「ごめんなさいね……エスカルゴ……。あなたのこのハーレムに、亀裂を入れるような事をして……。もしこれで瓦解したら私のせいね。……殺されても文句は言えないわ。レミィ以外には殺されないけれど」
「大丈夫……今くらい好きにしてもいいよ」
「フフ……そうさせてもらうわ。……私の
「まぁ、俺には効かないけどね」
「…………ええ、そうね。……好き……いいえ、あなたを愛してるわ、永遠に……」
「俺も永遠に愛してる……パチュリー」
ちょっと虚ろな目でハグを要求するエスカルゴ。彼を抱き締めてやると、心が満たされたような幸せそうな顔で瞼を閉じる。
これ見よがしに匂いを嗅いでくるのは、やっぱり相変わらずだと思わず苦笑いしてしまった。やがて抱擁を解き、真正面から見据えてやると、あんまり男らしくないその丸い目に、疑問の色を浮かべる。
「あと少しよ。待ってて……あと僅かで完成するわ。私とあなたの楽園が……」
「楽しみだね、パチュリー。そうなったら、毎日がハレの日だ」
「ふふっ、それもそうね。……でもその為には、あの霊夢をどうにかしなくちゃいけないわ」
「霊夢……霊夢は……俺、勝てない……」
「大丈夫……あなたは何もしなくていいの。全ては、あなたを独占する私がどうにかする事だからね」
「そう……なのかな……。でも、俺、パチュリーにも彼らしいことしてやれてない……。だからせめて何か手伝いがしたい……」
「そんな事を考えてたの?……やっぱり優しいのね。でも、私が『いい』と言ったら『いい』の。今は、黙って私に従って頂戴」
「うん……分かった。パチュリーの言う通りに……」
◆
1日目。ローテーションで見ると今日は紅魔館に宿泊する日。確か、一巡の4日目だから、弦月姫と咲夜の日だ。
どれだけ隠し通せるか……後はそれだけネックだ。敵を騙すには味方から。けれど、私には味方なんて居ない。この紅魔館の何処にも。だから、私だけが気張らなくてはならない。居るとするなら、小悪魔親子くらいか。アテにはならないけれど。
紅魔館の皆をどうこうできないなら、霊夢なんてどうこうできるはずが無いんだから。
「エスカルゴ」
「あ、パチュリー。どしたの?」
「そろそろお腹空かないかと思ってね。ほら、もう夕飯の時間でしょう?何か食べたいモノある?」
「カルボナーラが食べたいなー、粉チーズ無しの」
「相変わらず好きねぇ。いいわ、作ったげる」
図書館での読書を中断して、私の部屋へ向かう。そこでは、エスカルゴが魔導書を読み耽っている。食べたいモノと聞かれてカルボナーラと答えるのは読めていた。だからなのか、予想通りすぎて思わず口元が緩んでしまった。
創造魔法でカルボナーラを作ってやる。温度は、猫舌な彼に合わせてあげて、ほんの少しだけ湯気が立ち上る程度。
「いただきまーす!……あれ、咲夜さんのと同じ味。なんで?」
「美味しい?」
「美味しい。パチュリーくらいになると、完成品をそのままな感じで創造できるんだね……凄いなぁ」
「こらこら、褒めても何も出ないわよ?」
「おかわりも?」
「……ちゃんと噛んで食べてる?早すぎよ」
「そぉ?カルボナーラ大好きだからなー俺」
「それは昔から変わらないのね。……じゃ、私はまた向こうで読書してるから……食べ終わったらあなたもまた勉強の続きよ。いいわね。分からないところがあったら来なさい。あと、皿とかはそのまま放置でいいから」
「はーい」
大盛り3杯分ほど追加で創造してから、それだけ早口気味に言い残し、部屋を出る。後は言葉通り、図書館内で読書をするのみ。
するとその数分後に、図書館内に弦月姫が時間を止めて入室してきた。正直、目の前に急に現れると心臓が止まりそうな程に驚くので、ここに来るならその登場の仕方は控えてほしいものだ。
「読書中に申し訳ありません」
「何?」
「あの……パチュリー様。お父様の行方をご存知ではないですか?」
「エスカルゴ?……どうして?」
「もう夕食のお時間なのですが、紅魔館のどこにもいらっしゃらないようでして……。この図書館に来たところまでしかお父様の
「それで?」
「え、と……パチュリー様でしたら、何かご存知ではないかと……」
「賢者ならまだしも、私じゃあ何もかもお見通し!なんていかないわ。エスカルゴがここに来た後の事なんて、私は何も知らない」
「で、ですがお父様はいつもパチュリー様に魔法のご指導を賜っていました……。今日もその予定だと、お父様から伺っております」
「……それで?」
「ですから……パチュリー様がお父様をどこかに……飛ばした?とか……無い、ですか……?」
「意味不明よ。そんなの有り得ないわ。……どこかでメイドとヤッてんじゃないの?……エッチ」
「はっ……!な、成程……ありがとうございます!」
「……」
更にその数分後。今度は弦月姫の母親、メイド長である咲夜が、娘と同じように時間を止めて登場。またか、と内心ドキリとした。全く、この親子は。
「今度は何」
「メイド妖精の緊急点呼を取りました。結果、誰も欠けておりません。そればかりか、本日もメイドと旦那様が交わったという事実はありませんでした」
「……で?」
「単刀直入に言わせて頂きますわ。パチュリー様、旦那様について何か隠していますね?」
「…………」
「お話し下さい。魔法薬の失敗ですか?それとも、魔法の失敗ですか?」
「私の魔法は完璧よ。あなたに失敗かと問われる程ヤワではない」
「では何をそんなに隠しているのでしょう?随分とおかしいですわ、あの人が姿を消すなんて。何か、私の見えないところで何かが起きているはず……」
「それが私だと?面白い事を言うわね」
「『面白い』?果たしてそうでしょうか?お嬢様も憤っていらっしゃいます。妹様は癇癪を起こされる一歩手前でした。……さぁ、パチュリー様?」
「うるさい」
また、溜め息が漏れてしまった。溜め息をすると幸せが逃げると言うけれど、どうしても、今だけは抑えようもなかった。
まさか、初日から誰かと戦うことになってしまうなんて、流石に予想外だった。やはりエスカルゴをここに留めるのは別の日からにすべきだった。
どうやら、私が思っていたよりもずっとリスクが大きかったらしい。でも、後悔しても遅い。それに咲夜が相手なら私の魔法でどうとでも対処できる。口封じしてしまえば良いというだけのこと。
「確かに私は、エスカルゴについて1つ知っていることがある。だけど教えない。教えたくないから、教えない。ただそれだけよ」
「……なら、力ずくで聞き出すまでです」
「この私と
「いいでしょう。スペルカードは3枚まで」
「残機0ね」
「!……1被弾でアウトですか。ならば速攻を……!幻世『ザ・ワールド』」
赤い弾幕に青と緑のナイフが出現。これは咲夜の十八番。つまり私にとって見慣れたスペルカード。いくら得意のスペルだからと言っても私が被弾するはずがない。
それなら、先日模倣したばかりのあのスペルで、意表を突いてやるのも面白いかもしれない。
「魔符『マスタースパーク』」
「え────」
鈴仙がやるように手を銃の形にしてみる。そして人差し指からファイナルスパーク並の太さのマスパを発射してやると、突然の事に驚きを隠せないらしい咲夜は、時間を止める間もなく被弾してしまった。
「な……何故、パチュリー様が、それを……」
「さぁね。さ、私の勝ちだから、あなたは大人しく下がりなさい」
「ッッ……分かり、ました……失礼します…………」
下唇を噛んだ咲夜は、時間を止めて姿を消した。相変わらず、能力を無駄遣いするヤツだ。ちなみに私の部屋には、私の魔力を流さないと開けられない特殊な施錠が施してある。だから壁や扉を破壊でもしなければ突破は無理だ。
「ふぅ」
椅子に腰かけた私は一息ついた。まずは1日目。問題はこれからだ。
独占を企む者がチラホラ……。危険だなぁ。