「あら、美鈴……起きてたのね」
「おやパチュリー様。どうしたんです?門まで来るなんて珍しいですねぇ」
「出掛けるから。あなたこそ、よく起きてるわね」
「私はここ最近、ずっと起きていますからねっ!」
ある日、某所へ出掛けようとしたパチュリーは、バカ正直に門から出掛けようとした事を後悔した。ここ数年の美鈴はしっかりと起きて仕事を全うしているのだが、その事をすっかり忘れていたからだ。
しかも美鈴はそれなりにお喋り好きであり、色々詮索される可能性がある事も、瞬時に思い付いた。とはいえ、レミリアや賢者達のような察しの良さを見せる事は無いので、少しなら話しても大丈夫、と結論付けた。
「それにしても、お出掛けですか……?珍しいこともあったものですねぇ。……ちなみにですけど、何処にお出掛けするかお聞きしても?」
「永遠亭」
「……!おめでとうございますっ!」
「は?」
「妊娠したか検査しに行くんですよねっ!?」
「妊娠
「ほほぉ〜♡ まぁ〜、お相手があのエスカルゴさんですからねぇ〜!パチュリー様の望み通りの結果が出ることを祈ってます♪」
「それは有難いわね、仕事に戻りなさい」
「は〜いっ!……あっ、お帰りになったら惚気話とか聞かせてくださいよ〜♡」
「誰が話すかっ!」
「あはははっ、イイじゃないですか〜♪」
しつこく惚気話を要求する美鈴から離れる為に、もう彼女の事は無視して飛び立った。
あれらの発言から分かる通り、美鈴はハーレムに大賛成派だ。故に他者が彼と付き合う事になったら惚気話をその人に求める事がある。それを聞けば、美鈴は次に彼と話すネタにもするし、プレイ中にはそれを利用して言葉責めをする事もままある。
やがて永遠亭に到着し、診療所側から中に入る。鈴仙は物珍しそうな顔をしたが、すぐにその理由を察したように丁寧に対応する。
「次の方ー」
「……久しぶり」
「あらあら、紅魔館の魔女がこんな所まで……。一体どういう風の吹き回し?まさか本当に……」
「鈴仙から聞いたと思うけど……彼女が言った通り。妊娠検査と、その他諸々の依頼と相談があって……」
「うーん……その依頼というのはアレね?私の専門のヤツよね?」
「ええ」
「その相談も?」
「そっちは……鈴仙とかが適任かも」
「ふむ。ならウドンゲに任せましょう。でもまずは検査からしましょ。受付でウドンゲから検尿カップ受け取って、患者用トイレで済ませたら渡してね。太い綿棒が入ってるキットも渡されると思うから、それで膣の粘液も少し採取してくれると助かるわ。それが終わったらウドンゲに渡して、あとは彼女の案内に従って頂戴」
「分かったわ」
数分後、検査結果を鈴仙から聞かされて、それを踏まえた話を永琳から聞く為に、部屋の前の椅子で待たされていた。するとそんなパチュリーの元に、手持ち無沙汰になったらしい鈴仙がやってきた。
「……大丈夫?」
「何が?」
「ほら……陰性って聞いて安心してたから、さ……。もしかして無理矢理だったのかなって思って……」
「……ううん、
「そう……?ちなみに相手は誰なの?」
「あいつ以外に居ると思う?」
「……ふふっ、それもそうね」
合意ではなかったような気もしていたパチュリーだったが、彼を離すまいと両足で捕まえていたのもまた事実。この身体が、メスとしての本能が、彼を求めていたのだと彼女は考えていた。
だからこそ、合意だったと公言したのである。
「それで、私に相談って?」
「聞いてたの?」
「ええ。波長を操れば遠くからでも聞けるからね。予め聞いておけばスムーズにコトが進められるし」
「要領がいいのね」
「えへへっ……♪」
己の能力を上手く仕事に活かしているのを知り、素直に感心するパチュリー。要領が良く、面倒見も良いという鈴仙の新たな一面を見て、彼がベッタリ懐くのも納得だった。
「……その……ちょっと、言い難い事なんだけどね……エスカルゴが好きなプレイって、わかる……?教えてもらうことってできない……?」
「えー……うーん、エスカルゴが好きなプレイ、か。やっぱり騎乗位が好きみたいよ?あと対面座位ね」
「いや、あの……体位じゃなくてプレイね」
「と、言わてもねぇ〜……。そう言えば私達、普通のプレイしかシテないような……?私より、小悪魔にはもう聞いたの?」
「聞いたけど参考にならないわよ……私とはレベルが違いすぎてね。幅が広すぎるというか……頭がパンクしちゃいそうよ」
「知識人のあなたでもそうなるのね……。あっ、姫様だったら何か知ってるかも」
「輝夜?……え、なんで?」
「エスカルゴから聞いてない?姫様、エスカルゴとセックスフレンドってヤツらしいわよ?」
「え……待って?輝夜って、竹取物語のあのかぐや姫なのよね?」
「そうよ?」
「その輝夜がエスカルゴと?……凄い、本当に凄い事じゃないの……それこそ歴史的な……!」
「そんなに言うほど……?姫様に聞いてみたいなら、話通しておこうか?」
「是非お願いしたいわ!」
「オッケー任せて!診察、依頼とかが終わったら、一旦診療所から出て向こうから入ってきてくれる?姫様の所まで案内してもらうよう手配しとくから」
「助かるわ!」
「それじゃ、早速言ってくるわね。フフッ、妊娠に気を付けて良いセックスライフを〜♡」
「も、もうっ!何言ってんのっ!」
「アハハハハッ♪」
「……全くもう……」
自分の彼氏が他の女性達と性行為に及んでいると知ったら、普通は彼やその相手、またはその両方に怒りが湧いてくるもの。それなのに鈴仙は真面目に答えを考えてくれたし、自分が思い付かなければ、他の者に助けを求めるなどして、寧ろ推奨している節すら見受けられた。
そんな鈴仙を見て、パチュリーは、鈴仙も鈴仙で変わってるなぁ、などと考えた。
「パチュリー、入って来ていいわよ」
「……失礼します」
「ウドンゲ……は、居ないか。まぁいいわ。えっと、妊娠検査は陰性ね。良かったわね……と言って良いのかしら?」
「まあね」
「そう。粘液採取の協力もありがとう。お相手は……言わなくても分かったわ。調べた覚えのある精子が僅かに残ってたから。もうちょっとよく洗ってね」
「……はい……」
「まぁ……うん…………合意、だった?大丈夫?レイプだったら正直に言って頂戴ね。私からキツいお灸を据えておくから」
「ちゃんと合意だから大丈夫。ただ……妊娠するのはまだ早いかなって思ったから、検査しただけなの。もし孕んでたら、それはそれで受け入れたしね」
「あら……。それじゃ、紅魔館の主な住人は全員……彼に堕とされたってワケね」
「ええ。私が最後の砦だったみたい」
「まさかあなたまで堕ちるとは思わなかったわね。それで、依頼というのは?」
「あ」
パチュリーは、永琳にそう言われるまですっかり依頼の事を忘れていた。輝夜にプレイの話を聞く事ばかりを考えていたからだ。
一旦、向こうの話を早く聞きたいがために今回は依頼を取り消そうと思ったが、これも必要な事だと直感し、やはり依頼することに決めた。
「……コンドームをね……幾つか、融通して貰えないかしら……?99%生と同じに感じられるヤツ……」
「キツいわねぇ。9割ならともかく99%は少しね……なんていうか、難しいとしか言えないわ」
「……そう……」
「考えてもみなさい。避妊具は、言わば陰茎と膣の間に張られるバリアよ?『バリア越しに、バリアの向こう側と遜色無い感触を感じさせて』はねェ……。やれるだけやってみるけど、そこまで過度な期待はしないで。やっぱり快感を得たいならナマが一番。これは仕方の無いことなのよ」
「そうよね……」
「でも避妊はしたいわよね。そういう時はコレよ。じゃん!八意印の避妊薬!事前に飲むのもあるし、事後に飲むのもある!今ならお安くしとくわよ♪」
ウインクしながら、永琳が白衣の胸ポケットから取り出したのは二つの小瓶。それぞれ事前と事後の錠剤なのだろう。赤と青のカプセルなのは、彼女のカラーリングを模倣していると見える。
「露骨に商売しにきたかー……」
「今以上に感じられるコンドームを開発するにも、開発費が掛かるからねぇ」
「まぁね、納得はできるけれど。……え?今以上?」
「?」
「コンドーム自体はもう開発済みなの?」
「ええ。在庫はその都度エスカルゴに渡してるの。1000個くらい渡した筈だけど、数ヶ月前の話だからもう使い切ってるでしょうね」
「あのエスカルゴが誰に使うのかしら」
「主に、天人と付き人的なあの人ね。エスカルゴ、何故かあの2人には本気で避妊したがってるのよ。そう言ってたわ」
「へー……」
「あぁでも……あっちの2人にはピルだったかしら。じゃあ誰に使ってるのかしらね。まぁ、考えるだけ無駄というものね、彼の相手なんて多すぎて私でも検討もつかないし」
「それもそうね」
そういえば、とパチュリーはある事を思い出す。稀に、紅魔館の各部屋にあるゴミ箱の中に、やけに膨れてパリパリ固まっていそうな妙なティッシュを見掛ける事を。
まさかあの中に使用済みゴムが入ってるのか、と直感的に感じた。
「────コンドームの件は了解したわ。この薬はどうする?」
「薬は買わせてもらうわ、両方。それからもう2つ依頼したい事があるんだけど、いい?」
「OK、OK。何かしら?ドンドン言って頂戴」
「まず1つ。……母乳が出るようになる薬……って……作ってもらえる?」
パチュリーは、自分の顔が赤くなっていくのが、自分でもよくわかっていた。顔は熱くなってるし、こめかみの血管がピクピクしている気さえする。
それでも彼女は恥を忍んで言った。彼の喜ぶ顔を見たいがために。
「……成程。もうあるわ」
「あるのかぁ……。買うわ」
「あなたって、私が思ってたより献身的なのねぇ。それ、彼の望みというか……好みなんでしょ?」
「献身なんかじゃないわ。これは気まぐれ……そう、ただの気まぐれなの」
「そうなの?……それで、もう1つは?」
「……自白剤……みたいなのをお願いできる?」
「自白剤ですって?穏やかじゃないわね……まぁ依頼されたら作るけど。…………形式的にだけれど、一応聞いておこうかしら。誰に使うの?」
「私」
「……ふむ。え?」
「聞こえなかった?『私』と言ったのよ」
「えっと……それは一体、どういう意図で……?」
「そこまで言わなくても良いんじゃない?それともそこまで言わないと受けてもらえないかしら」
「そう、ね……別にそんな事は無いわ」
「正直ね。嘘でも『正直に明かさないとダメ』とか言える立場でしょ、あなた」
「まぁね。でも、おかげでちょっとだけ察せたわ。あなたらしい理由だと思う」
「……ッ!」
「そういう類の薬も作ってあるわ。私天才だから」
「実際そうだから何とも言えないわね……」
「フフ……。でも、あなたの目論見通りの効能を得るには少し弱い方がいいかもね」
「いつ頃に完成する?」
「数分、部屋の前で待ってなさい。自白剤を作った経験はある。少しレシピを変えればいいだけだし、すぐに済むから。終わったらまた呼ぶわね」
「わかった」
数分後、永琳に呼ばれたパチュリーは再び入室。永琳曰く、自白剤は完成したとの事だった。そこで幾つか諸注意を受け、使い方の指導等をされた。
「お買い上げありがとうございます〜。お会計は、受付でウドンゲにやってもらってね。薬も向こうで受け取ってね、さっき見せた避妊薬も見本だから。はい、これ処方箋ね」
「ありがとう。注文が多くて悪かったわね」
「これくらいの注文なら別になんて事ないわ。何かあったらまた言ってね」
「そうさせてもらうわ」
そしてパチュリーは会計へ向かう。鈴仙は、先程言っていた通り永遠亭側に話を通したらしく、丁度小走りで帰ってきたところだった。
「案外早かったわね!」
「ええ。あと……この薬、お願い」
「処方箋?……あ〜、ハイハイ。エスカルゴってば、またおっぱいが恋しくなったのかしら……」
「また?」
「ほら……私、この前まで次女におっぱい飲ませてたからさ。エスカルゴ、飲みたがるのよね〜……母乳。まだ出る期間だからさ」
「美味しいのかしら?」
「飲ませてもらったことならあるけど、美味しくは感じなかったなー。多分、授乳されるのが好き……?なのかなぁ?」
「……授乳プレイ……」
「それだわ!」
「そういえば小悪魔、授乳プレイについてもなにか言ってたわ……。先駆者がいたとは……」
「うーん、小悪魔は強すぎるから仕方ないわ」
「ふふ……それもそうね。じゃ、薬持ってくるね」
鈴仙は作りたての自白剤、母乳が出るようになる薬、事前・事後に飲む避妊薬を持ってきて、まるで流れ作業のように手早く会計した。ゴムは開発でき次第連絡するとのことだった。
「ありがとう鈴仙。輝夜に話、聞いてくるわ」
「うん、いってらっしゃ〜い!」
鈴仙に軽く手を振って診療所を出て、少々小走り気味に診療所側ではない方へと向かう。戸をノックすると、数秒の間を置いて誰かが戸を開けた。
「……」
「あ。……あなた、確か……」
「稀神サグメです」
「そうそう、元月の賢者の……。鈴仙が言ってた案内してくれる人ってあなた?」
パチュリーの問いに、深く頷いて答えたサグメ。どうして、よりにもよってろくに話せないサグメに案内を頼んだのか、とパチュリーは思わず苦笑いをしてしまった。しかし運命に作用しないことならば話せることは聞いて知っているので、きっと大丈夫なのだろう。
「扉を閉めて……私についてきて」
「わかったわ」
永遠亭の廊下は、パチュリーにとって無駄に長く感じられた。別に兎一羽一羽に部屋があるわけでも無いだろうに、客人用にしても無駄に部屋ばかりが沢山ある。紅魔館と似てはいるが、あちらとは全く違うな、と肌で感じていた。
「……失礼します。姫様、お客人です」
「ありがとうサグメ。あなたも参加する?」
「いえ。……では、私はこれで」
パチュリーを残して、サグメは下がる。小さめの深呼吸を何度かしてから、意を決して輝夜の部屋に足を踏み入れる。床とは違って微妙に沈み込む畳の感触が、彼女にはどこか新鮮に思えた────。