※この作品はR-18です。

吸血鬼人間の幻想生活   作:エスカルゴ・スカーレット

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八寒地獄

「全くもうっ、あなたが暴れたせいで散々な目に遭いました……。次はああいう事があっても自重してくださいっ!素早く逃げますからね!」

 

「はぁい……」

 

「何ですかその不満そうな声っ!私、怒ってるんですからねっ!」

 

「ごめんなさい……」

 

 流石に怒らせてしまったらしい。ならばせめてこれ以上は怒らせたくはないので、防護服のまま平謝りに平謝りを重ね、何とか許してもらえた。

 

「……次は八寒地獄に行くのですが、その前に、もう防護服は脱いでしまいましょうか」

 

「あれ、このまま行くんじゃあ……?降りるかもしれないのに脱ぐの?」

 

「この装置は、八熱地獄専用となっております。ですので、一旦上に戻って、八寒地獄専用の方に乗り換える必要があります。防護服はそちらのを使いましょう。これは備え付け(・・・・)ですから」

 

「はーい」

 

「道中、他の地獄に降りませんよね?」

 

「うん、もう大丈夫」

 

「では脱いで大丈夫ですね」

 

 生身で体験したいな、という言葉はグッと心の中に押し込んでおく。Mではない。一度くらいは地獄というものを体験しておきたかったのだ。

 ただ、彼女にそんな事を言えば何を言われるか分かったものではない。なので堪えるしかない。いつか機会があれば、体験入学ならぬ体験入獄をしてみたい。

 そして、また落ちていく罪人共を見ながら上に戻り、八寒地獄専用の装置に乗り込む。今度は、どこか適当な地獄に降りてみる気満々という事もあって、最初から防護服を着た。

 

「八寒地獄へ向かう前に、一つ謝罪しておきたいことがあります」

 

「どしたの?」

 

「私、これまで八寒地獄関連の職に就いたことが全くありませんので、あのような説明は、恐らくもうできないと思われます……。ご希望でしたら案内人を一人連れてくるという事もできますが、どうなさいますか?」

 

「いいよ、久侘歌ちゃんだけで」

 

「酷く拙い案内となってしまいますが、それでも宜しいですか?なんなら、小町の方が詳しいかもしれない程の知識量ですよ?」

 

「大丈夫。久侘歌ちゃんに案内してほしいから」

 

「承知しました。……ありがとうございます♪」

 

「二人きりの方が雰囲気出るしな〜」

 

「もうっ、これはデートじゃないんですからね?四季様も仰ってましたが……」

 

「デートじゃなくて業務だってんなら、わざわざ俺に聞くまでもなく、八寒地獄に詳しい案内人を連れてくるのが筋ってモンじゃないかな?それが仕事ってものじゃない?ま、無職の俺が言うのもアレなんだけど」

 

「────ッ!」

 

「……壁に耳ありとは言うけどさ、折角二人きりなんだし、まったりしよーぜ。何だかんだ久侘歌ちゃんも楽しんでるんじゃないの?少なくとも、俺にはそう見えるけど」

 

「えへへ……バレてました?」

 

 防護服の中で、ペロッと可愛らしく舌を見せているのが見えた。可愛い。仕事モードの彼女は、きっと、初めて出会った時や水際作戦のヘルプに来た時のように真面目一色のはずだ。しかし今の彼女からは、あまりそんな感じがしない。

 真面目を装って、実は楽しんでいる感じだ。

 

「バレバレ……ってほどでもないけど、何となく察せはするよ。鈍感な俺でもね」

 

「あらら……私に演技の才能はありませんねぇ。ですが、デートという程の気楽さはいけません。それは分かりますよね?」

 

「勿論。そこは分かってるよ」

 

「なら良いんですが。……というか私達、デートなんて殆どしていないですよねぇ〜〜〜〜……。結局、勁牙組討伐後のお食事だけでは?その後は殆ど音沙汰が無くて……」

 

「ま、まぁまぁ……!今度、この季節限定の良いデートスポットの下見行くつもりだから、その後誘おうとしてたんだ!その前に地獄見学っていう予定が入ったわけだけど……!」

 

「まともにデートする前に地獄見学という予定をブチ込む……。前々から思ってましたけど、何故そんなんで女性に好かれるのか謎ですよね。私が言えたことじゃありませんけど」

 

「俺が聞きたいよ!……まぁアレだよ、幻想郷は女子が多いから、相対的にモテてるように見えるだけでしょ。これがもしも男ばっかりだったら、ただのダチ公で終わってたはずさ」

 

「それもそうかもですね。男女間には友情なんて有り得ない、とも言いますし」

 

 魔理沙は普通に友達だと勝手に思っているが、果たして友達と言えるのだろうか?ライバルだと少し違う気がする。良き友、やはりこれだろう。

 

「話が逸れてしまいましたね。では、八寒地獄に参りましょう。浅い説明になってしまいますが、ご了承下さいませ」

 

 エレベーターが動き出した。暫く下降すると、先程は赤黒い景色ばかりだったのに対し、今回は青白い景色ばかりが全面に広がっている。

 見るからに寒そうだ。そんな感想しか出ない。しかし、そんな無機質な感じがどこか空恐ろしく感じられる。まだ出発したばかりで、第一層にも到達していないというのに、この地獄には絶対に落ちたくはないな、と思わせられる。

 

 

◆

 

 

「第一層、頞部陀(あぶだ)地獄に到着しました。あまりの寒さで全身に鳥肌が立ち、“あばた”が生じます。それが頞部陀地獄の由来とされています」

 

 因みにその「あばた」とは痘痕のことである。天然痘の治った痕だとか、それによる窪みだとかそういった意味がある。

 どちらにせよ、皮膚がヤバい事になるらしい。シベリアの方がまだマシな寒さなのだろう。

 

「……それだけ?」

 

「……それだけです」

 

「もしかして、八熱地獄の方が地獄らしい?」

 

「そうですねぇ。『地獄』と聞けば燃え盛る炎、煮え滾る油やお湯を連想する人が多いですから、八寒地獄はあんまり一般的な地獄らしくはないのかもしれませんね」

 

「ふむふむ」

 

 

◆

 

 

「第二層、尼剌部陀(にらぶだ)地獄に到着しました。ここは頞部陀地獄とあまり変わらず、鳥肌が潰れたり、あかぎれが生じると言われています」

 

「チルノの方が強そう」

 

「アハハ……」

 

 正直、そんな感じがする。チルノは以前、俺を凍死させた事がある。しかし、寒くて鳥肌だの、あかぎれが生じるだの、あまり凄さを感じない。やはり八熱地獄の方が地獄らしい(・・・)。

 

 

◆

 

 

「第三層、頞哳吒(あただ)地獄に到着しました。ここから暫くは実にシンプルです。シンプルすぎるあまり

『適当に名前をつけたのでは?』と思いたくなるほどですけど、そこにはあんまりツッコまないでください」

 

「『あたた』って悲鳴が由来なんだっけ?」

 

「そうです。ですので、漢字はそのままで頞哳吒(あたた)地獄と呼ぶ場合もあります」

 

「適当に名前をつけたのでは?」

 

「だから言わないでくださいってばぁ〜」

 

「言いたくなるよなぁ」

 

「気持ちはわかりますけどねぇ」

 

 ぶっちゃけ、悲鳴が出る寒さよりも悲鳴すらも出ない寒さの方が寒い感じがする。悲鳴が漏れる寒さなんて、大したことは無いだろう。

 チルノに凍らされた俺なら、耐えられそうだ。

 

 

◆

 

 

「第四層、臛臛婆(かかば)地獄に到着しました。ここは、寒さのあまりに舌がもつれて動かず、『ははば』という声しか出せないのだそうです」

 

「マジで名付けの適当感がパネェ……そんなのに落とされる罪人が可哀想だな」

 

「かといって、今更改名は出来ませんしねぇ……仕方のないことです」

 

「まぁねぇ」

 

 景色も全く変わりないし、罪人も相変わらず、ガクガクブルブルと震えているだけ。まだまだ、罪人もこの寒さに耐えられそうだ。

 もう少し下層に行けばまた変わるのだろうか。

 

 

◆

 

 

「第五層、虎虎婆(ここば)地獄に到着しました。ここは、寒さのあまり口が開かず『ふふば』という声しか出せないのだそうです」

 

「『ふふば』なのに『ここば』なのか。いよいよ意味がわからなくなってきたぞ」

 

「私達も正直よく分かっていません。元となった言語では『ふふば』で、それを無理矢理日本語に直すと『ここば』になると聞いたことはありますけど、実際はどうなのか……」

 

「それならまぁ納得かな」

 

 地獄という概念は仏教が由来だと聞いたことがある。しかし仏教の誕生は割と最近の話なので、それを考えると仏教が生まれる前から地獄自体は存在していたのだろう。それが仏教誕生によって地獄という概念に名前がつけられた、という流れなのかもしれない。

 

 

◆

 

 

「第六層、嗢鉢羅(うばら)地獄に到着しました。ここは、全身が凍傷でヒビ割れてしまい、青い蓮のように捲れ上がってしまう……そうです。ただし、まだ罪人は動ける寒さですね。何とか……ですけど。因みにここは、青蓮地獄とも呼ばれています」

 

 景色が変わらなさすぎてよく分からない。結局八寒地獄と言えど、途中までは寒さの違いでしかないのではないだろうか。

 一応、他の地獄もしっかり頭に入れておくが、次からは特にしっかり見ておかなければ。

 

「青蓮地獄、か。名前だけ見れば紅蓮地獄の反対みたいな感じだな」

 

「そうですね。しかし、内容としては紅蓮地獄の下位互換でしかありませんが……」

 

 

◆

 

 

「遂に第七層、紅蓮(ぐれん)地獄に到着しました。ここは鉢特摩(ハドマ)とも呼ばれていますね。ここからは、更に寒さが増していまして、万物を凍結させる寒さと言われています」

 

「へカーティアが弾幕を凍らせる時に使う力……ここの力なんだな」

 

 エレベーターの硝子も曇ってきている。まさかこれが壊れるということは無いだろうが、それにしても少し怖くなってくる。もしこれが壊れたら俺達は紅蓮地獄の中に放り出されるわけで……。

 

「紅蓮と聞くと燃え盛る炎を想起する方が多いと思うのですが、この地獄の名前の紅蓮の由来は、寒さによって裂けてしまった皮膚が、紅色の蓮に似ているからなのです。一体どこから紅蓮に赤や炎のイメージがついたのでしょうか……?」

 

「そいつは俺も分からないけど……確かに由来は気になるね。何でだろう?」

 

 二人揃って暫く考えるが、全く答えは出ない。すると、思考を切り替えたらしい久侘歌ちゃんは案内モードに戻る。

 

「次の地獄では外に出られません。ですのでもし外に出るとしたらこの紅蓮地獄が最後のチャンスですが……どうしますか?」

 

「次はダメなの?なんで?」

 

「次は、万物どころかこの世の全てを凍結させる危険中の危険な地獄。防護服をも貫通する恐れがあるのです。その危険さ故に管理した事はないと聞いたことがあります。適応できる能力者の方が装置を開通させたきり、そのままだと……」

 

「えぇ……てことは無法地帯?」

 

「……かもしれないです。なので次は見学だけにしておきましょう。ここで降りますか?」

 

「皮膚が裂けるのってどう考えてもグロいよな。見なくていいや……怖くなってきた」

 

「ですね。では次に行きましょう」

 

 

◆

 

 

「いよいよ第八層、大紅蓮(だいぐれん)地獄に到着しました。ここの別名はあなたもよくご存知のはずです」

 

「摩訶鉢特摩(マカハドマ)だよね。これは有名だね」

 

「ですね。ここは時間をも凍結させる事が可能と聞いています。なので、ここに落とされた罪人の刑期は開始時から一秒も減っていないとか……。ですので、案外無法地帯とは程遠いかもですね」

 

「怖ッ!?一応刑期が設定されてるのに、一秒も進んでいない!?」

 

「しかし本当に時間が凍結している場合、罪人はなんの苦痛も感じませんね。無限に、永遠の中に囚われたまま。気付いたら地球が終わっていた、みたいな感じです。いえ、地球が終わった事にも気付けないのでしょうね」

 

「こっわ……」

 

「ただし時間が凍結していない場合、罪人は声も上げることも、動くこともありません。本人達は何も出来ぬまま、身体がヒビ割れ、捲れるだけ。何度死んでも勝手に再生し、また苦しむのです。叫びたくても叫べません」

 

「声も出せない苦しみってのは辛いな……俺なら絶対ゴメンだ。無限に凍死し続ける……なんか、死に続けるって意味ではGER(ジーイーアール)*1みたいだな」

 

「?」

 

「何で時間なんてものも凍結させられるんだろ」

 

「それは分かりかねますが、地獄を創造した者が時間関連の能力者だったという説がありますね。あなたの知っている人で言えば十六夜咲夜さんが当てはまるでしょうが、時間と空間は密接に関係しています。地獄の無限に近い広さ、そして刑期設定なども含めて、どう考えても、時間の能力に関連があるとしか思えない形になってますから」

 

「ここまで大規模だとそう思いたくもなるわな。そんでもって、地獄という世界そのものに時間が密接に関係しているのなら、地獄の力、ないしは地獄で行える行動の中に時間停止があっても何も不思議ではない、と。何か怖くなってきたぞ……よく分かんないけど……」

 

「言い知れぬ恐怖、とでも言うんですかね……。私も、何か薄ら寒い感じがしてきました」

 

「もし降りたら俺の時間も停止しちゃうのかな?そしたら、咲夜さんや弦月姫の時間停止とは原理違うせいで俺も動けなくなって……」

 

「あなたを助けに行く私も動けなくなりますね。もし時間も凍結しているなら、恐らくこの大紅蓮地獄で動けるのは地獄の創造主とへカーティア様くらいのものでしょうね……」

 

 当たり前のように俺を助けに来てくれるつもりらしい久侘歌ちゃんが可愛い。マジ推せる、とはこういう事を言うのだろう。キュンキュンする。俺は、そういう可愛い発言に弱いのだ。

 

「扉を開けるだけではセーフ……かな?」

 

「アウトですよ。こうやって何かを介して空間を隔てているからこそ、私達はこうして無事に活動できているのですから」

 

「うーん、それもそうだった。残念。……じゃあどうしよう……あとはへカーティアに稽古付けてもらおうかな。下手に紅蓮地獄の力を使って世界終わらせたら、へカーティアに笑われちまう」

 

「大紅蓮地獄の力は使わないのですか?」

 

「うん。へカーティアからは、紅蓮地獄までって言われてる。ま、時間停止なんて俺には過ぎたる力ってモンだよね」

 

「あなたがもし時間停止の能力を手に入れたら、悪用する未来しか見えませんよ」

 

「うーん否定できねぇ〜」

 

「全くもう……」

 

「時間停止してアレコレするのは、男の夢だぜ。知らんけど」

 

「適当ですねぇ……」

 

 こうして八寒地獄の見学も終え、へカーティアから使用の許可を与えられた力の重みを、改めて実感したのである。

 そして地上に帰還後、へカーティアに頼み力の使い方を軽くレクチャーしてもらい、使いこなせなくとも、自分自身や無差別に周囲を凍結させることはなくなる程度には制御できる様になった。しかし実戦で使えるようになるのには、まだまだ遠そうだ。

*1:
ジョジョの奇妙な冒険第5部の主人公、ジョルノ・ジョバァーナのスタンド「ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム」

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