今日は、リグルも交えての初めての特訓の日。チルノと大ちゃんと一緒に、リグルが霧の湖までやってくる。なにも、虫の苦手な冬にやらずとも良いだろうに、リグル本人は、「今は特訓したい気分」と言って聞かなかった。
前半はチルノとリグルで戦ってもらって、俺と大ちゃんはそれを岸辺で観戦していた。寒いので今日のところは青姦は無しである。
「チルノ強いよぉ〜……」
「トーゼンっ!あたいはいつか、慧音の寺子屋でサイキョーになってやるんだから!」
「うぐぅぅ〜ッ……」
前半の結果はお察しの通り、チルノの勝ちだ。リグルは、持ち前の交替性転向反応を活かせずに負け越している。
俺が以前寺子屋に教えに行ってからも、一応は個人での特訓もしていたらしいが、雑魚妖怪相手などでは彼女も成長などするはずもなく……。
「よし、じゃこうしよう。急に速くするんじゃあなくて、少しずつ速くしよう。被弾ばっかなのはまだチルノの速さに慣れてないからなんだろう。予想だけどな」
「へへーん!あたい速いからなっ!」
「パーフェクトフリーズの初撃はチルノにしては速い方だよな。アレより少し遅いくらいで、俺が発射するから、リグルは、相殺に頼らず回避してみてくれ」
「う……が、頑張ります……」
チルノと大ちゃんが見ている中、俺とリグルは湖の真上にて対面する。いつでもいい、と口には出さないものの、彼女の構えがそう言っている。
「いくぞ。符の壱『紫電雷光』」
手を翳すと紫電が迸る。今回は、弾速はかなり手加減しているが、密度はそれなりだ。リグルは己が持つ交替性転向反応に逆らうこと無く流れに身を委ね、右に左に、右に左に……と、繰り返し同じパターンで回避していく。
成程、改めて観察してみるとかなりわかり易い避け方だ。観察眼さえあれば、知恵の無いような雑魚妖怪にさえ倒されそうなほどに単調だ。
「余裕あるな?」
「余裕、あります……っ!」
「じゃ次だ。符の弐『黒雷電光』」
レベルが一段階上がると、途端に彼女の動きが悪くなる。被弾とまではいかないものの、掠りが目に見えて増えてきた。これではあと数秒後……良くて次の段階で被弾不可避だ。
「よく見ろ、弾幕を。パターン化するんだ、まだ単調だからな。左右が無理だってんなら、上下も使っていい。だが、それで被弾したらヒドイぞ、分かってるな?」
「は、はいっ……!」
「あと10秒耐えたら次だぞ。……8……7……」
「く、う、ううぅぅぅっっ……!!」
「3……2……1………………」
「1長いですって!!」
「今のまま次に行ったらすぐ被弾しそうだから。この速度には慣れたか?」
「慣れ……まし、たっ!!」
「そっか、なら次だ。符の参『緋電紅雷』」
「ッッ────!!」
俺のこのシリーズは、壱から伍までパターン化する方法は同じ。つまり密度と速度、威力にしか明確な違いは無いのだ。色も違うので全く別物に見られがちだが、霊夢や魔理沙など多くの弾幕と触れ合ってきた者ならすぐに気付けそうだ。
「うあああああぁぁっ……!!」
「まぁだ5段階中の3段階目だぞ、こんな弾幕で被弾すんなー」
「あ゙、うあああっ……あ゙ぁあっ……」
掠りが酷くなってきたリグルは、ついに連続で被弾してしまい、身体の至る所が痺れたようだ。高度を維持出来ず、ジワジワと降りてくる。
「やっぱ符の弐でもっと慣れとけば良かったか。ギリギリだったものな」
「ゔ〜……ひび、ひ、しび、れ……」
「おーし、次はチル────」
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ぁ゙あ゙っっっ!!!」
「ッ!?」
急激に妖気が高まるリグル。何だか暴走に似た危なげな気配を感じ取った俺は、中断した先程のスペルを再発動させリグルに放つ。
しかしリグルは、少し粗めの残像を残して姿を消してしまう。気配はある。どこへ向かう訳でもなくて、周囲を飛び回っているようだ。
「────ッ!!」
真上から彼女の気配を察知した俺は、頭を保護するために手を上に向ける。すると、俺に蹴りを見舞おうとするリグルの足が丁度手にヒットし、彼女を受け止めることに成功。
目の前に彼女を持ってくると、頭が下になって宙ぶらりんになる。履いているのがスカートではないのは不幸中の幸い……だっただろうか。
「フシュウゥゥウウ……」
「起きろリグル」
「ギャアァアアィイイイアアアアッッ!!」
眠らせる勢いで直接電撃を流してみると、獣のような声を上げて逃げようとするリグル。そんな彼女を頭上から下ろして、俺は驚愕した。
彼女の目がトンボのような複眼になっていて、しかも服を突き破って羽根が生えているからだ。羽根は目と連動しているのか、これまたトンボのような4枚の羽根だ。
よく分からないが、リグルの《蟲を操る程度の能力》が成長して、任意の蟲の能力を使えるようにでもなったのだろうか。
「……にしても、まだ気絶しねぇのか……普段のリグルならとっくにオチてるだろうに」
「アグググガガアァァアギアアァァアァッッ……あぅぅっ……」
「お」
「や、め゙……てぇ゙っ……!!」
「いや正気に戻んのかい。気絶しないのかよ耐性ついたのか?」
「は……あぁ……ふぅ……死ぬかと思った……」
トンボのような複眼はとうに元に戻っている。しかし羽根はそのままらしい。手を離しても謎の電撃耐性のおかげでもう普通に飛べているのが、少しだけ悔しいような感じがする。
「んで、リグル……その羽、どうした?」
「はい?」
「なんつーか……どう見ても蛍じゃあないように見えるんだが……?トンボみたいな……」
「やだなー、私は蛍ですよぉ。……っ!?」
後ろを見たリグルは言葉を失った。己の背中に生えていたのは蛍の羽なんかではなく、どこからどう見てもトンボの羽だったからだ。
「なんだ、こりゃ……なんでこんな事が……」
「速く飛びたいって思ったからでしょうか……?でもこれ、元に戻れるのかな……あっ」
リグルがそう言うと羽根は収納された。思ったより融通が効くようだ。こんな変身は久しぶりに見た。いや、変身と言っていいのかも分からない変化だが……。
「……っ!もしかして私、変身能力を得ちゃったのでは!?チルノみたいな!!」
「なのかなぁ……。こんな安易に成長されると、俺の情けなさが際立つな。とりあえず次やるか?どーする?」
「やりますっ!はぁぁっ!!」
バサリと羽根を生やすリグル。目は複眼だが、暴れ出さない。もう、制御ができているようだ。俺が狂気を操作できるようになるのにはかなりの期間を要したのだが……彼女の成長は、かなり早いらしい。まるで虫のような成長速度だ。
「符の肆『雷光一閃』」
「ッ────!!」
回避している。先程までの弾幕に加え、たまにレーザーをも放つようになった『雷光一閃』を、回避している。左右交互に回避するのは変わっていないが、速度、そして精度が段違いだ。
我が娘、穹ほどの速さではないものの、かなり速度が上がっているのはまず間違いない。残像が見えるレベルというのはかなりのものだ。生半可ではない。
「余裕か」
「余裕ですっ!」
「ならこれだ。符の伍『虹電雷撃』」
本気ではないものの、普段通り弾幕ごっこする程度の密度、速度で放つ。これは符の○シリーズ最終奥義という事で、常用しないレベルの密度になっている。
密度で言うなら、フランのスターボウブレイクよりかは少しだけ薄い程度だ。しかしアレは直線だけなのに対し、斜めやクロスなどもあるので、単なる難易度で言えばスターボウブレイクとほぼ変わらないと自負している。
そして、カラフルさで言えば俺のスペルの中でトップクラスだ。
「ッ……やるなリグル……。まるで子供の網から逃れるトンボだな、すげー速さだ」
「で、でも、避けるの難しい、ですっ……もっと増やされたら、当たっ……危なッ」
「油断するなよ。この密度じゃ、少し動きすぎただけでも被弾するから」
「は、はいっ……!」
結局、掠りこそあったものの全て回避された。俺としては、簡単に攻略されてしまったことへの悔しい気持ちが大きいが、それでも彼女の成長に少しでも貢献できた事も嬉しく思うので、かなり複雑な心境だ。
もしもまた新しいスペルを考案するとしたら、超スピードに頼っているようでは避けられない、少しは頭を使うようなモノにしようと、固く心に誓ったのであった。