俺は、幻想郷で二番目に強く在りたい。だからその為に、日々戦闘に明け暮れている。しかし、俺が二番目になる為には、超えなければならない壁と呼ぶべき存在があまりにも多すぎる。
まずは賢者達だ。華扇の事は以前倒したので、ここで言う賢者は隠岐奈と紫さんを指している。それから、元月の賢者の永琳、そしてサグメだ。永琳とはかなりのレベル差だし、サグメとは実は未だに戦った試しがないので、力量の差は未知数だと言える。
次に、幻想郷各地に居る実力者達だ。これは、天魔や神様、輝夜等を指している。また、近隣の異世界の事も考慮するとしたなら、袿姫や早鬼、妖忌といった強者も追加されるだろう。天子も、何だかんだで実力者だとは思う。純狐もだ。
そうすると俺は、少なくとも10人とちょっとを倒さなくてはならない計算になる。俺としては、霊夢を頂点としてその下に俺というのが理想的である為、へカーティアを倒す前に少なくともこの10人ちょっとを倒さなければならない。
近隣の異世界を考慮せずとも6、7人ほどだ。その道のりはかなり長いと言える。今度は、直接へカーティアを倒そうと余計な近道をするのではなく、少しずつ、そして地道に進もうと考えた。急がば回れというやつだ。
◆
「────というわけで、勝負だレミリア」
「……まぁ構わないけれど、どうしてその流れで私なわけ?この私を、賢者共を倒す為の準備体操相手として見ているのかしら?」
「身近な所から攻略するだけ。レミリアだって、幻想郷のパワーバランスの一角を担っているわけだからな。準備体操だなんて舐めた態度じゃあ、到底挑めねぇよ。
「成程……
「そうだよ。今宵は満月、俺達にとっちゃ最高のシチュエーションだろう?」
「ええ、お気遣い感謝するわ。外行きましょう」
レミリアにことの次第を話すと、俺の思惑には賛成の意を示しつつ、いざ挑んでみると、対戦にすんなり応じてくれた。わざわざこの日を選んで彼女に話しただけあり、ノリ気に見える。
「手加減はしない。あなたは不老不死ですもの、即死級の攻撃も許してくれるわよね?」
「当然。……ルールを確認するぞ。枚数無制限、ただし一度被弾したらそこで敗け。いいな?」
「構わないわ。じゃあ……いくわよッ!!」
同時に弾幕を放ち始める。彼女の妖力の弾幕はあまりにも紅く、そして細かいので、非常に目に優しくない。ましてや、外装が真っ赤な紅魔館を背景としているので更に目に優しくない。
「あらあら、目を細めちゃって……そんなに私の弾幕は美しいかしら」
「あぁそうだな、美しすぎて逆に目を逸らしたくなっちまうよ。……けど、ちゃんと見なきゃ弾は避けらんねぇよな」
「その通りね。じゃあもっと増やしてあげるわ!冥符『紅色の冥界』!!」
「……俺の本心に気付いてるな、ありゃ」
「何の事かしら?ふふっ、さっさと被弾なさい」
こういった、視覚に訴えかけてくる弾幕は凄くイヤらしいと俺は思う。満月の夜ということで、かなりやる気も上がっているようだが……。俺は負けるわけにはいかない。
「ここで負けてちゃあ、俺ァ幻想郷で二番目にゃ成れねぇ!」
「霊夢の下になりたいからってぇ……!霊夢霊夢霊夢って、私のことはもうどうでもいいわけ!?このッ……神槍『スピア・ザ・グングニル』!」
「『雷神拳』ッ!!」
投げられた槍は、アーマーのように分厚い雷を纏った両拳で殴って壊す。ビキッ、ビキッと鋭い音を立ててヒビが入るので、壊れないうちに更に雷を流し込んでヒビを修復。槍を投げるのも一応想定の範囲内だ。
────槍で足止めし、背後に回り込むのも。
「そこだッ!」
「っ……!!」
雷を纏った両拳から弾幕を放つと、レミリアは槍で受け止めて相殺してしまう。流石の反応速度だった。そして更なる追撃は諦めたらしく、一旦距離を置いて呼吸を整える。
「別にレミリアのことがどうでもいいわけじゃあないけど、霊夢ばっかりってのが嫌だってんならレミリアも強ェ奴らぶっ倒そうぜ!一緒にさ!!そうすりゃあ〜俺は、霊夢とレミリアに挟まれて両手に花!ウハウハ状態よ!!」
「ナイスな妄想ね!でも生憎、私はそこまで強くなりたいと思わないの!元から強いからねっ!!強者は鍛えないものよ!」
「じゃあ文句は言わせない!俺は絶対に、霊夢の下になってやる!」
「止めてやるわ!その妄想をぶち殺す!!」
「やってみろ!俺の下心の方が強ェからなァ!!雷鎧『サンダーアーマー』ッッ!!」
「接近戦はまずいわねッ……!運命『ミゼラブルフェイト』!!」
「無駄無駄無駄無駄ーーッ!!俺んことは絶対に縛れねぇ!何者にもな!!」
「──────ッ!!」
紅に輝く運命の鎖を、殴って壊して接近する。向こうから触れられれば、すぐ腕も足も翼も首も絡め取られる。こちらから攻めなければダメだ。
「接近戦じゃあ俺の方が強ぇ!神鎚『ハンマー・ザ・ミョルニル』ッッッ!!」
「まだまだこんなもんじゃ……!!」
回転してハンマーを振り下ろすと、束のように纏めて更に太くした鎖を多方向から放ってくる。ハンマーを絡め取ろうとしてくるが、俺の回転の勢いに負け、バキバキバキンと壊れていく。
「うおおおぉぉぉおおおおおっ!!」
「く、こんなはず、じゃ……!!」
頭上で腕をクロスさせてハンマーを受け止めるレミリアだったが、勢いをつけた分だけこちらに分があった。そのまま力を込めると力負けして、彼女は勢いよく湖に落下していった。
体勢を立て直す間も無く、そして、俺の救助も間に合わないほどの勢いで湖に到達し、凄まじい水柱が立ち上った。
「っし……レミリア撃破、と……」
◆
「諏訪子!勝負だ!」
「こりゃまた唐突だね。……ふむ、強くなる為に幻想郷の強者を倒して回ってるんだね。いいよ、相手してあげる!エスカルゴには、もっともっと強くなってほしいしね!神奈子より強いこの私が相手してあげよーう!」
「待て諏訪子、歴史を捻じ曲げるな。私がお前に勝っただろうが」
「バカだねぇ〜。それは神奈子が蔦とかそういう汚い手を使うからでしょ?相性ってやつさ♪」
「だが私が勝ったんだ、私の方が強いだろう」
「同レベルで、同ステータスの火属性と水属性が衝突したら、属性差で水属性が勝つだろう。けど同レベルで同ステータスなら、どっちの方が強いとか有能とか、そういう事は一概に決められないはずだけどねぇ。なのでここは、より年上の私が強いってことにしまーす♪」
(どこか釈然としないが……まぁ、エスカルゴと戦うのはこの上なく面倒だからな。……譲るか)
「おっおっおっ?だんまりかい?それじゃ、私が戦うってことでOK?」
「OKだ」
「やったぁ!久しぶりだねぇエスカルゴ、最近はマンネリ化してたよねぇ〜。エッチは相変わらずお盛んだけどね♡」
「うるさい、戦うならさっさと戦ってこい!変な話をするな、私の前で!」
「もー、つれないなぁ。そんなんだから
「余計なお世話だ!」
不運にも、早苗と樹里愛は里に布教&買い物に出掛けているそうだ。箱入り娘の樹里愛に父親の戦闘を見せ、戦闘への意欲を目覚めさせたかったのだが……居ないのなら仕方がない。それはまた次の機会にしよう。
「よーしっ、楽しむぞ〜!」
「楽しむのはいいけど、一応それなりに真面目にやってくれると助かるよ。ルールは……」
「枚数無制限、1被弾で負け、でしょ?いいよ、私としてもシンプルな方がいいしね。……さぁ、掛かってきなよ。そっちから来ないなら、戦いは始まらないよ」
「受け身か。わかった、ならこっちからやらせてもらう!霊魔『封・
逆五芒星型の斬撃を幾重にも放つと、諏訪子は被弾こそしないものの、当たり判定の判りにくさ故に何度か掠る。封印効果のあるこの斬撃は、掠りでも効果は発揮するので、あの異変で僅かに
「相変わらず、厄介な
「ッ!?」
諏訪子が接近戦を仕掛けてきたことによって、俺は少し狼狽えてしまう。あの鉄の輪はこれまで投げる用ばかりだった。しかし今回は、近接武器として使用しているらしい。
これは想定外だ。まさか、俺が想定していないからこそ、敢えてこんな手を使ったのだろうか。だとしたらマズイ、俺の戦法が読まれているかもしれない。だが────。
「
「ただの鉄の輪じゃあないからねっ!甘く見ないことだね!」
真上から振り下ろすとフラフープで受け止める諏訪子。しかし円形ゆえに斬撃は受け流されて、俺はバランスを崩し、地に足をつけてしまう。
「そこだ!喰らえっ、デスコンボの初撃だ!!」
「うあっ……!?」
着地と同時にふくらはぎの辺りまで中途半端に足が沈み込んだ。抜け出そうと羽ばたくも、数瞬遅かったか、既に地面は固まってしまっている。
「残念、地に足をつけたのが運の尽きだったね!トドメだよ!土着神────」
「しゃらくせぇッ!」
弾幕を展開しようとする諏訪子。明確な攻撃の意志を感じ取った俺は太ももの辺りで足を斬り、緊急回避を果たす。その様に諏訪子は目を剥いて驚愕し、弾幕の展開を中断してしまう。
これは
「足を斬ったぁ!?」
「心臓さえ!命さえ捨ててきたこの俺がッ!今更足を斬り落とすのを躊躇するかってんだ!!」
「ッッ……もっとちゃんと泥化させりゃ良かったかもしれないね……!!」
「いっくぜぇぇ……!雷神『龍雷閃』ッッ!!」
妖魔雷霊剣を地面に刺し、莫大なエネルギーを流し込む。すると、溢れんばかりのエネルギーは龍を象ってランダムな地点から地上に溢れ出し、諏訪子に噛み付いていく。
「しまったっ……!全然緩くない、何なの、この鋭いホーミングは……っ!?くぁああっ、腕が、痺れっ……うあああああっ……」
「っしゃあ、被弾したッ!へへっ、諏訪子は鉄の輪を持ってるからなぁ、ホーミングも普段以上にバッチリ効いてるぜ!!」
全身をやられた諏訪子は、ヨロヨロフラフラと立ち上がりながら苦笑いする。すぐに立てる辺り諏訪子も大概だ。今の雷撃は、かなり強気で攻撃したはずだが。
「しかも、地面からってさぁ……。意趣返しの、つもりだったり……するのかな……?」
「おう!」
「くっくっく……あーあ、清々しい程の負けだ、これは……。余計な事はしないで、素直に空中戦すればよかった〜……」
◆
「輝夜、俺と勝負してよ」
「んー?良いわよぉ、じゃあシャワー浴びてくるからちょっと待っててね。布団敷いててくれると助かるわ♡」
「えっ……いや、何か勘違いしてるな?」
「勘違いなんてしてないわよ。どっちが先に絶頂するか、でしょ?思えば最近はおねショタプレイばっかりだったわよね。そういうエッチも新鮮で面白そうだわ♪」
「見事に勘違いしてて笑えてくるんだけど」
「えー、じゃあ勝負ってなによー」
「そのプレイも今度やるとして、今言ってるのは弾幕ごっこだよ。ヤろ?」
「ダルいからイヤですー。……あ、でも、考えてみればあなたと勝負した事殆ど無かったような。んー……じゃあ、エッチはお預けしてあげるわ♪ただし、私とあなたどっちが勝っても、この後は相手してもらうわよ♡」
「わかってるよ。俺も何だかムラムラしてきた」
「それでこそね!いいわ、勝負しましょ!」
可愛い勘違いもそこそこに、勝負をすることになった。確かに言われてみれば、輝夜と勝負したことは無かったような気がする。あったとしてもかなり前の話だ。
やがて屋外に出た俺達は、竹林の上空で距離を取りつつ正面から見合う。俺は剣を持ち、彼女は何も持たずに、柔らかな笑みだけを湛えている。
「枚数無制限で、一度被弾したら敗け。これでも良いかな?」
「んー、何だか緩いわねぇ。あなたのその真剣さからして、真剣勝負なんでしょう?」
「あ、ああ……俺はそのつもりだけど……」
「ならノッてあげる。暇潰しに付き合ってくれるお礼としてね。でもルールが甘すぎるわよ。折角不老不死同士の戦いなのだから、どちらか片方の死亡で決着……とかでも構わないんじゃない?」
「俺、輝夜殺せるかな……」
「やっぱり甘いわね、あなた。私はあなたの事も殺せるわ。躊躇なくね。それくらいでもないと、妹紅のことなんて殺して遊べないもの♡」
「そっか……。分かった、頑張って殺す……」
「そうこなくっちゃ♪」
展開している弾幕を見るに、もう初撃から難題スペルを使う考えらしい。遊びのような雰囲気を醸し出しておいて、実はやる気満々ではないか。
「さぁさ、楽しい楽しい宴を始めましょう。難題『蓬莱の珠の枝 -虹色の弾幕-』!」
「こいつぁ、前に見たような気がするな。確か、色んな方向から……!『雷神の剣舞』!!」
右手に妖魔雷霊剣、左手に暗黒斬月剣を握り、雷を纏わせて斬り掛かる。参考元としては豊姫や幽々子さんの体捌き。それを空中戦用に俺に合うように少々改良している。
これからの戦いは、スペルのみならず非スペル等も駆使しなくては勝てないような……そんな、激しいものになるだろう。
枚数制限は設けていないのだから、こういった小技だって一切出し惜しみはしない。出し惜しみなんかして負けたら、ただの恥ずかしい奴だ。
「あなたにしてはフワフワ動くわねぇ……あまり目に良くないわ……」
「その綺麗な両手足……切り落として、目の前で肉を喰らってやるよ……!!」
「そんな動きで私を斬れると、本気で思ってる?だとしたらとんだお笑い草ね、当たる気がし……あっ……うっ……っ!?」
「ちぇっ、外した。……やっぱり、慣れない事はするもんじゃないのかもな」
すれ違いざまに四肢を斬った……と思ったが、斬れたのは右腕だけだった。他の手足は、着物が切れた程度で切断まではいかなかった。
斬った腕は、斬るのと同時に手に取り、輝夜がこちらを振り向くのと同時に肉を喰ってやった。美味としか言いようがないこの味……新鮮すぎる血の味も相まってクセになりそうだ。
「でもやっぱり、美女の肉は上等なステーキより何より美味いもんだな。食人妖怪じゃなくても、肉を食べるのに目覚めちゃいそうだよ」
「美味しい?ふふっ、それなら良いわ……」
「綺麗な手だ、手で勃起しちまう変態が生まれる理由が分かった気がするよ。だけど俺は手よりも太ももだな……。太ももの肉も喰わせろッ!!」
残りは後で食べようとスキマに仕舞い、更なる斬撃を喰らわせようと急接近を試みる。太ももを狙うかのように予告したが、それは後でヤるだけであり、今はあくまでも彼女の四肢全てを狙っている。
右腕は再生途中らしいので、残りを狙うまで。そう……思っていた。
「蓬莱の珠の枝よッ!!」
まだ間合いの外だと思ったのだが、能力を使用したのか、瞬時に間合いを詰めて枝を俺の右眼にズブリと突き刺した。視界が奪われた上、猛烈な痛みに襲われる。
しかし、ある程度奥に到達すると、痛いという感覚すら無くなってきた。
「ッ……!?あギャァッ……ぐ……ぁ……」
「目って弱いのよねー。こういう棒でも、刺して掻き回せば、呆気なく殺せちゃう……。この奥は脳髄だからね」
「あ゙、が、が……ぎぎィ……ゔ、あ゙ぁ……」
「……へぇ……打たれ強いのを自称するだけあるらしいわね。目玉の奥を掻き回せば、妹紅だってすんなり殺れたのに……あなたはまだ生きてる。再生速度が異常なのかしら。まるで壊すそばから修復しているみたいな……。ふぅん、面白いわ」
ズポッと枝を抜いた輝夜は、血がついたまま、それを着物の袖に仕舞った。中が汚れそうだが、本人はそんな事を微塵も気にしていないようだ。
「輝夜ァァ……!!」
「イイわ、その目!肉親の仇を見付けたような、内面が溢れてきたような、その憎々しげな目ッ!そうよ、そのまま私を攻撃するの!!」
「言われなくとも、攻撃くらいしてやるさッ!!ゔりぃぃぃあああああぁああぁっっ!!!」
一旦思考を放棄し、何も考えないで突き進む。弾幕を切り、切り、ひたすら切って、前進する。どこに被弾しようとも意識をそちらにやらずに、前に、前にと食らいつくように進み、遂に、俺の間合いに入った。
(……あっ?あら……集めてた須臾ほどの時間、さっきの攻撃で使い切っちゃったわ。緊急回避は無理そう……。あー、首を剣で斬られるのって、どんな感覚なのかしら……)
「もらったっ……!!」
剣を横に振り払う。このまま振り抜けば彼女の首は吹っ飛ぶ。しかし彼女のサッパリしたような綺麗な顔を見たら、そんな勢いは、風に吹かれた蝋燭の火のようにフッと消え失せてしまった。
殺せない。やっぱり殺せない。輝夜のことは、俺には殺せない。何の恨みもないのに、どうして輝夜を殺せるだろう。
復活する輝夜より、復活しない人間達の方が、何故か軽い気持ちで殺せる。体の回りを飛び回る羽虫を手で握り潰すが如く、なんの気負いもなく殺せる。
「ッ……」
「……どうしたの?」
「やっぱ殺せねぇっての、バカグヤぁ……!!」
「なっ……バカですって?永琳に言われるのならまだしも、あなたには言われたくないわね、このバカルゴっ!」
「うっさい、なんで殺さなきゃなんねーんだよ、俺が!輝夜を!自殺願望でもあんのかよ!バカ!人の気も知らねぇで!」
「あなたの気なんて知らないわ。勝負をつけたいのなら、さっさとその剣で私を殺してみなさい。あなたの剣は首すらも斬れないナマクラなの?」
「なわけねぇだろ……。でも殺せない……輝夜のこと……」
「あら、泣いちゃうの?あなた、そんなに泣き虫だっけ」
「泣く?この俺が?ヘッ、んなわけ……ッ!」
「じゃあ、その目から流れる水は何かしら」
「──────……」
情けない事に、輝夜を殺せないくらいで二つの意味で心が痛み、涙が出てきてしまったようだ。本当に情けない。八千慧の事なら殺せそうだが、輝夜は……今の俺では、殺せそうにない。
「あの輝夜姫だ!!数多の男が心奪われたというあの輝夜姫だッ!この俺が、そんな輝夜ンこと、好きにならねぇとでも思ってたのかよ……!?」
「ッ……!?」
「前にも言ったろ、輝夜が好きだって……!結局フラれちまったけど……」
「まぁね。……彼氏とか、私には要らないもの」
「だから俺は、輝夜を殺せない……!俺が輝夜を殺す事は、俺が霊夢を手にかけるのと同じだ……そんなの、できるわけねェ!だから、生殺与奪の権を手にした俺の勝ち!これで良いだろッ!!」
「あーダメダメ。甘っちょろい考えは成長の枷。今ここでそんなヌルい考えは捨てちゃいなさい。でないと、私があなたを殺すわ」
「ヘッ、なら殺してみろよ……輝夜にそこまでの攻撃力があるとは思えねぇけどな……ッ」
「なら、これはどう?」
再生した右手をこちらに向ける。そこに眩しい光が集い、一つの弾幕になった。あれはまさしく殺意の塊……純粋な殺意。
妹紅と殺し合っていたらしい輝夜だが俺は長年その話を疑っていた。妹紅のような攻撃性のある弾幕でもないだろうに、どうして、殺し「合い」なのかと疑問に思っていた。何故、一方的な虐殺ではないのかと。
しかしこうして彼女の純粋な殺意を感じると、間違っていたのは俺だった、と痛感させられる。
光り輝く弾幕は俺の顔を目掛けて飛んでくる。俺はそれをスキマ送りにしてやり、自分の安全を確保した。
「あらあら。どうしたの?折角殺してあげようと思ったのに……」
「死んだら俺の負けになっちまうからな。けど、今のでやっと吹っ切れた……ありがとう。コレで輝夜を殺す」
「!」
「霊夢と同じって言ったけど、一つ訂正するよ。霊夢とは全然違う。輝夜の方が色々と吹っ切れた存在なんだって……やっと分かった」
彼女のすぐ後ろにスキマを開いて、先程スキマ送りにした彼女の弾幕を解き放つ。見事に彼女に直撃すると、彼女の頭はバカンと爆発四散して、肉体は地面に落ちていく。
彼女の体を全身で受け止め、首から上が消えてうんともすんとも言わなくなった彼女の身体を、まるで対面座位で交わるときのように優しく……しかし強く抱き締めてやる。
そうしてやると、つい数秒前まで生きていた証である、生命の温かみを感じた。しかしそれも、数秒経つ毎に失われていき、しかも、身体が崩れ始めた。復活するらしい。しかし俺は、柔らかな彼女の身体が完全に消えるまで、彼女の体を抱き締めていた。
「…………」
「ちょっとぉ、何をそんなボーッとしてるのよ。曲がりなりにも私に勝ったんだから、少しくらい喜んだってバチは当たらないのよ?」
フワフワとどこかに漂っていた意識が、輝夜の声によって地上に引き戻される。後ろを見ると、やはりそこには五体満足な輝夜がいる。当然だ、彼女は不老不死の蓬莱人。俺と同じ……不老不死なのだから。
「輝夜……」
「なぁに?」
「……今までは、ただヤッたりして誤魔化してたけど……俺、やっぱ輝夜のことが好きみたいだ。今度は……恋人としてヤラない……?」
「私はあなたのこと何とも思ってないけどね〜」
「……へへ、またフラレちった……」
「ふふっ……。まぁ、その気になったらいつでも告白しに来なさい。折角、私達には無限の時間があるんだから♪」
「ああ、いつか振り向かせてやるさ」
「それでこそあなたね。さ、早く帰りましょっ?約束通り、今日もお姉ちゃんにビュービューしてもらうからね、覚悟なさい♪」
「……今日は違うヤツって言ったじゃん……」
今はもう少しだけ、ただのセフレという乱れたこの関係に甘んじていよう。けれども、さっさと真っ当な関係になっておきたいものだ。