子供が生まれて、ある程度成長したら、いよいよ我が家の恒例行事を行う。即ち、魔界に帰省して母に頼み、弱点を消すのだ。
先日は鈴仙と巫月、緋月と一緒に魔界に来たが、今日は霊夢達とやってきた。
霊魔は男子故に「博麗の巫女」にはなれないが、その代わりに巫覡、男巫、巫子にはなれる。巫女とほぼ同一の役職らしい。慧音によれば、古代初期の日本では少数ながら男の巫女……巫覡、男巫、巫子が存在していたそうだ。
「おかえりなさい、カルちゃん♪」
「おかえりなさいませ、坊ちゃん」
「ただいま母さん、夢子」
「また世話になるわね、神綺」
「いいのよ、霊夢ちゃん!子沢山だし、凄く明るい家庭になりそうね♪」
「皆、静かな子供なんだけどね。少しくらい、妖舞くんや樹里愛ちゃんみたいな子供っぽさ?活気?があってもいいと思うんだけど」
「そうねぇ。まぁそれはそうと、霊魔くんの夜泣きの方はもう大丈夫なの?」
「まぁね。ほら、霊魔。エスカルゴのお母さんよ。ちゃんと挨拶なさい」
霊夢は自分の後ろに隠れる息子霊魔を、グイッと強制的に前面に出す。ちょっぴり恥ずかしがり屋な霊魔は、目を泳がせ、指を絡ませながら呟く。
「えっ……と…………はじめ……まして……」
「初めまして、霊魔くんっ!噂に違わぬ可愛さね!あなたのお父さんのお母さんの、神綺よ!こっちは従者の夢子ちゃん!よろしくね♪」
「よ、よよ、よろしくっ……」
グイグイと来る母さんに対して、霊魔はタジタジらしい。この恥ずかしがり屋なところは、一体誰に似たのやら。
霊夢は額に手を当てて溜め息をつく上に、霊愛も霊麗も苦笑いしている。
霊魔の顔を見に来た魔理沙や、魅魔に対しても、酷く消極的だった。子供だったらなんにでも興味を持つものだろうが、霊魔に限っては通例の逆らしく何に対してもビクビクとしていた。こうして見るとまるで霊愛の反対だ。
ただし、泣きはしない。ビビりではあるが泣き虫ではない。少し前の妖舞は泣き虫だったが、そこは腹違いの兄弟といえども似ていないようだ。
「さぁさぁ、お茶の準備は出来ているわよ。お入りなさい♪」
食堂には既にお菓子と紅茶が用意されていて、その中の一席で、可愛い妹のロリスが、魔導書を読んでいた。彼女の姿を視認すると、霊魔は再び霊夢の後ろに隠れてしまった。
「あっコラ!全く、この子ってば……」
「随分と恥ずかしがり屋さんなのねぇ」
「そーなのよ。霊愛達と人里にも行けないみたいだし、困ったものだわ」
「……性格は矯正しないわよ?」
「頼まないわよ。あくまでも、余計な弱点の排除だけを頼みに来たんだから」
「そう、それならいいけど」
俺に気付いたロリスは、閉じた本をテーブルに置くなり「お兄ちゃんっ!」と飛び付いてきた。霊魔はそんなロリスを見てビビり、ますます強く霊夢にしがみついた。
そんな中、霊愛と霊麗は、流石に霊夢の娘だけあり、もう席に着いていて、用意されたお菓子を遠慮無く食べているらしい。夢子が2人に紅茶を足したりなどしているのを見るに、あちらは既にまったりモードらしい。
俺と霊夢、霊魔も遅れて席に着いて、お菓子と紅茶を楽しむ。
「お兄ちゃん、今日は私があーんしてあげるっ♪お姉ちゃんは帰って来ないみたいだし!」
「霊愛達が居るから今日は普通に食べるよ。また今度な」
「しょうがないなぁ〜……」
「……お父さんさぁ、いい歳して子供っぽい妹に
『あーん♡』してもらってんの?引くわ〜……」
「俺の精神年齢も子供だからいいんですー、まだいい歳してませーん」
「子供おじさんじゃん」
「おじさんじゃねぇ!!」
「おじさんじゃん!トシ分かってんの!?」
「500代でロリなら30代なんて赤子だろーが!」
「でも人間的に見たらオッサンじゃん!くっさいオッサンだよ!」
「お姉ちゃん、その辺にしとこ?出先だし……」
「ハァ……。そーね、そーしとこ」
「霊麗……そういう意味じゃなくて、普通に霊愛止めて……?」
「えー……?でも、お父さんがそう言われるの、自業自得っていうか〜……ねぇ?」
「自業自得でしかないでしょ」
「ちょっとっ!お兄ちゃんを変な風に言うなんてムカつくんだけど!弾幕ごっこで勝負よっ!」
テーブルを叩いて、肩をいからせて立ち上がるロリス。衝撃で紅茶のカップが一瞬浮いて、陶器特有の甲高いガチャンという音が響く。
普段ならそんな事を言わないはずだが、普段と少し違うメンツであるおかげで、これまた普段と違う面を見せ始めているのかもしれない。
「いいよ、叩き潰してあげる。外行こ」
「次代の巫女って呼ばれるお姉ちゃんに勝てたら凄いよ〜、頑張ってね、妹アリス♪」
「なんか私、煽られた気がする!あなたも混ざりなさい!2対1で勝負よっ!」
「今のアリスじゃ勝率0
「お兄ちゃんっ!?」
「そう無闇にアリスが傷付く必要は無いだろう。アリスが傷付けば俺も傷付く」
「ん……それなら……我慢する」
「良い子だ。もうちょっと強くなったら、いつか互角に戦えるようになるさ」
「頑張る……」
少々頬を膨らませながら、チラチラ博麗姉妹を見るロリス。納得した素振りは見せつつ、やはり気に入らないものは気に入らないのだろう。
妹が戦う意思を引っ込めると、博麗姉妹もその戦意をすっかり消して、夢子に紅茶のおかわりをねだる。
母さんと霊夢は、お菓子を頬張りつつ楽しげに談笑しており、これまた、夢子におかわりなどを要求している。
ふと、息子の姿を探してみるが、パッと見では何処にいるか分からない。
すると、霊夢の後ろ辺りから、カチッカチッと何かがぶつかるような音が聞こえてきた。当然、それを不審に思ったらしい霊夢は振り向く。
そこには玩具で遊んでいる息子、霊魔が居た。
「あら……?霊魔くん、何してるの?」
「あっ……あのね、これねっ……けんだまって、おもちゃ……!」
テーブルの向こうから、身を乗り出して霊魔を見る母さん。すると霊魔は、相変わらず母さんと目は合わせないものの、けん玉を差し出すように見せる。
「まぁ!霊魔くん、けん玉できちゃうの!?凄いじゃない!」
母さんがそう霊魔を褒めると、パァッと明るい表情になり、真剣な顔でけん玉をやって見せる。まだ未熟であるため、3、4回ほど大皿と中皿に乗せると玉を落としてしまう。
「もしかめ、できた……!おとーさん、おれに、おしえてくれた……!きのう、6かいできた!」
「あららら……私3回もできないわ!凄いわね、霊魔くん!」
「うんっ……!」
「あ……霊魔ってば、まぁたけん玉持ってきてたのね。出掛けるんだから家に置いて来なさいって言ったのに……」
「おくの、や……なの」
「別に良いじゃない、霊夢ちゃん。何かを大事にするというのはとても良い事だわ。アリスちゃんだって、いつも本を持ち歩いてるしね。こっちのアリスちゃんもそうだわ」
「そっち2人はまだ理解できるけど……ふーん、やっぱりそのけん玉、大事なモノなのねぇ……。ちょっと、よく分からないわね……エスカルゴが適当に創造したモノじゃない」
「お父さんから貰った物というだけで、子供からすれば十分に大事にする理由になり得るわ」
「フーン……そうなのねぇ……」
霊魔にけん玉を与えた経緯は、生後一週間頃、夜泣きならぬ夜鳴きが収まった記念のような形で霊魔に玩具を与えようと画策したことに始まる。
赤子向けであろう簡易的な玩具を、次々に創造しては遊んで見せていたのだが、そのとき霊魔は紐のついた玩具にばかり興味を示したのだ。
まず最初はデンデン太鼓。センスが古すぎると霊夢、霊愛、そして霊麗からの評判は最悪だったものだが、霊魔は積み木やボールなどを放り投げデンデン太鼓で遊び始めた。
その時は、音の出る物が好きなんだろうという結論に落ち着いたのだが、それ以降、楽器の類を創造して見せても、彼の反応はイマイチだった。わざわざ外の世界で買った音の鳴る靴も、かなり鬱陶しかったのか、歩いて数歩で脱ぎ、その場で金切り声を上げながら靴を破り捨てた。
次に彼に与えたのは、特定の場所に特定の物を入れると収納できる玩具だ。四角の物なら四角の穴に、星型の物なら星型の穴に入れる……というとてもありふれたものだ。これに関しては、物を入れる度にカタンカタンと音がするので、暫くはこれで遊びまくっていたようだ。
数日後、それにも飽きた彼に与えたのは、音も出て嵌め込む系の玩具。つまりけん玉である。
当初霊魔はけん玉の紐を掴み、ブンブンと振り回していたのだが、そこから、霊魔が好きなのは紐のついた玩具なんだと気付いた。
それから彼に持ち方を教えると、僅か数時間でそれをマスターしたので、次に力加減を教えた。握る力ではなく振り回す力をだ。
数日後、知恵もついて少しならば会話も可能になった頃を見計らい、「振り回すのではなく玉を皿に乗せたり棒に刺す玩具である」事を教えた。
最初は、彼なりに衝撃を受けていたようだが、直ぐに技術の会得にシフトした。幼いながらも、納得するまで継続するという根性はあるらしい。そういう所には、姉達に似たものを感じられる。
そしてパンデモニウムを訪れる数日前に、遂に初歩的な技、もしかめを教えた。
小学生の頃にけん玉にハマっていたので、極々初歩的な事であれば教える事は可能なのである。
そうして、けん玉少年霊魔として、今に至る。
「カルちゃん、けん玉?なんてできたのねぇ」
「まぁね。最近は女遊びと弾幕ごっこばっかりで、そういう玩具で遊ぶ事は無くなったけど……。てか、母さん、けん玉知ってたのか」
「あー……まぁ、そこは、ね?霊魔くんの手前、言えないけど……」
「……成程。流石、話を合わせるの上手いな。まるで知ってるかのような反応だったよ」
「そう?ふふ、それなら良かったわ」
霊魔に教えているのは、現時点ではもしかめ*1とタコ焼き*2のみ。他は、もう少し基礎ができてから教えようと思う。例えば飛行機*3なんかは、けんを振り回すので、霊魔にはまだ早いと思う。
「────あ、そうだわ神綺、そろそろお願い。早くしないと忘れそうだし」
「それもそうね。霊魔くん、遊んでるとこ悪いのだけど、ちょっとこっちに来てくれる?」
「えぅ……でも…………」
「別に大丈夫よ霊魔。すぐ終わるから、言うこと聞きなさい」
「もう少し優しく言わないとダメよ霊夢ちゃん、霊魔くんが怖がっちゃうでしょう?」
などと言いながら、霊魔をヒョイと持ち上げる母さん。しかし不思議と持ち上げられている霊魔本人は抵抗しない。母さんの包容力にやられたのかもしれない。
まだ完全に打ち解けたわけではなさそうだが、もう懐いた感じはする。……というより、驚きのあまり動けなくなっている……のかもしれない。
「な、に、するの……?」
「霊魔くんをナデナデさせてほしいの。大丈夫よ、すぐに終わるから。ね?」
「ん、ん……すぐ……?」
「そう、すぐよ。いい?」
「う、うん……」
「良かった、ありがとう♪」
自らの足に霊魔を座らせ、慈しむような優しい瞳で霊魔を見、耳にかかる髪をかきあげてから、そっと頭を撫で始める。割れ物を扱うより遥かに優しく……トランプタワーの仕上げをするような慎重さを感じる。
「うん、もういいわ、ありがとうね霊魔くん」
「……?」
「……相変わらず、サラッととんでもないことをやってのけるわよね。体質改善なんてそう簡単に出来ちゃうものなの?」
「できるわ、私ならね。そう、私なら」
「ふーん……」
「カルちゃんも、お友達からのペンダントじゃなくちゃんと日光を克服したら?どうして拒むの?」
「……俺だけは、体質って意味では日光を克服しちゃダメなんだよ」
「……」
もしも俺が日光を克服してしまったら、蓬莱の薬しか不老不死になる方法が無くなってしまう。もし誰かが不老不死を望んだり、俺が誰かを不老不死にしてやりたくなったとしても絶対に不可能になる。
これは、吸血鬼の中でも再生に特化している且つ死への恐怖が無い、俺にしか使えない禁断の術だ。おいそれと失われていいものではない。
「ま、カルちゃんはともかくね、もしもまた子供が生まれたら私に任せなさい」
「……暫くはいいわ。お腹重いの、暫くは嫌だし」
「あら。ま、私も多分不死身みたいなものだし、いつでも頼ってね」
「ええ、その時はお願いするわ」
その答え方だと、いつかは再びガチの子作りをしてくれるという事ではなかろうか。そう思うと密かに股間が隆起してしまう俺であった。
幻想コソコソ噂話
霊魔の設定については割と昔から決まってました
霊麗登場の予定は無くて、霊愛と霊魔の博麗姉弟になるはずでした
しかしそうすると、霊愛のキャラ的に、霊愛が心を開く機会が無くなると思ったので、霊愛が常に腹を割って話せる相手として、同じ家で暮らす女の姉妹である霊麗が生まれました
霊麗は、ストーリーの為ではなくて、キャラの為に生まれたキャラです
(だから出番は霊愛とほぼ一緒にだし、霊麗単体のお話も無い)
上の八姉兄妹の中で、現時点で出番が少ない子達はキャラの為のキャラという認識で大体合ってます