11月某日夕方。家事中に突如として産気付いた鈴仙は、巫月が俺を呼びに来るのも間に合わず、女の子を出産した。意外な事に、永琳の予想した予定日より一週間程度遅れていたので、すっかり油断していたというのもあり、俺が到着したのは出産から数分経ってからだった。
今日は、月が綺麗サッパリ見えない朔の日……新月の夜だった。
「産まれたって!?」
「あ……きたぁ〜……。産まれたよぉ〜……」
汗びっしょりの鈴仙。下半身はシートで覆われ見えなくなっているが、色々と大変な事になっているのだろう。
赤ん坊は既に身体を洗われていて、厚い産着に包まれながら、クークーと、イビキにも寝言にも聞こえる声を発しながら、よく眠っている。
「もう、肝心な時に傍に居ない男ね。……元気な女の子よ。抱いてあげなさい、お父さん?」
「はっ、はいっ……」
以外にも俺に似て黒髪の赤子だ。しかも片耳が垂れている。団子のように丸い頬が可愛らしく、ムニムニツンツンと触ってみると、赤ん坊が顔を顰めて泣き出しそうになったのでイタズラに顔をイジるのをやめた。
「あ、この手触り……翼はあるんだ」
「そうね。でも例によって、膣内で引っかかって血だらけになっちゃったけどね」
「う……。すまん、鈴仙……」
「何で謝るのよ?そんなの、仕方ないじゃない。どうせすぐに治るわ、気にしないで?」
「うん……」
「エスカルゴー、私も抱っこしたい!」
「大丈夫か巫月?首、気をつけろよな」
「分かってるよ。抱っこの仕方は見て覚えたよ」
「そうか?じゃあ……」
巫月に赤ん坊を渡し、永琳に見守ってもらう。一方、俺は鈴仙の傍に座り込み、彼女を撫でたり抱き締めたり、労いの言葉をかける。
「巫月の時といい、今回といい、間に合わなくて本当にすまない……」
「いいっていいって。まだ産まれそうにないからいつも通りの生活で良いよって言ったのは私よ?すぐ来れるように備えてもらったのはいいけど、陣痛始まってすぐ産まれちゃったからさー……。もうね、不意打ちだったの。だから仕方ないわ」
「う、む……」
「それよりこの子の名前よ、名前!何か考えた?巫月の時は既に考えてたみたいだけど……」
「そ、それが……。月関連の名前が良いな、とは思ってるんだけど、中々思いつかなくて……」
俺としては巫月のように「〇月」が良いと妄想している。語感がいいのだ。何か固定のワードを組み込むと、格段に呼びやすくなる印象がある。だから、その固定のワードを「月」にしようかと思っているというわけだ。もしくは「夜」なども良いかもしれない。
「そう?じゃ、この子はルーナってどうかしら?可愛くない?当て字じゃなくって、ちゃんとしたカタカナだけど」
「可愛いけど、鈴仙も巫月も漢字なのに、この子だけカナカナってどうなの?……と思うんだが。しかもルーナって……ルナチャイルドをルナって呼ぶのとゴッチャになっちゃいそう……」
「そもそもルナチャイルドを呼ぶのってここではほぼエスカルゴだけじゃないの」
「まぁそうだけど……うーん……。今夜は朔の日だから、朔夜……ってダメだ、咲夜さんと丸被りしちまう」
「でも鈴仙。『ルーナ』は私もちょっと違うって思うよ。永遠亭は和風なのにガッツリ洋風だし」
「んー、それもそっか。どうしましょう……今度からは名前考えてから子作りしましょ?」
「そうだな」
「って……ウドンゲ、あなた……今産んだばかりなのに、もう子作りする気満々じゃないの」
「アハハ……。色々大変ですけど、何だかんだで子育てって楽しい所もありますからね〜。巫月、抱っこさせて」
「は〜い」
「ありがと。……だって、この子を見て下さい、お師匠様。……こんなに可愛い……お腹を痛めた甲斐があったって感じです……」
「……母性が芽生えたのね。しっかり責任もって育てるのよ」
「わかってますって。巫月みたいに、父親に欲情するような子にはしません。ね〜、巫月ぃ?」
「ハイハイ、そーだねー」
「くれぐれも、この子に変なこと教えないでよ?わかってる?」
「分かってるよ、そんなの。もしこの子までエスカルゴラブになっちゃったら、エッチする時間が減っちゃうもん」
「……俺も気を付けるよ、鈴仙」
「うん、そうして……」
流石の鈴仙も苦笑いしてしまう。もう二度と、巫月や弦月姫のようなファザコンな娘は出さないように、俺ももう少し気を引き締めて、子育てに携わらなくては。
「そうだ。今日から暫くここで暮らすんだよね。また色々宜しくね。家事とか……」
「任せとけ」
「あのね、ウドンゲ?あなたが知らないだけで、こう見えても彼、それなりに家事やってくれてるからね……?今更家事宜しくって言う程じゃないでしょうに……」
「え」
「洗濯物の取り込みは、私じゃなくてエスカルゴやってるわよ。掃除もね」
「えぇっ!?てっきりお師匠様かと……」
「やっぱりね。そんな事だろうと思ったわ」
「だ、だってエスカルゴ、いつも姫様とか巫月とエッチしてばっかだし……」
「否定できねぇ……。でもまぁ、家事はこの俺に任せなよ。鈴仙は、この数ヶ月間ずっと赤ん坊を腹に宿してたんだ。だから暫く休め。ここからは俺の仕事だ」
「でも、彼女だって前より増えたのに……」
「それも大丈夫だ、話はついてる。一人を除いてだけど……その子には時間を見て会いに行きゃあ許してくれるそうだ。理解のある子達ばかりで、本当に幸せモンだよ、俺は」
「そう……?でも夜もお乳飲ませないと……」
「搾乳器とかで鈴仙の母乳搾って、夜は哺乳瓶で飲ませればいいんじゃないかな?巫月のときは、ちょこちょこ起きて大変だったし……鈴仙も睡眠不足になりかけてたもんな……。だからもう夜は俺一人に任せな。徹夜には慣れてるからよ」
「……そう?悪いわね……」
「謝るなよ、俺達の子なんだから。てか、鈴仙を孕ませたのは俺だしな」
「そうだけど……うん、甘えさせてもらうわ」
「おう」
搾乳器の類は、確か外の世界に市販されていたはずだ。ヒビキが産まれた時、母さんがそういう機械みたいなのを使用していた記憶がある。
鈴仙の搾乳……まずい、飛びつきたくなるほどエロいかもしれない。
「とすると、あとは名前ね。せめて明日までには決めたいけど……うーん……」
「……会話してて何となく思い付いた。ちょっと書いてみる」
先の会話の通り「月」をつけるのを前提として11個程度の名前を思い付いた。我ながらそこそこ可愛らしい名前を思い付けたと思う。
「
「まーね。俺的にお気に入りなのは雫月、緋月、穂月かな。雫月と穂月は、まさに垂れ耳な感じがするだろ?緋月は……この子にもスカーレットの性が与えられるし、ピッタリかなーと……。でも楓月も可愛いと思うんだよ。可憐な感じがして」
「『
「幻月と夢月と被っちゃわないかなって思って。それなら姉の巫月に合わせた方が良いだろ?」
「そうねぇ……。お師匠様はどう思います?」
「私は何も言わないわ。子供の名前なんだから、あなた達二人……いえ、巫月ちゃんも含め三人で考えなさい」
「はーい……。巫月は?何か思い付いた?」
「全く思い付かないよ。……名前考えるのって、こんなに大変だったんだね」
「そうよ?ま、巫月の名前はエスカルゴが元から考えてた名前を付けたんだけど……じゃあ今回はエスカルゴが考えた候補から選ぼっか」
「うん、そーだねっ!」
「この候補の中だと、良いなって思ったのは……姫月、雫月、華月、緋月、穂月……かなぁ」
「穂月は……なんかヤダ。なんか、将来おっぱい大きくなりそうだし」
「ちょっと何言ってるか分からない。……じゃ、巫月は何がいいんだ?」
「華月、緋月……あと、雫月、夜月かな」
「三人共通してるのは雫月、緋月か。なら、この二つを最終候補にする感じでいいかな?」
「「いいよ〜」」
この二つだったら、緋月を推したいところだ。スカーレットと少しだけは被るかもしれないが、何より、頭文字の母音が巫月と同じ「i」なので、尚更語感が良く感じる。
「「「どっちにしよう……?」」」
親子揃って暫く頭を悩ませていたが、深夜には名前が決まった。“緋月”と名付けられた吸血鬼と玉兎のハーフっ子は、翌朝には長い長い眠りから目を覚まし、早くも腕と腹で這いずって動くようになった。