「サードアイが開いてる……何でだ?」
「わかんない……何コレ……?」
こいしに潰されかけた喉を優しく揉み解しつつ、エスカルゴは何か考えているようだ。こいし自身、突如サードアイが開眼した理由はわかっていない。
やがて、結論を出したエスカルゴは、ポンと手を打ち、こいしにわざとらしいまでの笑顔を見せる。
「一先ず、俺の心を読んでみなよ!」
「……え?」
「まぁね、こうして対面しているだけで読めてるんだろうけどさ、もっと照準合わせて、サードアイで俺を見なよ。さとりから聞いた事があるんだけど、その目は照準を絞るのに使うんだってな?その方がより集中的に読めるとか何とか言ってたぜ」
「で、でもっ……心を読まれるなんて、気持ち悪いんでしょう?お姉ちゃんは『エスカルゴさんは心から読心を受け入れてる』って言ってたけれど……あれは私に『お兄ちゃんはいい人』って思わせるための嘘なんでしょ?」
「いいや、本当だ。良いから読め。読んでくれよ。その方が、俺を信じてもらえるだろう?」
「……嫌いにならないでくれる……?」
「ならない。さとりに誓ってそれは無いから」
「ん……」
覚悟を決め、サードアイをエスカルゴに向ける。耳元を吹き抜けていく風のように適当に流れてくる彼の思念に、サードアイにより照準を定める。
何年ぶりかも分からないほど久しぶりだったが、やはりこれも本能か、こいしは驚くほど正確に彼の心を読み取った。
「……嘘は、ついてないんだね……?」
「ああ」
「本当に私の事……好き?」
「好きだ」
「『目元腫れてるけど、無邪気なこいし可愛いな……真の姿なのかな、これが。抱き締めてこいしの匂い堪能しまくりたい……』……あのねぇっ!もうっ!」
「あいたっ」
カァーッと顔を赤くさせたこいしは、ベチベチと彼の腕を叩く。とても恥ずかしい思いをしたこいしだったが、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。素直な好意だと、彼女自身よく分かっているから。
「ふぅん……あなたってそういう人なんだね。今まで私、あなたの何を見てきたんだろ……」
「心は読めなくても、見えてくるものはあんだろ。読心できなくても、こいしは俺の事を見ててくれたはずだ。……で、どうする?」
「『付き合っちゃう?』って?答えはイエスよ!」
こいしが抱きついてみせるとほんの一瞬硬直したエスカルゴだが、すぐに顔を綻ばせて、先程彼女を止めた時とは違い、優しく優しく抱き締めた。
甘えるこいしにエスカルゴは癒され、そんな彼の心にこいしも癒された。
「目、開いて良かった……。これで、本当のあなたを知る事が出来るのね…………」
「ん……」
「……でもね、1つショックな事もあるんだ」
「ショックな事?」
「サードアイが開くと同時にさ……私、あなたの事をあんなに疑ってさ……。私の方が、裏切ってる感じがしちゃって……。ごめんね、こんな卑屈な子で……」
「……まぁ、ショックではあったよな、正直言って。あんなに懐いてくれてたのにな……って思ったよ」
「……だよね……」
「けど、それでも別に良いかな、とも思ったよ」
「え……?」
「どうせサードアイが開眼したんなら、今度こそ、本当の俺を知ってもらうチャンスになるだろ?」
「────!」
「疑わしければ、力づくでもいいから暴けばいい。それができるんだよ、読心能力はさ。どうせ能力があるんなら、有効利用してしまえばいいんだ」
「でも……普通は心を読まれるのを嫌がるんだよ?」
「その理屈で言うなら、俺は普通じゃないかもな。けど、もしもサードアイが開眼したことによって、俺とこいしの仲が完全にリセットされたとしても、俺の心を読んでさえもらえれば一発逆転ができる。やり直せるんだよ、俺達は。短命な人間じゃない、長命な妖怪同士なんだから。チャンスなんてものは今すぐじゃなくてもいつか巡ってくるものなんだ。俺は、そう信じてるよ」
「……何でそういう事、心から言えるの……?ほんとあなたって変わってて……面白い♪」
「変わってる言うな。……まぁ、アレだ、こいしさえ良ければその……」
「エッチしよって?気が早いよぉ。……良いけど♡」
「良いの!?……じゃなくて!さとりの所に行こう!折角開眼したんだ、報告しとこう?」
「あー……まぁ……それが筋ってもの……だよねぇ……。どういう反応するんだろ……気になるね。でもさ……その前にさ……」
「?」
「もう1回だけでいいの……。だから……私とキス、してくれない?……『イイけどどうして?』って……そのね……昔好きだった人と……何もできなくて……。今度は出来るだけ色んな経験をしたくって…………。あっ……ごめんね、昔好きだった人の話なんて……。今好きなのはあなたよ、大丈夫っ!」
「別に心配はしてないけど。今すぐにそいつの事を忘れられなくてもいい。ヤな思い出は全部、俺との思い出で塗り潰してやるし、昔の事を思い出す隙も与えないよ。気が済むまで、姉ちゃんと一緒に俺の彼女やってればいい。……まぁ、絶対に『気が済む』なんてことは起きないと思うが……」
「……フフッ、何それ、束縛宣言?そうやって相手の心を縛っちゃうんだぁ……イケナイ人♡」
「裏切りが怖いのは、俺もこいしも同じだからな。分かってくれるだろ?」
「うんっ♪…………この後お姉ちゃんに報告したら……エッチ、しちゃおっか……?」
「!」
「イイよ?その代わり、今度はたまに会いに来て。デートじゃなくても、エッチしなくてもいいから、顔見せ程度でもいいの。会いに来て。もしも会いに来てくれなかったら、私から殺しに行くから……♡」
「分かった。忙しくても、会いに行くよ。……まぁ、まずは帰ろっ……か?」
「ふふふっ、頭の中ピンク色だぁ♡……もー、エッチなんだから♡」
「うぐ……」
「あっ。ほらほらっ、帰る前に?何だっけ?ほら、何か忘れてるよぉ?」
「ん?……あぁ……」
「ちゅっ♡」
膝を曲げて顔の高さを合わせようとしている彼にこいしからの不意打ちのキス。最近出来た彼女達のおかげですっかりキス好きになっていたエスカルゴは、だらしなく頬を緩ませてニヤついてしまう。
「♡」
そんな彼の心を読み、キスを喜んでくれたことを嬉しく思った彼女は、また何度かキスを仕掛ける。すっかり彼の心の中がピンク色に染まってきた所で敢えてキスをお預けにして、帰宅のためのスキマを無言でアピールする。
エスカルゴは渋々スキマを開くと、動物と戯れるさとりの前に直接移動できるようにしてしまった。あまりの不意打ちに今度はこいしの方がたじろいだものの、開眼した事を伝える為、彼に手を引かれてスキマに身を投じたのであった────。
こいしのアイデンティティが無くなった!?
いえ、ご心配なく。