよ、アンタ医者でしょ!?なんで体が強いエスカルゴが眠ったままなのよ、どう考えてもおかしいでしょ!?ねぇ!!」
「落ち着いて。肉体じゃないとすれば精神……。精神に、何らかの異常を来たしてる状態なのかもしれないわ。でも私はメンタルヘルスは専門外。申し訳ないけど……どうにもならないわ。薬じゃどうにもならないことだし……」
「……なんでよ……?私は……守られたのに……なんで私は、助けてあげられないの……??」
級友の巫月も、彼女の一人の鈴仙、それからサグメだって見ているのに、何故だか涙が溢れて止まらない。守られるばかりはイヤだ。だから、さっきは助けに行こうとした。それなのに実際は守れなかったばかりか敗北を招いてしまった。
「てゐ、あなたの能力で何とかならない?」
「もうやってるウサ。でも特に何も起きないね。ラッキーじゃダメだわ」
永琳はてゐに能力使用を促すが、もうやってるらしく、それでも目覚めないが故に、良い返事はもらえなかった。続いて他のメンバーにも視線を向けるが、誰の能力も、目覚めさせられるようなことはできないものばかりだ。
「そりゃあそうさ。エスカルゴは、ちょっとだけ心を閉ざしている状態だ。精神が壊れかけてる。俗に言う『心が折れた』みたいなものかな?」
そこに現れたのは隠岐奈。後ろには手下の舞と里乃もついてきていて、二人はとても心配してる様子だ。隠岐奈はどこかこの状況を楽しんでいるようにも見えるが。
すると何かを疑問に思ったか、永琳が隠岐奈に質問をぶつけ始めた。
「なんでそんな事があなたに分かるの?」
「コイツの治癒力だし、診るまでもなく肉体的な原因ではないだろう?」
「それはそうね。腹をぶち抜かれても数秒で回復したし。かと言って『心が折れた』状態だと断言できるとは思えないけど?」
「夢の世界に行って獏に聞いてみたんだ。すると先程、夢の世界のコイツが突如として廃人化し、意識はあるのに、全く動かなくなったそうだよ。相当、ショックだったんだねぇ……。レミリアの予言を聞いていたのに、未来を変えられなかったことが」
「あ〜……。これまで思い通りに出来ていた分、大事な時に変えられなかったから……」
「そう、きっとそこだな。レミリアから『咄嗟のことに対応出来なきゃ負ける』って予言を貰っていたんだが、最後のへカーティアの行動を見るにその予言にバッチリ当てはまっているから……」
「そうねぇ、振り返った直後にズバンとね……。じゃあどうするのよ、もう手遅れ?」
「いや、まだ余裕で間に合うね。里乃、ついでに舞も、踊って目覚めさせてやりなさい」
「「はいっ!」」
茗荷と笹を持って踊り出そうとする二人だが、永琳はそれを手で制止する。二童子はキョトンと目を丸くするが、隠岐奈は不敵な笑みを浮かべるばかり。何を考えているのかまるで分からない。頼るべきではない……のかもしれない。
「どうした、永琳?折れた精神力を引き出そうとしているのに。戦闘中もこうして気持ちを高めていたんだよ?思い返してみろ、コイツの言動を。ジワジワとテンションが上がってきていたろう」
「待ちなさい、隠岐奈。それは、麻薬類の効果が切れたあとに苦しみから逃れるためにまた麻薬を求めるのと同じことだわ。依存から抜け出せなくなったらどうするの?エスカルゴは不老不死で、本体は魂。精神よ。失敗すれば廃人と化すわよ。未来永劫ね」
「そうなったらそうなったで、別に構わないよ。その時は、私の能力で元の状態に戻せるからね。幻想郷を作り直すよりも簡単なことだよ。要は、彼を目覚めさせる事が重要だ。目覚めさえすれば持ち前の軽さですぐに立ち直ってくれるだろう」
「ッ……」
「ルーミア。コイツが目覚めたなら、もう自分を責めるな。エスカルゴはお前に影響されやすい。これだけ言えば、もう分かるね?」
「……ええ……わかった、わ……」
負けた事に対してではないのかもしれないが、エスカルゴは心が折れる程ショックだったんだ。立ち直るまで、私が支えてあげなきゃ。こうして泣いてる場合じゃない。
そもそも私が泣くなんておかしい。そんなに、あの勝負に対して真剣だったわけでもないのに。私は、何に対してこんなに涙を……。
「よしっ、じゃああとは二童子、お前達の双肩に掛かっているよ。起こしてやろうじゃあないか。そしてまた飯にでも連れて行ってもらうといい」
「やった!また休暇だよ里乃!頑張ろ!!」
「また休暇なんて珍しいですね、お師匠様!私達頑張ります!」
「えー……半休じゃダメかい?」
「「ダメです!!」」
「あ、ハイ……わかりました……」
そんな会話の後、二人が踊り出す。すると割と直ぐに目を覚まし、吹っ飛ばされた腹を擦りつつ目をぱちくりさせている。
「あ、起きた!お兄さん、大丈夫?」
「おはよーございますっ♪」
「舞……里乃?あれ……背負われてる?のか?」
スンスンと私の髪の匂いを嗅ぐ。すると匂いで察したのか、私の頭を撫でてから背から降りた。背中は軽くなったけれど、どこか寂しく感じる。
「……負けちまったかぁ」
「……うん」
「悪かったな、やられちまって。見てたよ、俺を助けてくれようとしたの」
「言わないで。……助けられなかったんだから」
「あのへカーティアが立ちはだかってたんだし、仕方なかったってやつだ。にしても強かったな。いつかリベンジしてみたいもんだな。何百年後になるか知らねーけどよ」
「私はもう嫌だけどね。嫌な記憶が蘇りそう」
良かった。いつもの調子だ。心が折れてたのは一時的だったんだろう。フリをするようなことは苦手なエスカルゴだし、安心しても良さそうだ。
ショックで寝込んだなんて、エスカルゴらしいような、らしくないような……。
「迂闊にもへカーティアにノセられちまったな。1対1で戦ったのが、そもそもの間違いだった。最初から2対2で戦ってりゃ、少しくらい結果も変わってたのかもしんねーし」
「そうね。……まぁ……頑張ったし、今度ご褒美あげるわ」
「へへ、楽しみにしてる」
ニヒヒッと子供みたいに笑う彼を見て、やっと心から安心できた。もう、大丈夫。私が心配する必要は無い。
「よし、飯でも食いに行くかぁ!舞、里乃!また助けられちまったし、奢ってやんよ!」
「やったー!」
「ありがとうございます♪」
……別に構わないけど、私の目の前で言うのは流石に控えてほしい気がしなくもない。嫉妬とかしないはずなのに、妙にモヤモヤする。
まぁそれはいいとして、勝負が終わったのなら私も元に戻る時間だ。
「エスカルゴ、そろそろ……」
「ああ……やっぱ元に戻りたいのか」
「言ったでしょ。私はロリな私の方が好きなの」
「ふーん……やっぱりそうなのか。俺はどっちのルーミアも好きだけどねぇ……」
「よく言うわ、このロリコン。この前も、大人と子供では子供の姿の方が沢山イッて────」
「よーしよしよし分かった、封印な!はいはい、分かった!」
暴露してやろうとすると慌てた様子で手で口を塞いできて、私がジト目で睨みながらも黙ると、リボンをキュッと巻き付け、封印を施した。一瞬苦しくなるが、もうそんなのにも慣れた。
「わはー♪」
「やっぱロリは最高だな……!」
「流石変態、言うことが違うねー。じゃあ、私は霊愛達と地上に帰るね。またね」
「おう、またな」
色々あったけれど、何だかんだでエスカルゴと組めて楽しかった。たまにはこういう遊びも良いかもしれない。
◆
「っつーわけで、二人と遊んでくるぜ隠岐奈ァ。文句は無いよな?この前と同じことだし」
「あぁ、無いよ。元よりそのつもりだったしね」
「あ、そうなんだ。……じゃあその……あれだ、今回は隠岐奈も来る……か?」
「ほう、私も?どういう風の吹き回し?」
「そりゃあ、その、アレだ。その……アレだよ、聞かねぇで察しろ!賢者様だろ?」
「照れ隠しが下手だねぇ。……何だ、ちょ〜っとアドバイスしただけだろう。そんなに感謝される謂れは無いね」
「このッ……マジでさぁ……!!じゃあ来んな、奢んねーかんな!」
全く、隠岐奈のこういうところが嫌いなのだ。イジるのも、ある程度の限度というものがある。鈴仙や巫月、いや、てゐの前でそういう事を言うのは酷い。後でてゐに色々言われそうだからだ。
「待て待て、行かないとは言っていないよ。少し遅めの昼飯といこうか」
「何なんだよもう、調子狂うなぁ!」
「お前みたいなのを、世間ではツンデレとか言うらしいぞ?男のツンデレなんてどの層にも需要は無いと思うがなぁ」
「だァれが隠岐奈にツンデレだってぇ!?寝言は寝て言うんだな!今度こそ本気で永遠に寝かせてやろうか!?」
「おぉ、怖い怖い。永遠に眠りそうだったのは、ある意味お前の方だったのになぁ」
「チッ。……感謝してるよ隠岐奈。負けちまったけど、善戦できたのは間違いなく隠岐奈のおかげだしな。勿論、他の神々にも助けられたし。後日改めて“お礼参り”させてもらう」
「そうかそうか、嬉しいねぇ。待ってるよ」
◆
《ハァイ、エスカルゴくん。復活して何よりよ》
舞達と遊んだ帰り、一人になったタイミングを見計らったか、ナイスなタイミングで話しかけてきた。それはいつも通りの声色で、真剣モードと掛け離れた様子だった。
《あぁへカーティア。さっきはどーも。何となく分かってたことだけど、いざ負けるとテンション下がるなぁ》
《ふふ、私はテンション上がったわよ?なんせ、初見で突破されたんだからねぇ……ふふふふっ、そんなの初めてだったし》
《めっちゃキレてた顔してたけどね》
《あらやだ、そうだった?》
《自尊心を傷付けた、とか言ってたしね。正直、死んだと思ったよ》
《だぁってぇ……殺す気じゃないとあなたのことなんて気絶させられないもの。それにね、最後の最後に殴ったあの瞬間だけは、身体強化を本気でやったわよん》
《マジ?》
《そうでもしないと、強靱なあなたの肉体を消し飛ばせなかったもの。単なる殴打じゃあ、壁まで吹っ飛ばされた後に地面に逃げられ……堂々巡りだったと思うし》
《確かにそうか……》
《でもま、楽しませてくれたから認めてあげる。地獄の力、あなたに使わせてあげるわ。ちゃんと精進なさいね》
よかった。負けたから、ダメだと思っていた。だがへカーティアの基準は勝敗ではなかったし、恐らく彼女は、負ける気などサラサラ無かったのだろう。
《ただし次に私に挑むなら、賢者を倒してからにしなさいね。もしもこの私を経験値扱いすると、どうなるのか……。分かったでしょう?階段は、飛び越えるのではなく、しっかり踏み締めて登るためのものなのよ》
《はい……。精進します》
《よろしい!良き地獄ライフを♪》
《コワ〜……》
恐ろしい地獄の力だが、地獄を知り、その力を知り、キチンと使いこなせるようになりたい。
もし使いこなせるようになった暁には、数多の賢者を襲い、打ち勝って自分の力を高めた上で、万全を期してへカーティアに挑みたいものだ。
ルーミアは自分を責めていましたけど、実際は、ルーミアがピースを逃がさなかったとしても時間経過でエスカルゴは気絶したので、どちらにせよ結果は変わりませんでした。
気絶するのが遅いか早いかの違いだけですね。