俺はヒビキ。普通の男子中学生だ。
2年前…いや、もう3年目になるか。
16歳の兄貴が失踪したときは小4だった俺も、もう中1だ。
兄貴が行方不明になったおかげで、記者やら警察やらがしつこく来た。
ニュースでは、「少年Eはコンビニに立ち寄り、それ以降の足取りは不明」と報道されており、あまり詳しいことは分かっていなかった。
そして、近所から浴びせられる哀れみの目や、しつこい取材に堪りかねた俺たち家族は地元を離れ、田舎へ引っ越した。
中学もそのまま田舎の中学へあがった。
「兄貴…何してんだろ…」
ボーッとすると、つい兄貴の事を考えてしまっている。俺が赤ん坊の頃から面倒を見てくれていた6つ上の兄貴…。ずっと一緒だった兄貴が急に消えるなんて、考えられなかった。いや、考えたくなかった。
兄貴は多趣味な人で、ピアノは10年やってたし弓道も4年はやってた。部活で始めた卓球にもドハマりし、週3回は卓球センターに通っていたほどだった。
さらに、アニメなども好きで、好きなアニメの漫画、CDは全て持っていた。
これほど多趣味な人が急に居なくなるなんて、到底考えられなかった。
そしてある日、転機が訪れる。
「近頃不審者が多いので、いつも以上に気を付けて登下校をするように」
『はぁ〜い』
不審者…ねぇ…。
「なぁヒビキ、不審者ってどんなやつかな?」
クラスメイトの一人が聞いてきた。
「普通のおっさんじゃね?」
「普通…ねぇ…。ま、帰ろーぜ」
「だな」
今日はコイツと一緒に帰る話をしていたので一緒に学校を出る。部活は休みだ。
「なぁおい…」
「ん?」
「あれか?不審者っての…」
クラスメイトが指を指したその先には…帽子を目深に被った、中年男性と思しき男が、校門前の自販機の隣にブルーシートを敷いてあぐらかいてる。
「おいおい……」
あんな、The不審者ってのがいてたまるかよ。
「どうする?先生に言うか?」
え、めんどくさ。
「めんどくせぇから帰ろ」
「じゃ、俺、先生に言ってくるわ。待っててくれ」
「おう」
言うなり校舎内に戻って行った。
「おい」
「!」
不審者が話しかけてきた。
酷くしわがれた声だ。おじさんと言うよりおじいさんに近いのか?
「…なんだよ?」
とりあえず返事しとく。
「お前…兄貴が居なくなったな?」
「!?…は?な、なんで知ってんだよ?」
兄貴の件で、実名報道はされてなかったから、転校してきても何ともなかった。だから、俺が“少年Eの弟”だということはバレてなかったというのに…なんなんだこの男は。
「お前の兄貴を行方不明にさせたのは俺だ」
!!
「お、お前が?」
嘘だろう?信じられっかよそんなの。
「疑ってるようだな」
「当たり前だろう」
「会いたいか?」
な、なんだ?この質問は。
まさか…“兄貴を殺して天国に送ったから、お前のことも天国に送ってやる”…なんて言うんじゃ無いよな?
でも……
「…ああ」
「なら、薬をやる。選ばせてやるから今すぐ飲め」
と言って、試験管のようなものを数本差し出す。
よく見えないが、どの容器にも寒色系の液体が入っているように見える。毒々しい見た目だ。
「なんだよこれ?」
「吸血鬼になれる薬、兎になれる薬、鬼になれる薬、天狗になれる薬…だ」
「はぁ?」
こいつ、精神異常者か?
そんなもん、現代の科学で作れるかよ。
「兄貴と会うのに、なんでこれが関係あんだよ?」
「お前の兄貴は、この中のある薬を飲んで別世界に飛ばされた。だからお前も、これを飲めばそうなるってわけだ」
…単なるキ○○イ野郎だな。
適当に話合わせとくか。
「へぇ?で、兄貴は何を飲んだんだ?」
「それは言えないな。プライバシーってやつだ」
「けっ…」
キ○○イ野郎のくせに何言ってやがる。
「んじゃあ吸…」
待て、俺。
「ホントに飲んでも大丈夫なのか?」
「安心しろ、毒は入ってない」
「そうか。なら吸血……」
待て待て待て、よく考えろ。仮に…もし仮にこの薬が本物で…そうなったとしたら…吸血鬼は危険過ぎる。弱点が多過ぎるじゃないか。俺でも知ってる。日光に弱い、流水がダメ等々…世界の常識と言ってもいいくらいに有名だ。
「天狗になれる薬ってやつをくれ」
天狗なら…風起こせたり中々凄いだろ。
「んじゃ取りに来い」
俺らはまだ距離があった。そりゃ、不審者にホイホイ近付くほど俺は馬鹿じゃない。けど、兄貴に会えるってんなら…
「…おう」
そいつに近付き、容器を受け取る。
近くで見ると、更に毒々しく見える。
「さぁ、飲め」
「………もう一度聞くが、大丈夫なんだよな?」
「ああ」
「金は?」
「取らない」
「そうか」
へぇ、タダなんだ?
タダより高いものは無い…と言うけど…兄貴に会えるなら…。
「かなり苦いが、我慢して飲めよ」
「苦いのか」
「お前の兄貴はちゃんと飲んだぜ」
「へぇ」
兄貴が…なぁ…。
ゴクッ
うえっ…何これ苦ッ!!
「苦ァァァ!!」
「大声出すな」
「先生、こっちです!」
『!』
「おっと、もう1人が先生を連れてきたようだな。俺はこれで帰るぜ、じゃあな!健闘を祈るぜ」
「もし会えなかったら訴えてやっかんな」
「安心しろ、俺は嘘はつかない」
「フン」
どうだか…。
「おいヒビキ!アイツはどこ行った!?」
俺は声のした方を向く。
それより、“どこ行った?”って…
「え?ここに…」
後ろを振り返ると、男はもう消えていた。
「す、すまん、時間稼ごうとしたんだが逃げられた」
「ちくしょー…」
「大丈夫だったかヒビキ!?」
「大丈夫ッスよ先生。さーせん、逃げられました」
「お前が無事なら良い!…気を付けて帰るんだぞ」
「うっす」
先生はそう言い残して戻って行った。
「帰ろーぜ」
「だな」
しばらく歩いた。そろそろ道が分かれる頃だ。
…なんか頭がムズムズしてきた。
なんだ?ちゃんと洗ってるぞ?
「んじゃ、俺はこっちだか……おいヒビキ、なんだその頭!?」
「頭?」
「耳!耳生えてるぞ!!」
「はぁ!?」
頭に手をやる。確かになんか生えてる。
「え…?犬?犬耳か?」
「いや…これはその……じゃあな!!」
「あ、おい…」
言い訳が思いつかなかったので全力疾走で逃げる。
いつもより速く走れているような気がする。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…」
もう家に着いた。俺ってこんなに速く走れたっけ?
「ただい…」
鍵がかかってる。
母さんはまだ帰ってきてないようだ。
「ただいまー」
鍵を開け中に入り、手洗いうがいを済ませる。
そして…
「なんだこれは…」
鏡を見て驚いた。確かに犬耳が生えているのだ。
「えー……」
考えてもわからない。
あの薬の効果としか考えられない。
でも現代の科学で作れるはずがない。
だが、目の前に写ってるこの耳…どう見ても犬だ。
って、天狗じゃねぇのかよ?
「けっ…今度会ったらぶっ潰すか」
ゴロンと寝転がりゲームをする。
トンッ
「っ!」
首に衝撃が走り、意識を失った。
…?
「んっ…ふわぁぁ…」
ゲーム中に…寝落ち?俺が?
走ったから疲れたのかな…。
「……え?」
周りの景色を見て驚いた。俺んちじゃない。
野外だ。そばにはドデカい山が見える。
「どこだここ…」
ここがどこだかわからないのでとりあえず彷徨く。
「あれ?あなた…」
後ろから声がした。
振り向くと、そこには犬耳の美少女が居た。
その子を一目見て、惚れてしまった。
それからは彼女に色々教えて貰った。
まず、彼女の名前。犬走 椛と言うらしい。
兄貴から聞いたことがあるような気がする…。
彼女はこの山…通称妖怪の山で働いているそうだ。
白狼天狗という種族らしくて…どうやら俺もそうらしい。てことはほんとに天狗になれたんだな。
兄貴には会えてないけど。
住む所が無いと言ったら居候させてくれた。
次の日には、椛の上司に会い、椛と働く事になった。
それからまたしばらくし、俺は椛に告白した。
笑顔でOKしてくれたので、泣きそうになってしまった。
更にまた時が流れ─────兄貴と再会した。
雑だなぁ…。