是非曲直庁の執務室を出て、しばらく歩いた。
やがて見るからに禍々しい通路?に到着した。長い長いその通路を歩いていくと、最奥には全面ガラス張りのエレベーターみたいなものがある。まさか地獄にここまでハイテクなものがあるとは思いもよらなかった。
それに乗り込むと久侘歌ちゃんは扉を閉める。やはり扉もガラス張りみたいになっている。
「ここから見るだけ……って感じかな?」
「ご希望とあらば各地獄ごとに降りられますよ。この装置等を使うのは、移動系の能力を有する者でもなければ移動に時間が掛かり過ぎるからなんですよね。お察しの通りでしょうけど」
「確か下層に向かう毎に到達まで時間が掛かるんだよね。少しは予習済みなんだけど、最下層だと落ちるのに数千年掛かるんだっけ?刑罰も何京年とからしいじゃん。刑が終わる前に地球が終わるだろ。輪廻転生なんてあったもんじゃないな」
「アハハ……。それでは、八大地獄……所謂、八熱地獄から参りましょう」
「熱……俺にとって最悪な環境かもしれないな」
「そうですねぇ。因みに、へカーティア様が多用されるのは八寒地獄の力なんですよ。そちらも、後ほど見学に行きましょうか?」
「絶対に行きたい」
「承知しました。ではまず、八熱地獄の第一層、等活地獄です」
ピッとボタンを押すと、ゴゥンと重い音を出しながら下に向かって動き始める。外のと同じく、下方に引っ張られる力を感じるが……外の物の比ではない。クラッとくるほどだ。
「あぁそうでした。慣れないうちはそうなりますから、気を付けてくださいね」
「遅いよ久侘歌ちゃん……」
「ふふ、すみません♪」
「ったく〜……」
「因みにですが、外を見るとゆっくり降りているように見えるでしょう?ですがその実、もの凄い速さで降りているんです。落ちていると言っても過言ではないどころか、落ちるより速いんです。私達が天井に押し付けられないのは……まぁ……不思議なパワーってやつですね♪」
「落ちるだと数千年掛かるんだもんな……そりゃ落ちるよりも速いだろうさ」
「そういう事です。転移系の方が便利ではないかという声も多くの者から上がっているのですが、現在の地獄は財政が逼迫しているので……」
「工事できないって事か。地獄も大変だな……」
「そうなんですよね……。各人の能力を、装置に組み込むのもかなり難しいです。へカーティア様ほどの魔法を使える者も地獄には居ませんしね」
「転移系の能力者を、こういった地獄の管理者にするってのはできないの?」
「できますよ。でも人数があまりに少なすぎる。複数人で一つの地獄を管理しますからね。緊急時にも対応できるよう、24時間365日動けるようにしなくてはなりませんが……そんなの、無理な話です。なので、能力を装置に組み込むしかない、というわけです」
「苦労してるな、地獄……」
その時、チンッと軽い金属を叩いたような音が鳴り、エレベーターが停止した。扉は開かない。これが通っている環境が環境だけに、任意で開くようになっているようだ。
「八熱地獄の第一層、
「第一層なのにキツくない?」
「殆どの人間がこちらに落とされますしね……。地獄側の私が言うのもアレですけど、虫を殺しただけで懺悔するような人間はまさに聖人ですね。大僧正と呼ばれるような人間でもなければ、虫を殺して懺悔などしないでしょう」
「そりゃそうだ……」
「刑の内容は、己の身に備わった鉄の爪、または刀剣で衆人同士殺し合うというものです。しかしたまに、参加しない者が……俗に言うボッチは、獄卒が相手をします。引き裂かれ、粉砕され……それでも獄卒の『活きよ』の一声で復活し、刑を続行するのです」
「因みに刑期は何年……?」
「人間時間で換算しますと、1兆6653億1250万年程度ですね」
「地獄かよ」
「地獄ですよ」
地獄の創始者は絶対に頭がおかしい。地球が、宇宙が、そんなにも永く続くと思っていたのか?もしそうだったとしても、人間時間で1兆なんて正気の沙汰ではない。
しかもこの地獄が第一層だ。つまり、これから待ち受ける地獄はこれよりも更に長くなるのだ。五億年ボタンなんて甘い。砂糖菓子よりも甘い。
「降りて見てみますか?」
「……うん」
「分かりました。では降りましょう」
エレベーターから出て少し歩くと、痩せ細った人間が爪で引っ掻き合い、斬り合い、夥しい量の血をぶちまけている光景が目に入った。まるで、正気を失ったかのように暴れ回っている。
「死にさらせぇぇぇ!!クソカス共がぁぁ!!」
「ギヒャヒャヒャヒャヒャ!!死ね死ね死ねぇ!死ねぇぇぇ!!」
「みんなおっ
「大小問わず何かしらの命を奪った者が、死後は地獄でほぼ無限に殺し合いをするなんてな」
「皮肉なものですね。……あちらをご覧下さい。あちらでは、獄卒が衆人を引き裂いていますよ」
「ヒッ……や、やめて下さい、お願いします……もう嫌だぁ!!」
「ならぬ、貴様は死ななくてはならない……!」
「ひぎゃあぁあああぁぁぁっっ……」
「活きよ、活きよ」
「や、やめ、て、もうやめて、殺さないで……」
「ならぬ、貴様は死ななくてはならない……!」
「もう聞き飽きッ……ぎゃあああああああああ」
「活きよ、活きよ」
「本当に、お願いします……懺悔します、しますから……」
「ならぬ、貴様は死ななくてはならない……!」
「やめてやめてやめてやめてぇえええええぇ!!いやああああああああっっ!!!」
「活きよ、活きよ」
「や、やめてっ……一思いに殺してぇぇえええ」
股裂き、蘇生、首を抜いて、蘇生、叩き潰し、蘇生……惨たらしい。こんな事ができるなんて、獄卒共は快楽殺人の癖でも持っているのか?
「口を押さえてどうしました?吐きそうでしたらそのまま吐いてもらって大丈夫ですよ」
「いや…………大丈夫。次、行こう」
「そうですね、次に行きましょう」
獄卒の声、衆人の笑い声や叫び声を背中で聞きながら、等活地獄を後にする。もし俺が死ねば、こんな地獄に来たのかもしれない。そう思うと、不老不死になって正解だったと心の底から嬉しくなってくる。
◆
「八熱地獄の第二層、
「強盗殺人的な?」
「そうですね。しかしここで言う『殺生』とは、殺人とは限りません。先程の等活地獄のような、ちょっとした『殺生』も含まれているそうです」
「じゃあこの黒縄地獄は何回か盗んだ時点でほぼ確定で落とされるのか」
「そうですね。繰り返し盗みをするような人間は虫を殺して懺悔するはずがありませんからね」
「被害者が犯人を許したら、この地獄に来るのは回避できるの?」
「繰り返し罪を犯した時点でほぼ確定ですから、まぁ、回避なんて無理ですね」
「成程」
「刑罰の内容としては、熱した鉄の地面に衆人を伏し倒したり、熱く焼けた縄で黒縄をうったり、その跡に熱い鉄の斧や鋸で身体を切り刻みます。鉄の山を背負わせて縄を渡らせたりもしますが、落ちて鼎で煮られるのがオチです。この苦しみは等活地獄の10倍とされていて、かなり苦しむ事になりますね」
「焼き土下座とブレイブメンロードの上位互換?ヒデェことしやがるな……」
「?……因みにこの地獄の刑期は、人間時間では13兆3225億年に相当しますね」
被害者が許すかどうか関係ないとなると、もし魔理沙が死ねば、ほぼ確定でこの地獄なのでは?それから、青娥もだ。
「降りますか?」
「……今回はやめとく」
「分かりました。では次に行きましょう」
◆
「八熱地獄の第三層、
「盗んだ事は無いけど俺が落ちそうだな、ここ」
「あ、アハハハ……。ここは、黒縄地獄の10倍、つまり等活地獄の100倍の苦しみを味わうことになります。方々に聳え立つ山が見えるでしょう?あれは鉄の山なのですが、定期的に崩れ落ちて、罪人を繰り返し圧殺するのです。鉄の巨大な像に踏まれることもありますね」
「膣圧で気持ち良くなったら圧殺で苦しむのか。酷いな……」
「また、剣の葉の林があり、その上に美人が現れ罪人を誘惑します。罪人はそれを目指して木々を登るのですが、当然、ご褒美タイムなんてものはやってきません。到着したと思えば、その美人は木の下に現れ、罪人はそれを目指して木を降り、あとはその繰り返しです。人間時間では、およそ106兆5800億年に相当します」
「へー、どんな美人なのか見に行きたいな」
あまりにぶっ飛んだ数字でも、ここまで来るとあまり驚かなくなってきてしまう。どうせ最初の数十億年しか刑を味わうことがないのだから。
「この地獄では降りさせません。あなたにとって恐らく最悪の地獄でしょうから」
「ふーん……それならいいや。次行こ」
「ええ、そうですね」
◆
「八熱地獄の第四層、
「酒を利用した悪事……例えば?」
「酒に毒を入れて殺したり、誰かに酒を飲ませてアレコレしたり、ですね」
「ヘぇ。じゃあ外の世界の某大学生連中がここに落ちてそうだな。女子に酒を飲ませてレ〇プとかしてるそうだし」
「そうなんですね。まさに、そういう罪を犯した者が落ちる地獄です。まさか、エスカルゴさんはそんなバカなことはしてない……ですよね?」
「多分してない。宴会の延長線で、二人共酔って行為に及ぶっつーのはある。それと、自分が酒に酔って……ってのはあるよ」
「相手に飲ませた、ではなく自分が……ですか。難しいところですね」
「えぇ……」
「判断するのは閻魔様ですからね、私が考えても仕方ないですがね」
「それもそうか」
「刑罰としては、熱湯の大釜や猛火の鉄の部屋に入れられる、というものが主なものです。巨大な獄卒が罪人を弓矢で射抜く、鉄の棒で打ち砕く、というものもあります。その苦しみは衆合地獄の10倍。刑期は人間時間で852兆6400億年です」
「次で1000兆を超えるのか……」
「叫喚地獄、見てみますか?」
「いいよ。流れ矢が飛んできたらイヤだもん」
「ふふ、そうですね。では次に行きましょう」
◆
「第五層、
「な、長すぎる……。これさ、相手を幸せにするような
「さぁ、どうでしょうかね……。これまでの例を見るに、内容はあまり関係無いと思われます」
「マジかー……」
まず死なないとは思うが、てゐが地獄落ちとは中々に辛いものがある。やはりどいつもこいつも不老不死になった方が良いのでは?
また俺自身の気体を用意して、幻想郷の全員を不老不死にしてやろうか。もしそんな事をすれば賢者連中から何をされるか分かったもんじゃないだろうが……。
「次に行きますか?」
「うん」
◆
「第六層、
「神や仏に逆らうと焼かれるのか。例によって、これも『前の地獄の10倍の苦しみ』でしょ?」
「そうです。……ここでは、鉄板で焼かれたり、串に刺されて焼かれたり、目、鼻、口、手足などバラバラにされ、それぞれが焼かれることもあるそうですよ」
「てことはバラバラにされても熱さを感じるよう感覚だけは繋がってるのかな。こっわ……」
「また、仮に焦熱地獄の炎を豆粒ほどでも地上に持ち出せば、地上の全てが一瞬で焼き尽くされるそうです。これまでの地獄の炎や熱など、ここの炎に比べたら雪のように冷たいと言われてます」
「地上が一瞬で……って、それは盛りすぎな気がするけどな……」
「では持ち出してみてください。幻想郷は愚か、外の世界も何もかもが消えます。伝承通りなら、ですけどね♪」
「こっわ〜……。刑期は?」
「5京4568兆9600億年です」
「うわ、遂に大台に乗ったなぁ。京になったか。でもなんか、赤黒い景色って見てるだけでも十分暑いよな……。次、行こう」
「行きましょう」
◆
「いよいよ第七層、
「童女強姦……第七層に落ちるほど重いのか?」
「尼僧も童女も、清く聖なるものですからね」
「確かに
「そうです。焦熱地獄よりも強い極熱で焼かれ、焦がされると言われています。この地獄の炎は、最大で高さ500
「怖すぎだろ……声だけ聞こえてくるとか下手なホラーより怖いんだが」
「この装置は防音構造で良かったですね」
「ホントだよ」
「因みに、この地獄に落ちる罪人は、死の三日前から中有、つまり転生待ちの段階にも地獄と同じ苦しみを受けることになっています。刑期は人間時間で43京6551兆6800億年ですね」
「オーバーキルすぎる」
「なら、もしあなたの娘さんが被害に遭ったら、あなたはどう思いますか?」
「足りなさ過ぎる」
「ふふ……」
「……成程」
シンプルだが、それだけにとてもキツく、痛い刑罰になっているようだ。不老不死で良かった、本当に良かった。ミスティアと響子がここで言う童女に含まれているのか分からないが、とにかく俺は、もし死ねばここに落ちそうだ。やはり絶対死にたくない。
「次、行きましょうか」
「うん」
◆
第七層から第八層の道中。俺は奇っ怪なものを目にした。暗闇の中を、青い何かが真下に落ちていくのである。よく見てみれば、青だけではなく様々な色の何かがパラパラと落ちていっている。
「久侘歌ちゃん、アレは?」
「あぁ……アレはですね、次の地獄、無間地獄へ向かっている途中の罪人ですね。様々な色があるのは装束の違いです」
「今、落ちていってんの!?」
「そうです。まだ真ん中あたりですから……あの罪人は、1000年頃に重大な罪を犯した者ですね。その罪については到着してからお話ししますね」
「どんな罪なんだよ……。1000年頃ってめっちゃ昔じゃねぇかよ。……あ、白い服……って、あの特徴的な髪型……!?」
一瞬で俺達が追い越してしまったが、一瞬だけ見えた、頭の横で髪を纏めているあの髪型は……もしかすると、あの時代の人間かもしれない。
「弥生人です。弥生時代にこの罪を犯した人間の多くも、未だに無間地獄に到達していませんね。どれほどの長い時間をこうして落ちて過ごしたのでしょうか……。恐らく、弥生時代前半に落ちた人間でも、つい最近刑が始まったと思われます」
「うわぁ、キッツ……」
◆
「遂に八熱地獄の第八層……最下層の
「……えっ?聖者の殺害はともかく、親殺しって地獄の最下層に来るくらい重い罪なの?」
「そうですよ」
「その親がどれだけクソ野郎でも?吐き気を催す邪悪でもダメなの?」
「その人がどうだったかは全く関係ありません。殺したという事実の有無ですから」
「…………」
「まぁ、あなたは気にする必要はありませんよ。死なないので、地獄には落ちません」
「……まぁね」
「あぁ、やっぱり親を手に掛けていたのですね。今のお返事で確信が持てました」
「仕方なかったんだよ。母さんを楽にするには、クソ親父を殺すしかなかった。俺にとって最後の親孝行みたいなもんだったんだ」
「……心中お察しします。ですが、本当に大丈夫ですよ。死ななければ良いのですから。ねっ?」
「うん……」
防音構造になっているはずなのに、様々な音、叫び声が聞こえてくる。居るだけで頭がおかしくなってきそうだ。平然としている久侘歌ちゃんが逆に狂っているのではないかと思ってしまう。
「ここの刑罰は、実に多岐にわたっております。剣樹、刀山、熱湯等の刑を絶え間なく受けます。背丈が4由旬、64つ目で火を吐く鬼がいて、舌を抜き出され100本の釘を打たれて、毒や火を吐く虫や大蛇に責められたりもするそうです。まさに地獄ですね」
「これまでの流れだと500京年超えてそう」
「刑期は、通常は349京2413兆4400億年とされていますが、罪の多さや犯行内容で場合によっては682京1120兆年まで延びます」
「幅が広すぎる……」
「ですね。まぁ、それほどの罪ということです。気を付けてくださいね」
「……聞いておきたいんだけどさ。俺、子供達に稽古つけることもほんのたまにあるんだけどさ、その時に『俺を殺してみなさい』ってのをやるとこの地獄的にはどういう判定なの?」
「合意でも、殺した時点でそれはアウトですよ。そんなの、
「合意なら罪にしなくていいと思うんだけどな。これらの規定を定めた人は、何を思って決めたんだろ。気になるな」
「そうですね……わからなくはないです。ですが私は、規則に従うだけですから」
「だよな。……降りていい?その鬼を見たい」
背丈が4由旬とかいう巨大さの鬼を、この目で見たくなった。確か1由旬が11キロ〜15キロ程度だったはず。つまり4由旬は44キロ〜60キロだ。どんだけ大きいのだろうか?巨人なんて言葉では到底言い表せないに違いない。
「無間地獄は広いです。その鬼が何処にいるかも分かったものじゃありません」
「そこはまぁ、吸血鬼の俺に任せて。割とすぐに得意の
「四季様が警告した通りになっても、知りませんからね?」
「もしソイツが立ち向かってきたらそれまでだ。俺がぶちのめすのみさ」
「まさかあなたの目的は……鬼を倒すこと?」
「ンなワケ。戦うにしたって、そんなデカブツに勝てる見込みは無いもん。見るだけだよ。ただ、向かってきたら制圧するよってだけ」
「なら良いのですが……。では、外に出るので、その前に備え付けの防護服を着て下さいね。無間地獄の炎は焦熱地獄の比ではありませんから」
「わかった」
「では……」
エレベーターの天井を開け、屋根裏部屋に続く梯子のようなものを出したと思えば、それに登り重そうな箱をドサドサと落としてきた。彼女曰く箱の中に厳重に保管してあるらしい。
「無間地獄の灼熱、大紅蓮地獄の極寒にも耐える特別製の防護服です。翼は折り畳んでください。この先はまさに地獄ですが、飛べませんよ」
「……仕方ないか」
スズメバチ駆除に使うような簡素な防護服だ。着るのが不安になってくる。しかし久侘歌ちゃんだって着ているのだから、俺も着なければ。
背中のチャックやボタンなどの構造を見るに、この地獄を見回ったり管理する者は、二人以上で行動するに違いない。
「これでよしっと。降りますか?」
「うん、行こう」
扉が開かれ、二人並んで降りる。叫び声は一層大きくなり、腐敗臭などが鼻を突く。ゴウゴウと燃え盛る炎が遠目からでもよく見える。
炎の光に照らされて、縦長で巨大なアーチ状の岩の影がよく映える。妙なアーチ状の山か岩だかよく分からないものがあるが……。
「んぁ?アーチ状……?」
その時、ゴゴゴゴと重苦しい音を立てて、そのアーチ状の岩だか山岳だかよく分からないモノが動き出した。巨大だとは思ったが、まさか……。アーチ状なのは股なのか。
「ガァァァアアアアアアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!」
「う、うそ……?こんな近くに現れることは無いはずなのに……!」
「うわ……背が高すぎて顔が見えねぇ……!!」
咆哮が聞こえてもなお下半身しか見えないが、天から巨大な手が伸びてきて、山かと思うほどに巨大な物体を手に取った。あれが奴の得物か。
「そうか……身体がキロ単位でデカいから、腕も武器もキロ単位でデカいんだ……!!てか、キロ単位ってガチでヤバいって!!逃げよう、これは勝てない!!」
「罪人しか襲わないはずなのにどうしてぇぇ!?こ、これはっ、報告しなければぁぁぁ……!!」
鬼は、相変わらず耳がおかしくなるほどの声を上げながら、とんでもない地響きを上げながら、武器を徐々に持ち上げている。こちらから攻撃を仕掛けるなら今のうちだ。
「何してるんですか、早く乗ってください!!」
「やっぱり待って。襲われたから制圧する」
「ッ!?ここは逃げるが勝ちですよ、早く!」
「身体がデカかろうと、身体が存在してるんならほぼ必ず『目』が存在してる。このチート能力で殺してみせる。破壊符『
右手から赤黒いレーザーを放つ。すると狙いが外れて奴の得物に触れて、武器が爆発四散した。この能力は狂気に身を任せないと多用できない。通常時だと、少なくとも10分は間隔を開けないともう一度使えない。
狙いを外せば、攻撃手段はかなり少なくなる。的がデカいというのに、しくじってしまった。
「ちょっとおおお!外してるじゃないですかー!いいから早く乗ってください、逃げますよ!!」
「無理だな。足が真上に来てる」
「きゃあああああああ!!」
「だけどこれはチャンスだ。力と数でブッ殺す。魔砲『
多数の魔法陣から光線を放ち、足を撃ち抜く。肉片や血などが飛び散るが、それらは弾幕で撃ち抜いて消し、身の安全を確保する。しかし片足を急に消したらどうなるのかは自明の理。
バランスを崩し、あろうことかこちらに向けて倒れてくる。最悪すぎる。久侘歌ちゃんなんて、エレベーターの中でガタガタ震えている。
「魔力は枯渇気味、弾幕じゃ肉片の破壊が限界。となれば、直接殴りたいけど……あの図体じゃあ望み薄。剣じゃ難しいだろうが、斬れないものを斬るアレなら……!霊剣『布都御魂剣』!!」
《殺る気か?我でも殺した事の無い鬼を、お前が殺すのか?殺せなければお前が死ぬぞ。女の前で無様な姿を晒したくはないだろうに。やめとけ!やめとけ!》
《じゃあ、俺がアイツを殺せば、建御雷より先にヤバい奴を討伐した事になるな。俄然、殺る気が出てきたよ》
《いいねぇエスカルゴ、さっすが〜!頑張って!コケコさんのこと守ってー!きゃー!》
諏訪子は相変わらずだ。久侘歌ちゃんのどこにそんなイジる要素があるのやら。彼女としては、遊びというのは理解しているようだし、あんまり本気で止めようとしていなさそうだが……。
「イクぜぇ……!!『天衣無縫斬』ッッ!!」
神の力を纏わせた本気の斬撃を飛ばすと、鬼の身体は夥しい血をぶちまけつつ真っ二つになり、降ってきた。もう一度放つと四等分に、その後はひたすら降ってくる前に弾幕と斬撃で粉微塵にし自分達を守った。
「疲れた……!動きにくいな、防護服……」
「お、終わったんですか……?」
「何とかね。魔力も霊力も使い切っちまった……中々厄介な奴だったよ」
どんな弾幕なら通用しやすいか、と肉片相手に試したが、結局はどれも大した違いは無く……。最終的にはいつもの電力弾で消しまくった。
しばらくコイツとは戦いたくない。
「次の見学、行こうぜ。次は八寒地獄だよな」
「ふえぇぇ、もう帰りたいですよぉ〜……」
彼女には申し訳ないが、勉強の時間はなるべく少なくしたい。なので、もう少しだけ付き合ってもらうことにしよう。