山の近くで行われているレミリアとエンプーサの戦いは、苛烈を極めていた。
両者共に戦闘慣れしているのに、己の優れた身体能力をフルに活かす術を持つレミリアの体術は終始エンプーサを圧倒している。遥か昔からそれなりに戦ってきたエンプーサでさえ攻勢に打って出る事ができない程の激しさだった。
それでも尚戦いが激しいものとなっているのは、やはり、エンプーサが一筋縄では倒せないからだ。攻められなくとも決して当たりもしない。素早さはレミリアの方が上でも、致命傷となりそうな攻撃は完全に避けていたり、要所要所で青銅の足を使い、防御をしてくるのだ。
更に、レミリアから見てエンプーサは足技使いに見えた事もあって、ヒットアンドアウェイの戦法を執っている事も一つの要因だろう。
もし、そうしないで正面から殴り合っていれば、案外早く決着がついたのかもしれない。何せ夢魔と吸血鬼では、流石に悪魔としての種族の差に違いがありすぎる。如何にエンプーサが戦闘慣れしていて戦い上手であったとしても、種族差ばかりは簡単に埋められないのが現実なのである。
天狗に及ぶ程の速度、鬼に及ぶ程の怪力。悪魔の頂点に限りなく近い種族だ。対して、エンプーサは夢魔。悪魔としては中堅だと言える。差は歴然だ。
しかしレミリアがさっさと決着をつけないのは……彼女はこの勝負を存外楽しんでいるから、なのかもしれない。
「フーッ……フーッ……」
「フフ、そんなに身構えていないで、早く掛かってきなさいよ。つまらないわ?」
「こ、このッ、クソガキがァ……!!」
「口ばかりじゃつまらなさに拍車をかけるだけね。そろそろ咲夜達もモルモー達と合流した頃でしょうから、決着をつけましょうか?エンプーサ?」
「ッ……」
「そんなんでどうやって神に目をかけてもらってたのか、全く分からないわね。強さではない方向で、気に入られてたのかしら?神の考えなんて、私には全く理解できないけれど……多分だけど……あなた、ヘカテーとやらに嫌われてるわよ?」
「!?……そ、そんな事、あるものか!私は……」
「夜符『バッドレディスクランブル』」
「そんな体当たりを喰らうと思うなッ!!」
「!!」
虚空を蹴り残像を残す勢いで体当たりを仕掛けるレミリア。しかしエンプーサは、その青銅の脚にて彼女を蹴り上げる。
元より、少女というよりは幼女に近いレミリアの体格だ。夢魔とはいえそこに悪魔の力が乗せられた蹴りでは、否が応でも身体は上空に打ち上げられてしまう。
けれども、当のレミリアは、それを狙っていたと言わんばかりにニッと悪魔らしい笑みを覗かせる。
「『シーリングフィア』!!」
「────ッ!?」
重力加速度よりも遥かに急加速して、エンプーサ目掛けて頭を下にして落下してきたのである。
ここにきてまさかの頭突き攻撃。しかも、まるで弾丸のように速いその動きに、エンプーサは回避が僅かに間に合わず、ゴツンと頭をぶつけてしまう。
「フギッ……」
「痛い痛い。あー、痛いわー。……さて。……お前の望みを叶えるようで少し胸糞悪いけれど……そろそろ本当に終わらせましょうか」
「…………一体何を考えている?」
「お前の望みを叶えてやるって言ってんのよ」
「……?」
「悪魔召喚……エスカルゴ・スカーレット!!」
「ッ!?」
鮮やかな紅い光を放ち、魔法陣から彼が現れる。悪魔だが召喚魔法程度なら使えるのがレミリアだ。その圧倒的な魔法力は妹をも凌駕しているという。とはいえ、フランは魔法少女だ。圧倒できていないらしい。
「よう。忙しそうで何よりだな」
「ええ、あなたがどこにも居ないせいでね。お陰で召喚なんてしちゃったわ、私とした事がね。悪魔が悪魔を召喚だなんて意味不明すぎるわね?」
「まぁな。……敵はアイツだな?」
「ええ。エンプーサ、と名乗っていたわ」
「マジで?……まぁ…………特徴は一致……してるみたいだけど。とりあえず平和に仇するお前さんみたいなヤツには……地獄の業火に焼かれてもらうぜ」
「ッ!?」
「なんちゃって。火金符『セントエルモピラー』」
「グッ……ギャアアアアァァッ!!」
「え……それ、パチェの……!色違いだけど……」
「名前はね。原理が違う。パチュリーのは魔法で、俺のは元ネタ。セントエルモの火ってのは、実は、静電気なんだ」
「静電気……成程、それならあなたの領分ね」
「尖った物体の先端に何たらかんたら色々あって、青白い発光現象が起きるんだとよ。そんで、それをセントエルモの火と呼ぶんだ。酷い時にゃあ、指や髪の毛ですら発生するらしい。人体発火現象も実はコレなのかもって俺は思ってるが、どうなんだろ」
「うわ、怖いわね……」
「そんなモンが急襲したワケだ、ハハハ」
「前から思ってたけど、あなた、相当ワルねぇ」
「どこがだよ」
「全部」
「はぁ〜?」
「……き、貴様……貴様がエスカルゴか……ッ!?」
プスプスと髪を燃やしながらエンプーサが言う。どうやらかなりご立腹なようだ。そりゃあそうだ。急に現れた男に急に体を燃やされたらそんな反応になってしまうだろう。
「そーだけど……。見れば見るほど異形の姿だなぁ。てか、俺ん事知ってんの?アイドル活動のお陰か?オフだからサインはやらんけど」
「要らん、そんなモン!貴様、舐めてるのかッ!?クソ、何故貴様なんぞがヘカテー様にッ……!!」
「ヘカテー?マジでへカーティアの知り合いなの?神話通りすぎて面白いな。で、俺に何か用?」
「貴様、私を燃やしておいてよくもそんな……!」
「は?攻撃されたら普通避けるだろ。避けないのが悪いんだろう?……ってのは置いといて、誰かを召喚したら即戦うようにプログラムしてあんだろうな、魔法を。アレ、俺の意思じゃあないんだ。不意打ち特化だねぇ、レミリア?」
「何っ?ならば今のはレミリアの……!!」
「あらバレちゃった」
「フム。だが、目標がやってきてくれて助かったと言わざるを得ないな!エスカルゴ・スカーレット!私はお前を殺しに来た!!」
「お前なんかが俺を殺せる筈ないだろ?神代からの存在だろうと関係ねぇし」
「うぬぅ、言わせておけば!殺すッッ!!」
「まぁ待てよ。お前、俺を殺すつもりなんだよな?だったらさ、愛する彼女に、お別れの言葉くらいは言わせてくれよ?」
「……3分間待ってやる」
「サンキュ」
エンプーサに軽く手を挙げたエスカルゴは
「……いつまでそうしているつもりだ!?」
「まだ50秒ちょっとだと思うけど、まぁいいや」
「待ってやっただけ良かったと思え」
「そうかあ。まぁいいや」
「いくぞエス────」
「つーワケで、さっさと死んじまいなよ、クソブスモンスター!うぉぉりゃああああぁぁぁッッ!!」
「ッ!?」
「あ、ダメよエスカルゴ、奴の足は硬い金属……」
「関係ねェなッ!!」
「グッ………ぐああぁっ……!?」
ダイヤモンドも砕いてしまうエスカルゴの剣は、エンプーサの青銅の脚を軽く切り飛ばしてしまう。血液は通っているようで、赤黒い血を撒き散らして苦悶の表情を浮かべている。
「おーおー、どうしたよエンプーサさんよ〜?雑魚過ぎて笑えてくるぜ、ザーコ。グーズ。なんだってへカーティアもこんな雑魚に力を与えたんだぁ〜?俺みたいなガキンチョにすらボロ負けするよーな、こンのクソザコナメクジがよぉー?強くなった気ィしてんのか?虎の威を借る狐ならぬ、神の威を借る夢魔がよぉ〜?陵辱プレイしてやってもいいけど、どうも興奮しねーな?ホントに夢魔なのかよお前?夢魔だってんなら俺んコトを興奮させてくれよな?え、できないの?あ、そっか、雑魚だからか。夢魔としても雑魚過ぎて俺を興奮させる事もできないんだなぁ。へカーティアに気に入られたってのもさ、実は『憐れみ』なんじゃあないか?いやどうだろう流石にそれは無さそうかな?な、エンプーサはそこどう思ってんの?聞かせてくれよ、その辺さぁ」
「う、う、うぅ……も、もうやめてくれえええっ!!うわあぁぁんっ!!」
「おいおい、泣き落としでも狙ってんの?殺したらお前の死体で屍姦してやるよ。すぐ挿入できるよう濡らしてから殺されるんだな!」
「ひっ……イヤだぁぁっ!」
罵声に耳を塞ぎ、涙目を浮かべたエンプーサは、ブンブンと頭を横に振ると勢いよく妖怪の山の方へ飛んで行った。あそこは結界に穴が開けられた箇所である。
エンプーサは、外の世界に逃げるつもりなのだ。しかしそこには1人の伏兵がいた。
「────驚いた。まさか
「あ……」
「永遠に眠れ。神槍『スピア・ザ・グングニル』」
動揺し、逃げの一手しかなかったエンプーサは、レミリアのグングニルにて心臓を貫かれてしまい、その長かった人生に幕を下ろしたのであった。
◆
「あ〜あ、面倒な事になったな〜。こんな事なら、さっさと幻想郷を軽く滅ぼしときゃ良かったわね。有力者なんて数える程しか居ないだろーし……」
そのようにブツブツと呟きながら飛んでいると、両脇に霊夢、魔理沙を伴って咲夜が出現した。時を止めて移動してきたのである。
「な、何であんたらここに……!?」
「片付け終わったから。紅魔館のメイド、舐めないことね。あなたの眷属は全員殺したわ」
「その他大勢だからって雑に処理されてない!?」
「何言ってんの?雑魚だからこそ雑に処理できるんでしょうよ。吸血鬼だろうと何だろうと、力を封印すれば秒殺よ」
(霊夢が『夢想天生』で御札を貼って咲夜が時間を止めてひたすら心臓にナイフを突き刺す……。確かに雑な処理方法過ぎだよな。何なら咲夜1人で十分に処理できた気がするが、まぁ、エスカルゴレベルの再生力の持ち主が居ないとも限らないし……。ってか私の出番がまるで無かったぜ。……まぁ、出番なんて無くていいんだがな、ボス戦までは)
「雑魚とは言っても数千の吸血鬼よ……!?並の悪魔より、再生力も力も速さも圧倒的なのに……!」
「ここ数年の幻想郷では、吸血鬼の血縁者が増えていてね。もしもの時を考えて対策しているお陰で、吸血鬼への対策はバッチリなの。完璧と言える程」
「……別に私達、侵略しに来たワケじゃないのにね。それに、信じ難いけど、眷属くん達が全滅したなら信じるしかないよね。じゃあいいよ。エスカルゴを探しに行く前に、モルモーちゃん直々にあんた達の相手……シテあげるわ」
ザワザワッと溢れ出すモルモーの気配。ピンクの髪よりも鮮やかな濃いピンクのオーラが立ち上り、変幻自在ながらも堅牢な鎧と成す。それは、咲夜のナイフも何かも通す事の無い強度を誇る。咲夜は、時を止めてナイフを何本も突き刺して、その強度を思い知らされた。
「ッ……なんて硬さ……私の刃が砕けるなんて」
「えっ……あのオーラ、硬いの……?」
「陽炎みたいに揺らめいてるのにか!?」
「そうみたい。……ダメね、封印して霊夢」
「ハイハイ。今回はそればっかり、ねっ!!」
「そんな紙切れ、由緒正しい吸血鬼であるモルモーちゃんに通じるって、本気で思ってるワケ?」
霊夢が投げ付ける数多の御札は、揺れるオーラに触れるとジュワッと燃えるように煙を上げて消えてしまった。その間モルモーは腕組みしていて、全く身動ぎすらしていない。
「どーしたのよ、その程度?」
「チッ…………魔理沙、出番よ!」
「ああ、待ってたぜっ!これでダメなら奥の手だ!出し惜しみナシの……変身ッッ!!」
溜め込んでいた魔力を一気に解放。先程の眷属戦ではあまり戦えなかったからか、その鬱憤を晴らすように一気に悪魔の翼の段階まで変身して、多量の魔力をミニ八卦炉に流し込んでいく。
そんな彼女の魔力の強さや量を見て、モルモーは思わずゴクリと喉を鳴らした。今の魔理沙や彼女の魔力は、神代からの存在であるモルモーから見てもとても強くて、容易に耐久できないと思わせられる稀有な存在なのであった。
「さぁモルモー、私の本気の攻撃、喰らうがいい!魔砲『ファイナルマスタースパーク』ッッ!!」
「……こりゃまずいわ〜」
魔理沙の最強の極太光線がモルモーを飲み込む。その間に、2人はトドメを刺す準備を整えていた。魔理沙のこの攻撃でオーラを取り払い、霊夢が封印して咲夜が心臓を突き刺すというコンボ技をする、という手筈だったのである。
しかし今回の極太光線は、魔理沙が満足するまで放たれる事は決して無かった。
「ぎゃあぁっ……!」
「ま……魔理沙ッ!?」
「一体何が…………あっ……」
ドンッ!という衝撃波のようなものと共に、ミニ八卦炉を持つ魔理沙の腕が、片方吹き飛んだのだ。中途半端な所で千切れた右腕からはドバドバと赤い血が流れてきている。
霊夢は魔理沙を、咲夜は彼女の背後を見て、何故腕が吹き飛んだのか理解した。モルモーが、拳圧で魔理沙の腕を吹き飛ばしてしまったのだ。
「ふん、やっぱり悪魔じゃないと壊れやすいわね。あんたを殺すなんて赤子の手を捻るくらい簡単よ」
「イデデデデ……何で私はこんな目に遭ってばっかりなんだよっ……!!」
「魔理沙、治癒魔法は!?」
「ンなモン考えてないぜ……こんな怪我はしないのが前提だからなっ……!」
「一先ず止血よ。傷口を焼くわ」
「おい待て咲夜どうやってナイフを赤くしてるん……ぎゃあああああ熱い熱い熱い熱い!!いだだだだ、いだぃいいいぃぃ!」
「我慢なさい。後で旦那様探して治癒魔法を使ってもらいましょう」
「くっそぉ……そうだな、それっきゃないな……」
「……あんたさー。あ、メイドの方ね?」
「?」
「あんた小賢しいねー。時を止めて木片でナイフを擦り、摩擦熱を蓄積……そりゃあナイフも一瞬で赤くなるよね〜」
「ッ────!?」
「咲夜そんな事してたのか!……って、待てオイ……おかしいぞ。
「んふふっ……。モルモーちゃんねぇ、長い長い時を生きてきた中で、幾つか魔法を
「まさか……いや有り得ない、時間関係の魔法なんて使える者が存在する筈が……。まず、咲夜そのものが規格外な存在なんだ、そう簡単に時間なんてものを操れる者が現れてたまるかッ……」
「なら、どうしてモルモーちゃんはメイドちゃんの行動を把握してるのかなぁ?……うふふっ、魔法使いちゃんはこれで私の凄さが理解できたようね♡」
「っ……」
「そうそう。多分、モルモーちゃんとメイドちゃんでは私の方が上位互換だからさぁ、メイドちゃんが時間を止めても私が強制解除しちゃうわよん♡」
「なッ!?」
「試してみれば?巫女ちゃんも魔法使いちゃんも、掛かってきていいよぉ。お喋り飽きちゃったし」
「『抄地昇天脚』」
「……彗星『ブレイジングスター』!!」
霊夢は何度も霊力を込めた蹴りを見舞い、それをスイスイ回避したり、手で捌いているのを見るや、魔理沙はモルモーの背後に転移。更に、片腕ながら箒を握る手に力を込め、全速力で突進していく。
「ふーん……。挟み撃ちか。イイねイイね、ゾクゾクしちゃう♡」
「……!ちょっと待って2人共────」
モルモーが時を止めた。眼前に迫っていた霊夢の足を掴んで振り回すと、自分の背後にいる魔理沙に叩き付ける。咲夜は慌てて2人を救助に向かうが、当然、モルモーはそれを妨害。
そればかりか時間停止を解除してしまい、霊夢と魔理沙が空中で派手に衝突してしまった。2人は、霊夢が体当たりで魔理沙を地面に叩き付けるような体勢で落ちて行ってしまった。
「ぐえっ……まさかこれは……!?」
「なんで魔理沙が私の下に……」
「モルモーが時間を止めたんだよ、チクショウ!!勢い付き過ぎで止まれない……ッ!」
真下の結界スレスレで、霊夢が魔理沙を引っ張るカタチでどうにか持ち堪えた2人。上空では咲夜とモルモーが近接戦闘にもつれ込んで戦っていた。
「……時間停止、思った以上に厄介ね……」
「ああ……。咲夜がどれだけ心優しい能力の使い方をしていたのか身に染みて分かったぜ……」
「目の前にナイフを配置してくるのは、果たして、心優しいのかしら。……まぁ厄介さはモルモーの方が数段上かもね」
「違いない」
その頃の咲夜は、ヒラヒラと身を躱すモルモーに苦戦を強いられていた。ナイフを投げても当たらず蹴りを仕掛ければ足を掴まれて振り回されかける。わざと掴まれてモルモーの腕を切りつけようにも、当たる寸前で細分化で回避されてしまう。
「んー?……下では作戦会議中、か。仕方ないなぁ。また時間止めちゃうね〜……っと」
「やっぱり……!魔法なのに詠唱も無しに…………」
「言ったでしょ?極めてるの。多分だけど魔法では吸血鬼の中で世界最強だしぃ?こうして動けるのは私とあなただけ。……決着、つけましょ?私としてもさっさとエスカルゴのこと探しに行きたいしさー、いつまでも遊んでらんないのよ」
「ッ……!ええ、そろそろ決着をつけましょうか」
◆
レミリアがエンプーサを殺した後、事情を聞いて俺は驚愕した。俺を殺しに、外の世界から悪魔達が侵攻してきているだなんて、にわかには信じ難い話だった。
しかし、よく目を凝らしてみれば、人里の辺りで幾つかの人影が戦っているように激しく動いているのが見えた。
「戦ってるな。とりあえず急ぐか」
「あっちに飛んで行ったのはピンク髪の吸血鬼よ。モルモーって名乗ってたわ」
「……エンプーサ並の神話キャラじゃねーか……」
「そんなに凄い奴なの?」
「まぁね、かなり凄い奴だよ。……可愛かった?」
「んー、結構……って何聞いてんのよ!そんなヤバい奴があなたに絆されるとでも思ってるの!?」
「いやー、殺すのは惜しいなと……思って……ます……」
「はぁ〜……呆れた。可愛かったらどいつもこいつもハーレム入りさせたくなるのね?」
「可愛い子は独占したくなるんだよな。とりあえず顔見に行くかな。神話級の女を侍らせりゃあ、もう怖いもの無しみたいなもんだぜ」
「いやあなたも参戦しなさいよ」
「んー、やっぱそうなるよなー」
その瞬間、時間が止まった。ほんの数秒間だけの出来事だったので、咲夜さんの攻撃にしては短い。ナイフの設置には時間がかかるので、緊急回避か、それに近い何かの為の時間停止だろう。
エンプーサを殺してレミリアから話を聞いているときにも時間が止まったが、やはり何か嫌な予感がする。時間停止しているスパンが短すぎる。
次に時間が止まると、中々解除されなくなった。だから俺はレミリアを背負って、誰かが戦っている里の上へと移動した。
眼下では霊夢と魔理沙が何事か話していて、上で咲夜さんと可愛らしい顔立ちのピンク髪の吸血鬼が激しい近接戦闘を繰り広げていた。
あれが吸血鬼モルモーか。可愛すぎる。どうしてこうも、悪魔には可愛い子が多いのやら。
(んん〜?何よコイツ……何で動けるの?まさか同じ能力を持ってるの?いやちょっと待って、もしかしてコイツがエスカルゴ!?)
「旦那様ッ……!」
2人は俺の出現により戦いをやめたようで、色々話す事ができそうだ。モルモーとしても、俺の本人確認をしたいだろう。攻撃はしてこないはずだ。
「咲夜さん、もしかしてその子が……」
「ええ。モルモーと名乗る吸血鬼です」
「レミリアを頼みます。俺が戦います。奴の狙いは俺なんでしょう?」
「は、はい……そうですが……」
「吸血鬼モルモーかぁ……やっぱカワイー……♡」
「敵を前に舌なめずりしないでください!もうっ、相手は数千もの吸血鬼を連れて幻想郷に攻め込んで来たんですよ!?異変ってレベルじゃないです!」
「だけど、こちらに危害を加える為の侵入ってワケじゃあないんですよね?幻想郷に来たのだって俺を探して始末する為であり、過去に起きた吸血鬼異変とかとは、比べ物にならないくらい生温いものだ」
「それでも、霊愛ちゃん達が結界を張ってなければ里の人間達にも被害が及んだはずです!」
「でも現実にはそうなっていないです。なら、推定無実っつーコトで手を打ってあげても、別に良いんじゃあないですかね」
「お戯れを……!!相手が少女の姿をしてるからと、肩を持つのですか?」
「まぁ確かに、もしモルモーが俺みたいなクソ野郎だったらこうやって必死に庇ったりはしなかった……かもしれないですけど、庇いはしましたよ。だってコイツら、探し物をしてただけでしょう。数千人の吸血鬼ってのも、探し物を早く見つける為の助っ人みたいなモンです。…………そうだろ、モルモー?」
「あーうん、それで合ってるよ。大体さー、私達が戦うハメになったのもそっちから仕掛けてきたからだかんね?エンプーサはまた別としても、私とか、私の眷属くん達にはそんな
「ほら」
「ッッ…………霊夢の前でも同じ事が言えますか……?霊夢も魔理沙も、吸血鬼達の侵攻を食い止めるのに必死で、魔理沙なんて片腕を失っても戦っているんですよ?」
「侵攻と言いますけど……モルモー達がやってるのは本当に侵
「侵攻でしょう。大体、そんな数を引き連れてただ
『探し出す為』だなんて、酷い言い訳です!」
「そうかなぁ?……ねぇメイドちゃん、私達が最初、あの山の近くで会った時……私、なんて言ったっけ?幻想郷に来た理由を言った後に……『探し出そうって思った』……みたいに言わなかったっけ?」
「…………ッ!!」
「しかも標的はエスカルゴ・スカーレットただ1人である事も伝えたよねぇ。……ほぉ〜ら、流石にもう分かったでしょ?勝手に私達を悪役に仕立て上げたのは、そっち側なのよん♡」
「確かに、そうは言っていました!ですがあれは、どう見ても虚偽の供述にしか思えませんよ!」
「まぁ数千だもんねぇ。数が段違いだわ〜。それは悪かったとは思うけどさぁ……全く知らない土地で、しかも顔も知らない男を探そうってんだよ?人手が欲しくなるでしょうよ、こんな条件さー。もしさ、自分が私の立場だったらどうする?人手を増やせる能力があってぇ、探し物をしまーすってなったら、人手増やしたくならない?」
「…………なる、けど……」
「『けど』なに?反論しようってんなら、あなたが満足するまで徹底的に討論してあげよっか。多分、論破できるよ?」
項垂れて黙り込む咲夜さん。元々モルモーがそう言っておいたというのなら、確かに反論のしようが無いような気がする。俺なら反論しない。
とはいっても、数があまりに多すぎたというのも事実ではあるらしい。果たして咲夜さんはどう話をつけるのか。
固唾を飲んで彼女の答えを待った俺だが、やがて歯を食いしばりながら顔を上げて、絞り出すような細い声で言った。
「……旦那様。私はどうすればいいのですか……?」
「俺には分からないです。でもここは俺に任せて。どうにか撃退します。どうせ誰にも俺は殺せないんですから」
「そうですけど………………いえ、確かにそうですね。少し離れて見ています。見届けさせてください」
「どうせすぐ終わるんで大丈夫ですよ」
「いえ、念の為に」
「……まぁお好きにどうぞ」
時間さえ動けば勝てる。問題は、モルモーが時間停止を解除してくれない所。時間さえ動けば数秒で決着をつける手段があるのだ。殺さずに終わらせる方法が。
「お待たせモルモー。俺の事は知ってるんだよな?なら自己紹介は要らないよな」
「うん、要らなーい。あなたがエスカルゴくんね?私はモルモー。ヘカテー様の歴代最高の配下で最強である吸血鬼よん♡」
「そうなんだろうな。魔法に関しちゃ俺より数段上どころじゃない強さを感じるよ。……それでも、俺が勝つよ。負けるワケがないからね」
「ふーん、生意気ねぇ。まぁ、いっか。もしこれで私が勝ったら、1つだけでいいから、お願い聞いてもらっちゃおっかな♡」
「いいよ。じゃあ勝負だ」
(んー、魔力勿体無いし、解除し〜ちゃお)
すると何を思ったか、勝負を宣言した途端、時が再び動き出した。静止していた雲が動き出した上に下から霊夢と魔理沙の声が聞こえてきた。
《あら、急に消えたのはそういう事情だったのね。仕方ないわ、続きはまた今度にしましょ》
《オッケー袿姫。あと他の神と喋れるようにして》
《もう大丈夫よ》
《サンキュ。……母さん、力貸して》
《分かったわ!》
「眷属『擬似神化』!!」
「え……光輪……!?」
これで俺の勝ちだ。時間停止を解除されなければ母さんと会話もできず、力も借りれなかった。解除までの耐久戦になっていただろう。
だが解除されたおかげで力を借りる事が出来た。その上、最も楽な方法を使える。
「またね。きっと近い内にまた会うことになるよ。創造神『異世界送り』」
「ひッ……イヤッ、何これぇっ!?や、やだぁ!す、吸い込まれ…………イヤァァァッ!!」
────モルモーは手も足も出せぬままブラックホールに吸い込まれ、異世界へと送られた。ただし母さんが使うようなスペルの内容ではなく、本当に異世界に送ってやった。……魔界という世界に。
これにて解決。後は霊夢達に事情を話すだけだ。
◆
「やっと死んだわね。……おやすみ、エンプーサ」
「おぉーっ……!厄介払い完了ですねご主人様!」
「ええ。あまりに暴れるから私の配下として首輪を付けていただけだというのに、そんな事も知らず、私の配下になったのを誇りに思うばっかりに……要所要所で余計に暴れるんだものねぇ。扱いにくいことこの上なかったわ」
「だけど、奴らの幻想郷への侵入はホントに予想外でした。あたいに『一時的に地獄に帰って来い』と仰ったのは、あたい達がバッタリ会うのを防ぐ為だったんですね!」
「そう。もしも幻想郷のどこかで誰かと会ったら、面倒な事になっていただろうからねぇ。ラミアまで死んだのは予想外だったけれど……そろそろあの子も解放されて良かったでしょう。死んでしまえばもう苦しむ事は無いわ……」
「……ですね」
「……お墓が完成したら、一緒にお参りしましょう。あの子の好きなお花も添えてあげましょうね」
「はいっ……!」
前に後書きでエンプーサの設定を書いた時、弱点があると書いておいたと思いますが、それがコレなんですね。罵声。
エンプーサに罵声を浴びせると、悲鳴を上げて逃げ出すそうです。ギリシャ神話についてよく知ってるエスカルゴだからこそ楽に対処できました。
ラミアは本当に子供好きなので、クラウンピースとそれなりに良い関係を築けていました。それでも、ヘラの呪いによる衝動に飲まれてしまい、ピースを幾度と無く襲ってしまいました。その度にピースは松明等で回避してましたが、それが原因でピースがラミアを嫌う事は決してありませんでした。
ピースもへカーティアの配下なので、神様の呪いがどれだけヤバい代物なのか分かっているからです。それに加えて、ヘラの嫉妬が原因とかいう理不尽な呪いですし。
ピースから見たラミアは「面倒見のいいお姉さん」であり、呪いに負けてしまう自分にも慕ってくれるピースの事が、ラミアも大好きでした。
まともに接する事ができたのは極めて短時間だった2人の交流も2人にとってはとても楽しく過ごせた数少ない時間でした。
時間を止めて摩擦熱ってのはジョジョ4部のシアーハートアタックvs承太郎&康一の時のアレです。