「……ッ!?吸血鬼共の行動に統率が取れ始めた!!まずい!!全隊、全力で押さえろッッ!!天魔様が現れるまでは持ち堪えて…………うわあああっ!!」
山の長、天魔が現れるまで、どうにか吸血鬼達を押さえようと奮闘していた各種の天狗達だったが、やはりと言うべきか、種族の違いによる基礎能力の違いばかりはどうにもならずに、その圧倒的な身体能力の前に為す術も無く吹き飛ばされてしまった。
「て、天魔様……は、早、く…………」
「椛っ!!」
「椛さんっ!!」
間一髪の所で椛を救出する射命丸親子。他の者も助けられる者は助け、そうでない者は目を背けつつ守矢神社の大規模な結界にまで連れてきた。
組織に属している天狗であれば天狗の里や宿舎に逃げるべきだが、文とて感情のある女性。旦那達を通してとはいえ、義理の親族である椛を他の天狗と同じ扱いはできなかった。
すると守矢神社の風祝、東風谷早苗が出てきた。早苗もエスカルゴと深い繋がりのある女性なので、文が椛を連れてきた理由もすぐに察せられた。
「椛さん!大丈夫でしたか!?」
「早苗、さん…………大丈夫です……腕に少し掠り傷がある程度で……」
「掠り傷!?違うでしょう、引っ掻き傷でしょう!この傷、吸血鬼の爪ですね?待ってて下さい、すぐ応急処置しますから!樹理愛、救急箱ー!!」
「ありがとう、ございます……イテテッ……」
彼女の娘、樹理愛が救急箱を運んで、早苗が椛の怪我の応急処置をしている間、文は神妙な面持ちでこの非常事態について考え込んでいた。それでも、結論なんて出る筈もなく、諦めて訊ねる事にした。
「……ねぇ、椛。この襲撃は一体、何なの?」
「分かりません。ただ、突如、噴煙の中から奴らが溢れ出したのは確実です。エスカルゴさんのお陰で吸血鬼特有のあの気配は覚えていましたから、すぐ警告しに行くのではなくて、即座に天魔様に直接、報告に行きました。ただその頃は少数であった為に我々に対処を命じられました……。その数名の対応をしている間にいつの間にか数を増やしていて、遂に近くの小隊も呼び寄せて共に戦ったのですが……」
「まぁ……天魔様のそのご判断はご尤もよね。相手が吸血鬼だろうと、侵入者如きにいちいち天狗の長が直々に対応するはずが無いもの」
「ええ。私もそれは分かっています。天魔様のあのご決断に文句はありません。ただ、妖怪の山がまた吸血鬼に荒らされるなんて……!」
「数年前、クレイドールとその配下にも荒らされて大変な事になったのに……。どうして妖怪の山ってばこんなに面倒な事に巻き込まれやすいのかしらね。だいだらぼっち……いや、巨人の件もあったし」
「本当です……その度に多くの血が流れ……もう沢山ですよ……!」
「……。ところで、ヒビキさんや他の同僚は?あと、寿くんは?」
「ヒビキとは別行動をしていたので分かりません。ただ、四肢を失っても敵の喉笛に食らいつくほどの気合いで戦っていると思います。将輝も、楓も……。寿は宿舎の方に居るかと思いますが……」
「そう……なら、一先ずは安心かしら。じゃあ私は、はたてを探してくるわ。早苗さん、はたてをここに避難させたいんですが、構いませんか?」
「はい、大丈夫ですよ!」
「ありがとうございます。穹、あなたもここで待機して……って、穹!?どこに……」
「あれ!?さっきまでは傍に居たと……」
姿を消した穹に困惑する文、早苗、密かに焦りを覚える椛。するとそこに早苗の張った結界の外から樹理愛が焦ったような、困ったような顔で、縁側に待機している3人の元に走ってきた。
「ママ、文さんっ!穹お姉ちゃん、人里に行くって言ってた……!アイツらを止めに行くって……」
「なっ!?何を考えてんですか、穹は……!というか何故人里に行くだなんて……」
「あ……あぁっ……………!文さん……空を見て……」
「!?……そんな……まさか……ッ!!」
早苗は空を示して絶望の表情を浮かべる。なんと吸血鬼の一団が、人里のある方角を目指して大量に飛び立って行ったからである。
穹は敵の動きを誰より早く察知していた。だから妹にはそれを伝え、先回りしておく事にしたのだ。穹はその能力にて最高で亜光速に近い速度で飛行が可能。先回りするのは、赤子の手を捻るように簡単だった。
「────あれ?文さん、思い違いだったら悪いんですが、吸血鬼って雨などの流水が苦手なのでは?エスカルゴさんやご家族の皆さんは克服していると聞いていますが……」
「あっ……それだわ椛!早苗さん、樹理愛ちゃん!!今すぐ雨を降らせられますかッ!?」
「はい!では祈祷を始め……」
「いいよ!大雨降っちゃえ!……えぇぇぇいっ!!」
祈祷無しで雨を降らせる事が出来るのは、天候を操る樹理愛ならではの所業だ。しかし、モルモーによって流水という弱点も克服していた吸血鬼には、全く通用しないばかりか、一部の吸血鬼が、一気に守矢神社の結界に襲いかかってきたので、あまりにビビってしまった為に、雨を止ませて、神社の中に逃げ込んでしまった。
文はその時、生前の阿求が幻想郷縁起の吸血鬼の項目に記した、「中途半端に弱点を突いて、怒りを買わないように」という意の文を思い出していた。
モルモーの眷属としても、雨はもう弱点ではないとはいえ、単に鬱陶しかったのである。
◆
守矢神社にて、樹理愛が雨を振らせ始めた頃。
紅魔館では、メイド2人と門番が館を守護せんと3人並んで戦闘態勢を整えていた。
「邪悪な気がこちらに向かってきましたね。おや、山では雨ですか。このタイミングで局所的な雨……。もしや樹理愛ちゃんでしょうか……?」
「ですね。お嬢様が仰るには敵は吸血鬼らしいですから、雨……流水で攻撃しようとしてるのでしょう。でもまさか、天候を操る能力がこんな形で活かせるなんて……。それにしても何故こんな事に……」
「まるで戦争ね。愚かな人間みたいよ。ご主人様が見たらなんて言うのかしら。
「お父様を何だと思ってるんですかっ!?」
「ご主人様は最強の吸血鬼よ?……ま、侵入者の中にそこそこ強いのが2匹居るようだけど……。レミリアくらいの強さでもどうにか出来るでしょ」
「「レミリアお嬢様、です!」」
「揃いも揃って……はぁ……。んで、殺せとのご命令だったけど……弦月姫、あんたに敵が殺せるの?」
「えっ?……こ、殺せます、けど?ヨユーです!」
「そ。ならいいけど。大勢の敵を前にこの私の足を引っ張られちゃあ、かなわないしね」
「…………」
「あのねぇ弦月姫。これだけは覚えておきなさい。躊躇って自分が殺される位だったら、情け容赦無く殺しなさい。生き物はね、総じて何かの命を頂いて自らの命を繋いでいるの。この殺し合いも、外敵を殺す為じゃなくて生存競争だと思えばいい。自分の命を繋ぐ為の殺戮だと思えばいいの。そうすれば、少しは罪の意識も軽くなるってモンだわ」
「生存、競争……」
「あのね、あんたに死なれちゃ困るの。ご主人様が悲しむし。それ、分かってて躊躇ってんの?自分の身は自分で守る。降りかかる火の粉は自分で払う。当然の理よ。でもね、もしここで乱戦になったら、幾ら才能溢れる天人たるこの私でもあんたを守ってやれないのよ。だから、自分の身は自分で守るの。即ち、敵を殺しなさい。殲滅するの。最悪でも瀕死くらいまで追い込みなさい。いいわね?」
「……は、はい……」
「は……初めて天子さんがまともに見えました……」
「ちょっと美鈴、それどういう意味よ!?」
「いえいえ、普通の意味ですっ!あ、来ましたよ、敵です!敵襲!敵襲ぅー!」
「さぁ、幻想郷最大の生存競争の幕開けよ!死ぬんじゃないわよ、あんた達!私についてきなさい!!敵を殲滅するッッ!!」
「「はいッッ!!」」
◆
同時刻、人里。巨大な結界をどうにか安定させ、里人達を各家に避難させ終えた博麗姉妹は、上空に蠢く大量の吸血鬼達を見て、顔から血の気が引いていくのを感じていた。
「霊麗、ヤバい!奴ら、本格的に攻めてきたよ!」
「うわぁ……まるでイナゴの大群だねぇ」
「んな生易しいモンじゃない!この気配的に、あれ全部が悪魔とかそういうタイプの妖怪でしょッ!?ふざけてんの!?マジで最ッ悪なんですけど!!」
「多分、吸血鬼だと思う。種族的に見て似てるよ、お父さんとアイツら。……でも、この結界もいつまで保てるかわからない。どうしよ、流石にあんな数の集中攻撃を受けたら即破れるよ?」
「そもそも、里全域を覆う結界を張る事すらかなり重労働だからね……!!御札を1億枚くらい貼れれば守れそうだけどさぁ!」
霊愛は舌打ちしつつ空を睨みつける。幸か不幸か奴らに見付かる事は無いが、中々襲ってこない敵を前にして、どう行動すればいいのか、このままでも大丈夫なのか、と霊愛なりに色々と思案していた。
「仮に1億枚の御札があったとしても、全部に霊力込める前に私達が干枯らびるね〜……」
「あーーもーー!!お父さん、ちゃんとアイツらを殺しに行ってるんだよね!?もしこんな時どこかで遊び呆けてたら、流石に頭カチ割るよ!?」
「落ち着いてお姉ちゃん、こればっかりはキレてもどうにもならないよ。とりあえず集中集中。ね?」
「まーね……。って、山……あそこだけ雨?」
「守矢神社がある地点……樹理愛だね」
「どうせなら全域にやってくれないかなー……」
「様子見してから、全域に降らせるんだと思うよ。樹理愛なら幻想郷全域も余裕……って、あれれ?」
「止んだ……?なんで?……樹理愛に攻撃を?いや、早苗も諏訪子も神奈子も居るはずだし、それは多分無いよね。てことは……」
「流水を克服してる吸血鬼……。だから意味が無いと悟って中断したか。分からないけどそんな感じ?」
「……あーあ。本格的に面倒な事になったね」
「だね」
弾幕に使う分以外の御札を結界に貼り付けて、2人は更に警戒を強める事にした。
◆
その頃、迷いの竹林。妙な気配は既にここにまで及んでいるものの、まだ竹林上空に吸血鬼達は到達していなかった。
そんな時、永遠亭で暮らす玉兎と吸血鬼の混血、緋月・優曇華院・スカーレットは、竹林の中をただひたすら飛び回る特訓をしていた。撓る竹の反動で飛んで、より早く着地点の狙いを定めて着地する。彼女にとっては、特訓どころか遊びになっていた。それほど当たり前にこなせるようになっているし、その移動法に限れば、幼いながらも巫月と遜色無いレベルに達していた。
彼女がそうやって竹林内を縦横無尽に飛び回っていたその時。どこからともなく、口笛による綺麗な音が聞こえてきた。
緋月も鈴仙とエスカルゴの娘だ、音には人一倍に敏感なので、その音のする方へ、これまた竹伝いに飛んで行った。
「きゃっ……!?」
「おやおや……?これはこれは可愛い兎さんだねぇ、こっちにおいで……♡」
口笛が聞こえてくる方に行くと、そこにいたのは上半身は美しい女性、下半身が大蛇という、幻想郷ではまず見た事の無い妖怪だった。そんな奴を見た緋月は思わず、軽く悲鳴をあげてしまったが、当の蛇の妖怪は特に気に留める様子も無く、ただ優しい笑みだけを浮かべて、緋月に手招きをする。
「お……おねーさん、だぁれ……?」
「私?私はラミア。結界に穴を開けて、モルモーとエンプーサと合流しに来たの。でもその前に、少し遊びたくなってしまってね……」
「もるもー……えんぷーさ……?」
「そう、私のお友達なの。……あら?兎ちゃん、その背中の翼、なぁに?……もしかしてあなた、吸血鬼の血を引いてたりする?それとも、他の悪魔さん?」
「えっとね、えっとね……わたしのおとーさんがね、きゅーけつき、なの」
「!!……もしかして、エスカルゴ・スカーレットがあなたのお父さんなのかしら?」
「おねーさん、えすかるごのことしってるのっ!?おとーさんね、おとーさんね!つよいんだよぉ!!わたしも、おねーちゃんも、かてないのっ!!」
「……これは良い情報を聞いたわ。ねぇ、兎ちゃん。あなたのお名前を教えて下さる?」
「ひづき・うどんげいん・すかーれっと!」
「ヒヅキちゃん、ね。ふふ、可愛いお名前を付けてもらったのね。さ、こっちでお姉さんと口笛吹いて遊びましょう?」
「くちぶえ……できるかなぁ?」
「きっとできるわ。優しく吹くの。愛しいあの人にキスをするようなお口で、優しくね……」
「んー……?むずかしー……」
「手取り足取り教えてあげるわ。いらっしゃいな、ヒヅキちゃん♪」
「うん!」
優しく微笑んだラミアに手招きをされた緋月は、ピョコピョコと跳ねるように、駆け寄って行った。この先に残酷な運命が待ち受けているとも知らず。
ラミア
青色のロングヘアー、尖った耳、蛇のように細くて長い先の割れた舌が特徴。
モルモー、エンプーサと組んでいる怪物(妖怪)。下半身が蛇になっている。人魚の蛇バージョン。
太ももの付け根の途中から大蛇になっているので、間の隙間だけを見ると第二の谷間のように見える。膣は人間のモノなので、挿入可能ではある。
全ての海洋を統べるポセイドンの孫にあたる。
(ポセイドンの息子とその母による近親相姦により生まれた娘である)
彼女から見て大伯父に当たるゼウスに見初められて子作りしつつも、ゼウスの妻である嫉妬深いヘラに子供達を殺されて、ラミア自身も怪物に変えられてしまった上、不眠の呪いを掛けられてしまう。
それを不憫に思ったゼウスは、眠れぬ代わりにと、目玉を取り外し式にしてやった。(は?)
それ以降、口笛を吹き、釣られて寄ってきた標的を食べてしまう生活を始める。子供を攫い、その血を吸うともされている。子供を攫うのは、自身の子をヘラに惨殺されたトラウマを癒す為の行動だ、とも言われているが、結局抗えぬ本能(衝動)に負けて食い殺してしまう。ラミア自身は己の子供のようにその子を可愛がりたいだけである。
因みにポセイドンはゼウスに次ぐヤリ〇ン。子供も沢山。ギリシャに限らない話ではあるが、神代ではこのような近親相姦も当たり前に行われていた。
正真正銘、由緒正しい神の血を引く者ではあるが、ギリシャ神の血を引く者は
天人らしく仕切る天子、良いよね……良い……