次の日。俺は朝も早い内に起き、予定通り彼女を監視する事にした。里に行くのであれば、きっと、俺の出番が来る。そういう未来だと決まっている。
別に、予知夢を見たワケじゃない。どこかの家に住み着いてると思われる、名も知らない日本人形のような座敷童子から、そういう報告を受けたのだ。
魔理沙の父親が娘の存在を思い出したと。
だから昨日、遠回しに「行けば殺されるから」と彼女を止めたのだ。魔法使いとなっていても場合によっては前回のように殺されてしまうから。
だから、もしもあの時のようになったら、今回は魔理沙の記憶も残しておこう。そうでなければ多分魔理沙も分かってくれない。ああ見えて頑固な所も垣間見える魔理沙だから────。
◆
「全く、エスカルゴの奴……何だってあんな事……。確かに、幼いながらに縁を切りたくなるような親父だったけどさ……お前に親父を貶される筋合いなんて無いっつーの。あーあ、思い出しただけでイライラするぜ……次会ったらガツンと言ってやるかァ」
昼が近くなってきた頃、箒を引っ掴んだ魔理沙は家を飛び出した。それでも尚、上空でもまだ、昨晩会話していた彼の愚痴をブツブツと呟いている。
絶縁上等な父親でも、他人に父親を貶されるのは彼女としても不愉快だったからだ。エスカルゴは、ある意味彼女の地雷を踏んだと言える。
「霊夢にはあんな束縛してないよな?なんだって、私にはあんな事を言ったんだ、アイツは……。少し、嫌いになりかけたぜ……全くよぉ……。まぁ、悪気は無いって分かってるんだけどなー……とはいえ、あのセリフがムカつく事には違いないしな、うん」
エスカルゴと違い、里では人間のように振る舞う魔理沙は、わざわざ里の入口の方で着地する。昔を懐かしむように、里を歩きたいという気持ちも若干あると言えばある。
そんなノスタルジックな想いが、自分自身の足を掬われることになるとも知らずに。
「……なぁ、もしかしてアレなのか?」
「ああ……写真で見たな、アイツ。……残念だけど…………行くか」
「おう」
「〜♪」
離れた場所で里人達がそんな会話をしているとは露知らず、魔理沙は鼻歌を歌いつつ里の中を歩く。
殆どの里人達は、霧雨魔理沙という少女の存在を忘れている。数年前の魔女狩りの際、エスカルゴによって記憶を消されているからだ。
しかし魔理沙の父親が魔理沙の存在を思い出したのは、他でもない。ごくごくありふれた理由だ。
ある日、すっかり年を取った魔理沙の父親は家の片付けをしていた。己の死後、女房や親族に片付けという迷惑をかけない為にだ。
道具屋である彼女の実家は里では有力者の部類に入る家だ。故に、土地も広ければ家も大きく、物も多い。だから、自分の目が黒い内にと片付けをしていたのだった。
そんな時、嘗て魔理沙がそこで暮らしていた証を見つけてしまった。家族写真だ。それを見た瞬間、消されたハズの記憶が甦った。
魔法への憎悪、そして、魔法に手を染めた娘への憎悪も全て。
それからの魔理沙の父親は、人が変わったように身体を鍛え始めた。この想いを遂げるまでは、まだ死ねないと考えるようになったからだ。だから己の死後への備えである片付けも、はたと止めた。死ぬ準備などしていられないと思うようになったから。
「なぁなぁ、君ぃ」
「ん?」
里を歩く魔理沙の前に2人の男が立ちはだかる。財布も持たず手ぶらで、ガタイのいい男と、どこかオドオドとしている男。まるでヤンキーとパシリのように彼女の目に映った。
「あ、アンタは……キリサメマリサ、だよな?」
「ああ、霧雨魔理沙は如何にも私の事だ。なんだ、ナンパかぁ?悪いなぁ、彼氏デキたばっかなんだ。それはもう束縛がキツイ奴でさぁ〜、こうして話すだけで嫉妬されちまいそうなんだよ」
「そう、なんだな……。あのさっ……じ、実はッ……」
「オイ。……行くぞ、コラ」
何かを話そうとする男を、もう1人が突き飛ばすようにして止める。ドスの利いた声で、眉間に深い皺を刻みながら軽く声を発しただけでも、魔理沙も男もビクリと思わず震えてしまった。
「悪ィね、散歩の邪魔して。んじゃ俺らはこれで」
「……?そんなナンパじゃあ女は釣れないぜ?」
「あぁ、そうだな。じゃあな」
ガタイのいい男は、もう1人を引っ張るように、どこかへ去っていった。
気を取り直して魔理沙は里を歩き始める。今回は菓子の材料を買いに来たので、迷う事無く、道草を食う事も無く、真っ直ぐに店へ向かって歩く。
歩き始めて結構経って、里の深部に到達する頃。魔理沙はふと里に起こっているある異変に気付く。
(人が居ないだと?やけに静かだな……気持ち悪い。さっさと買って帰ってエスカルゴ探してボコるか。それで手打ちにしてやろっと)
すると建物の影から、ザッザッと勇ましい足音を立てながら1人の老人が現れた。白髪でそれなりに高齢そうな顔付きに似合わず、着物から覗く手足は年齢に不相応な程に太く、若い男性のような体付きだった。
魔理沙はそんな男を見て、すぐにそれが誰だかを察した。
「お、親父……!?」
「遂に来た……この時が……!!」
宣誓をするように、片手を上げる魔理沙の父親。すると、魔理沙を包囲するように、建物の影や建物から、鎌や鍬、包丁、刀剣を持った男達が現れる。中には火縄銃を構える者も居る。
そしてその中には、先程魔理沙に声をかけてきた2人組もいる。先程のアレはナンパなどではなく、本人確認をしていたのだ。
何せ周囲の人物からも娘の記憶が消えているものだから、彼女の父親は写真を見せて魔理沙の容姿を協力者に覚えさせたのである。
「おいおいおい、なんだその物騒なモノは……!?」
「クックックックックックッ…………!」
「な、何がおかしい!?」
「おかしい?……違うなぁ……喜びに打ち震えているんだよ……やっとこの時が来たのだとな……!!」
「何の話を……いや待て、本当に親父か?話し方も、笑い方も、身体も……全てが変だ……」
「クククッ……クヒヒヒヒッ……どうしてこの前まで忘れていたんだろうなぁ……憎くて憎くて堪らない、お前の存在を…………!!」
「忘れてた?……憎い?」
「おっと、これ以上喋る必要は無いなァ〜。俺は、お前さえ殺せればそれで満足よ!お前達、さっさとその女を殺せ!お前らの一族郎党の命は、この俺が握っているんだ!!」
「くっ……うおおおおおっ……!!」
父親が合図を出すと、魔理沙を囲んでいた男達が一気に襲いかかってくる。箒に跨り緊急避難をするつもりだった魔理沙だが、そんな彼女の腹を1つの鉛玉が貫通する。
「ぐぁッ……!?」
力が抜けた魔理沙は飛び上がる事も叶わず地面に膝をつく。銃撃で臓器が損傷したか、口元から血を垂らしてしまう。
「悪く思うなよ、嬢ちゃん……!お前を殺さないと、俺の女房が……」
「家族が殺されちまうんだッ……」
魔理沙を掴み上げる里人達。しかし躊躇っているらしく、中々魔理沙に攻撃をしない。そればかりか武器などを持つ手はガクガクと震えている。
掴まれるだけで撃たれた腹は痛み、脂汗を流して痛みに悶える。
「ギャアッ……!?お……親父、な、にを……!?」
「ん〜?あぁ、この拳銃か?火縄銃よりも小型化、軽量化に成功……尚且つ隠密性を高めた銃だ……!!俺が開発を指揮したんだ、この時の為にな……!」
「んな事を聞いているんじゃない、この人らに何をしたのか聞いてんだッ……」
「決まってるだろう、家族を人質に取ったのさ……!金の無い奴に金を掴ませ俺の手足とし、コイツらの家を見張らせ、俺はコイツらに、従うよう命じた!人である事をやめたお前に敵うはずがないと踏んでそんな面倒な手を使ったワケだが……」
退け、と手で合図する親父。そして魔理沙へ歩み寄り、土に塗れた彼女の髪を掴むなり、顔をグイと寄せて下衆な笑顔を見せる。
「お前が人である事を捨ててまで得た力は……所詮、こんなモンだ……!俺の指1本すら折れないなんて、なんて非力なんだぁ……?」
「離、せ……クソ親父……が……ッ」
「ん〜?年を取ったからかよく聞こえんなぁ〜??もう一度言ってみろ……!!」
「クソ親父って、言ったんだよ!!」
「うぬっ……ぬぁぁぁッ!!」
ドカッドカッと連続して地面に頭を叩き付ける。その度に耳や鼻に土が入り、呼吸する度に咳き込みそうになってしまう。
そして頭を踏みつけようとするその瞬間、一部の里人が悲鳴を上げながら逃げ惑い始めた。ひっそり彼女を見張っていたエスカルゴが現れたからだ。
「………………」
目が据わっている。何も言わない上に無表情だがこれから起こるであろう事は里人達には本能で理解できていた。下手に手を出せば殺されると。
「黙って見てりゃ、テメェは……!魔理沙に何て事をしてやがる!?」
「あ……ぇ……エスカルゴ…………」
「……言っただろ、魔理沙。こうなるって」
「────ッ」
「臆するな!魔理沙だけを殺せばそれでいいッ!!例えお前らがアイツに殺されても、お前らの家族は俺が養ってやろうじゃないか!!」
そう言われても、武器を構える里人は動かない。怖気付いているのだろうが、彼らが動かないのならそれに越したことはない。好都合だとエスカルゴは考える。
里人が動かない中、魔理沙の父親を突き飛ばし、エスカルゴは彼女をそっと抱き起こした。魔理沙は口や腹から赤黒い血を流して、頭からも少々血を流している。
「貴様、邪魔をするな!」
「うるせぇ……!」
「!?」
「どうしてアンタはそこまで魔理沙をッ!コイツはテメェの事を信じてんだぞ!?俺が幾ら止めても、実の父親だからって信じてたんだ!俺にキレる程!それをテメェ……テメェ、それでも人の親かよ!?」
「そのガキの存在自体が、俺の人生における唯一の汚点なんだ!!だから、過去を精算する為に殺す!それだけの事だろう!すっこんでろ、ガキが!!」
「汚点だと?……私が……!?」
「……あぁ……『唯一』ではないなァ。あの母親から生まれた事自体が、俺の人生で言う最大の汚点なのかもしれんなァ!魔法なんかに手を染めるから若いクセしておっ死ぬんだ!魔理沙、お前もそうなると思っていたぞ!なまじ俺の母親と似ているからな、俺はそうなると予知していた!だが俺のその予知は外れるどころか、現実は予知を上回る事になった!お前が魔法に手を染めた、いいや違うなぁ、人外に堕ちたからだッッ!!」
「……ッ!だ、だがな、娘である私を殺せば、親父は殺人罪、いや子殺しで投獄だ!!その残り少ないであろう人生を、湿っぽい牢獄なんかで過ごしたくはないはずだぜ!だからもう────」
「ハッハッハッ、何を言っているんだ妖怪!お前は妖怪、俺は人間!子殺しなんぞ適用されないッ!!幻想郷はなァ、妖怪は人間を襲い妖怪は人間に退治される運命なんだよォ!だから!俺がこれから行うのはッ!!子殺しではなく、正当なる裁き!!正当なる妖怪退治に他ならないッ!!」
「…………」
「正直に言うとな?お前が人外になったと風の噂で知って、俺は安心したんだよ…………!!心の底から安心したッ!!大喜びしたぞ!!」
「え……」
「そりゃあそうだろう?人外になりゃあ心置き無く殺せるんだ!投獄され、店や仕事、金も土地も何も失わないッ!過去を清算できる機会が舞い降りた!俺は小躍りしたよ。酒も飲みまくった!!それほどお前を始末したくて始末したくて堪らなかった!!人生の悲願とも言えるんだ、お前を殺す事は!!」
「…………」
「なぁ、魔理沙。お前が俺の娘だと言うならこれが最初で最後の親孝行だァ……。せめて大人しく、俺に殺されるんだなァッッ!!」
連続して発砲する親父。エスカルゴは彼女を庇い自分の背中で受け止める。一部の銃弾は心臓に到達していたが、そんな穴程度で、不死身で再生特化の彼が死に至るはずもない。
しかし残弾が許す限り発砲し続け、遂に脳天にも到達し絶命したのか、エスカルゴは動かなくなる。
「あっ……あ、ぁ……オイ、エスカルゴ……起きろよ、起きて……なぁっ、起きて、くれよ……っ!おいっ、不死身なんだろ!?目を覚ませ、おいって……」
「銀の弾丸ッ!吸血鬼にゃ銀が有効!集めるのには苦労したぞ、なんせ銀なんざ幻想郷にはカス程しか存在しなかったからな……!如何に再生力が高くとも二度と復活はしないだろう!コイツは骨になるまで晒し首だ!」
「嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ……!コイツは……いつも復活するんだ……おちゃらけたように見えるけど案外頼りになって、ヘラヘラしながら復活するんだよ、それがコイツなんだっ……なあ、早く目を覚ませよ、死んだフリなんてするなよっ……おいってば!」
「フン、バカな奴だ。首を突っ込まなければこんな人里で死ぬ事も無かったのにな……妖怪なりに家族もあるだろうに、本当にバカな奴だよ」
「謝るからっ……!昨日、お前に酷い事を言ったの、謝るから!謝れてない……まだ伝えられてない……!まだ『ごめんなさい』も『好きだ』も、まだ、まだ何も、ちゃんと伝えてな……ぐぎゃぁっ!?」
銃弾を装填した父親は魔理沙の背中に発砲。頭は敢えて狙っていない。痛みを味わわせる為だろう。1発、2発。魔理沙が何かしらの言葉を発する度に発砲する。3発、4発。銃声は中々止まない。
「ゲェッ……オ゙エッ…………い、ギ……ぐッ……」
「何発撃ったか忘れたがまだ生きているか。フン、化け物め。ゲロまで撒き散らしおって。どこまでもお前は俺の汚点だ……」
5発、6発。懐に手を入れ弾を取り出す。しかし父親はある事に気が付いた。銃弾は残り1発のみ。魔理沙を撃って楽しむのはもう終わりだと、密かに残念に思った。
近くの里人から火縄銃を借りる手段もある。だが彼は強く拘った。己が開発を指揮した武器で彼女を傷だらけにし、殺してやる事に。
「なぁ……エ、ズ……カル゙ゴ……ゲハッ…………もぉ……起き、ろ……よ……、バカ……ヤロ……ォ」
「この時を以て俺の過去は清算される…………死ね……俺の人生の汚点!!」
彼の身体に縋っている魔理沙の頭に、ゴリッ……と銃口を突き付ける。そしてそんな勝ち誇ったようなセリフと共に引き金を引いた──かと思われたが、そんな彼の腕をエスカルゴが握り潰した事により、発砲は阻止された。
「なっ……あぐッ、ぐぁああぁっ!?あぎゃああぁあああぁっっ!!手、手がッ、雑巾みたいにィっ……」
「あ……あっ……お、起き、たぁ……」
「悪ィな……弾の衝撃で気絶してたみたいだ」
「ば……かぁ…………死ん、だ……か、と…………」
「治癒『
「!」
魔理沙に治癒魔法を掛ける中、エスカルゴはふと考えていた。魔理沙にこの魔法を使うのは果たして何度目なのかと。前回は何度も何度も治癒させた。今回は一度で済むならいいな、と思っていた。
「っはぁ〜……やっと痛いの治った……」
「そいつは良かった。……何発撃ったんだコイツ……魔理沙の身体から銃弾が零れてきたぞ」
治癒の際に、彼女の銃創から弾が零れ出てきた。仕方なく従っていた里人達は、そんな様子を見て、逃げ出し……吐き気を催した。中には、従うしかない自分の弱さを悔いる者も居た。血が出るほどに唇を強く噛み、魔理沙の親父を睨みつけている。
「このッ、クソガキ共がァッ!!魔法も魔法使いも妖怪もクソ喰らえだ!人間こそ至高だ!!よって!身から出た錆であるお前には俺自らが天罰を下す!人生の汚点を、俺自ら消してやるんだ!!」
「……こ、の……どこまでも腐り切ってやがる……!」
「何だとォ!?」
「へぇ……『腐り切ってる』なんて魔理沙らしくない事を言うじゃんか」
そう言うエスカルゴは薄ら笑いを浮かべている。しかし今の魔理沙にはそんなのはどうでも良くて、彼に『何を笑っているんだ?』と問い詰めるなんて無駄な事はしなかった。
「だってアイツ……魔法を……私の婆ちゃんを……ッ!私の人生を、バカにしやがった……!!」
「当然の事を言ったまでだ!事実だろうが!!」
「そうだよ魔理沙。親父は魔法を、お祖母さんを、魔理沙をバカにしてる。許せねぇなぁ……?」
「フン、ほざけ!人生もクソもあるか、大して長く生きていないガキの分際で!!」
「お前なんて……ッ……お前、なんて…………私の、父親じゃない!!」
「今更何を言っているんだ?俺はお前が魔法に手を染めたあの日から、お前を娘だと思った事は一度もありはしないぞ!」
「〜〜〜〜〜〜ッ……!!」
ギリリッと歯を鳴らした魔理沙は、エスカルゴに握り潰された手を押さえる父親を殴りかかろうと、エスカルゴを突き飛ばすように離しながら、父親に向かっていく。
しかしそんな魔理沙の腋の下に手を入れて、彼は魔理沙を止めた。
「くっ……離せよエスカルゴ!離せ!!」
「ダメだよ魔理沙、落ち着け」
「落ち着けったってなっ……!!」
「……」
◆
でも、良かった。前回とは違って、敵が1人で。
もし複数居たら、人口が大幅に減少したとして、軽く問題になっていただろう。前回はそれらを考慮したから復活させてやったのだから。
「……」
「殴ってやらないと気が済まない!!」
「ハハハハッ……所詮お前はその程度だ!口で吠えるばかりでそんな力は無いガキの分際でなァ!ヒャハハハハハハ!」
魔理沙は肩を震わせて、トーンを落として呟く。変身していないにも関わらず魔力が漏れ出している気さえしてくる。
「……す…………」
「あぁ?なんだァ?」
「ころ、してやる…………殺してやる……殺してやる……殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる……うぅあああああああああぁぁぁぁっっ!!!」
「待てっつーの、魔理沙」
「離せ!もう我慢ならないッ……殺してやらなきゃあ気が済まないっ……!!コイツがこんなにクズだとは思わなかったんだ、チクショオオオ!!」
「親殺しは無間地獄レベルの大罪だ。あんな所に、魔理沙を行かせたくはないよ。殺しは俺に任せて」
「イヤだ!親父は私が殺す!!」
「クズは一思いに殺す事すら勿体無い。だから俺に任せろって言ってるんだよ」
「…………どう、するんだよ……ッ」
苦しめて殺すと伝えると、魔理沙も僅かに溜飲を下げたようで、暴れなくなったので、俺も彼女から手を離し……反対に親父の首根っこを掴むように軽く持ち上げた。
「さぁな。……なぁ魔理沙の親父さんよ。アンタは、心が死んでしまうほどに苦しむ死に方だと言われる死に方、知っているかい?」
「あぁ……!?何をワケの分からん事を……」
「クズは楽に死ぬ事すら許さねー。散々苦しめて……殺してくれと懇願するようになるまで、心を殺す。俺が親父にし忘れた事……魔理沙の親父であるお前にしてやるよ。……おい、他の人間」
「「「!!」」」
「『今日は何も無かった』。この事は他言無用だ。アンタらも、分かってんだろ?」
「あ、ああ!アンタの事も霧雨のオヤジさんの事もその娘の事も……今日は見ていない!!俺達は、何も知らない!」
1人が喜色を露わにしながらそう言うと、周りの人間もこぞって似たような言葉を並べ立てる。そのセリフを聞く度に親父の顔色が悪くなり、血の気がサァッと引いていくのは、何とも面白かった。
「うん、とりあえず俺に寝返って正解だね」
「き、貴様らァっ……分かってんだろうなぁ!?俺に逆らい俺を見殺しにするという事はッ!!貴様らの家族を見捨てたという事に等し────」
「クセェ唾飛ばしながら喋んなよジジイ。いいか?お前は今から死ぬんだよ。だが、その事実がお前の部下だの手下だのに伝わる事も無い。つーか民家を見張る不審な野郎は、今頃は座敷牢だろうしな」
「な…………なん……だと…………?」
「クククッ……クフフフッ……おいおい、そんな顔をするなよォ、クソ親父。この俺が何の対策もせずにこうしてお前を捕えるワケが無いだろぉ?」
「!?」
「お前の部下……仮にチンピラとでも呼ぼうか。そのチンピラのボスであるお前が戻らなかったら、まず確実に不審がるだろう?だとすりゃあ、脅迫されて従ってるこの人間達の家族が危うい。守る為にゃあどうするか?俺はどう考えたでしょーか?」
「…………」
「捕まえて自警団に突き出したのさ」
「は……!?」
「俺ァ妖怪ながらも自警団に顔が利くんでね。不審人物を見付けたらとりあえず連れて行くようにしているんだよ」
妹紅、慧音繋がりで生まれた自警団との繋がりがこんな形で役に立つとは思わなんだ。当然ながら、コイツの身柄は自警団には渡さない。魔理沙も納得するような方法で始末をつける。
(……だ、大丈夫だ……。
「締め上げたらすぐにゲロったようだぜ?民家前にずっと居た理由も、誰に従っていたのかも……ね」
「……は?」
当然俺は魔理沙を見守らなければいけないので、チンピラへの対応は分身にやらせていた。それも、併せて監視していたというだけの事。
俺(の分身)を見たチンピラは命の危険を感じ、計画をゲロったというワケだ。
チンピラの数はそれなりに多かったようなので、自警団は未だにその対応に追われていて、魔理沙の実家に凸する事はまだできないだろう。とはいえ、それも時間の問題だ。
「お陰で俺の株も上昇したさ。人間の家族も救えて株も上がる!ああ、一石二鳥!!流石は俺だよな。なぁ、お前もそう思うよな?親父ィ……」
どうせ脅迫や金で釣った奴らなんて忠誠心なんぞ欠片も無い。本人が居なければ、所詮はこの程度。これが人間の弱さだ。漫画の主人公の如く心が強い人間なんて、そうは居ない。あの白蓮でさえ、弟の死をキッカケに死を恐れるようになってしまったのだから。
すると里人の何人かが、親父を捕縛する俺に何か問うてくる。
「な、なぁ!俺らの家族は本当に無事なのか!?」
「嘘とかじゃないん……だよなぁ……!?信用してもいいのか!?」
「神に誓ってもいい。家の前で見張られていた家の家族は無事だよ。今すぐ帰って安否確認でもすればいいさ」
「あ……ありがてぇ……!」
「け、けど……何の対価も無しに妖怪がそんな……」
「オイそういう事言うなよ」
「だがそうだろ?コイツだって妖怪だ……」
ふつふつと湧いてくる苛立ちを抑えながら、俺は里人達に言ってやる。いちいち殺すのではなく少しくらいは対話の努力をしなくては。以前の失敗から俺だって学んだのだ。
「……家族を助けた対価と言っちゃアレだが、俺から幾つかお願いしてもいいか?」
「ほら見ろ、妖怪なんてそんなモンなんだ」
「っ……」
「多分俺は、これからも色んな子とのデートや家族サービスなんかで、里を使わせてもらう事になると思う。だけど、その度に陰口を囁かれたりするのは気に食わない。……それを、やめてくれないか?」
「…………」
「もう1つ。妖精虐め、俺の家族や彼女への不埒な行いや発言は絶対に許さない。もしも判明したり、見かけたならそいつをジワジワ殺す。そんでもって一族郎党も皆殺しにしてやる」
「……それから?」
「これだけ。あー、あと、これを広めてくれるか?阿求が生きてた頃に追記してもらってたんだけど、本が読めない人も居るだろうからさ。今言った事をなるべく正確に、できれば里全体に広めてくれれば有難いかなって思うわ」
「……それだけかよ」
「ああ。じゃあ俺らは行くよ。……行くよ魔理沙」
「ん……」
片手で親父の首根っこ、もう片手で魔理沙の手を掴み、幻想郷西部の荒廃した土地へと移動。そこに親父を放り出し、逃げられないよう念入りに両足を踏み潰しておいた。
俺達の知識の限りを尽くして、身も心も極限まで苦しむ殺し方をしてやろう。
前回よりも親父のクズさ増してない?気の所為か。