「パチュリー、今日も魔法教えて」
「それなんだけど……そろそろ実践に移っても良いと思うの。スペル化させてある魔法の改良は、先日で済んだんでしょ?」
「うん。でも……実践って一体……?」
「弾幕ごっこで、たった1発でいいから、私に弾を当ててみなさい。……というのはどう?面倒だから、こういうシンプルなルールでイイわね?」
「そんな────」
「『──甘すぎるのでイイの?』とか言いたいのはわかるわ。でもまずはやってみることね。私に被弾させるのは、あなたの想像以上に難しいわよ」
幾らなんでも1発は甘い。油断はしないが全力で対抗しようと思う。そしてこの戦いにおいて彼女が提示した縛りは「魔法、魔力のみを使って戦う」の1つである。
魔法で彼女に勝つのは無理だが、被弾させるなら俺にも可能性くらいはある。……あると思いたい。
「……OK、それでやろう。にしても何で急に?」
「そりゃあ、あなた……。あなたには、私の配偶者に相応しい男になってもらわなきゃ困るからでしょ。だから今日からは厳しめにいくわよ」
「配偶者?」
「何か?」
「あー……いや」
「なら準備なさい。あと、机も端に寄せておいて」
「はーい」
まだ結婚もしていないのに急に「配偶者」ときたものだ。もしや、俺との将来を見据えての発言なのだろうか?だとしたら、嬉しい。結婚確定みたいなものではないか。
今すぐにでも抱きつきたくなってくるが、彼女の顔が既に戦闘モードなので、流石に遠慮しておく。それくらいは俺にだって読み取れる。
「ちなみにご褒美は?」
「そんなモン無いわ。ばかなの?私の読書の時間を割いてあなたに指導してるのよ?」
「そっか……まぁそうだよな。いつもありがとう」
「……キスとかでいいでしょ?……ご褒美」
「よしきた」
「それじゃあ……始めっ。胸を借りるつもりで本気で掛かってきなさい!」
「了解っ!」
彼女の合図と共に魔力弾を発射。純粋な魔力だと俺は一体パチュリーの何百、何千……いや何万分の1なのかもわからない。そもそもの話になるが、俺は魔力量からして少ないのだから、俺には余程工夫が必要だろう。
そしてふと思ったが、俺は、戦闘用の魔法なんてあまり考えてこなかった。その多くは日常でも使う便利な魔法であったり、回復系、魔力を奪う用途のモノだったりする。
過去には、俺の攻撃魔法に獄雷系列があったが、今は地獄の力というカテゴリーに属すると思うので攻撃魔法という判定ではないはず。
奴隷系のスペルを使い隙を作り、たまに光線類で攻めるしか、俺に勝機は無さそうだ。
《袿姫、頼む》
《分かったわ!年末特有の大量放出でいくわよ!》
《うん、まぁ……程々にね》
「巨人『速度特化兵器・
普段なら速度で翻弄しながらその強靭な爪と顎で攻め立てるようにけしかけるが、今は違う。速度で翻弄するのは同じだが、あちこち跳ね回りながら、大小様々な弾幕にてパチュリーを攻めさせている。
因みに、今回の顎の巨人のサイズは2.5mほどだ。室内なので極めて小さめに肉体を創造してやった。そうする事で魔力の消費を抑えられるという利点もある。
「成程。あなたの創造魔法で肉体を、埴安神の力で擬似的な魂を……いや、魂魄の魄を込められたわね。だから自動で行動してるんだわ……。面白い……」
「感心するにゃまだ早い。俺の巨人奴隷は、なにもその一体だけっていうワケじゃあないからなっ!!巨人『統括兵器・始祖』!」
3m程の、頭部が骸骨になっている巨人を創造。今度もまた、袿姫によって行動が可能になったが、始祖の巨人は動かない。始祖には魔力を少し多めに分け与えたこともあって、巨人関係であれば自在に創造、操作が可能だ。
数秒後、始祖は顎の巨人を一体生み出した。更に指示を送り、先に俺が創造した顎と組み合わせて、連携攻撃を仕掛けるようになった。
(ッッ……変則的な攻撃……これは読みづらいわね。始祖は何をしてるの?……魔力を練り上げて……もう次が来そうね、警戒した方が良さそう)
俺が魔力弾の密度を増やすと共に、始祖は戦鎚を生み出した。しかも本家とは違い本体という概念が存在しないので、本家を超える強さを持つだろう。
そこで始祖も動き出し、顎二体による大小様々な弾幕、戦鎚の創造の能力による矢や飛ぶ斬撃などの攻撃に加えて、同心円状に広がるという、シンプルながらも的確な弾幕を加える。
軈て相殺ばかりしていたパチュリーが動き出す。
「月符『サイレントセレナ』」
「相変わらずスゲェ魔力だな……真似できねぇ」
足元に広がる彼女の魔法陣を見て、魔力の密度を感じ取った。手加減はしてくれているようだが……、それでもかなりの“圧”を感じる。
「────目を瞑ってても勝てるわね」
「ッ!!」
次の瞬間、俺や巨人達の足元から太い光線が噴出した。それはうなじ辺りを上手く捉えていて、折角創造した巨人が無力化させられてしまった。
本家と違って、俺が気絶するか合図を送らないと消えない仕組みにはしているが、わざわざ消すのは惜しい。ここは、魔力を回収するしか無さそうだ。ギリギリで回避はできたが、こんな緊張、長時間は味わっていたくない。
「ギリギリじゃいつかは被弾するわよ」
「もち、ろんっ……わかってるさっ!」
「あら、そう。じゃあ、これはどう捌く?」
カッと輝く魔法陣。攻撃が来る、と肌で感じた。なのに、全体が発光しているせいでどこからくるか読ませてくれない。
サイレントセレナの範囲から出たいが、気付けば魔法陣は先程よりも広がっていた。巨人を気にしたあの瞬間を狙ったのだろう。してやられた。
そして、一呼吸置いてからとうとう攻撃が来た。円で俺を囲むようなかたちで、魔力の奔流が噴水のように噴き出して俺の行動を阻害する。半径1mも無い空間はとても狭く感じられた。
「囲まれた……」
「ゴリ押しされなければ、あなたでさえこんなにも簡単に捕らえられるのよ。捕らえてから範囲を絞る必要は無い。必要なのは撹乱、そして偽装……」
「シンプルに厄介だな。まぁ、失った魔力の補給といきますか。魔術『
被弾したり、触れた魔力を奪う魔法を纏う。あの大会の時にへカーティアの魔力も奪えたのだから、パチュリーの魔力も奪えるはず。
そう意気込んでサイレントセレナの壁に触れた俺だったが、数秒で魔力は満タンになって、オーバーフローを起こしてしまった。俺は吐血し、その場に膝をつく。あの魔法もすぐに解除した。
そうしなければヤバいような、嫌な予感がした。追撃が来れば強制的に吸収し、更に苦しむような、そんな気がした。
「ガフッ……!うあ゙ぁ……なんで……」
「おばかさん。あなたのキャパシティで、この私の魔力を吸い取ろうと触れれば……どうなるかくらい、予想はつくはずだけど?」
「ま、まさか、ここまでヤバい、とは……。アハハ、自然回復した分の数倍はあるよ、これ?手が震えてヤバい……ヤ、ヤバ……足にも力入んねぇ……!?」
「早く放出なさい。爆発して死ぬわよ?」
「わ、わかった……!魔符『
「魔術『
「うわっ……」
サイレントセレナの壁を突き破り、回復した分の魔力を全て絞り出す勢いでスパークをぶち込むが、パチュリーは俺のスペルを強化した状態で模倣し、俺は自分の攻撃に貫かれ、自滅してしまった。
◆
「……復活したわね?どうやら、私の勝ちみたいね。ご褒美は無し。あと、机も元に戻しておいてね」
「ちぇっ……そういや〜パクられてるんだったな……やられたぜ」
「私も魔理沙に技を盗まれたから、たまには私にも盗ませてね。……よいしょっ……ふぅ……」
机などの整理はやはり俺に任せて、パチュリーは椅子に座り魔導書を読み始めた。そこは、特に何も言うことは無いが……やはり、本を読むパチュリーは絵になるなと思う。
「じゃあマスパ盗めばいいのに。汎用性も高いし、色々と応用が効くし」
「それも悪くは無いわね。十八番を盗まれ、しかも強化されて使用されたら……あの子、一体どんな顔をするのかしらね」
「絶望しか無さそう」
「ふふっ……♪」
クスクス笑うパチュリーは、どこかダークにも、可愛らしい少女にも見える。どちらにせよ可愛い。是非、マスパで魔理沙を倒してほしい。
「……そうだわ。ちょっと聞いておきたいんだけど、どうしてさっき、私の魔力を奪おうとしたの?」
「へカーティアの魔力も吸い取れたからさ……今回もイケるんじゃないかなって思ったんだ。でも……」
ポスッと彼女の隣に腰を下ろすと、読書をやめて横から俺の顔を見つめてくる。恥ずかしいがあまり気にしないよう努めなければ。そうしないと息子が反応してしまう。
「へカーティアの魔力?それは……凄いわね。手加減されていたとしても神の魔力は相当なもののはず。ましてや、へカーティアほどの神なら特にそうね。私だったら絶対に手を出さない代物よ」
「でも、アレで完封できたんだよ、へカーティアの魔法は。全部吸い取れた。しかもスペルも術式も、当時より強化してある。いや、矯正して強化した。無駄も省いた。それなのに何で……」
「決まってるでしょ。その時のへカーティアより、今の私の方が強気だったってことよ」
「パチュリー先生、強すぎですよぉ」
「まだまだ私の
そう言って、パチュリーは頬にキスをしてきた。俺にはある意味、ご褒美以上のご褒美に思えた。
今回の「〇〇が可愛すぎて辛い病」はパチェです。
この発作はしばらく続きます。お付き合い下さい。