ある日、隠岐奈に招集を受けた俺は、末っ子の緋月の面倒を見つつ、時間を見て後戸へ向かう。そこには隠岐奈と、隠岐奈をロリ化させたような幼女、阿弥が居た。
二童子は、相変わらず席を外しているようだ。解せぬ。
「来たぞ」
「おお、早かったな。阿弥、お父さんが来たぞ、挨拶なさい」
「初めまして。あなたがあたしのお父さんね。で合ってるかな?よろしくね」
「初めまして?……じゃないような気がするが」
「あれ?そうだっけ?あたしの認識じゃあ、今が初めましてだったと思うけど」
「……あー……起きる前に帰ったから、こうして話すのは初めてだったか。えーっと、俺のことは隠岐奈から聞いて知ってるかな?」
「『エスカルゴ・スカーレット』35歳、重婚者。吸血鬼ながら不老不死という体質で、住所不定の無職。
「俺って35歳だっけ?自分の
「阿弥、少し慎みというものを覚えなさい。何故私の発言の全てを本人の前で言うんだ」
「知ってるから言っただけだもん。お母さんは、お父さんのことよく知ってるんだね」
「……いいや、全然だ。まだ知らないことの方がずっと多いさ。何はともあれ、お父さんと仲良くするんだぞ」
「はーい」
素直ないい子だ。悪い奴に騙されたりしないか少し心配になるほどだ。その「悪い奴」が、俺にならないかどうかと心配になるが……。
「ふーん、お父さん、ねぇ〜……。お母さぁん、あたしって本当にお父さんの子供なの?体質だけ少し似てるだけに思えるんだけどなー」
「会ってすぐに何て事を言うんだ阿弥、お父さんまで目を丸くしてるだろう」
「だって、お父さんに似てる所がまるで無いって言うか〜……あたしってお母さんの分身みたいなもんじゃないの?」
「う……」
「おい隠岐奈……子供に何て事を言わせてんだ?ヤベェぞ、マジで」
「そういう所だぞ、阿弥。そういう、思った事を言ってのける所。そこはお父さんにそっくりだ」
「そうなの?お父さん」
「あっ?あ、あぁ……そう、だな……そうだとも言えるかな、あはは……」
「ふーん……」
俺のことを赤の他人としか思ってなさそうな、少し冷ややかな視線が少しゾクゾクする。初めて魅玖ちゃんと会った時は、人懐っこそうな視線を送ってくれたものだが……。
「早く本題に入ろうぜ、隠岐奈。確かこの数日で明らかになった阿弥の身体機能の説明?とやらをしてくれるんだろ?」
「そうだねぇ……説明と言っても少し難しいな。じゃ、阿弥、エスカルゴ、外へ行こうか」
「はーい」
「待て隠岐奈、翼が無いとはいえ吸血鬼の娘だ、太陽光にゃ弱いんじゃねぇのか?それとも、妖舞みたいにデフォルトで日光耐性あるのか?」
「あるぞ。まぁ、他にも阿弥の情報を見せてやるから、ついてきなさい」
隠岐奈に連れ出され幻想郷某所の上空に来た。すると隠岐奈は、俺に妖魔雷霊剣を貸してくれと言うので、スキマから取り出して貸し与える。
隠岐奈はそれを構え、阿弥を見やる。
「もうやめてよそれ〜」
「そうだな。意図的にやるのは今日が最後だよ」
「なら良いけどさ……。やるなら早くしてね」
「ああ」
腕を差し出す阿弥、それを斬り落とす隠岐奈。何をやったのか、ほんの一瞬分からなくなった。数秒のラグがあったが、阿弥の呻き声で、意識が強制的に現実に引き戻される。
「いったぁ〜〜……腕切るの痛いよ〜……」
「隠岐奈!?」
「どうした?阿弥の再生力を見せたいだけだが」
「痛い〜……何度斬られても慣れないなー……」
とか言いつつ、阿弥の腕はほぼ再生している。早さは再生慣れしていないレミリアより少し遅い程度。とはいえ、俺の子供達の中では上位に来る早さだ。
トップは安定の巫月、次点で霊麗、そして妖舞だろう。緋月もそれなりに早かったが、その次に阿弥だろうか。
純粋な吸血鬼であるはずの弦月姫は、主同様に再生慣れしていないようで、再生は遅い部類だ。穹は並の妖怪程度。霊愛は形態によって変動することもあり、ランキング圏外だ。吸血鬼形態なら巫月クラスだった気がするが……。
「だからって斬るのかよ……?ほら早く返せよ、もう貸さねーかんな」
「ああ、もう大丈夫だぞ」
「はー……痛かったー……」
治った腕を、もう片方の手で摩る阿弥。そんな娘を見ていると、言い知れぬ違和感に襲われる。上手く言えないが、何かがおかしい気がする。
父親の違和感を他所に、阿弥は青空を飛び回りながらチュンチュンとさえずる小鳥を見ている。その瞳に映るは小鳥と空と白い雲。この子が何を考えているのか、全く読めない。
「……分かるか、エスカルゴ?どうやら阿弥は、恐怖心がほぼ無いようなんだ。勘違いするなよ?私が何か、余計な事をしたわけではないからな?生まれつきこうらしいんだ……」
「いくら半神半妖だからってそんな事あるか?」
「無いと思う。しかし、お前はこれをどう見る?私は、恐怖心はあった方が良いと思うが……」
「俺も、あった方がいいと思うよ。けど、もしも強大な敵が現れた時、恐怖したせいで普段通りの強さを発揮できずに負ける事になったらって……そう思うと、無くても良いのかなって思うんだ。俺なんかは、恐怖心はほぼ無くなってると思う」
「この戦闘狂め。痛覚と同じで、心というものは非常に大切なものだ。……無痛症の者は、痛みを感じない故に、本来なら気付けるはずの病でも、知らぬ間に進行させてしまったり、病や怪我をも悪化させてしまうと聞く。心もそういうものだ。必要無いように思えるものも、無くてはならないものなんだ」
「そりゃあまぁ……そうだろうけど、さ。でも、阿弥はどう思ってんだ?」
「……それが、本人は何とも思っていないんだ。有ってもいいし、無くてもいい……と。つまり、そんな事は阿弥にとって
「困ったな。ニュータイプの子供だよ、阿弥は」
「ああ、全くだ」
俺の目には、隠岐奈は本心で困っているように見える。隠岐奈でさえ困るのなら俺はもっとだ。俺に相談したかったのだろうが、残念ながら俺に彼女の手助けは不可能と言わざるを得ない。俺もこんな事は初めてだし、不可解な部分が多いからである。
するとその時、ヒソヒソ話を打ち切るように、阿弥が声を飛ばしてきた。
「ちょっと、何ヒソヒソ話してんの?恐怖心とかどうでもいいってば。いちいちそんなに悩む必要無いでしょ?」
「……!聞こえてたのか」
「阿弥は地獄耳だからね。……だがなぁ、阿弥。お母さんとしては、お前には色々な感情を知ってもらいたいんだよ。恐怖は時に、要所要所で力を発揮するし……」
「賢者の仕事に恐怖心が必要になる場面があるんなら必要だと思うけど、そんな場面あるの?」
「仕事に感情を挟むのは良くないし、そもそも、我々が何かに恐怖する事自体が稀だが……」
「ならあたしは大丈夫。恐怖なんて知らなくても立派に賢者の仕事をこなして見せるよ。何年後になるかは、分かんないけどさ」
「…………」
隠岐奈も言葉を失うほどだ。どうやらこの子は秦こころとはまた別ベクトルで、感情が通常とは異なっているようだ。
果たして、親としてどうすべきなのだろうか。隠岐奈は縋るような目付きで俺を見るが、こんなパターンは初めてな事もあり、俺にもどうすればいいのか分からない。
「……まぁ、良いんじゃあないか?別に、大きな不都合があるわけじゃあないんだろ?」
「そうだが、何というか……いや、そうだな……そう思うことにしようか」
「うんうん」
《────とか言って納得すると思ったかっ!?不都合はあるだろう。賢者たるもの、己の感情も他人の感情も全てを推し量ることができなくてはならないんだぞ。感情が欠如していては推し量るどころか知ることも理解することも叶わん》
《んー……そっか。俺、賢者とかについてはよく分からないから、「賢者たるもの」と言われても分からないんだよな。でもま、隠岐奈が言うならそうなんだろう。とはいえこの子を軽く見るのはやめてほしいけど。洗脳もするなよ?》
《分かっているよ。ま、育児は私に任せなさい。お前はお前の事をやっていればいい》
《じゃあ、任せるよ。てか隠岐奈から言い出したことだもんな》
《そうだな。あぁそうだ、里乃と舞がまたお前と遊びたがっていたよ。弾幕ごっこでもして遊んでやってくれ》
《了解》
その後、隠岐奈と阿弥に別れを告げ、隠岐奈に扉を開けてもらい里乃達と合流した。当然ながらエロ展開は無かったものの、そこでかなり楽しい時間を過ごさせてもらった。子育てで疲れた心と身体を癒す事ができたように感じた俺であった。
プロフィール
摩多羅阿弥(0)
種族:半神半妖
能力:不明
神徳:不明(ただし、名前から察するに「表」の要素を持つ可能性が高い)
・一人称は、エスカルゴの子供達の中では珍しく
「あたし」を使用している(「私」も使う)
・遺伝上は隠岐奈とエスカルゴの子
・ただし例によって母親に似ている
・紫とは違って隠岐奈は阿弥に遺伝子操作などは特にしていない
・分霊(本体と同等なスペックの分身)生成可能
・同じく半神半妖の樹里愛とは比べ物にならないくらい神力が強い(母親のスペックの違い)
・吸血鬼の良い特性を全て受け継いでいるのに、判明している限りは吸血鬼の弱点が一つも無い
・基本的に無表情で、語尾に「!」が付くような明るい(激しい)話し方はせず、淡々としている
・恐怖心が欠如している(他の感情は不明)
・将来は賢者になりたい賢者見習い
・隠岐奈は娘に恐怖を覚えてほしいと考えている
・エスカルゴは「隠岐奈も遺伝操作しただろ」と疑っている(勿論違う)