モチベも上がりますね!
レミリアからの許可は得た。咲夜さんからも、一応認知はされた。あとは、他の主要メンバーに挨拶するだけだ。
館の中を移動中ふと天子を見ると、退屈そうにしているかと思ったが案外楽しそうにしている。ニコニコしている上に足取りも軽い。もし一人で居るなら、鼻歌でも歌い出しそうな程だ。
「どうした?エラく楽しそうじゃん」
「そう見える?ふふっ、新生活が楽しみなの♪」
「そっか。それなら良かったよ。部屋は、メイド妖精達の隣とかで良いのかな?特には指定されてなかったよな」
「んー、あとでレミリアに聞いてみるわ」
「お嬢様、だろ?」
「そうね、お嬢様ね」
まず向かうのは、厨房に居るであろう我が娘、弦月姫の所だ。天子との面識はあまり無いので、あまり悪い反応はしないはずである。
「────という事で、紅魔館で働く事になった比那名居天子だ。仲良くしてやってくれ」
「は、はぁ……天子さん、ですか…………はい、分かりました。よろしくお願いします」
「煮え切らないわね、何なの?」
「あ、いえ、何ていうか……天子さんはワガママという事で有名なので、ここの仕事に耐えかねてすぐ辞めちゃうのかなぁ〜、と……」
「失礼ね、見くびらないでくれる?こう見えても私、かなり我慢強いの。あなたよりビシバシ仕事こなして見せるわ!」
「副メイド長の私を侮らない事ですね。まだまだお母様には遠く及びませんが、あなたには負ける気がしませんよ?戦闘も、お仕事も」
「言うわねぇ、咲夜の娘!よし、私がメイド服を受け取って正式に働くことになったら、すぐ勝負してもらうからね!」
「ええ、どうぞいつでも。お仕事なんて、時間を止めてしまえばいつでもできますので」
ピリついた空気のまま弦月姫と別れた俺達は、次の紅魔館の住人の所へ向かう。
次に向かったのは門の外。美鈴の所だ。面識がある以上、彼女がどんな反応をするのかちょっと気になる。優しい美鈴の事だから、天子加入でも喜ぶかもしれないし、流石に引くかもしれない。
美鈴ならどちらの反応も有り得そうに思える。ただし、パチュリーとフランの2人に限っては、天子の加入を嫌がりそうだ。
パチュリーも天子と面識がある上に、フランは天子と俺の関係を疎んでいた。数年前の話だが、彼女の中の今の評価はどうなっていることやら。
「おや天子さん、お帰りですか?」
「ううん、違うわ。挨拶に来たの」
「挨拶……?」
「私、今日からここに住むわ。メイドとして働きながらね」
「?……っ!?え……えっ?す……すみません、ちょっと何言ってるか分からないんですが……」
「だーかーらー、ここで働くことになったのっ!メイドとしてね!今日はその話をしに来たのよ。レミリアからのOKも出たことだし、晴れて私もここの住人だわ!」
「ええっ!?それってホントですか!?よろしくお願いしますっ!!」
「え、ええ、よろしく……」
美鈴は天子の手を取り、上下にブンブン振っている。喜ぶのは想定の範囲内ではあるが、まさかここまで大喜びするとは。これは予想外すぎる。美鈴は、一体何を思ってこんなハイテンションな反応になっているのだろう。
「美鈴、めっちゃ喜ぶじゃん……そんなに天子と仲良しだったっけ?」
「まぁ、決して仲良しではありませんよね。でもエスカルゴさん、考えてもみてください!天人の肉体って、それはもう凄い頑丈じゃないですか!咲夜さんが言うには、ナイフも刺さらないとか。しかも天子さんはメイドとして働くんですよね!という事は、天子さんはいつでも私の修行相手になってくれるという事なのではっ!?」
「……えっ?」
当然ながら、天子は目をぱちくりさせている。しかしその意味がよく分かった俺は、苦笑いして溜め息をつく。「強くなりたい」と願っている、美鈴らしい発想だ。まるでドラゴンボールの悟空みたいな思考をしている。
「そういう事か。頑丈な天子なら幾らでもサンドバッグにできると……」
「ちょっと違いますけど大体そうです!いやぁ、私の修行が捗りますね!もっともっと強くなってみせますよ!」
「いやー、これ以上美鈴が強くなったらますます俺じゃ勝てなくなるな……」
「ふっふっふ、素晴らしいですね!」
「ちょっと待ってよ、勝手に私を修行相手として認定しないで!?」
「嫌だと言うならそれは仕方ないですが、私との手合わせも勤務時間にカウントされますよ?」
「なっ……!?」
「紅魔館を守るには、まず強く在らねば。修行は守りたいモノを守る為にも必要な事です。なので私は、修行も弾幕ごっこも、勤務時間にカウントされています。相手が紅魔館の住人である場合、その方も勤務時間判定ですね。咲夜さんからも、何のお咎めも無いですよ」
館を破壊しなければと付け加えない事に、少し他意を感じてしまう。美鈴ならわざとという事はないだろうが、少し前にそれでやらかしてかなり叱られたというのに、それを言わないとは……。
天子なら、美鈴より紅魔館や紅魔館の塀などを破壊しそうなのだが。
「な、なるほど……?仕事の為に必要な事なら、勤務時間として扱われる、か……。少しはココのやり方も見えてきたわ」
「そういう事です。お掃除や洗濯をするよりも、ただ私と戦うだけで勤務時間として見なされる!これってもしかして天子さんにとって美味しい話なのでは!?……天子さんだって家事ばかりでは飽き飽きしてしまうでしょう?」
「うーん……まぁ、考えておくわ」
「はーいっ!良いお返事、期待しております!」
まるで部活やサークルの勧誘に見える。普段と違ってハイテンションな美鈴が見れて、何となく面白かったのもあるが……確かに、俺が紅魔館に来ない日なら美鈴の相手をできるのは咲夜さんか弦月姫くらいだろう。だから、天子を相手として勧誘したくなってしまうのも分かる気がする。
そういえばつい先程、レミリアは天子について
「戦闘要員として確保しておくのもアリかしら」とも言っていた。とすると、天子が美鈴の修行に付き合う事は、天子の強化にも繋がるだろう。案外Win-Winかもしれない。
常に美鈴の相手をしていたとしても、レミリアからの評価も悪くはならなさそうだ。
そして次にフランの所へ向かう。彼女は地下の自室でのんびりしていたが、俺が来たとわかるとすぐに飛び出してきてくれた。
「どしたのエスカルゴー?……なんで、ソイツもそこに居るの?」
天子の姿を認めるなり、誰が見てもわかるほど露骨に嫌な顔をした。声色も、低く、暗いものになっている。少し、雲行きが怪しくなってきた。もしもの時は俺が何とかしなければ。
「ちょっと、話があってな。天子、挨拶」
「紅魔館で働くことになった比那名居天子よっ!よろしく!」
「へ……?」
「天子は敬語の練習もした方がいいな。せめて、レミリアとフラン、パチュリー相手には敬語とか使った方が良いと思うが」
「んー……挨拶だからまだ大丈夫だと思うけど。でもまあ……そうねぇ……」
「というわけだ。これから天子はここ、紅魔館で働くことになった。住人の一人としてよろしく。弾幕ごっこでも何でもしていいから」
「あなたにしては酷くつまらない冗談ね……?」
「本当だよ。レミリアからの許可は得てる。多分メイド服を支給されたら本格的に働き始める事になるだろう。今は挨拶してまわってるんだ。館の案内も兼ねてな」
「えー……」
「俺が斡旋したんじゃない、天子の方からここに来たがったんだ。そこは分かってほしい」
「ん……分かった。じゃ、天子」
「!」
「掃除とか仕事任されるかもだけど、私の部屋に入ったら殺すから。余計な事をしない間は仲良くしましょう?」
「う……うん……」
「返事は?」
「はっ、はいっ……!」
脅しではなさそうだ。「殺す」と言ったときに溢れさせた妖気、凄み……本物だ。フランはMな天子を気持ち悪がっていた節があるので、あまり不自然な反応でもない。
それでも、天子が声を震わせるレベルの凄みがあるとは、流石はフラン。侮れない。
次に向かうのは大図書館だ。パチュリーは一体どんな反応をするのだろうか。やはりそこは少し気になるところではある。しかし、その道中……フランの部屋から離れると、天子は力無く廊下に座り込んだ。
「お、おいおい、どうした?」
「怖かったぁ……」
「あの子は無害だから大丈夫だよ。余計な事さえしなければね。俺が知る限りフランに地雷とかは無いし、気軽に接して大丈夫だろ。あとはさっき言ってたように、部屋に入んなきゃ良いじゃん?大丈夫大丈夫」
足が震えているが、手を差し出してやるとすぐその手を取り、ゆっくり立ち上がる。スカートを手で払い、床の埃を床に戻す。流石にここまではあまり掃除の手が回っていないらしい。
「正直、姉より妹の方が怖かったわ……」
「ははっ!それな!わかる、確かにレミリアよりフランの方が怖いかもな。……だけど、あの子は脅しが上手いだけなんだよ。メイド妖精達からもビビられてるみたいだけど、それじゃあダメだ。堂々としてりゃあ、いつかは普通に話せるようになるだろうよ」
「ご主人様はイイわよねー、幻想郷に来た時から可愛がられてたんだし」
「付き合い始める前は小動物扱いだったけどな。まぁ、相手がフランだから許せたけど」
「ご主人様もご主人様で私みたいにドMだったりするんじゃない?」
「なわけねーだろ。多分。……ねぇ、よな?」
「いや私に聞き返されても……」
やがて、大図書館に到着する。彼女曰く何年も前に図書館に来たことがあるようで、懐かしさを覚えているようだ。
「ここ本当に凄いわよねー……広いし、蔵書数もとんでもない……。ここまでの数は、ここでしか見た試しがないわ」
「やっぱここは、トップレベルなんだろうなぁ」
「多分そうね」
そんな会話をしながら歩いていると、本棚の陰から赤髪でサイドテールの少女が、辞書のように分厚い本を数冊重ねて抱えながらひょっこり顔を出した。
「……およよ?お父様と……そちらは?」
「お、シガレットか。こっちは比那名居天子だ。紅魔館で働くことになった。仲良くしてくれ」
「そうなんですね!私はシガレットといいます!姉のここあと一緒に、主に、パチュリー様の身辺整理をさせて頂いてます!よろしくですっ!」
「よろしく。……ここあ、シガレット……」
「あーっ!お菓子みたいだって思いましたね!?その通りなんですけどね!」
「あぁ……合ってるのね」
「お母様、ココアシガレットがお好きらしくて。まぁ、たとえお菓子由来でも、私達もこの名前が気に入ってるので大丈夫ですけどね♪」
「そ、そう……」
「パチュリー様に挨拶に来たんですね?でしたら今は丁度いいですね、ティータイム中なので!」
「そう、わかったわ。ありがと」
「いえいえっ!……お父様ぁ、久しぶりに私とも遊びましょうよぉ♡」
「あ、あー……今は天子の案内があるから、また今度な……」
「ぶーぶー……わかりました〜……」
シガレットと別れ、パチュリーの元へ向かう。すると天子は、眉を
「あの子は……魔力体?一応悪魔……よね。でも純粋な魔力の塊……って感じがしたけれど……」
「知ってるんだ」
「存在くらいはね。この目で見たのは初めてよ。前に来た時は居なかった……というか、あの子もご主人様の子?それにしては、魔力の気配が全く異なるような……」
「やっぱりそういう所まで分かるんだな。俺の子とは言っても、あくまで家系図上の話でさ。俺が小悪魔に射精して、小悪魔がそこから魔力を抽出して、分身みたいな感じで生み出したんだ」
「なるほど、そういう意味での『子供』なのね。じゃあ直接的な血の繋がりは無いわけね」
「そうだな。まぁそれでも俺の子には変わりないから、俺は13姉妹の中に加えてるんだ」
「そうなのねぇ……」
13姉妹+2兄弟……何というか、世界でも類を見ないアンバランスさだ。もう少しくらい男女比のバランスが良くても良いような気がする。
「ちなみに、ツインテールの子が姉のここあで、さっきのサイドテールの子が妹のシガレットだ。髪を縛ってる数的に1本の方が姉だと思われがちなんだけど、その逆だから気を付けて。髪以外の見た目も声も、基本的に全く同じにしてるから。小悪魔より少女っぽさがあるってだけでな」
「確かに分かりにくいわね。でももう覚えたわ、大丈夫」
「へぇ、意外に物覚え早いのな」
「意外……?全然意外じゃないわ。私、これでもご主人様の
「ホントか?長いことヤッてないじゃあないか。舐め方とか、もう忘れてんじゃあねぇの?」
「ふふん、ちゃんと覚えてるもん♪」
「へ〜、じゃあ弦月姫とバトったらヤろうか?」
「うんっ♪」
そんなこんなでパチュリーの元へ到着。初め、天子の姿を視界に入れたパチュリーは酷くギョッとしたようで、これでもかと警戒心を込めた目で話しかけてきた。
「……何の用?エスカルゴ、どうしてその天人を連れてくるの?」
「逆だよ。俺が連れてきたんじゃなくて、天子が俺を連れてきたんだ」
「はぁ……?」
「久しぶり。私、ここで働く事になったから!」
「…………は?ねぇエスカルゴ……コイツは一体何を言っているの?」
「言葉のまんまだよ。大丈夫、余計な事はしないように咲夜さんとかが指導するだろうから」
「そうじゃなくて、なんでこの天人がここで働くことになったのかって話よ」
「親子の縁を切られて、行き場を完全に失った。だからだよ」
「何をどうしたら縁を切られるの……」
「今回は、これまでと違って何もしていないの。本当よ。だから真剣に考えた結果として、ここで働く事にしたの」
「そう……それなら、できるだけ図書館の近くに来ないでほしいわ。あなたが少しでも力を奮うと本棚が倒れてしまいそうで怖いからね。だから、私が呼んだとき以外は来ないで」
「わかったわ。……私を呼ぶことなんて殆ど無いでしょうけど」
「あるわよ?新しい魔法の実験台とかね」
「あんたも私を実験台にするのね!?」
「『も』?……他に誰が……咲夜、いやレミィか美鈴ね?」
「大当たり、美鈴よ」
「最近の美鈴は以前にも増して向上心に溢れてるからね。まぁ、美鈴の相手をしても死にはしないでしょうから、気楽にするといいわ。ついでに、私の相手もしてくれると有難いのだけど」
「勤務時間としてカウントされる?」
「されるんじゃないの?美鈴や咲夜にもたまには相手してもらってたし……」
「じゃあ、死なない程度なら私も相手するわ!」
「そ、ありがと。……あと私は構わないけれど、レミィやフランには口の利き方気を付けなさい」
「あ……はーい……」
なんと、意外なことに、パチュリーにも比較的簡単に受け入れてもらえた。理由が理由だけに、天子には体を張ってもらう必要があるだろうが、頑丈な天子のことだ。きっと大丈夫だろう。
そしてこの後、メイド妖精達には自分で挨拶をしてもらい、なんとか紅魔館の住人全員に勤労や居住を認めてもらえたようだ。
奥の手を使う必要が無く、俺としてはちょっと安心できた気分だ。あとは、近々デキるであろう天子のメイド服が楽しみである。
◆次回!メイド天子、爆誕────!