「痛っ……」
「どした巫月」
ある日の夜、炬燵で暖を取りながら蜜柑を食べていると、唐突に巫月が奥歯の辺りを手で押さえる。奥歯の辺りという時点でもう嫌な予感しかしない。俺も子供の頃に経験したから────。
「ん……なんか、奥歯がズキッて……」
「あん?オイ、それ虫歯じゃねぇのか?永琳先生、巫月の歯ァ診てくれませんか」
「残業代」
「言い値で」
すぐさま席を立って治療室へ向かう永琳。それを追おうと、俺は巫月の手を引いて移動しようとしたのだが、意外にも巫月はそんな俺の手を振り払い、今にも泣きそうな顔で俺を見る。
「やだよエスカルゴ!虫歯治療ヤダ!」
「何言ってんだ、バカ言うんじゃない」
「やだ!虫歯治療はやだ!歯抜いて治してくる!」
「虫歯治療の方が楽だろ、俺の吸血以外で怪我すんじゃない!」
「イヤなモノはイヤなのっ!あの音、聞いただけで気持ち悪くなってくる!」
「聞いた事あるのか?」
「虫歯治療の音は遠くでも聞こえてくるよ……診療所からの嫌な音はみんな虫歯治療の音だもん……」
「ああ……巫月は耳が良いからな……。だがそれでも巫月には治療してもらいたいんだ。奥歯なんてモノ抜けば、血だらけになる。凄く痛いし、何より血が勿体ないだろ?」
「うん……」
「じゃあ治療してもらおう。削ってもらおうぜ」
「削るのやだよ!それって、歯っ欠けみたいなものでしょ!私そんなのやだ!」
「でも、削るってことは再生するんじゃないのか?怪我判定されないのか?」
「でもヤダヤダ!痛いのもイヤだけど音もイヤッ!全身麻酔じゃないとやらないもん!」
「全身麻酔なんて使わないわよー」
遠くから永琳の声が聞こえてくる。こちらの声が向こうまで聞こえていたようだ。今は静かな夜だ、大騒ぎすれば遠くまで聞こえてしまうだろう。
にしても、全身麻酔じゃないと嫌ときたものだ。これ以上無いくらいのワガママだ。音が嫌なら一応納得できる発想ではあるが。
「しかも虫歯治療は銀歯つけるんでしょ!?何それ最悪っ!絶対嫌だからねそんなの!今度の姫納めと姫始めはキレイな身体でヤリたいのっ!銀歯がある状態なんて絶ッッッ対にヤダ!自分で歯抜くもん!その方が早く治るもん!!」
(何よ、その異常な拘り……。我が娘ながら、巫月はヤバい子に育ったかも……)
「れーせん、ひめはじめってなぁに?」
「あ、あー……新年の行事?かしら……」
「ぎょーじ?」
「えーとねぇ……」
「……ともかく、巫月。治療してもらおう」
「イヤなものはイヤ!エスカルゴの頼みでもイヤ!自分で抜くもん!その方がいいもん!!」
「細菌とか入ったらどーすんだよ!病気になったらどうする!?」
「すぐ治るもん!私、身体強いもん!」
「そうだけど!そうだけど、その間は何もヤレないだろ!?それはイヤじゃないか!?」
「イヤ!でもあの音も痛いのもイヤ!自分で抜く!その方が楽だもん!!」
そう言うと、巫月は真上にスキマを開いて、中に飛び込んだ。成程、考えたものだ。下でも横でも、角度的に俺からも「どこへ行くのか」が見える。
しかし自分の真上に開けば、身長差的に考えて、俺からは巫月の行き先は見えない。それなら俺にも考えがある。
「全くもー、巫月ってば……」
「エスカルゴー?準備できたわよー」
「今連れて行きますーーー!!……ちっ、巫月の奴、どこに行きやがった……?」
「早くしないと自分で抜いちゃうかも……」
「だな、間違いない」
「……とりあえず緋月のこと寝かせてくるね。緋月、おやすみは?」
「おやすみー、えすかるごー!」
「ああ、おやすみ」
霊麗と違って自傷に慣れていない巫月なら躊躇うはずだ。だから、その躊躇っている内に、そちらに行くしかない。となれば、アレしかない。
「召喚『愛娘降臨』」
「……あっ」
「っ……マジでやりやがった……」
娘の足元にスキマを開き、問答無用で連れてくるスペルを発動。空中に開いたスキマから落ちてきたのは、口元に雷刀を短くした物を刺し、血だらけになっている巫月だった。
「あのなぁ〜……!」
「もう抜いたもんっ……もう治るもん!」
「……永琳先生に説教してもらえ」
「そんなの別にいいもんね、虫歯なんてできるのが悪いんだから!」
巫月は自分から治療室へ向かった。当然、永琳が驚愕したのは言うまでもない。
服が血に濡れたので巫月のパジャマは洗濯行き。彼女が別にものに着替えたあとに、緋月を寝かせて帰ってきた鈴仙と俺と巫月に、永琳も交えて、少し話を聞かされることになった。
「一先ず巫月ちゃんに説教はしたから、とりあえずウドンゲとエスカルゴは何も言わなくていいわよ。あと、なんで虫歯なんかになったかというと……まぁお察しの通りよね」
「歯磨きとか?でもやってるよな巫月……」
「うん、歯磨き徹底してるもん」
「寝不足による体調不良、みたいなものね。本来、こういう菌は誰しもが体内に宿してるわ。だけど、寝不足などの要因によって体調が崩れると、好機とばかりに暴れ出す。……巫月ちゃん、あれから寝不足でしょう。エスカルゴが来れば当然の如くセックスだし、来てなくてもオナニーだし……。子供らしい、健全な生活が出来ていないからこうなるの」
「じゃあ、エスカルゴ来てない日は早く寝ます……」
「……ええ、そうするしかないわね。で、本来なら、赤ちゃんや子供にミュータンス菌は存在しないの。じゃあどこからやってくると思う?」
「それなら、確か……箸を共有したり、食べ物を親が噛んで食べさせたりとかで移るって、何かの資料で読んだと思います!」
「流石ウドンゲ、その通りよ。……でもエスカルゴもウドンゲもそんな基礎の知識は分かっているから、箸もスプーンも、何も共有しない。じゃあ何故巫月ちゃんにミュータンス菌が来たのか……エスカルゴ、分かるわね?」
「……キス、ですか……」
「そうね。普通のキスでもそれなりに菌が移動するけれど、あなた達……ディープキスもしてるでしょ。確実に移るわね、これじゃ。これに懲りたら、色々気を付けることね」
「はい……」
「はーいっ!しっかり歯磨きした上で、エスカルゴ来ない日は早く寝まーっす!」
「………………ええ、それが一番ね」
諦めた永琳は、苦笑いで巫月を肯定し……鈴仙は、額に手を当てて深い深い溜め息をつき……俺は巫月のプリティさに目を奪われ、ニヤついてしまったのであった。
年末のワンシーンをば。
昔々の後書きにも書いたと思うけど、本作の永琳は医学全般やってる設定なので。天才な永琳には幾らスペックを盛っても良い。天才だから。
薬師だけじゃなくて医者全般。
幻想コソコソ噂話
須臾の時間を集めて擬似的な時間停止ができる輝夜
エスカルゴのイチモツを刺激する時にも能力を使うことがあるので、エスカルゴからしたら時姦されたみたいな感じになります
快感が一気に押し寄せてきて死にそうになります
それを見て輝夜はほくそ笑んでます、エロいね