俺がまず向かったのは、愛しのあの子の住まう館である。紅魔館?いいや、違う。そちらではない。山の上、湖の近くにある悪魔の館……夢幻館だ。
不躾ながらも屋内に直接スキマを開き、外に居るくるみに気配がバレないように、と最大限に気配に気を配って入室する。
屋内に入った所、夢月はキッチンの辺りに居て、幻月はその近くに居るようだ。……そして俺の気配に気付いた幻月が玄関に迫ってきている。
ひょっこりと角から顔を出した幻月は、こちらに気付くなり走り寄ってきて抱きついてくれた。凄く嬉しい上に凄く癒される。
「ちょっと久しぶりね、ダーリンっ♡♡」
「うん。あぁ、相変わらず可愛いな、幻月〜……。あぁ……癒し……」
「もー、相変わらず私の匂い好きね♪」
「いつまでも抱き合ってたいくらいには超大好き……なんだけど、いつまでもそうしてらんないな。なぁ幻月、夢月って今は料理中か?ちょっと2人に話があるんだけど……」
「んーん、掃除中。来て!」
「ああ」
幻月に連れられ、キッチンにて掃除中の夢月とも合流。掃除休憩と称して、3人でお茶をすることになった。ちょっぴり久しぶりの3人でのお茶会だ。話すついでと言ってはアレなのだが、俺としては、心ゆくまで楽しみたいものだ。
「それでそれで?お話……があるんだっけ?そんなに改まっちゃってどしたの?もしかしてぇ……遂に私とエッチしたくなっちゃったのかなぁ……♡」
「夢月、先走らないの。あと、先にエッチするのは夢月じゃなくて私だから」
「はいはい、分かってるよー」
「単刀直入に言う。神と戦う事になった────と言ったら、2人の力を貸してくれるか……?」
「神と……えっ?ダーリン、何かやらかしたの?神に目を付けられるなんてヤバすぎるんじゃ……」
「感心してもらった所すまない。実は神の方から、悪魔達と神々の戦争を再現?したいとか……要求?が来てさ。まァとにかく、悪魔と対戦したいんだと」
「へぇー……好戦的な神様も居るモノなのねぇ。私は勿論良いわよ、ダーリンの頼みだもの。夢月は?」
「面白そうだし、賛成賛成♪」
「……そっか、良かった。正直、滅茶苦茶強い神しか参戦しないだろうから……誰を誘おうか、実はかなり迷ってて……」
「その『滅茶苦茶強い神』に対抗できそうな悪魔に私を……私達を選んでくれるんだもの、嬉しいわ♪」
「幻月は……そりゃあまぁ、初戦で俺とほぼ相討ちになったんだもん。夢月なんて2対1でも良い戦いをしたんだし、外せねーよ。……正直、危険な戦いだと思う。でも世界を創っちまう程の2人なら……とか、思って。だから、力を貸してくれるなら嬉しいよ」
「そっかそっかぁ。……うんっ、やっぱ嬉しいなぁ、頼りにされるのってさ……♪」
「だよね、姉さん♪」
2人共、すんなりと応じてくれて有難い限りだ。神と悪魔の戦争と言うなら、総力戦か団体戦になるはず。トーナメントはまず有り得ない。となれば、やはり大人数での総力戦なのか。
《あー、それについては考えてあるわよん。私達は団体戦のつもりで準備してるわ》
《戦争とか言うから大混戦を予想してたんだけど》
《それは言葉の綾よ。そんなんじゃあ味方同士でも殺し合うことになりかねないでしょ。でも、味方に当たらないように技の設定ができれば別だけれど》
《まぁ無理だね。成程》
となるとやはり個々人の強さが鍵になってくる。幻月や夢月のように、地の力が強い悪魔を選ぶのは正解だと言えるだろう。
団体戦なら3、5、7人制が当たり前だが、今回参加する神は一体何柱だろう。悪魔達の数もそれに合わせなくてはいけない。
《6柱に声をかけたわ。参加者は私、建御雷さん、袿姫さん、諏訪子さん……まぁ、後は秘密よん♪》
《まだ決まってないだけじゃ……》
《決まってるわよ?》
《俺は一応神側なんだし、メンバー教えてくれても別に良いじゃあないか……。まぁいいや、分からない方が楽しみも増えるか。へカーティアと建御雷以外だったら誰でもいい気さえするよ。天照でも誰でも連れて来いって感じ。いや嘘だけど────》
《あ、そう?ハデス様を連れてきてもいいのね?》
《そっちは無しだろッ!?俺と全く無関係の神様は抜きだよ!?》
《アハハハハッ、そりゃそうでしょう?言ってみただけよ♡》
《ガチでやりかねないから怖いんだよなぁ……》
7柱なら7人制の団体戦になるんだろう。戦争と程遠い気がするが、そこは別に俺が考えることではないだろうし、スルーしておこう。どうせ俺などは神のシナリオに流されるだけの悪魔なんだから。
「ねぇねぇ。私と姉さん、お兄さん以外の参加者は誰なの?」
「あ、そーだ。それ気になってた!」
「エリス、あとモルモーだな。あー、あと2人に声掛けなきゃか……」
「モルモー……?聞いた事ない名前ねぇ。夢月、何か知ってる?」
「うーん……モルモーは知らないけど、エリスなら、魔界の本で見た記憶があるような、無いような……。多分気の所為ね」
「そりゃあ気の所為よ、本に載るような有名悪魔がこの近辺に居るっての?冗談はやめてよね。または同名ってだけね。験担ぎか何かの為に、自らに有名悪魔の名前を付けたってとこかしら?」
「そうかもね」
エリスの奴、外の世界だけでなくあの魔界でまで神話的存在になっているらしい。道理で、レミリアですら仕留められないくらいヤバい力を持っているワケだ。あのレミリアが獲物を逃がすなんて俺には考えられない。
エリスがレミリアから逃げられたのも、そういう神話的な存在故に畏れのパワーを持ってるだとか、そういう事なんだろう。
「……なぁ、その魔界の本ってどんな本なんだ?」
「戦争とか紛争とかの歴史書だよ。それも、神様や悪魔が関わってるタイプのね」
「夢月ってそういう本読むんだな……なんか意外」
「そうかなぁ?知識は持っといても無駄にならないから、時間があれば魔界の図書館に行ってるんだ」
「成程」
「夢月さー、だから力を消費してるんじゃない?」
「あーそうかも。魔界に行くの何気に疲れるしね」
幽香が居て夢幻世界から出られずとも、夢幻世界から直接魔界に行っていた2人だ。きっとその程度暇潰し同然なのだろう。俺の場合は能力だが2人は地の力でそれを行っている。……半端ない。
「あっ、戦争で思い出したっ!エリスって言ったらアレよね?確か、サリエルの所で遊んでた時にさ、魔界でちょこっと噂になってなかった?『ヴィナを滅ぼした悪魔が帰ってきた』ってさ!」
「なってたなってた!なんか最近になってまた姿を見るようになったんだっけ?」
「そうそう!で、長寿な魔界人がそれに気付いて、厄災を予言した、とか何とか!『ヴィナを滅ぼした大悪魔エリスが舞い降りた。放置すれば魔界は再び戦争の惨禍に呑まれるであろう』……だっけ?」
「何かちょくちょく違う気がするけど、確かそんな意味の事を言ってたね。ねぇ、お兄さん……まさか、そんな悪魔を呼んだんじゃない……よね?」
「呼んだっつーか、俺が呼ばれたんだけど……明日の昼過ぎに、ヴィナの廃墟で俺達参加者は作戦会議を開く。わざわざそんな所を会議の場所に選ぶんだ、間違いないだろう」
「ええっ!?ダーリンそんな奴と知り合いなの!?流石に顔広すぎじゃないっ!?」
「いや、魔界神神綺がお兄さんのお義母さんなら、魔界の問題を解決してもらうとか、何かしらの接点くらいはありそうだよ。やっぱり……お兄さんの言うエリスは大悪魔エリス……じゃないかな……?」
「うひゃあ……もしかして神と戦うってのはエリスの発案だったりして?神からのリクエストってのも、神の器であるダーリンだからこそ、エリスの思惑を汲んだ神からの司令?を受け取ったって意味?」
「…………ああ」
夢月に続いて幻月まで凄まじい推理をしてくる。俺がそれに肯定すると幻月は苦笑いし、夢月は少し顔を青くさせて額に手を当てる。
双子の夢幻姉妹といえど、持つ力に差はあるし、大悪魔の思惑に乗せられて神々と戦う事になれば、夢月のこの反応も、あまり意外ではなさそうだ。
「あー……そうなんだ……。てことは、神を倒したらエリスの思惑通りになるって事かな……?」
「えー、でもわざと負けるのはイヤねぇ。夢月も、参加する以上は勝ちたいでしょ?」
「そりゃ勝ちたいよ。神々と戦う機会なんてそうは無いもん。でもエリスの思惑は阻止したいし……」
「魔界は私達の遊び場でもあるもんね。もし神々を下したら、いよいよエリスは本格的に調子に乗るんじゃない?どうしよ……。ねー、ダーリンからは何か良い案無いのー?」
「エリスが魔界に危害を及ぼすつもりってんなら、俺はただそれを阻止するだけだ。その時はエリスを倒すさ。……夢月、参加する意思に変わりはないか?引き返すなら今だよ」
「え、無いよ?そんな機会、逃したくないしね」
「そっか。……エリスの思惑については俺に任せろ。大丈夫。夢月……幻月も、思いっきり戦ってくれると嬉しいよ」
「言われなくても!誘ってくれたあなたに恥じない戦いをしてみせるわ♪」
「そだね!エリスについてはちょっと気になる事もあるけど……面倒事はお兄さんに任せればいっか♪」
「お、おうっ、任せとけっ!」
数時間後、夢幻館を出た俺は新たに2人の悪魔を誘う事に成功。ギリシャでなら分かるがこちらでもエリスが嫌われているのは、やはり流石だなと痛感してしまった。
やがて訪れる、会議及び顔合わせの日────。