※この作品はR-18です。

吸血鬼人間の幻想生活   作:エスカルゴ・スカーレット

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ツンデレデレデレ

「じゃっ、買い物行ってくるねお母さん」

 

「ええ。くれぐれも気を付けて」

 

「わかってるよ。行こ、お父さん」

 

「ああ」

 

 見送りの霊夢と霊麗に軽く手を振り、博麗神社を出発する。

 今日は今年最後の買い込み。外の世界で言う所の歳末セールみたいなものだ。どの店も、在庫がまだあれば少しでも儲ける為に安値で売り捌く。それを狙って、俺と霊愛は買い物に行く。

 飲食店なども、やはり年末年始は休業するので、安値で客を呼び寄せて、在庫を使い果たすまで営業するつもりらしい、とのこと。

 

「ね、お父さん。どうせ買い物はすぐに終わるし、色々見て回ろうよ」

 

「行きたいとことかあんのか?」

 

「んーとね、鈴奈庵でしょ?定食屋に、甘味処に、永遠亭に香霖堂かな。八百屋とかは後でいーよね。何ならお父さんの分身で良くない?」

 

「オイオイオイオイ待て待て。何だと?行きてぇ所多すぎかよ」

 

「いーじゃん、初デートだよ?」

 

「……他所では言うなよな」

 

「わかってるよー」

 

 人里に到着し、まず向かったのは鈴奈庵。荷物が増える買い物は、一先ず分身にやらせる事にした。買ったらスキマにでも入れておけばいいし、生物はすぐ収納しておけばいい。俺達は買い物以外に集中できるというワケだ。

 

「いらっしゃいませー!あ、エスカルゴさんと霊愛ちゃん!珍しい組み合わせですね!いつもは……」

 

「ねぇ小鈴っ!」

 

「な、なぁに?」

 

「エッ……春画とかそういう本、貸して!外来本!」

 

「もー、前にも言ったでしょ?18歳未満はダメよ、そう書いてあるもの。霊愛ちゃん、まだ15……いや、14歳になったくらいなんでしょう?ダメだよー」

 

「そこを何とかぁ〜!」

 

 親の目の前でエロ本の貸し出しを頼めるなんて、どんな精神構造していたらできる芸当なのだろう。俺には絶対に無理だ。無理よりの無理だ。というか霊愛は12歳だったはず。年明け頃にやっと13歳だ。つまり、半妖であることを逆手にとって逆にサバを読んだのか。

 

「だーめ。これは私が決めた事じゃないのよ、本の出版社が決めた事なの。だから許してね」

 

「……じゃあ小鈴、俺が借りるんならセーフだな?」

 

「セーフですけどぉ……本来なら、18歳未満は閲覧も禁じられてるんですからねー?とにかく私は、何も知らぬ存ぜぬを貫くんで、そこ宜しくですー」

 

「おーよ。……さっさと選んできな」

 

「うんっ!」

 

 霊愛が目を輝かせながらエロ本を漁っていると、小鈴がチョイチョイと俺に向かって手招きをする。何か用があるらしい。俺も小鈴に用があった所だ、丁度良かった。

 

「霊愛ちゃん、最近どうしたんです?」

 

「何が?」

 

「何ヶ月前からかは忘れたんですが、ある時から、妹の霊麗ちゃんと2人でちょくちょく寄ってくれるようになったんですよ。霊夢さんのおつかいの時もあるし、2人が読む本の時もあるんですがね…………霊愛ちゃんは、来たらまずエッチな本の所を探すんですよねぇ……。その都度、注意するんですけどね」

 

「えー……すまねぇ」

 

「そろそろ性に目覚めるお年頃なんでしょうから、私でも、理由は察せますけどね。……それにしても、今日はやけにじっくり選んでますね……。いつもならもっとササッと見るんですけど。あっ、いつも私が注意するからかな?」

 

「……探すフリして、立ち読み的な感じで読んでたんだろうな、その時は」

 

「あ〜……」

 

「立ち読みされるより、貸しちまった方が鈴奈庵の儲けに繋がるだろう。18禁でもいい、貸しちまえば良いんじゃねーかな?」

 

「んー、そうなんですよねぇ。18禁なんてのは所詮外の世界のルールでしかありませんしね。ですが、外の世界の本として貸出するからには、私としてもそちらのルールに則りたいんです」

 

「流石プロだ、違うなぁ。そういうプロ意識イイね小鈴。尊敬するよ」

 

「えへへ、そんなぁ〜♪」

 

「……俺もちょっと小鈴に用があってさ。……余計な(・・・)ことは企んでないよな?(・・・・・・・・・・・)」

 

「やだなぁ〜も〜……急に何を言い出すんです?」

 

「妖魔本、更に増やしたろ。どうなるんだろうな、鈴奈庵。……気を付けろよな」

 

「ご忠告ありがとうございます。大丈夫です、私は霊夢さんのお世話にはなりませんから」

 

「……なら、いいんだけど」

 

 やがて霊愛が数冊のエロ本を選び終えて、小鈴と俺が待つカウンターまで持ってきた。ジャンルは、まさかの近親モノ。現実でそう(・・)なのだから、漫画の中でくらい別のジャンルにすればいいものを……。

 父親の前で近親モノのエロ本を選んだのだから、小鈴が俺と霊愛を疑惑の目で見たのは、もはや言うまでもない。想像力豊かな小鈴も、既に俺と霊愛が交わってるなど、流石に考えやしないだろうが。

 

「期間はどうします?」

 

「1ヶ月……で良いのか?霊愛」

 

「それは長すぎ。10日で十分だよ」

 

「……ってことでヨロシク」

 

「はーい。『禁断の恋!ロリ系美人の娘が実の父を逆レイプ!〜うっかりでは済まされない5発連続の生中出し〜』、『鬼父』ですね、10日以内の返却をお願いしまーす」

 

 最近どこかで聞いた話が出た。うむ、本当に近親相姦モノのエロ本らしい。何というか裏表紙の裏にAVの付録がついてそうな、コンビニで売っているようなエロ本という感じがする。

 本を紙袋に入れて、外からは見えないようにして持たせるというケアもバッチリ。流石は小鈴だ。

 

「そうだ。小鈴、15禁のエロ本ってある?」

 

「15禁ですか?えーっと……18禁より規制が緩いってことですね?そう、ですねぇ……。確かありますよ。年齢別で分けてたりはしてないんですけど……」

 

「霊愛も、もうそろそろ15だからさ。そっちなら、個人で借りに来ても良いでしょ?」

 

「んー、ちゃんと15歳になるまではダメだと思うんですけどねぇ〜……。ま、お得意さんですし、特別に構いませんよ?」

 

「良かったな霊愛、緩いエロ本読み放題だぞ」

 

「……ん」

 

(……この親子、性の話もするんだ……。オープンである意味羨ましいなぁ……)

 

「っし、行くか」

 

「うん」

 

「ありがとうございました〜!…………霊愛ちゃん、お父さんのこと襲っちゃダメだよ?」

 

「ッ!!わ、分かってるって!だッ、誰がこんなの襲うっての!?もうっ!」

 

「たはは、嫌われちゃったか?じゃあな小鈴、また来るよ」

 

「はーいお待ちしてまーす!」

 

 先に出て行った霊愛を追って外に出ると、霊愛はキチンと鈴奈庵の前で待っていた。腕に大切そうに抱えている紙袋の中身がエロ本なんて、道行く人は絶対に気付かないだろう。

 

「『誰がこんなの襲うっての』……ねぇ?ほぉ〜ん?ふぅ〜ん?『こんなの』ねぇ……『こんなの』……」

 

「ご、ごめんってば……そんな事思ってないよ……」

 

「まさか小鈴も『とっくに襲ってる』とは思わねぇだろうなぁ。クククッ……。つーか霊愛、何歳逆サバ読んでんだ?まだ14歳すら遠いだろうよ。弦月姫が9歳だから……今11歳で……次12歳だよな?」

 

 まずい。娘の年齢が分からない。本気で困った。まさかこんな事になるなんて思わなかった。霊愛、何歳だっただろうか。本当に14、5歳になっているのではないだろうか。霊愛も俺も忘れているだけで。

 

「あーもう、うるさいよ!次行くよ、次!」

 

「へいへい」

 

 やはり、デレも可愛いが、ユルいツンツン具合も堪らなく可愛らしい。ツン霊愛の発言をデレ霊愛に言い聞かせて、意地悪してやりたくなる。そして、それを聞いて縮こまる霊愛が可愛い。子供っぽい。

 

「お腹空いたー、お昼食べよ」

 

「定食屋(いつものとこ)か」

 

「そーそー。赤蛮奇が居るとこね」

 

「今日はどれくらいほっぺプニプニできるかなぁ。楽しみだな、早く行こう」

 

「私の前で他の女のこと触んないでよ」

 

「おっおっおっ?霊夢でも中々言わないセリフだぜそれ。……ま、デレ過ぎないから大丈夫だよ」

 

「どーだか……」

 

 少し歩き、いつもの定食屋に到着する。すっかり行きつけになってしまった。ここの店長、赤蛮奇を働かせるし、俺やクラウンピースの入店に対しても何も言わないし、人外に対しての理解が深すぎる。

 店長がこういう人だからなのか、ここで働く他の人間、そして客もそういうタイプだ。これはかなり有難いことだ。

 

「いらっしゃい。……また霊愛と来たんだ」

 

「おうよ」

 

「何よ赤蛮奇、何が言いたいの?」

 

「仲良くなって何より。これまでのあなた達って、静かに喧嘩している状態というか……そんな感じに、見えた気がするからさ」

 

「だから違うってば。父親嫌いとかそういうのも、前に言った通り、根も葉もない噂でしかないもん」

 

「そうみたいだね。じゃ、注文決まったら呼んで」

 

「もう決まってるよー。お父さんももう決まってるよね?」

 

「あ、ああ。いつもの頼むよ」

 

「ニンニクマシマシ?」

 

「そうそう」

 

「私もお父さんと同じやつ。ニンニクマシマシね」

 

「!?……わ、分かった……」

 

 一瞬だけ、赤蛮奇が凄い顔をしたように見えた。まるでビックリしたように頭を浮かせ、目を見開きながら、厨房に戻って行った。

 

「……へーぇ、霊愛がニンニクマシマシねぇ」

 

「お父さんと同じヤツ食べれば、ニンニクの匂いも気にならなくなるでしょ」

 

「……食後はブレスケアだな」

 

 匂いを気にするという事は、このデートの中で、少なくとも一回はキスするつもりらしい。何となくそう言っているように聞き取れた。

 やがて料理が完成し、赤蛮奇と彼女の頭が料理を持ってきた。頭から受け取り、そしてまた頭蛮奇を捕まえ、頬をブニブニと指で突っついてやる。

 

「ホンットにコイツはさぁ〜……!」

 

「嫌ならばんきちゃんが持ってくればイイじゃん?なのにわざわざ頭ばんきちゃんって……誘ってるのと同じだよなぁ?」

 

「違うから……!仮にそうだとして、どーしてこんな回りくどいことしなきゃいけないの?」

 

「ばんきちゃんが照れ屋さんだからだ、違うか?」

 

「────ッ!」

 

「……お父さんさー、そうやって店員さんにウザ絡みすんのやめたらー?恥ずかしいよー」

 

「おっと、今は娘の前だったな。また今度、1人で来るよ、ばんきちゃん」

 

「……ん。せめてお客さん少ない時にしてよね……。勘違いされたくないから、触られてんのはあんまり見られたくないんだけど……」

 

「そっか。……分かった」

 

(はぁ……私ってこんなに押しに弱かったっけ……?まぁでも、触られても悪い気はしないしな……)

 

 頭を返却すると、顔を赤くさせて戻って行った。今日はこんな絡みでも良いだろう。やっと……やっとお触り許可を得たのだ、客の少ない時を狙ってまたここに来よう。本当に長かった。これでそろそろ、彼女の頭に囲まれて、あんな事やこんな事ができるようになりそうだ。

 

「お父さんはさぁ……私の前なのに何やってんの?」

 

「寧ろ霊愛の前だからとかしこまってる方が不自然だからな?だからここはいつも通りに絡むのが一番自然なんだよ」

 

「変態の理屈は分からない……」

 

「ンなアホな」

 

 食後はさっさと会計を済ませ、赤蛮奇の見送りでニヤケながら退店。あの定食屋は、もはや赤蛮奇が看板娘のような様相を呈している。

 

「んで、次は甘味処……か?」

 

「うん。清蘭か鈴瑚のとこで団子食べて、幾つかは買って帰りたい」

 

「そんなら俺はストロベリーダンゴ食べたいなぁ。鈴瑚んとこで良いか?」

 

「良いよ」

 

 すると霊愛は、人通りも多いのにも関わらず俺の手を握ってきた。何も言わずに手を繋いでくる所が本当に可愛らしい。このまま無言を貫いてもいい。しかしそれだと、どうも少しつまらない気がする。

 

「おっ?……人間も多いのに、積極的だなぁ」

 

「ち、違うから!お父さんが迷子にならないようにする為の手繋ぎだから!勘違いしないでよねっ!」

 

「はい、ツンデレの代名詞『勘違いしないでよね』頂きました〜。もはや隠す気無いんじゃね?つーか何で俺が迷子になんだよ」

 

「可愛い子見つけたら襲いに行くかもだし」

 

「人間は二度とゴメンだ。死なれたら悲しいしな。ヤリ捨てもできねぇよ」

 

「お父さんから『ヤリ捨て』だなんてゲスな単語、聞きたくなかったなー」

 

「……幻滅したかい?」

 

「頭のネジ飛んでんの?こんなんで嫌いになるならとっくの昔に嫌いだから」

 

「さいですか」

 

 俺の手を握る手に、力が込められる。いつの間に娘はこんなに精神的に成長したのだろう。俺はまだ心のどこかで単なる子供のお遊びだと思っていた。しかし、あれらの発言やこの行動から、何となく、突発的な思い付きだとか、パッと行動しただけなのではないと思い直した。

 もしパッと思い付いたり行動したものなら、今のクズ発言や赤蛮奇への言動で好感度がダダ下がり、幻滅してもおかしくない。

 それが無いという事は……「恋は盲目」のような、そんな感じになっているのだろう。それほど好きな相手なら、多少のクズ発言も許せるというものだ。

 

「よぉ鈴瑚、久しぶり」

 

「おぉ、次代の巫女さんとエスカルゴさんじゃん。イイ組み合わせだね、絵になってるよ〜?」

 

「へへっ、そうかい。じゃあ、ストロベリーダンゴ1串と……霊愛はどうする?」

 

「私もそれで。あと持ち帰りで4串……いや8串」

 

「ふっふっふ、相変わらずストロベリーダンゴ好きだねぇ。いつもありがとね!4串オマケしちゃう♡家族みんなで食べてね!」

 

「サンキュ」

 

「ありがと」

 

 持ち帰り分以外はその場で喋りながら食べ、再び歩き出す。次は永遠亭か香霖堂で迷ったが、霊愛によると香霖堂の方が早く用事が終わるとのことで、香霖堂に向かうことにした。今度は飛ばずさっさとスキマで移動してしまう。冬の空は、防寒着を着ていても寒い。

 

「よぉ」

 

「やぁ。親子揃ってご来店とは珍しいこともあったものだね」

 

「娘が香霖堂に来たがってな。買い物したいらしいから、よく分からんが探させてやってくれ」

 

「構わないとも。だが、勝手に本を持っていくのはやめてくれよ?この前の君のように。返すとしても盗みは盗みだからね」

 

「お、返却してあるのに気付いたんだな」

 

「あの後、本棚を整理していたら気付いたよ。君の能力なら可能というわけだな。とはいっても勝手に持っていくのは感心しないな」

 

「悪い悪い。あの時さ、全ての地獄に落ちる条件を満たそうとしてたんだけどさ。その中に『繰り返し盗む』ってのがあってな。一方は知り合いのオヤツ盗んで、もう一方はエロ本ってワケだ」

 

「自ら地獄落ちを志願しているのかい……?死なない君がか?面白いことを考えるものだね。何を食べて生きていればそんな考えに行き着くのやら……」

 

「極上の料理を食い続けてたら、か?知らんけど」

 

「それで盗むものがエロ本、か。やれやれだね」

 

「まぁね。ところで朱鷺子は?」

 

「里に買い物さ」

 

「ああ、そうなのか」

 

 霖之助とどこまで進んだのか聞いてみようか、と思っていたが、あの子が居ないのなら仕方がない。どうせ霖之助じゃ、話をはぐらかすか蘊蓄が始まるだけだし、グチグチと長い言い訳もされそうだ。

 

「霊愛、探し物は見つかったか?…………おーい?」

 

「ふぉぉぉ……!」

 

「れ、霊愛が目を輝かせてやがる……」

 

「ん?……おいエスカルゴ、あそこはエロ本コーナーだよ。止めてきたまえ」

 

「……エロ本を探してたんだな……」

 

「子供にはまだ早いだろう」

 

「人間ならとっくに性に目覚めてる年頃だぜ?早いなんて事は無いさ。……最近、性に目覚めたんだよ。霊愛もな」

 

「成程……。くれぐれも、過ちのないようにしないといけないよ?流石の君も分かってるだろう?」

 

「……そりゃあな」

 

 もう「過ち」は起きてるんだよ、とは言わない。アレは家族間だけの秘密だ。巫月に続いて霊愛まであんなアホな事になるなんて、少し前の俺なら絶対嘘だと思っていただろう。

 ところがどっこい、夢ではない。現実だ。これが現実なのだ。受け入れるしかない。……尤も、肉体はもう受け入れているのだが。

 

「お父さん、全部欲しい!棚買いしよ!」

 

「バカ言うな。少しなら分かるが、こんな何10冊もまとめ買いする奴があるか。本棚もねぇだろうが」

 

「お父さんが創造魔法で作ればイイじゃん」

 

「うぐっ」

 

「成程、それは名案だな。創造魔法という名前から察するに、本棚など容易に創造できるんだろう?」

 

「棚の置き場所はどーすんだよ?」

 

「子供部屋で良くない?」

 

「霊麗も霊魔も居るからな?」

 

「結界掛けりゃいいじゃん。お父さんみたいな軟弱すぎる結界じゃなくて私のヤツをね」

 

「くっ……だが、霊夢に見られたらどうするんだよ?霊夢なら霊愛の結界も破れるだろう」

 

「お母さんはそもそも子供部屋に来ないし、別に、見られても構わないよ。疚しいことは無いしね」

 

 そりゃ、俺との情事を認められているんじゃあ、今更疚しいことなんてあるはずもない。当然だ。

 そんな事を言いたいのではなくて、もっと他の……思春期特有の謎の羞恥心等があると思うのだが……。どうやら、霊愛はそこまで気にしていないらしい。バレてもどうにかするつもりだ。それならもう俺がどうこう言わなくても良さそうだ。

 

「……とりあえず5冊までにしておけ」

 

「少なっ!?」

 

「自分の性癖に合うヤツだけにすればいいだろう。そんなに無駄に金を使う必要は無いはずだ」

 

「分かってないなー。私はまだ、自分の性癖すらもロクに掴めてないんだよ?選べるわけないじゃん。鈴奈庵で何とか選んだのは……近親モノ(アレ)だからだよ。ここ、あのジャンルあんま置いてないんだもん」

 

「……10冊まで」

 

「もう一声!」

 

「15冊」

 

「もうちょっとっ!お願いお父さん!滅多にお願いしない私がお願いしてるんだよっ!?」

 

「よし分かった20冊!」

 

「やった!よっモテ男!幻想郷最強のお父さん!」

 

「ふへへ……」

 

(なんだこの父娘(おやこ)は……何故『エロ本を買う冊数』でこんなにも盛り上がれるんだ……)

 

 盛り上がっている俺達を見て、霖之助は訝しげな目をする。何を考えているのかよく分からないが、ろくでもない想像をされていそうで怖い。

 そうでないとしても、エロ関連での俺達の関係を疑われていそうだ。

 

「霖之助、会計頼む」

 

「はいはい。『欲情した妹が兄を押し倒して生ハメセッ○ス24時〜両片思いの兄妹の未来〜』、『裸の幼女』、『過激インディーズ2025』、『新婚夫婦の爛れた愛欲旅行』、『父親のエロ本を盗み見た娘がオマタのムズムズをガマンできなくて……』」

 

「いちいちタイトル読むのやめて!?」

 

「声に出して確認した方が、間違って買うって事が減るんだよ。安心したまえ、他に客が居るときならもっと小声だから」

 

「そ、そういうモンなのかよ……?」

 

「ああ。だから、間違って買ってそうだと思ったらすぐに言ってくれると助かるよ。商品受け取り後の返品は受け付けないからね」

 

「はーい。ほらお父さんも聞いてよ、私がどんなの選んだのか」

 

「わぁったよ……」

 

「『美乳淫乱ボディ』、『陵辱少女』、『僕の私の乱れた家族』、『平成・令和の超絶美女モデル達のヘアヌード集』」

 

「レイワってなんだ?」

 

「平成の次の元号だね。女子大生だった菫子くんが

『元号が変わった!』と教えてくれたよ。しかし……エスカルゴ、君はたまに外に行っているんじゃ?」

 

「外に行ったって、改元直後でも無ければ話題にもならねーし、そう気付けるモンでもないさ。硬貨の印字なんていちいち見ねーから気付きもしないし」

 

「そういうものなのか。成程……」

 

「……レイワ……男にも女にも使えなさそうだな」

 

「名前に使うのはやめてよ?」

 

「わかってるよ」

 

「続けるぞ。『禁断の恋〜兄に仕えるメイドの妹が兄にガチ恋したら〜』────」

 

 全20タイトル読み上げた霖之助は、かなり疲れた顔をしている。何故か長いタイトルも多かったし、ネタに振り切っているようなタイトルもあった。

 特にタイトルに「24時」がつくと途端にネタ感が倍増するように感じられた。

 

「お会計20000円だ」

 

「たっかい!!何で!?」

 

「今は1冊につき一律1000円で販売している。本来なら更に高いからね。つまり20冊なら20000円だ。返品するなら今だよ」

 

「うぐぐ……お父さん……」

 

「棚買いするとか言ってたおバカさんは一体どこの誰だろうなぁ?……今度からは気を付けろな」

 

「お父さん……!」

 

「毎度あり」

 

 霊愛の頭をワシャワシャ撫で、万札を2枚出す。霖之助も儲かり霊愛もエロ本を購入できた。……中々Win-Winの関係かもしれない。

 香霖堂を出て扉を締め、俺は溜め息をつく。

 

「『軟弱すぎる結界』かぁ……」

 

「じ、事実でしょそれは……」

 

「俺なりに頑張ってるんだけどなぁぁ〜。あーあ、バカにされてばっかで辛いわ〜」

 

「ご……ごめん……なさい……」

 

 しゅんとする娘が可愛すぎる気がしてならない。ついこんな風に娘をイジメたくなってしまうのは、イケナイことなのだろうか。強気な娘がこのようにしゅんとするのは、やはり可愛く見えてしまう。

 

「次はどうする?」

 

「……ちょっと休憩しよ。借りた本も読みたいしさ」

 

「休むったってなぁ。どこでだ?」

 

「里の宿屋を借りてだよ。宿屋って、どこのヤツも休憩に使えるらしいよ」

 

「ほーん、じゃあそうするか」

 

 というわけで俺達は人間の里にトンボ帰りした。しかし宿屋などには疎い俺は、近くに居た人間達や知り合い等を頼って、里で一番綺麗で大きな宿屋に行くことになった。

 宿屋というより旅館だ。

 

「ようこそお越しくださいました」

 

「ここは宿屋……です、だよね?」

 

「左様でございます」

 

「夜まで休憩するってのは……できるの?」

 

「はい、勿論でございます。今すぐお部屋をご用意できますが、どうなさいますか?」

 

「妖怪も使えるんなら……」

 

「当館は人妖問わずご利用いただけます。ただし、専属の退治屋も常駐しております。ゆめゆめお忘れなきよう……」

 

「人妖問わず?スゲェマジかよ、そりゃ有難いや。じゃ、夜まで休憩で」

 

「承知致しました。2名様ご案内致します」

 

「ねー女将さん、2階って使える?」

 

「ええ。そちらになさいますか?」

 

「そーする!」

 

「ふふふっ、ではそのように」

 

 玄関で出迎えてくれた、女将らしき老婆について歩く。廊下も広いし、廊下から見える範囲だとどの部屋も広い。2人で来るには、広すぎる気がする。いつか家族4人で来てみたいものだ。

 俺達が通された部屋は、見てきた部屋に比べると少し狭い感じがしたが、人数的に見れば丁度いい。ザ・和風という風情で、しかも露天風呂まである。やはり旅館だ。休憩する為に使うのは勿体ない。

 

「こちらになります。何かご入用でしたら遠慮なくお申し付けくださいませ。戌の刻になりましたら、お知らせに参ります」

 

「了解っす。戌の刻……8時か。6時間は休めるな」

 

「女将さん」

 

「はい、なんでございましょう?」

 

「女将さん、というよりこの旅館って……もしかしてこっち側(・・・・)?」

 

「…………はて、何の事やら?」

 

「……そう。ごめんね変な事聞いて」

 

「いえいえ。それでは、失礼致します」

 

 スススッ、と静かに襖を閉めた女将。俺は2人の会話の意味がよく分からず、既に外を眺めている。分からない事は調べるか、スルーするのが一番だ。

 しかし今回の話は気になるので、女将がある程度離れたら娘に尋ねてみる。

 

「なぁ、今の『こっち側』っつーのは?」

 

「んー?……まぁ……妖怪と関わりがあるんですか?みたいな話だよ。今のお父さんとか、あからさまに妖怪って奴でも泊めたりできるってことは……ただの宿屋じゃないよなぁって思ってさ」

 

「ほーん……?退治屋が居るって言ってただけあってかなり自信あるんだろうなぁ」

 

「そうだね。自信が無きゃ、夜間に力を増す妖怪を入れるわけない。定食屋と違って、宿屋は夜間営業みたいなものだもん。とはいえ、ただの退治屋では吸血鬼なんて対処できないよ。だから、妖怪側との繋がりを感じたんだよね。例えば……八雲紫とか」

 

「紫さんなら有り得るわ〜……」

 

「でしょ。だから『こっち側?』って聞いたんだ。

『管理者側』を指して言ってみたんだけど、女将のあの様子じゃ多分通じたね。十中八九、紫と繋がりあるよ。……稗田邸レベルとは言わないけど、歴史がありそうな宿屋だし……不思議ではないね」

 

 案外よく見ているものだ。次期博麗の巫女という自負が、彼女にそうさせるのかもしれない。あとは技術が霊夢レベルになれば、霊夢に認めてもらえるかもしれない。

 

「じゃ、お父さん先にお風呂入ってきていいよ。本読んで待ってるから」

 

「おう。……え?」

 

「……察してよ……バカ……///」

 

「……だから休憩しようなんて言ったんだな。全く、素直に誘えばいいのに」

 

「流石に察してくれると思ったんだもん……」

 

「はいはい、所詮俺は察しの悪いヤツですよっと。あと、付け焼き刃の知識でエッチしようとか思うんじゃねぇぞ。お互いにアブナイから。特に霊愛が」

 

「……やっぱ私もお風呂入る。一緒に…………入ろ?」

 

「霊愛が良いってんなら一緒に入ろう。露天風呂、景色良さそうだしな」

 

「うんっ……♪」




思春期の娘は「ちょっと!お父さんの下着と一緒に洗わないでってば!!」「お父さんと一緒のお湯でお風呂とか最悪!」「一緒に風呂とか無理!」とか言うと思うんですけど、霊愛は全くの反対ですね。
思春期中でも霊愛はそういう事は言いませんけど、彼女はもう思春期を脱出したんでしょうね。


原作設定でさえ赤蛮奇みたいに人間の里に紛れてる妖怪が居るんだから、妖怪に寛容な施設はフツーに有りそうだよなっていう妄想。
鈴奈庵での小鈴みたいに、このお婆ちゃんも紫様と通じてるんだろうなぁ。
あと、短編の方で妹紅との戦闘後に蓮子とメリーが泊まった宿屋もここです。
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