2日目。私とエスカルゴは一緒に目を覚ました。
本来私は睡眠なんて必要無い。でも「必要無い」だけで「常にしない」ワケではない。もし疲れたら身体を休める為に休むのと同じように、彼との夜の遊びの後、朝まで一眠りしたのだった。
「起きなさいエスカルゴ、もう昼よ」
「っ……昼っ!?」
「お寝坊さんも起きる時間よ」
「お、おはよパチュリー。……なんか腰痛いな」
「おはよ、エスカルゴ。……そうね、昨晩はちょっとヤリすぎたかも。昼ご飯、何がいい?」
「自分で
「あなた、完成品を創造るのはまだ下手でしょう。紅魔館のキッチン借りて料理でもしてくるつもり?今は甘えていいのよ?甘えなさい」
「ん……それなら……カスタードの菓子パンと、あとヨーグルトが食べたい」
「ヨーグルトは何味がお好みかしら?」
「アロエ!」
「はいお待ちどおさま。ゆっくり食べてなさいね。食べ終わったらまた読書の時間よ?」
「うん」
「……退屈だったら言ってね?その時は────」
「退屈じゃないよ。パチュリーが居るから……」
「……!あ……あっ、そう…………///」
喜んで食べてくれるエスカルゴを背にして、私は図書館を出る。すると入口の方からレミィの気配を感じた。危ない。この時間に来ると思わなかった。もし部屋を出るのがもう少しだけでも遅かったら、私が部屋を出るのと鉢合わせていたかもしれない。そうなれば部屋の中のエスカルゴは丸見えだった。
「あ、居た居た。やっと起きたのねパチェ」
「やっと?」
「さっきも来たのよ。なのに居ないから、小悪魔に聞いたら『眠っています』ってね。寝る必要の無いパチェが寝るなんて、余程お疲れだったのねぇ」
「……ええ、ちょっとね。で、何の用?」
「『何の用?』ですって?おかしな事を言うわね、いつも読書してるじゃない。何よ、その物言いは。まるで私を警戒してるみたい」
「っ!……悪いわね、ちょっと昨日の疲れが残ってるみたいで……」
「そうなのね。じゃ、適当に本借りるわね〜」
「待ちなさい」
「……?どうしたの?」
言ってから、しまったと思った。少しばかり彼について探りを入れようと思ったのだが、余計な事をしてしまったかもしれない。あのまま、スルーしていればよかった。けれどもう呼び止めてしまったら後には引けない。「何でもない」は不自然すぎる。
「レミィ、さっきも来たのよね?」
「そうよ?」
「本を借りるだけなら私が居なくても可能なのは、レミィもよく分かっているはず。何故わざわざ私が起きた頃にまた来たの?」
「…………」
「あなた、本当に読書に来たの?」
「……やれやれ、察しがいいわね。相変わらず」
「そっちこそ、色々お粗末よ。相変わらず」
「ふぅ……。なら言わせてもらうわ。パチェ、あなた何かやらかしたでしょ?」
「それ昨日咲夜にも言われたわ。魔法薬とか魔法の失敗を疑われたわよ」
「魔法は……ともかく、パチェは魔法薬は苦手よね?事実、過去にはそれでエスカルゴが子供になった事あるものね?猫耳の薬だとか、成功例もあるけれど確実とは言い難いものよ。……さぁ、隠し立てすると為にならないわよ?正直に吐いちゃいなさいな」
「吐くも何も、私は何もやらかしてないから」
「ふぅん……そう?ならいいけど。じゃっ、本借りるからね〜」
「はいはい……」
やがてレミィは読書を始めた。まるで、私が監視されている気分だ。エスカルゴがいつ出てくるかがまるで分からないので、トイレに行くと言って席を外し、個室に入ってから瞬間移動で自室に入る。
「エスカルゴ、読書中に悪いわね、今ちょっとだけいいかしら」
「ん、何?なんかあった?」
「今、レミィが来てるの。……だから、私が来るまで部屋から出ないで欲しいの。いいわね?分からないところがあったら後で教えるから、栞でも使って印つけておいてね」
「うん、わかった」
(それにしても、魅了かけてからはすっかり口調が甘える時のそれになったわね。可愛いヤツ……)
改めてトイレに瞬間移動した瞬間、私は、背筋が凍るような思いをした。なんと、トイレの向こうにレミィが居たのだ。それも、トイレの戸を叩いて、私が個室を出るのを待ち構えている。
「パチェ〜!まーーだーー?そこお気に入りの個室なんだけどー?」
「わ、分かってるから、待ってて……」
「……あら?気配が急に現れたわねぇ?」
「────ッ!!」
「素直にトイレに行ったと思ったら気配が消えるんだもの……ビックリしたわ。どこに行っていたの?」
「ぺっ……ペーパーを、取りに瞬間移動を……」
「それは有り得ないわ。ペーパーの有無は毎朝毎晩弦月姫ちゃんが確認しているから」
「!!」
「ねぇ、パチェ?あなたは何を隠しているの?」
「……かッ…………隠してなんかないからっ……!」
「そう?にしては、随分と焦っているようだけど」
「そんな事……無いから……お願い、トイレに集中……させて頂戴……」
「……。わかったわ。あ、でも私もトイレしたいから早くしてよね?そのトイレじゃないとダメなの〜」
「わかったから……」
まずいまずいまずいまずい。2日目にしてかなり追い詰められてしまった。まさかトイレに行くのを尾行されていたとは。やっぱりレミィは賢い。子供みたいに振舞っておきながらこの賢さ。この私が、こんな容易に追い詰められるなんて。
どうすればこの危機を脱することができるのか、良策が浮かばない。どうすれば……どうすれば……、レミィを上手く欺けるんだろう。
「……お待たせ、レミィ。悪かったわね、遅くて」
「もーっ、遅いわ!全くもー」
「先、戻ってるわね」
「ええ」
レミィがトイレに入り、鍵を閉めた音を確認した直後、また部屋に瞬間移動。エスカルゴはこちらを見るなりニコッと子供のように無邪気な笑顔を私に見せてくれる。ある意味これが癒しかもしれない。
「今度はどうしたの?」
「ピンチよ、ピンチ……!レミィが勘づいた……どう切り抜けるべきかしら、困ったわ……!」
「昨日、咲夜さんも来たんでしょ?そんな感じで、どうにか弾幕ごっこで誤魔化せないかな……?」
「…………レミィ相手に弾幕ごっこね……思い付いてはいたけれど、リスクが高いから敢えて除外していた選択肢なのよね……。でも、もう……これしか無いのかしらね…………」
「……」
「ええ、そうだわ……レミィをどうにかできなくて、霊夢に勝てるワケがない……!すっかり忘れてたけど今の霊夢は吸血鬼なんだし、元から高い身体能力がレミィ並に強化されたと見るべきだわ。となると、霊夢と戦うのは既定路線なのにレミィとの戦闘だけ避けるというのは逆に不利に働くかもしれない……。仕方ないわね、ここは正々堂々勝負するわ……!」
「頑張ってパチュリー!応援してるから!」
「ありがとう。無事に戻ってきたらハグしてもらうから、覚悟してなさい」
「わかった、待ってる!」
(……やっぱり子供っぽい。エスカルゴって、本質は子供のままなんじゃ……?子供だからこそ好きな物は独占したい、だからハーレムを広げてしまう、と。そういう事かしら。もしそうなら、子供なのは私も同じかもね……)
部屋を出ると、つい先程と同じように、レミィが図書館に入ってきた所だった。重ね重ね、ナイスなタイミングだったと思う。
そしてレミィが席に着いたところで、私から話を切り出してみる。
「レミィ、話があるの」
「!」
「レミィも咲夜もエスカルゴの行方を探している。そうでしょ?」
「ええ。それがどうかした?」
「可能性の域を出ないけれど、彼の行方は1つだけ心当たりがあるわ。可能性の話だけれど」
「えっ?……じゃあ、挙動不審だったのはそういう事だったのね?」
「そうよ。……悪かったと思ってるわ……あなた達に責められるのが怖くて……隠してしまっていたの」
「……それなら仕方ないわね。で、彼はどこに?」
「でもやっぱり……教えるのはそれはそれで怖い……かもしれない。だから……1つだけ条件をつけさせてもらうわ」
「弾幕ごっこね?」
「ええ。私が勝ったらもう何も詮索してこないで。あなたが勝ったらあなたの問いに素直に答えるわ。スペルカード3枚まで、残機0で」
「5枚、残機2」
「え」
「このくらいの方がパチェとしても気が楽でしょ。どうかしら」
「……私は一発勝負で構わないわよ。気が楽だし」
「そう?気が楽だと言うなら……そうしましょうか。うん、じゃああなたの条件にしましょう」
「……」
とりあえず勝負に持ち込めた。後は勝つだけだ。大丈夫、私は絶対負けない。レミィには悪いけど、いずれは霊夢を目標にしているのだから、レミィに負けるワケにはいかない。
「さぁ、いくわよパチェッ!符の壱『バッドレディスクランブル』!!」
「ッ!!」
初手からキメにきた。壁に飛びつき、弾幕と共に突っ込んでくる。体術を得意とするレミィらしい。どうやら、本当にやる気満々らしい。
「ハァッ!!」
「!」
私のそばを通り過ぎると、ザザッと急ブレーキをかけて180°方向転換。そのまま床を蹴って再び肉薄してくる。凄まじい速度だ。狭めの室内でなければ私が見切れない速度だったに違いない。
けれど戦場は私のホームグラウンド。幾ら相手がレミィでも、私が負ける道理は無い。打つ手なら、無いことも無い。そのチャンスは一度。それだけで討ち取る必要がある。
「もらったッ!!」
「月符『サイレントセレナ』!!」
「……なにィッ……!?」
壁を蹴って飛び込んできた瞬間、魔法陣を展開。瞬時に魔力を充填し、線状の弾幕として床から発射する。猛スピードで移動している中で、空中で急に方向を変えることは叶わない。レミィは、まんまと私の誘導に引っかかったのだ。
────しかし、そういった緊急事態にも柔軟に対応できてこその主というものだ。ニヤリと笑ったレミィの顔に、ピシッと亀裂が走ったかと思うと、被弾直前で彼女の身体が細かく弾けてしまった。
「なッ……なんですって……!?」
「フフフ……忘れたかパチェ。我々吸血鬼は、多くの技能を有する最強の種族。細分化なんて容易だよ。どんな弾幕も、己の当たり判定を極限まで減らせば回避できるんだ」
レミィの勝ち誇ったような声がどこからともなく聞こえてくる。エスカルゴとは違い、スカーレット姉妹は蝙蝠状態でも通常通りに話せるそうなので、きっとそのお陰なのだろう。
それにしてもこれには困り果てた。弾幕も放てる蝙蝠が、私のサイレントセレナを回避しつつ周囲をバサバサと飛び回っている。いつ、どこから弾幕が飛んでくるか分からない。
……なら、範囲攻撃をするまでだ。
「日符『ロイヤルフレア』ッ!!」
「ぎッッ、ぎゃあああああああああ────!?」
サイレントセレナが終わったその直後、レミィは四方八方から弾幕を発射。サイレントセレナは私を囲うように発射していたので、レミィの攻撃がこのタイミングなのは容易に予想がついた。
そこでのロイヤルフレアだ。頭上に巨大な火球を生み出し、レミィ達を巻き込んだまま火球を維持。そこかしこから断末魔に似た叫び声が聞こえてくることが何より辛い。
「はァッ……はァッ……こ、これでどう……!?」
時間いっぱい火球を維持した後、レミィの復活を待つ。死にかけの蝙蝠含む全ての蝙蝠がモソモソと集まり、やがて右腕が焼け爛れたレミィに戻る。
「っ……やるわねパチェ……かなり本気だったみたいだけれど……?」
「…………」
「一体何があなたをそこまで駆り立てるのかしら。凄く気になるけれど……詮索しない約束だったわね。仕方ない。ゆっくり眠って腕の復活でも待つことにしましょう」
「……そうして頂戴」
強すぎたか。いや、そうでもしなければレミィに付け入る隙を与えるだけに終わっていた。ロイヤルフレアは頭上に巨大な火球を生み出す。つまりは、私本体はほぼ無防備も同然なのだから。中途半端は良くないとエスカルゴから学んだばかりだ。だから強気で立ち向かった、ただそれだけ。
「ただいま……」
「おかえり!どうだった……?」
「バッチシ……よ」
「おおっ……流石はパチュリー……!じゃ、頑張ったパチュリーにはご褒美だね。ぎゅーっ♪」
「痛い痛い痛い痛い……強くギューしすぎよ……」
「あ、ごめん……つい……」
「……いや、もうちょっと強くして」
「いいの?」
「ええ……その方が今は癒されそう」
「ふーん……?」
◆
「ねぇパチュリー」
「何?」
「……俺、パチュリーが心配だよ」
「なんで?」
「昨日は咲夜さん、今日はレミリアの相手をして……疲れてないかなって……」
「……そーね、疲れてるわね。でもいいのよ、これが私の癒しなんだから……。さ、休憩もそこそこにしてそろそろ続き、シましょ?」
「ヘヘッ、パチュリーがヤる気で嬉しいよ」
「あなたも、私で興奮してくれてなによりだわ」
来るかと警戒していた妖夢も、とうとう紅魔館を訪れることはなく、私達は昨日のように夜遅くまで性行為に没頭した。
ローテーションで言うと次は霊麗ちゃん。つまり彼が博麗神社に泊まる日。ある意味、明日が一つの山場かもしれない。
そう思うと、気持ちいいハズのセックス中でも、そちらが心配になり始めてしまった。結局この日は心配故にあんまりよく眠れず、眠い目を擦りながら3日目を迎えることになってしまった。