※この作品はR-18です。

吸血鬼人間の幻想生活   作:エスカルゴ・スカーレット

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読んでいるあなたも、寺子屋の皆と一緒に考えてみましょう。(笑)



臨時講師 〜数学〜

「やぁエスカルゴ、久しぶりだな。花果子念報、読んだぞ。先日は大健闘だったそうだな!」

 

 花果子念報……そういえば決勝戦の帰り道に、はたてからインタビューされたような。まさか、アレを記事にしたのか。

 

「よぉ慧音。結局負けちまったけどなぁ。今日も今日とて、蚕食(さんしょく)鯢呑亭でヤケ酒の予定だよ」

 

「そうか、体に気を付けてな。負けたにしても、地獄の女神とやらを相手に、よく頑張った方だと思うよ。お疲れ様。ところで、ちょっと頼まれてくれるか?今すぐじゃない、日付は巫月を通して伝えるから、その時に寺子屋に来て欲しいんだ」

 

「……?頼み事ってのは一体?」

 

「臨時講師だ。何年も私だけが相手していると、マンネリ化するからな。妹紅もたまに呼んでるんだが、エスカルゴもどうかと思ってな」

 

「娘居るけど良いのか?」

 

「構わないが……なにか、問題でもあるのか?」

 

「……!あぁいや、なんでも」

 

「?」

 

 親が子供の担当をしないのは、外の世界の教育機関の話だ。幻想郷では、そんなことはどうでも良いらしい。良かった良かった。実に良かった。

 

「あ、授業中にイチャつくのはやめてくれ。もう巫月を止めるのは不可能だと判断したがな……。だが、せめて最後の一線だけは越えないでくれ」

 

「あー、うん、まぁ、善処しますよ?うん」

 

「はぁ……やれやれだ」

 

 最後の一線?……セックスじゃあないだろう。子供を作る事こそが最後の一線だろう。そうだ、そう思う事にしよう。そうすれば俺と巫月はまだ一線を越えていないことになる。きっとそうだ。

 

 

◆

 

 

「というわけで、今日一日はエスカルゴに先生をやってもらう事になったぞ。皆、礼!」

 

「「「「お願いしまーーーすっ!!!」」」」

 

 幻想郷に来た当時は考えもしなかった。まさか俺が、幼……少女達を相手に教鞭を執る事になるなんて。しかも二回もだ。覗きや参加はしても、また授業する側になるなんて考えもしなかった。

 

「自己紹介は要らないよな。今日だけは先生って呼んでくれると嬉しいかな」

 

「はーい!エスカルゴせんせー!」

 

「良い返事だ、巫月。……えーと今日の時間割は何だっけ?慧音先生」

 

「今日は数学、保健、体育、弾幕の4時間だ」

 

「そうそう。じゃあ早速、数学やろう。今日は、数学……というよりは算数を使って、頭の体操をしよう。閃きが大事だから『私バカだから……』とか考える必要は無い。気軽に取り組んでくれ」

 

 授業の準備はしてある。だから、俺がそう言うのと同時に、慧音は白紙を皆に配る。何の変哲もないただの紙だ。

 

「じゃあまずは簡単な説明からするから、よーく聞いてくれ。今日は魔方陣っていうのをやるぞ」

 

「マホウジン?せんせー、魔法陣って魔法の時に出てくるアレ?」

 

「それとはまた別だな。そっちは『魔法陣』で、俺が今言ったのは『魔方陣』」

 

 カツカツと音を立てつつ、両方の漢字を書いてみせる。我ながら不格好な字だ。思えば、漢字を書く機会そのものがほぼ無いので、下手になっていても仕方ない。

 

「えー、簡単に言うと、3マス×3マスだとか、4マス×4マス……等、正方形に並べた数字を、縦、横、対角線の、どの列を抜き取って足し算をしても、答えが同じになるモノなんだな」

 

「「「「?」」」」

 

 皆して首を傾げている。俺自身も、今の説明はクソオブクソだと思った。何言ってるんだ俺、と頭の中では大騒ぎしている。

 

「とりあえず書いてみようか。3×3のマス目をその紙に書いてみてくれ。……そう、それから、縦にも横にも対角線にも足した答えが等しくなるような数字を入れるんだ」

 

「う〜……もう頭がこんがらがってきた……!!あたいもうよく分かんない!」

 

「じゃあ一つ、例を書いてみるぞ」

 

 ┌─┬─┬─┐

 │2│9│4│

 ├─┼─┼─┤

 │7│5│3│

 ├─┼─┼─┤

 │6│1│8│

 └─┴─┴─┘

 

「……とまぁ、こんな感じのが魔方陣ってんだ。しっくり来ないって思ったら、縦、横、対角線のそれぞれの3つの数字を足してみてくれ」

 

 ガリガリと白紙に式を書き込んでいくチルノとリグル。巫月、ルーミア、ミスティアは何となく分かっているようだ。大ちゃんの顔が赤いのが、少し気になる。……いや、まさか……。

 

「「全部15になった!!」」

 

「そう、その通り。皆にもこんな感じの魔方陣を一つずつ考えてもらうぞ。その後に、俺が考えた問題を解けたら、数学の授業は終わりだ。早めの休み時間としよう」

 

「魔方陣のサイズに指定はありますか?」

 

「サイズに指定は無いよ。じゃあ、そうだな……自信がある子には、和になる数の指定をしよう。自信がある子、手を挙げて」

 

 予想通り、巫月、大ちゃん、ルーミアの三人が手を挙げた。ミスティアは……敢えて挙手しないらしい。その方が楽だろうし、寧ろその方が普通だろう。

 

「よし、じゃあ巫月は合計が40以上50未満になる魔方陣だ。大ちゃんは……期待を込めて60以上70未満かな。ルーミアは……ルーミアなら100以上とかでも大丈夫か」

 

「ちょ、エスカルゴ!?私だけ雑じゃない!?」

 

「先生(・・)だ」

 

「先生、私にだけ雑!」

 

「そんな事は無いぞ。その子に合わせて(・・・・・・・・)の課題を出しただけだからな」

 

「〜〜〜〜〜ッ……!あーもう、手ェ挙げなきゃ良かった……めんど〜……」

 

 そう言うルーミアの顔は何故かニヤケている。本心からのセリフではないらしい。アレこそが、ツンデレではないだろうか。ツンツンしておいてひっそりデレている。

 

「先生、質問でーす」

 

「おぉリグル、どうした?」

 

「連続する数字を使わなきゃダメですか?」

 

「……!良い質問だ。そうだな、連続した数字の方が望ましいかもしれないな。ただし、スタートとなる数はリグルの好きに変えてもいい。課題、出そうか?」

 

「えっ!?わ、私に出来るかなぁ……」

 

「そこに気付けたんならイケるだろう。じゃあ、リグルには、5からスタートする魔方陣を考えてもらおうかな。数字の数は9でも16でも25でも、好きに決めていいよ。9が楽だろうな」

 

「うわぁ……。1からスタートしてる例なのに、レベル上がりすぎですよぉ……」

 

「本当にそうかぁ?魔方陣には、規則性がある。俺が黒板に書いた例を見てごらん。もしある事に気付ければ、スタートの数が変わっていても秒で解ける。比喩じゃない。本当に秒で解けるんだ」

 

「が、頑張ります……っ!」

 

 

◆

 

 

 それから、約15分が経過した。巫月は、3からスタートする4×4の魔方陣で正解を叩き出し、大ちゃんは1からスタートする5×5の魔方陣、ルーミアは1から始まる6×6の大きな魔方陣を作っていた。ルーミアは、答え合わせをしている今では、燃え尽きたように宙を見つめている。

 そして俺は、説明の為にリグルの魔方陣だけを例の横に書き写し、皆の注目を集める。

 

「皆、リグルの魔方陣を見てくれ。リグルには、5からスタートする魔方陣という課題を出した。当然、俺が例で見せた魔方陣よりも合計は大きくなる。それは他の皆も同じだな。それがどうだ、この魔方陣は。課題を解いた皆が作ったモノは、4マスとか、5マスとか……ルーミアに至っては6マスもの大きな魔方陣になってる。それなのにリグルの魔方陣は3マスの魔方陣のまま。こりゃ一体、どうしてだと思う?」

 

「外れてるから?」

 

「それは違うなチルノ。計算するとわかるけど、リグルは当たっているよ。ただ、ある決まり事に気が付いたから、こういうシンプルな魔方陣でも正解を出せたわけだな。俺の書いた例とリグルの魔方陣を見比べてみてくれ」

 

 ┌─┬─┬─┐

 │2│9│4│

 ├─┼─┼─┤

 │7│5│3│

 ├─┼─┼─┤

 │6│1│8│

 └─┴─┴─┘

 

 ┌─┬─┬─┐

 │6│13│8│

 ├─┼─┼─┤

 │11│9│7│

 ├─┼─┼─┤

 │10│5│12│

 └─┴─┴─┘

 

「……あ。わかりましたっ……!」

 

「答えをどうぞ、大ちゃん」

 

「リグルちゃんは、先生の魔方陣の数の並びとかそのままで、全部に4を足した(・・・・・・・・)んですねっ!」

 

「正解。流石大ちゃん、その通りだな。完成した魔方陣には、全部に同じ数字を足したり引いたり何らかの同じ計算をした場合、魔方陣は壊れない性質がある。いわば、ただ拡大・縮小しただけの状態になるわけだ」

 

「だから先生は『秒で解ける』なんて言ってたんですね。確かに、気付けたら秒で解けました!」

 

「そうだろう?つまり、他の皆に出した問題も、こんな感じで少し一手間加えるだけで、3×3の魔方陣に収められたってわけだ」

 

「うわああああああぁぁぁ……鬼畜ぅぅぅ……」

 

 ルーミアが頭を抱えた。とても可愛い。かなり悪戦苦闘していたから、楽な解法を聞かされたら頭を抱えたくなるのも、わかるような気がする。俺も学生時代は割とそうだった。

 

「魔方陣にはこんな性質もあるぞ。例えば、俺の例をもう1回見てくれ。それに使われてる1〜9全ての数字を足し、3×3マスだから3で割る。すると、3つの数字の合計と同じ、15になる」

 

「面白……そんなのあるんだ。帰ったらサグメとこれで遊ぼっと♪」

 

「例えば、4×4の魔方陣を想定して、1〜16の数字を全て足し、4で割る。すると、34になる。縦、横、対角線の4つの数字を足してもこの34になるんだ」

 

「………………」

 

「つまりな、チルノ。これは────」

 

 少し悩んでいるチルノには、慧音が噛み砕いて改めて説明する。少しだけ進行が早かったのかもしれない。

 

「さて、もう頭も解れてきただろうから、問題を出そうか。問題は至ってシンプルだぞ。1〜16の数字のみ使われているこちらの魔方陣において、A+Bの和は何か?……だ」

 

 ┌─┬─┬─┬─┐

 │ │3│ │ │

 ├─┼─┼─┼─┤

 │5│ │ │8│

 ├─┼─┼─┼─┤

 │9│ │7│A│

 ├─┼─┼─┼─┤

 │ │ │B│1│

 └─┴─┴─┴─┘

 

「……!?」

 

「穴ばっかじゃん!大ちゃん、これわかる!?」

 

「何だろ……?すぐには分からないね……」

 

「え……!?な、なんだろ、これ……?みすちーこれ分かる?」

 

「わかんない♪」

 

「エスカルゴに……イジメられる〜……うふふ、うふ、ふふふ……」

 

「ルーミア、戻ってこい。……えー、まぁ、一見難しく見える問題だが、ある法則を見つけりゃあこれも秒で解ける問題だぞ。ちょっとした閃きを大事にするんだ。制限時間は10分。周りの子達と相談してもいい。これが終わったら数学は終わりだから、頑張ってみてくれ。ラストスパートだ」

 

「あ……私、分かっちゃったかも……!」

 

 口元に手を当ててそう呟いたのはリグル。あの質問といい今回といい、彼女には良い閃きがあるようだ。

 

「早いなリグル。けど、皆はまだ考えてるから、俺にだけコッソリ教えてくれ」

 

「はいっ!」

 

 分かったのが余程嬉しいのか、これまでに見たことが無いほどにニコニコしながら教壇にやってくる。俺は、地獄耳の巫月にも聞こえないように防音の結界を張り、中で答えを教えてもらう。

 

「26です!」

 

「正解。よくできたな!」

 

「ホントですか!?」

 

「ああ。それじゃあ、制限時間が来たら皆に説明してくれるかな?この早さだ、頭の中で魔方陣をゴリ押しで完成させて解いた!……っていうわけじゃないんだろ?」

 

「はい!なんか、法則があったので……!」

 

「OK、OK。流石だよ。因みに、慧音はこれを解くのに3分かかったな。まぁ、それでも十分に早い方だけど、リグルは1分未満だからな……。閃きに関しちゃあ慧音以上かもしれないな」

 

「えへへっ……慧音先生より早いっ……♪」

 

 

◆

 

 

「そこまで。10分経ったぞ。さて、答えを出せたのは何人いるかな?」

 

「はいっ!」

 

「はぁ〜〜〜〜いぃ〜〜……」

 

 自信満々に挙手するリグル。燃え尽きたように虚空を見つめつつ、弱々しく挙手するルーミア。大ちゃんと巫月はと言うと……。

 

「解けそうで解けないです〜……」

 

「エスカルゴ!1分延長!1分だけ!もう少しで解けるのっ!」

 

「ダメだ巫月、約束の時間は守ろうな。デートの待ち合わせに遅れてもそう言うのか?」

 

「うう〜……!」

 

 ここは、甘々な俺も心を鬼にして、娘の巫月を切り捨てる。それが教育だ。あまり甘やかしてもこの子の為にはなるまい。……勉強においては。

 

「じゃあまず、ルーミアはどうやった?」

 

「どうってそりゃ、地道に埋めていくしか……」

 

「だよな。紙を見る限り、そんな感じがしたよ。リグル、黒板を使って皆に説明してくれ」

 

「はい!」

 

 小走りで黒板前までやってくる。普段あんまり積極的ではないリグルだからか、慧音は意外だと言わんばかりにリグルを見つめていた。

 

「えっと、1から始まる4×4マスの魔方陣は、さっき先生が説明してた通り、4つの数の合計は34になるのね。その半分は17。だから、魔方陣を作っていくときは、いちいち4つ全部を考えるんじゃなくて、4つの数字の内の2つの数字だけを抜き取って17を作ればいいの!」

 

 イマイチ理解しきれていないチルノと巫月には慧音が補助で説明してくれているので、俺は安心してリグルの発表を見守る。

 

「それから、点対称の所の数字同士を足しても、その17になるの!分かってるところだと9と8。となると、AとBの点対称の位置にある数字は、5と3だよね?だから、Aは17-5=12になる。Bは17-3=14。よって答えは12+14で26っ!」

 

 一瞬だけ間を置いて、わぁっとザワめく教室。大ちゃんが拍手を始めると、それにつられて皆も拍手を始めたので、俺と慧音も皆に倣いリグルに拍手喝采を送る。

 

「ナイスだよリグル。よくその法則に気付けた。ただし、半分の数字を使うのは、4×4でないと使えない。点対称のも、これと、8×8、12×12みたいに4の倍数の場合じゃないと『必ず』成り立つとは言えないんだ。過信しすぎちゃダメだ。そこだけ注意だな」

 

「はーいっ!」

 

「ルーミアは、よく地道に解いたな。大変だっただろう。心から敬意を表するよ。……それじゃ、魔方陣全体の答えを書くぞ」

 

 ┌─┬─┬─┬─┐

 │16│3│2│13│

 ├─┼─┼─┼─┤

 │5│10│11│8│

 ├─┼─┼─┼─┤

 │9│6│7│12│

 ├─┼─┼─┼─┤

 │4│15│14│1│

 └─┴─┴─┴─┘

 

「あ゙ーーーっ!!私のやつ、真ん中の3つゴチャゴチャになってる!」

 

 柄にも無く叫び、悔しさからか唇を噛む巫月。意外な一面を見ることが出来て、ある意味嬉しいものだ。臨時講師の依頼を受けて本当よかった。

 

「それは惜しかったな。因みに巫月さ、さっきのリグルの説明に首を傾げてたようだけど、巫月はどう解いたんだ?」

 

「合計が34になるのはすぐ分かったから、手当り次第にその組み合わせを試してたの」

 

「つまりゴリ押しか。ルーミアもだが、もう少し規則性を見出すことも頑張ってみようか」

 

「「はぁ〜い……」」

 

「チルノはどうだった?」

 

「あたいもゴリ押し!でも、一番右と左の列しか間に合わなかったの……」

 

「そうか……。もっとちゃんと知りたかったら、慧音先生に聞いてくれ。俺より説明上手いから」

 

「はーい」

 

「今回の授業はここまで。少し休憩だ」

 

「「「「ありがとーございました!!」」」」

 

 束の間の休憩。果たして、次の授業……保健はどんなことになるのやら。今から軽い頭痛がしてならない。




さて次回は、皆さんお楽しみの保健です。
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