前回、前々回はこいしが主役みたいなもんなので。
「こいし……!あなた何処に行ってたの!?」
「……ただいま、お姉ちゃん」
「しかもその血……!すみませんエスカルゴさん……またご迷惑をおかけして…………本当にすみません、すみません……!」
「いや。それより、何か気付かないか?」
「何か…………えっ?こいし、あなた……まさか……」
「……うん♪」
注意してこいしを見たさとりはある事に気付く。さとりでさえ読めなかったこいしの心が……読める。その事に、言われてやっと気が付いたのである。
「こいしっ……!」
「わぷっ」
腕の短い姉からタックルにも似たハグをされて、こいしは一瞬ポカンとしたものの、すぐ姉の意図に気付き、こいしもまた姉の背に手を回した。
俺はそんな2人を、少し離れた所からニヤニヤとしながら眺めている。仲良し姉妹はレミフラが至高だと思っていたが……さとこいも尊い気がしてきた。
「開いたのね……開けたのね、こいし……!」
「うんっ……♪」
2人は暫く、黙って強く抱き合っていた。彼女のペット達も空気を読んだのか、遠くでそれを眺める俺にばかり擦り寄ってきた。
この動物達、ある意味人間などよりずっと空気が読めるのではなかろうか。
「にしても、どうして急に開眼したのかしら……?」
「それは私にも分からないけど……あの人のおかげ、なのかもね……♪」
「『あの人』?いつも『お兄ちゃん』って呼んで……あぁ、そういう……。でも、気にしてないみたいよ?大丈夫よ、エスカルゴさんなんだから」
「でも私が気にするよ……」
「こーら。いつまでもこいしが気にしてちゃ互いにギスギスしたままになっちゃうわ?」
「ん……まぁね……」
「それに……そうよこいし。大丈夫。彼なら大丈夫」
会話がちょくちょくスキップされているような。もしかしたら、互いに互いの心を読んで先読みを?もしそうなら器用すぎやしないか、古明地姉妹は。俺が読心能力を得たら頭が混乱しそうだ。
「おいおい、何か会話してんなと思ったら俺の話?そこはさぁ〜……ねぇ?」
「いや、何で私達にイチャラブを求めてるんですかあなたは……。本当どうしようもない変態さん……」
「あなたが望んでるなら良いよぉ〜?お姉ちゃんとエッチしちゃっても♡」
「私は嫌よ」
「分かってるよー、私もお姉ちゃんとエッチしたくないよーだ。ね、ね、早く私の部屋に行こうよぉ?イチャイチャしよぉ♡」
「んー?はは……それも良いかもな。さとりは?」
「お姉ちゃんは抜きだよぉ、2人で遊ぼ?」
「息をするように3Pの妄想って……全くもう……。くれぐれも、ハメを外しすぎないように気を付けて下さいね?」
「ほらほらっ!お姉ちゃんからの許可も出たしっ♡エッチし〜ましょっ♡」
「……そだなっ♪」
(やれやれね……。地霊殿が紅魔館みたいになるのも時間の問題かしら)
「お姉ちゃーん!……もうなってるよん♡」
「……それもそうね」
「んぉ?何の話だ?」
「んーん、何でもなぁい♪」
「?」
◆
「えへへ〜……お部屋、着いちゃったね?……入っていいよ、ベッドでゴロ〜ンしましょ♪」
「ふはー……ベッド気持ちい〜……」
プールに飛び込むようにベッドに身を投げると、続いてこいしも、ボフンと可愛らしく倒れてくる。そうして目の前で見つめあっていると唐突に彼女が問うてくる。
「私のベッド、どんな匂いする?」
「……薄いけど……こいしの匂いがする」
「薄い……そう、薄いの、私の匂い……。あまり家で休んでこなかったからさ……薄まっちゃったんだね。ごめんね、あなたの事を私の匂いで包んであげられなくて……。匂い大好きなんでしょ?」
「そうだけど……。んじゃあ、これから匂いを残していけばいいんじゃねーかな。で、また今度こうして寝た時、俺ん事をこいしの匂いで包んでくれよ」
「……変態だなー……匂い好きすぎでしょ♪」
「女の子の匂いが大好きなもんで。一口に甘い匂いとは言っても千差万別……いつかは知ってる子全員の匂いを嗅ぎ分けられたら、と思ってたりするよ」
「私とお姉ちゃんの匂い、区別つく?」
「つくねぇ。古明地姉妹は余裕だわ」
「どんな違いがあるの?自分じゃわかんなくて……」
「例えば服だと、動物っぽい匂いが混じってるのがさとり。体臭が強いのがこいし」
「えー何それ、臭いってことー?」
「…………」
「まぁねー、お姉ちゃんは動物と戯れてるし、私は放浪してて風呂なんて滅多に入らなかった……匂いに出るのも仕方なし、なのかもね。……じゃあさ、私とお姉ちゃん、どっちの匂いが好き?」
「……難しい質問だなぁ」
「フムフム。『どっちも好きだから〜』じゃなくて
『なんて答えればいいのかわからない』から難しい質問なんだねー」
「……正直言うと……」
「うんうん。ありのままの言葉で答えてね?理由も添えて言ってみよー♪」
「こいしの匂いの方が好きだよ。体臭が強い方が、その子の匂いを嗅いでる感が強くって……」
「興奮するんだ?」
「……する」
「ふぅ〜ん」
ニヤリとしたかと思うと、俺が瞬きする間に姿を消し、騎乗位するかのように馬乗りになるこいし。あまりに突然の事でほんの少し頭の回転がストップしてしまった。
「100点満点の解答だね」
「?えっ……?何が……だよ?」
「本心と全く変わらない言葉を言える人、私初めて見た。試すようなことしてごめんね……怖かったの、嘘をつかれるのが……。やっと信じられる……信じていいんだよね、お兄ちゃんのこと……?」
「……うん……信じていいよ、こいし。散々悪い事もしてきた俺で良ければ……だけど……」
「いいの、そんなの……私にとってお兄ちゃんは1人だけ……唯一無二の存在なんだもの……」
「そう、か……」
「私を愛して……お兄ちゃん……ずっと、ずっと……」
「勿論」
起き上がり、抱き締めながら頭を撫でていると、何かを示し合わせたワケでもなく至極自然な流れで唇を重ね合わせていた。
「私、コレ好きかも……ギュッてするの……」
「わかる」
「ね……。だってこれ、あったかい……もん……♪」
力無く項垂れ、平らな俺の胸に顔を埋める。もう落ち着いてくれたようで、やがてスゥスゥと可愛い寝息を立てるようになった。
ひしと抱きついたまま眠るその様はまさに赤子か幼児のようで、性欲より父性のような、どこか俺に似つかわしくない妙な感情が湧いてきた。
「……ヤる前に寝ちまいやんの。安心してんのかよ?俺なんかで……」
彼女の背中を摩っていると、俺までつられて眠くなってきてしまった。だから俺は、眠ったこいしをベッドに降ろして、その横に寝転がり、彼女の手を握りながら一眠りすることにした。